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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
41/233

040 作戦立案者はハム助


 「次に何処に撃ち込めばいい?」

 エルは弾を込めながら無線でマリーに尋ねた。


 「もう撃つ必要は無いわよ……そのまま着いてきて」

 マリーの返事はそれだった。


 「どうして? まだペンギンは居るでしょう?」


 「居るけど……もう追い掛け回す暇も必要も無いでしょうね」


 「どういう事?」

 サッパリわからないと首を捻る。


 「じきにわかるわよ」

 それで無線は切れた。


 「わけわかんない!」

 少し苛立ち発射薬を放り込み、尾栓を叩く様に閉じる。


 

 暫く立ち……バイクの排気音が聞こえてきた。

 三姉妹のモンキーだ。

 元々がそんなに音量も大きくないので、随分と近くだとわかる。

 そして1つ先の交差点から二匹のスピノサウルスが飛び出してきた。

 1匹の口には元国王を咥えられている。


 そのまま合流。

 スピノサウルスは先頭で止まってマリーのトライクの前にペッと元国王を落とす。

 マリーもトライクから降りて確認。

 見た感じ……グッタリとはしているが怪我は無いようだ。

 ただ姿は酷い。

 雨に濡れて、煤で泥々。

 「大丈夫?」


 「大丈夫じゃ」

 ゴホゴホと咳も酷い。


 声は返ってきたが……起き上がる素振りは無い。

 腰が抜けたとか言っていたから……まだ駄目なのだろうと眉をしかめた。

 煙も相当に吸い込んだ様だ。


 「あんまり大丈夫じゃあ無さそうね」

 フームと考える。

 「これじゃあ車の運転は無理そうか……どうしよう」

 もう乗せる乗り物もスペースも無いのだ、自力で動けないと成れば……。

 「まあいいわ」

 スピノサウルスに目配せをした。


 その時……三姉妹達も合流。

 少し咳き込んでは居るが、こちらは問題は無さそうだ。

 子供達は皆が走って迎えている。


 「ふう……酷い目にあった」

 エレンはホッとしたのだろ、バイクから降りて雨に濡れた道路に倒れ込んだ。

 アンナとネーヴもそれに続く。


 「ねえ……どうなったの?」

 どうしても気になったエルが聞いた。


 「煙と一緒にハムスターが大量に出てきたんだよ」

 エレンは合間合間に咳をして。

 「そしたらペンギンが追い掛けるのを辞めてくれた」


 「餌のハムスターが大量に湧いたので、食えないモノはどうでも良くなったのよ」

 マリーが横に立ち。

 「ハムスターは砲撃やらなんやらで、相当に怯えてしまって居たのをガソリンスタンドの爆発やら煙やらで緊張の限界を越えたのね、後はスタンピード……逃げ出したのよ」


 「成る程ね」

 ゴホゴホとエレン。

 

 それでもエルは首を傾げた。

 納得がいかない、とだ。

 「それって偶然? そんな風になるなんて……わからないわよねハムスターの気持ちなんてのは」

 

 「偶然じゃあ無いわ」

 マリーはクリスティナのポケットのハム助を指して。

 「ハム助の作戦よ……もう相当に怯えている筈だからあと一押しで隠れている事が出来なくなるってね。自分もハムスターだからわかるって胸はって言うから、その通りにしたの。それにペンギンも悪食で目の前に餌が有れば我を忘れるくらいに馬鹿だからってさ」


 そして今も、ポケットの中のハム助は鼻高々に胸を張っていたのだが、それは誰にも気付かれない。

 見た目は顔をポケットから覗かせているだけだ。


 「でも……それって」

 アンナは顔をしかめた。

 「自分の仲間を売ったって事よね……ペンギンの餌にした?」


 「確かにそうだ……鬼畜の所業だ」

 ネーヴも広角を下げて頷いた。


 皆も確かにね……と、ハム助を見る。

 見られたハム助は、その冷たい視線に耐えきれずにスススとポケットの中へと隠れるのだった。

 誉められる筈が……あれ? ってな感じだろう。


 「まあ……獣なのはその通りだし、小動物だから」

 マリーは肩を竦めて。

 「でも、もう終わった事だし良いじゃない」

 元々ハムスターは共食いをする生き物だし……ハム助には罪悪感も無いのだろう。

 「結果オーライで良し!」

 その場でクルリと踵を返してトライクに乗り込んで。

 「いったんココを出ましょう……動ける様に成ってから出直しね」

 指だけで元国王を示す。


 元国王はまたスピノサウルスに咥えてられていた。

 移動はそれでさせるらしい。

 マリーの指示でだった。






 子供達は呆けていた。

 ポカンと開け放たれた口……いや呆れて顎が下に落ちた? か?


 「出口は間違っていないわよね」

 エルは辛うじて口を動かす。


 「そのはず……」

 イナがホームセンターの3Fパーキングの看板を指し。

 エノは最初にローザがブツけて壊した車を指す。

 「間違いないと……思う」


 フームと考え込んだ子供達。

 見えるモノは……切り取られた地面の段差の側面とその上から拡がる草原。

 別に段差の高さが変わったわけでは無い。

 草原も……雨には成ったけどそれで濡れそぼっているだけだし、変化は無いと言える。

 

 「無いですね……」

 ボソリとムーズ。


 「居ない……ね」

 答えるクリスティナ。


 子供達が見ていたのは草原に置いてきた筈の幌車が在った場所……だがそこには無い。

 そして、それを見ててねと頼んだサラちゃん一家とその馬車も……居ないし、無い。


 「ドユコト?」

 ペトラは首を傾げた。


 「これって……盗まれた?」

 アマルティアも同じく首を傾げて。

 「ソユコト?」


 ウーンと唸る子供達。

 どう考えても……。

 いくら考えても……。

 何をどう捏ね繰り回しても……そうにしか為らない。

 だって……争った跡すら無いのだから……それは盗賊や何かは来ていないと成る。

 地面に着いた轍も足跡も自分達とサラちゃん一家が着けたであろうモノだけ。

 どう目を凝らしても。

 いくら目蓋を擦ろうとも。

 瞬きを止めて涙がチョチョ切れるほどに見詰めても……何もない。


 「持って行かれたな……」

 元国王は結論を断定した。

 スピノサウルスの口にぶら下がったままで、ゴホゴホと咳き込みながらの姿で……声だけは渋くいい放つ。


 「まさか……」

 エルはそれで絶句。


 「いい感じの家族だったよ?」

 アマルティアはなおも首を傾げたままで。


 「サラちゃん……」

 クリスティナは悲しそうな声でポツリと漏らす。


 「まあ……事情が有るのじゃろう」

 元国王はプラプラと揺れながら。

 「仕事も無い状態で全財産は馬車1つだけ……」

 ゴホゴホと。

 「王都に行ってもスグにどうにか成るとも思えんし……金は有るだけ必要じゃろうからな」

 声音は諦めろとそう言いたい様だ。


 「私の服……」

 ムーズはガックリと頭を垂れる。


 「キャンプ道具もよ」

 ヴィーゼがルノーft-17軽戦車の運転席ハッチから顔を覗かせて。

 「あ!」

 そしてハッと顔で後ろを振り返った。

 小さくて低くシャーっとバルタの声が聞こえた気がしたからだ。


 「私のテント……パトに貰った大切なヤツ……」

 ボソリとバルタ。

 

 そのバルタの目には殺気は見えた……気もしたヴィーゼは震え上がる。

 「今から追い掛ける?」

 恐る恐ると御伺い。


 「決まってるでしょう!」

 叫んだバルタに獣人の子供達の背筋がピンと伸びる……後から合流したアマルティア以外だ。

 「行くわよ! 覚悟してなさい!」

 普段は口数が少なく、大きな声も出さないし……何より行動を率先して決める事もないのに……指示を出して言い切った。

 

 慌てた子供達は震えながらに段朝を乗り越える。

 エルや犬耳三姉妹はゴーレムに頼んで車両を持ち上げて貰う準備だ。


 「ちょっと待ちなさい」

 マリーがそれを止める。

 「今さら無理でしょう」

 どれだけ時間が立ったかもわからないし、逃げた方向もわからないのでは見付けられるかどうかとそんな感じなのだろう。


 しかしバルタはそれを無視した。

 「索敵開始……」

 ボソリとヴィーゼに命令。


 「ちょっと……アンタも止めてよ」

 マリーが振り向いて元国王に。


 しかし元国王からは返事が無い。

 それに先程よりもグッタリとしている。

 

 「え?」

 走り寄るマリーは元国王の額に手を当てた。

 赤い顔で汗だくで苦しそうに見えたからだ。

 そして声を漏らした。

 「酷い熱……」


 「え?」

 ムーズも駆け寄り同じく手を当てる。

 「これは駄目よ」

 スピノサウルスに向かって。

 「早く下ろして」


 地面に寝かされた元国王は動かなかった。

 

 「いい年してハシャグからよ!」

 声は荒いが、手は濡れた服を脱がせに掛かるマリー。

 ムーズもそれを手伝う。

 

 「誰か、下の階に行ってベッドか毛布を取っ手来て!」

 体を拭きながらに頼み込むマリー。

 「お願い!」


 ジッと草原の先を睨み付けていたバルタもチラリと元国王を見て。

 小さく溜め息。

 ……。

 そしてポツリと呟く。

 「もういいわ……みんなマリーを手伝って上げて」

 そう告げて……自身は戦車の中に引っ込んだ。

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