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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
46/233

045 ムーズ御嬢様


 少し心を落ち着ける為にもお茶を貰うバルタ。

 アマルティアが差し出してくれたものだ。

 「ヤッパリ雨はキライ」

 温かいカップを両手に感じて……ポツリと呟く。


 落ち着くと気付いた。

 部屋にはもう四人しか居ない。

 ムーズもクリスティナもヴィーゼも遊びに行ったのだろう。

 それ以外も、その前に出て行っていた。


 「私は……昼寝でもしよう」

 宿屋の部屋に持ち込んだ毛布を掴んで。

 「行ってらっしゃい」

 マリーとアマルティアにはそう告げる。


 「いいの? 部屋に二人っきりに成るわよ」

 マリーは元国王を指差して。


 「別に大丈夫よ」

 興味も無いしどうでも良い……とまでは口には出さない。

 ただ小さく頷いただけ。


 「そう……」

 少し考えてマリー。

 「まあ、襲われる事も無いだろうし問題ないか」

 

 「襲ったりしないわよ」

 バルタもクスリと笑う。


 「いや……あなたが……」

 でも、闘えばバルタの方が強いのかと納得した顔のマリーを見て、襲う方と襲われる方が、お互いに逆に為っている様だ……と、また笑う。


 そしてそれが合図か……二人は出ていった。

 バルタもカップを床に置いて、毛布にくるまり丸くなる。

 鬱陶しい雨の日は寝るに限る。

 



 

 とある商店の軒先で、ムーズは眉を寄せて唸っていた。

 下唇が突き出ていたので怒っている様だ。

 そこは古着屋で見ているのは、場違いに目立つヒラヒラの服。


 「あれ……そうだよね」

 ヴィーゼが小声でクリスティナに確認している。

 「うん……そうだと思う」

 あれは明らかに盗まれた御嬢様の服だった。


 「買い戻す?」

 ヴィーゼは恐る恐ると後ろから声を掛けるとムーズはユックリと振り返って。

 「いやよ……古着よ」


 「いや……でも」

 たぶん前に着ていたのはムーズしか居ないはず。

 この短い間に誰かが着てまた売るのは無理だと思う。

 だからあれは古着でもムーズしか袖を通していないムーズの古着だ。


 「もう行くわよ」

 プリプリと怒って歩き出すムーズのその後を追うヴィーゼとクリスティナ。

 

 と……クリスティナが立ち止まり、後ろを振り返り。

 「ペン太……行くよ」


 ペン太と呼ばれたのはペンギンのゾンビ。

 名前はクリスティナが着けたのだが……元国王が強そうだと笑っていた。

 ペン太が氷に成ってゴンと攻撃! ペンタゴンだ……たぶんギャグかなにかだ。

 子供達には誰1人として伝わらなかったが。


 そのペン太は可愛い女の子達に囲まれてチヤホヤされていた。

 年は少し年上……ムーズと同い年くらいに見える三人。

 その中の1人がこちらに声を描けてきた。

 「ねえあなた達旅行客でしょう?」

 横の女の子も続いて。

 「この辺じゃあ見ないものね」

 「格好も変だし」

 後ろの女の子だ。


 言われたヴィーゼは自分達とその三人を見比べる。

 自分とクリスティナは白色のワンピースセーラー。

 ムーズも白色のセーラーだがツーピース……どちらもダンジョン産。何時もの服は今は古着屋の目玉に為っているので仕方無くそれだ。

 で、相手の三人は濃い緑色の寸胴のワンピースで前全面を被うくすんだ白のエプロン……服の腰を縛る為にそれが必要なやつ。

 地味だ……。

 でも、これが普通では有る。

 しかし私は……変だと言われてもダンジョン産のこっちの方が良いとは思う。

 軽いし、動きやすいし、肌触りも断然いい。

 チクチクしないのが最高だ。

 ウンウンと納得をしていると、先に行っていた筈のムーズが戻って来て前に出た。

 良く見ればペン太に声を掛ける為に1人、後ろに居たクリスティナが萎縮して固まっている。

 知らない年上の女の子に声を掛けられた事に驚いた様だ。


 「そうですけど……何か御用ですか?」

 クリスティナを庇う様に立ったムーズがニコリと微笑む。

 しかし……その笑みにはヴィーゼも滅多に見ない、貴族の令嬢の威厳を染み込ませたものだ。

 しかも今はそれに不機嫌も混ざっているし。


 今度は声を掛けてきた女の子三人が威圧されたらしい。

 ウッと声を漏らしている。

 ただ微笑んで立っているだけのムーズにだ。


 「な……なによ……ただ珍しいから声を掛けただけよ」

 真ん中の女の子が勇気を出して前に出る。

 「人にエルフに獣人で……同じ服着てるから不思議に思うでしょう?」

 右隣の女の子は前の女の子の影に少しだけ隠れてだ。

 左隣はウンウンと頷いている。


 ああそうか。

 種族が違うのに姉妹の様にお揃いの格好をしているからか……フムとヴィーゼ。

 人が主人でエルフはまだしも獣人は奴隷なら、もっと粗末な服の筈だし……服が同じなら立場も対等と考えて、そして変な格好なのか。


 ムーズはクリスティナを見て……チラリとヴィーゼも見た。

 「私の妹みたいなものよ……それは駄目な事かしら」

 その中には、一応はヴィーゼも入っている様だ。

 話の都合上……そうしたのかも知れないけど。


 「別に……駄目とは言ってないわ」

 真ん中の子の目線が逸れた。

 うんムーズの勝ちだ……とヴィーゼは思う。

 

 「奴隷解放は随分と前だと思うけど?」

 それはヴィーゼを指してだろう。

 それまでは獣人は奴隷としてしか生かされなかったからだ。

 「それにエルフはもう同じ国の民だから……平等よね?」

 戦争は終わったのだ。

 今は共和国連合でエルフも国の要人として政治に参加している。

 きちんと平等に議会の1票の権利を持っている。

 ……獣人にはその1票は与えられなかったが。

 それでも奴隷では無くなったのだ。

 

 「そうだけど……」

 口ごもる女の子。

 「つい最近の事じゃないの」

 

 「あなた達には最近でも……私達にはもう随分と前なの」

 クリスティナを指差して。

 「小さな子なら、特にそうでしょう?」


 「普段から差別していたからでしょう?」

 ヴィーゼも口を開いた。

 今でも差別しているのかも知れないけど。

 獣人は今でも貧しい者が多い。

 だから雇用と言う名に変わった奴隷契約を飲むしかない獣人もまだまだ多いのだ。

 給金は子供の小遣い程度……でも粗末だけど住む場所と食事は与えられる。

 以前の奴隷と余り変わりがない。

 奴隷紋で魔法の強制が出来ないだけだ。

 

 「獣人のアンタは黙りなさい!」

 女の子は大きな声を出してヴィーゼを指した。

 明らかな命令口調だ。


 「ねえ揉めてる?」

 そこにマリーとアマルティアがやって来た。

 宿から近いここで立ち止まって居れば、偶然でも無くて必然だろう。

 ムーズ達も賑やかな方へと歩いて来たのだ。

 しかもこちらに歩けばアーケードが有るので雨に濡れなくても済む。

 それならマリー達だって同じ筈。


 「揉めてなどはいませんよ」

 ムーズは三人の女の子を順に見渡して?……睨んで?

 貴族の令嬢の睨むはこうなるのかと、変な感心をしたヴィーゼ。

 今度、私もやってみよう……。


 「そうよ別に何でも無いわよ」

 女の子のリーダーらしき子も、それに同意した。

 さっきまでは3対3だが今は3対5……それでも増えたのはかなり年下の女の子と獣人なら数には入らないとでも思ったのだろう。

 気圧されてるのは御嬢様ぶってる1人の女の子だけだから実質1対3の筈……とでも考えているのだろう。

 腰は引けて入るが声は強気に成ってきた。

 もしかして喧嘩に成るのかな?

 相手の三人を見ても私1人で勝てるとニヤリ。

 そして心の片隅で思う。

 ここにバルタが居なくて良かったと……居たら、今度は相手の三人が可哀想だ。

 

 そんな事を考えていたら。

 また声がした。

 「呼んだ?」

 見ればタヌキ耳姉妹。

 しかも大人の姿で現れた。

 ヘソも太腿も露な恥女みたいな格好でだ。

 しかしそれは有る意味威圧感が凄すぎる。


 さすがの三人の女の子も声も出せずに、逃げ出した。


 しかし今度は都合良く現れたものだとヴィーゼは思ったのだが。

 クリスティナを見れば親指を立てて無線を握っている。

 そしてもう1人の親指はアマルティア。

 成る程アマルティアの入れ知恵で呼んだのかと、答えがわかれば簡単だった。

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