表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
40/233

039 援護射撃?


 アザラシの進軍スピードは遅い。

 頑張っているのだろうが、それは人の早足と同程度。

 こちらが向かう依りも、元国王達にこちらに来てもらった方が早いのだが……あちらは絶賛戦闘中、ペンギンの動きに依ってはウロウロと方向を変えなければいけないのだろうからイライラする。

 変に動くから遠ざかる事にまでは成らなくても、こちらの進む向きが微妙に変わってますますイライラ。

 フンスと鼻を鳴らしたマリーは交差点を曲がる為にハンドルを曲げた。


 「あれ? どうしたの?」

 クリスティナの声だ。


 「また曲がったのよ……真っ直ぐ来ればいいのに」

 マリーは前を向いたままに返答をした。


 「うーん、何を言いたいのかわからないよ」


 「だからペンギンから逃げてるんでしょう?」

 イライラ。


 「ほらもう少し落ち着いて」


 「私は冷静よ!」

 キィーっと振り向いたマリー。

 クリスティナは横を向いていた。

 自分の肩に乗ったハムスターと喋って居たらしい、肩の上のそれはからだ全体で大きな身ぶり手振りでジェスチャーをしていた。

 「紛らわしい……」

 顔をしかめて。

 「アンタもクリスティナには言葉が通じないんだから……言いたい事が有るなら私に言いなさいよ」

 ハムスターに向けてボソリとだ。


 その呟きを聞いて、ああそうかとマリーを見たクリスティナ。

 マリーはハム助の言葉がわかるのだ。

 ゾンビ同士の念話? いやハム助はまだ生きているから……同じ使役者からの繋がり?

 念話が通じるなら……1種の奴隷契約か何かかしら。

 クリスティナはハム助に視線を戻してつぶさに見る……じっくりと。

 でも奴隷印は見付けられ無かった。

 毛で隠れてる?

 

 「早く言いなさいよ」

 マリーの声。

 ハッと振り向いたクリスティナだが……それはハム助にだとスグに気付く。

 そして今はどうでもよい事を考えている暇は無いとも気付いたので、腕と手を真っ直ぐにマリーに向けた。

 ハム助がその腕を伝ってマリーの所に行けるようにだ。


 ハム助はクリスティナの手のひらで止まる。

 顔はマリーに向けていた。

 何を話して居るのかはクリスティナにはわからない。

 身ぶり手振りも無い。

 でもハム助の口許はモゴモゴと動いて居る様だ。


 マリーは、大きく1つ頷いて顎に手を当てる。

 

 「あのぉ……考え事をするにも前を見てしてくれません? 運転中なのでしょう?」

 ムーズが不安に為ったのであろう声を発した。

 

 「大丈夫よコレも有る意味ゴーレムだから」

 マリーはハム助話を聞きながらにムーズに返す。

 手はパンパンとトライクの背凭れを叩きながらだ。


 「でも……前」

 ムーズは指を出し。

 「ぶつかりそうです」


 慌てたマリーは前を向く。

 もうすぐそこに放置車両が迫っていた。

 「アンタ! 避けるくらいはしなさいよ」

 ハンドルに飛び付いて怒鳴る。


 トライクはヨタヨタと曲がった。

 前輪が1つなので急なハンドル操作では車体が不安定に成るのだ。

 振り子の様に頭をフラフラと揺らす。

 乗っている三人もフラフラと振られて揺れていた。

 

 「もうう、面倒臭い!」

 マリーは大きな声で。

 「クリスティナ! エルにハデな1発……撃つように言って」

 

 「え? ハデなって?」

 一応は無線に手を掛けたクリスティナだが、首を捻って聞き直す。

 今までのとどう違うの?

 そんな疑問だ。

 今までのが普通として……次のがハデ?

 榴弾って火薬の量は同じでしょう?

 撃つ砲の太さは変わんないのだし……ハテサテ?


 「ンンン……」

 唸るマリーは。

 「ガソリンスタンドが在ったでしょう? それを爆破よ!」

 怒鳴る語気は超強目だ。


 ハッと口をつぐんだクリスティナ。

 なんだか怒られてる……と、そんな気になったのだ。


 そんな萎縮しているクリスティナから無線を取ったムーズがエルに伝えた。

 「マリーからの伝言……ガソリンスタンドに撃ち込んでだそうです」


 指示を受けたヴェスペは一時停止。

 そして後ろに下がり始めた。

 それに合わせる様に砲の上下が動くので、建物か何かの遮蔽物を避けられる位置に移動した様だ。

 先程に曲がった交差点の真ん中から1発を撃つ。


 大きな発射音。

 少し離れて榴弾の破裂音。

 続いてガソリンスタンドが爆発したのであろう大きな音。


 「今度は1発で当てましたね」

 ムーズは頭を両手で押さえて守りながらに感心仕切りだ。

 爆発は随分と遠くなのでココまで被害はでないけどもやはりか音には驚かされる。

 隣のクリスティナは平気な顔をしているから……これは経験の差? とチラリと目をやった。


 「目標が大きいからね……建物だと」

 見られたクリスティナはそう小声で答えた。

 何故に小声かは、チラチラとマリーを気にしていたからだとわかる。

 「でも……爆発はしたけど」

 

 ムーズは頭を上げてその方向をみる。

 黒い煙がモウモウと昇っていた。

 あの感じだと横にも拡がっている様だ。

 しかしとクリスティナに同意するように首も傾げる。

 「だからどうだか……わからないわね」

 あの爆発で、何が解決するのだろうか?

 ペンギンがカタマるのは少しの間だけで……スグに元の状態で襲われるのでは?

 爆発が大きく成れば……その時間も延びるのだろうか?

 そんな風には思えなかったけど……まあ、カタマるペンギンの範囲は広くは成るのかな? 


 「おとなしく見てなさいよ」

 マリーはニヤリと笑っている様だった。






 後方で爆発が起きた。

 交差点を曲がってからスグだ。

 だから振り向いたエレンにもそれは見えない……と、思っていたのだが。

 地面を這うように舐めるように、黒い煙が津波よろしく迫り来る。

 上を見上げれば建物影から黒煙が見えた。

 推測するまでもなく……ガソリンスタンドが爆発してガソリンが燃えているのだとわかる。

 「煙に気を付けて!」

 前に叫ぶ。

 黒い煙は危ない……それは以前にパトが言っていた。

 煙は不完全燃焼で起きる、それは酸素が足りない状態だから黒い煙に酸素は無いか少ない。

 人はほんの少しの酸欠で意識を失う……だから危険なのだと。

 ナパームの理屈だ。

 ナパーム弾は燃えて人を殺すよりも酸欠で殺す事の方がはるかに多いと。


 前を走るアンタとネーヴはそれを知っている。

 でもその前の元国王は知っているかどうかは疑問だ。

 頭では理解していても、実際の経験がなければ対応出来るのだろうかとも思う。

 スピノサウルスはゾンビだから呼吸しているのかもわからない。

 やはり危険なのは生きた人間の元国王。

 もう一度叫ぶ……今度はスピノサウルスに向けて。

 「煙から逃げて!」


 そして自分はお腹でバイクのタンクを押さえる様に体を低くして、左手で口元を押さえた。

 暫くは呼吸をしない。

 煙から抜けるまでは無呼吸だと自分に言い聞かせる。

 同じ無酸素状態でも、肺の中に煙が有るのと無いのとではその後が変わってくる。

 煙から抜ければ素早く新しい酸素が取り込めるからダメージが少ないのだ。

 そして煙の拡がる速度は早いけれども、元の発生元から距離が開けばそれだけ薄くなる。

 バイクで走ればその距離も稼げる筈だ。


 そのほぼ同時に煙に巻かれた。

 とたんに視界が悪くなる。

 目にも煙が入るから余計だ。 

 それでも少しは見える。

 涙で景色は歪んでは居るが……瞑るわけにはいかない。

 黒い灰色の道路が波打って蠢いて見えるが……見えてさえいれば走り続けられる。

 見えてさえいれば……。

 見えて……。

 ん?

 何か見えた。

 ……。

 茶色い?

 白い?

 蠢いているのでは無くて走っている?


 手元の手を目に当ててゴシゴシと擦る。

 そしてもう一度……下、地面を見た。


 !

 大量のハムスターだ。

 同じように、同じ方向に、逃げる様に走っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ