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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
48/233

047 喧嘩


 「さっき……」

 たぶん鶏だろう獣人の男の子は……体のわりにはカン高い声で。

 「お嬢様達をイジメてただろう……見てたんだぞ」


 鶏君の年齢はわからないが……物腰と服装で見るに上でもバルタ、下ならエレン達か? アマルティアよりは下は無いだろうと思う……その間?

 えらく幅が有ってハッキリとは言い切れないのは、やはり体格のせいか。

 背が高く胴体は大きい……正直太っちょだ。

 手足は細くて短い。

 頭は小さいけど……でも首は太い。

 赤い鶏冠と赤い喉袋。

 良く見れば出っ歯だ。

 ついでに出っ尻だ。


 「御嬢様?」

 マリーはムーズを見た。

 「イジメられたの?」


 さあ? と、そんな顔。


 イジメられては居ないよな?

 微妙だけど……どっちかと言えばムーズ御嬢様がイジメてた? 威圧だけど。


 「でも……ほら……」

 マリーは鶏君を指差して。

 「ジャイアンがそう言ってる」


 「じゃいあん?」

 誰それ?

 そう言う種族なのかな?


 「じゃいあんが何かは知らないけど……俺の名はチャボーだ!」


 鶏君改めてチャーボー君か……どうでも良いけど。

 

 「で、そのチャボが私達になんの用?」

 マリーは下から睨み上げた。


 「だからお嬢様をイジメただろう!」

 同じ事をもう一度言った。


 「イジメられた?」

 マリーもさっきと同じ事をする。


 ムーズは流石に苦笑い。


 意地の悪い挑発だ。

 でも……チャボー君はその事には気付いては居なさそうだ。


 「で……なんの用?」


 気付くまで続けるつもり? 3度目だ。

 

 「謝れば赦してやる」

 

 あ……気付く前に天然で話を進めた。

 もしかして気付いていない振りだった?

 ウーンと唸るヴィーゼにはそうは見えない……特にチャボー君の顔がアホ面だし有り得ないと思う。

 ヤッパリ普通にバカなんだ。

 でも喧嘩は強そう。

 脳筋類ってヤツかな? 鳥だし。

 ……。

 鳥の種類に居たよね? そんなのが居たよね?

 ノウキンルイ……アレ? なんか違う気もしてきた。

 なんだったっけ?


 「謝らなければ?」

 マリーはまだ挑発する気だ。

 「どうするの?」


 「なんだ! ヤル気か?」


 やっと挑発だとわかったのだろうか?

 凄んでいる。

 でも……出っ尻のせいで腰が引けて見えた。

 ……。

 見えただけで……まさかホントにビビっては居ないよね?

 見かけ倒し?

 お尻は元々そういう体型だよね?

 初めて見る鶏の獣人だから……知らないけど。


 ブツブツと考えて居ると……マリーに見られた。

 そして顎で即する。

 「やるならこの子が相手よ」

 ほら前に出なさいと手で指図。


 「え? 私?」

 少し驚いたヴィーゼ。

 この中では下から2番目なのに……年齢がだけど。

 それなのに私にやらせる気?


 「ヴィーゼは強いんでしょう?」

 チラリとアマルティアを見て。

 「彼女も強いけど……それ以上だって聞いたわよ」


 「私は……そんなに強くは無いですよ」

 慌てて否定するアマルティア。

 「ただ、打たれ強いだけで……」

 

 「わかってるわよ」

 マリーは、ふう……っと息を付き。

 「だからヴィーゼの方が強いって言ったのよ」

 そしてチャボーを見て。

 「それに、ちょうど良さそうじゃないの……イロイロと」


 「ちょうど良いってなに? 互角って事?」

 それは無いと思う。

 確実に勝てる気しかしないし。

 「まあいいわ……相手してあげる」

 マリーにも知らしめる必要がありそうだ……強さは体格や見た目じゃあ無いって事をだ。


 

 雨が止み始めた。 

 完全にではないけれど……それでも喧嘩の邪魔には生らないくらいにはだ。

 足元も線路の敷き砂利だからぬかるんではいない……砂利の大きさが若干に大きいから多少は足をとられそうだが問題はない。

 

 ヴィーゼはボーっと立った姿勢でそれらを確認した。

 見た目がそうなのは、何時ものスキルのせいだ。

 意識を空中に飛ばして回りを索敵……他人から見れば、心ここにあらずのその見た目。

 その癖で自分の目で直接見てもそうなる。

 

 そのヴィーゼの背後にアマルティアが来た。

 後ろに立たれてもチャンとわかる。


 そのアマルティア。

 ヴィーゼの腰の後ろに隠していたナイフを抜いた。

 「これは駄目よ……要らないでしょう?」


 バルタに持たされたヤツだ。

 もちろん唯の喧嘩にそれは必要ない。

 バルタは人拐いを警戒して持たせたのだ。

 誘拐の対象に成りそうな元貴族の令嬢のムーズ……と、それ以上に獣人だ。

 獣人には人権は無い……一応は国が変わって権利は有るようだが、それを認めている人間はまだまだ少ない。

 だから獣人を拐っても犯罪として罪に問われる事も稀に成る。

 取り締まる警察の中にだって、獣人の人権を認めない者が多いからだ。

 昔みたいに奴隷なら持ち物で、拐えば窃盗犯だが……今はそれも無い。

 奴隷禁止は持ち主不在とそう為っただけ。

 道端に転がっている石ころを拾っても誰も気にしないのと同じだ。

 そのくせ……獣人がおかしな事をすれば、有無を言わさずスグ逮捕だ。

 野良犬を施設に送るように……獣人は収容所送り。

 刑務所にも入れられない。

 あれは人権の有る者の罪を裁き反省させる意味も有るからだ。

 つまりは刑務所は死刑や無期刑で無ければ何時かは出られる。

 収容所はスグに出られるけど……出る時は死体だ。

 だからイザという時の為の武器のナイフ。

 それともう1つの武器は元貴族の令嬢のムーズと元国王だ。

 それぞれ元は付くのだけれども、それでも少しは威光が残る。

 警察にも多少の影響力も有るから、獣人にはとても頼もしい武器でもある。


 まあ……今は唯の喧嘩。

 それも子供のだ。

 なのでナイフは要らないし、元が付く威光も要らない……それでも負けないからだ。

 

 後ろのアマルティアが離れたのを見ずに確認したヴィーゼは一歩を踏み出した。


 チャボーも体勢を低くしてニジリ寄る。


 そのチャボーの後ろに三人の女の子を見付けたヴィーゼ。

 何かを騒いでいた。

 しかし何を言っているのかはわからない。

 意識は既にチャボーに有るから、耳はそれを捉えようとは意識しないからだ。

 それにどうでもいいことなのだと理解もしている。

 どうせチャボーの応援だ。

 けしかけているだけかもだけど、それも同じ。

 今は目の前チャボーを倒せば良いだけ。


 ジャリ……チャボーが出した右足に体重を掛けた音。

 

 真っ直ぐ突進?

 それとも足場を固めてソコで迎撃?

 はかりかねたヴィーゼは体勢低く斜め前に走り出した。


 突進なら的がズレる。

 待ち構えるなら軸足がズレた筈。

 

 そして案の定、チャボーの足元は、ヴィーゼを追い掛ける様にバタバタと方向を変えている。

 もう軸足もなにも無い。

 ヴィーゼはスルスルと近付いて行った。

 

 先ずはチャボーの出したパンチを避ける。

 ストレート? フック? そんな洒落たモノでもなかった……ただ前に付き出しただけだ。

 そんなのに当たる筈もない。

 空気を避ける様に、出した腕に絡み付く様にヌルッと体を捻ればそれでじゅうぶん。


 拳に力を込めて脇腹を狙った。

 1発当ててスグに後ろに飛び退くヴィーゼ。

 それで倒せるとも思っては居ない。

 感覚的にもダメージは余り無いとも思う。

 精一杯の力は込めたけど……体重差のせいか、それとも太ったお腹が頑丈なのだろうか?

 怯む事もしてくれない。

 いい所……苦しい所にチャンと入れたのにな。

 レバーブローは私の力でも効くと思ったのに……仕方無い。

 何度も叩けば……そのうちに効かないかな?

 とにかくあと数発入れてみよう……少しは気にするぐらいにでも為れば良いのだけれど。

 

 またスルスルと前に出る。

 チャボーの体重が前に傾いた。

 蹴りが来る。

 出るのは軸足の反対側……後は膝か足先かだ。

 もう一段低く構えてそれに備えた。

 膝なら両手で押さえる。

 足先なら避けるだ。

 どちらも威力を上げるには振り回す距離が必要だが、私の小さな体で低くすればその距離は出せない筈だ。

 そんな緩慢な大技をマトモに食らう気は更々無いけど。


 そして出てきた膝を両手で受け、その力を利用して後ろに跳んだ。


 「チョコマカと……」

 チャボーの息が少し荒い気がする。

 持久力は無いのか?

 と言うよりも喋るは無駄な動作で、それだけでも体力を消費するのに……動く為には酸素が必要だし酸素を取り込むには呼吸が大事だ、それなのに喋る事でそれを邪魔してる。

 まだナメてる?

 喧嘩慣れしてないだけ?


 チョッと……ムカついてきた。

 そんなんで私に喧嘩を売ったのか!

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