041 戦利品
「この雨……何時まで降るのかしら」
エルは草原を進むヴェスペの中で呟いた。
「幌も掛けてるから濡れないし……いいじゃない」
イナとエノは後ろの平な所で座り込んで、お菓子を食べていた。
うまい棒だ。
それをエルに差し出して。
「幌を掛けてると撃てないじゃない」
受け取ったソレをかじる。
「歯応えが無いわね……」
ブツブツとうまい棒にも文句を付けて。
「どうせもう街に着くんでしょう?」
「そこから汽車だっけか」
「まだ少しは距離も有るでしょう? もしかすればが何かが有るかもじゃない」
「無いでしょう」
「ダンジョンを出てから一匹も出てこないのに……今更?」
カリカリとうまい棒をかじるタヌキ耳姉妹。
ダンジョンで元国王が倒れて……回復するのに数日掛かった。
その間に子供達は色々なモノを集めた。
食料にお菓子はもちろん。
盗まれたバルタのテントも同じヤツを探しだした……ロゴスのナバホ柄ティピーテント。
見付けたのはヴィーゼだ……怖いからかヒッシだった。
同じくナバホ柄のフライシートの大小が2つのオマケ付き……それに毛布まで付けてバルタの機嫌の御伺いだ。
今まで持ってなかったオマケが効いたのか、少しだけ機嫌を戻してくれたので子供達は全員でホッとしたのだ。
あと雑貨も。
カセットコンロとかカセットストーブとか……面白いモノも見付けた。
カセットストーブはあまり意味は無かったのだけど……今は夏前だし、それに暖かく成る魔石の方が小さくて便利だ。
ランタンの様に吊るして置けばそれでもう暖かい。
まあ無駄なモノだ……面白いけど。
そして服。
ムーズお嬢様の服もすべて盗まれたのでその代わり。
だがお嬢様のお気に召すモノは無かったようだが……そんなにヒラヒラな服は滅多にあるもんじゃない。
諦めて何処かの中学校の制服みたいなのを集めた様だった。
今もそれを着ている。
ヴィーゼは何時もの感じに戻っている、ヒラヒラな服はやめてセーラーのワンピース……まあ子供服だ。
基本、子供達の制服というか軍服はそれだから皆に合わせて同じに成っただけなのだが……本人も気に入っているようなので良いのだろう。
因みにだがタヌキ耳姉妹は上下に別れたセパレートのセーラー服……こちらも何処かの中学校の制服だ。
身長を変えられる変身能力が有るのでワンピースは駄目なのだそうだ。
スカートが短く為ってお尻が隠れなく成るから嫌だと言っていた。
その変身は20cmか30cmほど変わるのでヤッパリ上下は別れていた方が都合が良いのも確かだろう。
最近は滅多に変身はしていないのだが……まあイザという時の為だ。
だから子供達の中に居る依りもムーズの横にいた方が見た目も馴染む。
そしてカバン。
ランドセルはとても便利だ……M24柄付手榴弾が幾つか入り、銃の弾の予備も持ち歩ける。
犬耳三姉妹限定だが……対戦車無反動砲のファウストパトローネがランドセルの左右に1個づつくくりつけられる、大きな縦笛宜しくだ。
それらを新しく新調していた。
戦闘中はどうしても丁寧には扱えない。
走って転けてを繰り返すからだ。
そして戦車の運転をするように為ったヴィーゼもランドセルを背負う事にしたらしい。
戦車の椅子は床から少しだけ浮いている感じなので良いのだが背凭れは大人用……だからほぼ使えない。
それでもローザにスライド機構を付けて貰ったのだけど……それでも背凭れに凭れると足が届かない。
そこで考えたヴィーゼはランドセルを背負ったままで運転すれば、その厚み分だけ前に座れる……つまり足が届いて凭れられるとだった。
ついでにお菓子を入れて置けば……何時でも食べられる。
一石二鳥!
まあ……そんな感じ。
それからハム助とペンギンも仲間に成った。
アザラシは……残念ながら置いてきた。
あまりにも遅すぎるからだ……それに大飯喰らいだし、サイズもデカイ。
ダンジョンでの戦利品はそんな感じ。
……。
おっと忘れていた。
元国王が運転しているダブルキャブのトラックだ……トラックなのに5人乗り? 後ろのドアも座席も着いている、見た目は前半分が背の高い乗用車のような形をしているソレ。
シボレーのシルバラードとか言うらしい……デカイし早いヤツだ。
それに後ろに牽引台車を引いている、元国王が壊したコルベットが乗っていたヤツなのだが、今は壊れた荷馬車の車輪を取り払いそのまま載っけていた。
こちらもサイズはデカイ……車台の中心にタイヤが集まる四輪だ。
前で引っ張るシルバラードとほぼ一緒のフルフラット仕様なのでまっ平、固定さえしっかりすれば何でも載る。
ルノーft-17軽戦車もそのまま載る。
ヴェスペは縦の長さは良いのだが……横幅が出っ張る。
左右に10cmか15cmくらいのはみ出し……左右の履帯の半分ほど載るかんじか。
中途半端だ、どうせなら履帯の全部がはみ出せば……車体の底面で載せられるのに。
あ……でも中央のタイヤの出っ張りが邪魔か?
ブツブツと考えるエルだった。
退屈していたのだ。
そのシルバラードの後ろに乗ったムーズは寝ていた。
フカフカのシートでエアコンも効いている。
トラックなのに出ている速度が遅いからか、殆ど揺れない……快適すぎる。
そして横のクリスティナはハム助と窓から外を眺めている。
いつ見ても草原。
何処を向いても草原。
それでも流れる景色は見ていて退屈はしない。
足下にはペンギンも居た。
彼は寝てはいない様だが……何をしているのかはわからない感じだ。
ただ動かずにジッとしている……ボーッと。
その彼の見て右側のオデコには絆創膏。
これは誰かに見られた時用の用心。
魔物使いは多いわけでは無いが普通に居るので、人の側に魔物が居るのは珍しくない。
ただ、頭に銃創がポッカリと大穴を空けていれば……それは明らかに死んでいるとわかるだろうから、ゾンビとバレる。
魔物は騒がれないが……ゾンビはバレれば大騒ぎだ。
だから絆創膏。
「頭を撃たれたからかしら? それとも元からポーっとした子?」
クリスティナのペンギンに対する感想だ。
「元からじゃろう? たぶん」
運転して居た元国王が答えてくれた。
クリスティナのただの一人言なのに。
「たぶんなんだ」
笑ったクリスティナ。
ゾンビにしたのは元国王なのにわからないんだとオカシかったのだ。
「後でマリーに聞いてみよう」
マリーの方が何でも知っている。
聞けばチャンと答えてくれる。
わからなくても一緒に考えてくれる。
元国王の様にわからない事を適当に誤魔化す事はしないのだ。
その当のマリー。
APトライクを運転しながらブツブツと文句を垂れていた。
「しまった……こんなの持ってくるんじゃ無かった。運転するより横に乗ってた方が断然楽じゃないの」
運転は簡単だ、ただ退屈でイライラするだけ。
「私が運転できれば変わってあげられるのにね」
プププと笑うペトラ。
そのペトラを横目に見てアマルティアはマリーに。
「一応はゴーレムと言うのなら……指示を出して勝手に動かせないんですかね?」
「何度かやってるのだけど……駄目ね」
退屈を紛らわせる為にもアマルティアに答えたマリー。
ペトラの方は無視だ! 相手にすれば余計にイライラしそうだからだ。
「意識らしいモノは感じるのだけど……それが何を意味してるかもわからないのよ。私がわからなければ、この子も私の意志がわからないだろうし……お互いが何を望んでいるのかがサッパリ」
フウっと溜め息。
「結局は何をどうすれば良いの指示も出せないし……受けれない感じね」
「もっと深く繋がるか……ゴーレム化のレベルを上げるかですかね」
アマルティアも考える。
「ゴーレムってさ……魔核が有るんでしょう? これには有るのソレ」
ペトラが横から入ってくる。
どうも1人蚊帳の外らしいのが気になったのだ……自分も混ぜて欲しいとの適当な一言。
しかし適当に言ったそれは的を得ていたらしい。
マリーとアマルティアが同時にペトラを見た。
「なに?」
驚いたペトラは少したじろぐ。
眉間にシワを寄せてペトラをジッと見る二人。
中々に威圧感がある。
「私……変なこと言った?」
シドロモドロ。
その時、無線から元国王の声が聞こえた。
「街が見えてきたぞ」
「ほら! 街だって!」
ペトラはハシャグ演技で目線を反らして前を向く。
草原の中にそのままの街が見える。
街なのに塀や掘りも、街を囲む物が何もない。
村の様な成りだが規模は大きいのは一目でわかる。
「なんか変な感じよね……ね? ね!」
ジッ……。
「ね!」




