037 元国王救出作戦
「なんじゃ? 戦争か?」
車から降りて立ち上がろうとしていた元国王は砲撃の爆発に驚き、側に居たエレンに抱き付いた。
「有る意味そうね」
エレンは両手で元国王を押し戻す。
「相手はペンギンだけどね」
「ペンギン達に砲撃しても間に合うのか?」
今度こそは立ち上がろうと自分の膝に手を当てて中腰。
「動き出した」
これはネーヴの声だ。
何処に居るのかはわからないが……方向はアンナの向こう側か?
「いいよ……撃って」
アンナは横倒しの軽自動車の影に隠れて無線を握っている。
そして元国王の方を向き、叫んだ。
「来るよ!」
それに頷いたエレンは元国王の頭を下に押さえる。
「備えて」
自身もしゃがみ……コルベットの影で小さくなる。
ドカン!
大きな音と爆発。
今度は近い所に落ちた、ガソリンスタンドの反対側の歩道に少しだけ乗り上げていた乗用車に直撃だった。
爆風が元国王の頭の上を掠める。
「わけがわからん」
何故に置き去りの車を狙う。
しかしその問いに説明をする積もりもないエレンは元国王を引き起こそうと引っ張る。
「立って……走れる?」
「ん……あああ」
理由はわからないが……ここに孤立していても仕方無いのはわかったので元国王は兎に角頷いた。
皆と合流出来る。
そして立とうとした……が、中腰を越えたその時、地面にヘタリ込んでしまった。
「お? 腰が……」
片手は地面を支え、もう片方の手は背中に当てて……情けない声を出す。
それを見たアンナは眉をしかめた。
「腰が抜けたの?」
「いや……ギックリ腰じゃ」
「同じよ」
大きく息を吐き、左右に首を振る。
「どうしたの? 早く動いて!」
アンナが叫んでいる。
視線は何かを探している様に左右に振られていた。
「だめ! トラブル、元国王の腰が抜けて自力で動けないって!」
怒鳴る様に。
そして手には無線も握られている。
「エレン一人で引き摺れる?」
アンナが元国王の方を向いた。
エレンは元国王の肩を掴む……だが抱え上げる事は出来なさそうだ。
仕方無いのでその腕を引っ張る。
ズルズルと動く事は動いたが……それでは遅すぎると判断した。
「だめ! 手伝って」
「ここに立て籠るのは駄目なのか?」
元国王の最初の計画だ。
時間稼ぎでは有るのだが……その間に腰も落ち着く筈と楽観論も含めての意見だ。
しかしそれはスグに否定された。
エレンは地面を撫でて、その手を元国王の鼻先に持っていった。
「ガソリンよ」
その手で元国王の頬を撫でると、ヌルっとする。
そして今度は手を反対に向け……注油機を指差す。
注油機から伸びているホースの先が切れている状態でガソリンを吹いてうねっている。
給油中の軽自動車を弾き飛ばしたからか! と、横倒しの軽自動車を見た元国王。
注油機のホースの先……ガンの部分がガソリンコックに刺さったまま切れていた。
「何でか知らないけど……ここ等の建物の時間凍結が溶けているの」
エレンが苦々しく。
「それに機械も勝手に動いてる」
アンナが元国王の所まで来て、空いている腕を取った。
二人で元国王の両腕を引っ張る。
機械が動いて居るのは元国王のせいだ。
ネクロマンサーが機械に近付けば、使役するでも無くに動き出す。
動かない機械はゾンビと同じ扱いか、その中間と判断されるのか……動かすためのエネルギーが無くても動く。
理屈はわからないが、以前にマリーが悔しがっていた。
何で動くのよ! って感じで。
そして今はエレンとアンナが……何で動くのよ! とだ。
「こんな所に火でも着いたら爆発よ」
二人で元国王を引っ張れば速度も上がる。
ズルズルがズザザザァに成る。
懸命に引っ張るエレンとアンナを見ながら元国王は一言を飲み込んだ。
ワシのせいじゃ。
そして、引っ張られている途中で凍り付けで固まっているペンギンを見付けた。
それを見て初めて理解した。
成る程……驚かせて凍り付けにさせているのか。
首を動かせばソコココにも見付けられる氷の塊。
中にはその氷が薄く成っているモノも居る。
有る意味スタン攻撃ってヤツだと納得。
横倒しの軽自動車の影に到達。
「次来るよ!」
アンナは辺りを警戒。
「ふせて」
エレンは元国王に。
「いや……ワシは元々……」ふせておる。
今の引っ張られている状態なのだからと反論しようにも、その後半の言葉は声には出せなかった。
近くに着弾したからだ。
先ほど見付けた氷の薄くなったペンギンの氷がまた厚く成る。
「移動するよ」
元国王の話は聞く気が無いらしいアンナ。
引き摺っている時点でモノ扱いなのだろう。
「迷惑掛ける」
ボソリと呟いたそれも耳に届いてはいない様だ。
「喋ってると舌噛むよ」
エレンは少しは気に掛けてくれるようだが……しかし、容赦がない。
二人は力任せに引きずった。
軽自動車を避けて、通りを斜め反対側に向かって進む。
その先の黒焦げに成った側面を上にして倒れている箱付きのトラックの横でネーヴが片膝で手を振っていた。
重心が高く背中の箱のパネルが爆風を受けやすい平な形なので、そのまま倒れたのだろう。
「後ろ!」
コチラを向いていたネーヴに向かってアンナが叫ぶ。
元国王も顔を上げてそちらを見れば、数匹のペンギンが滑ってくるのが見えた。
砲撃のショックの範囲外からの新手のようだ、まだ距離はじゅうぶんに有る。
ネーヴは素早く半身を翻してソチラに手榴弾を投げた。
道路の真ん中に落ちてカラカラと転がり、ペンギン達の目の前で爆発。
今までとは少しだけ大人しい爆発音。
それでもじゅうぶんにペンギン達を驚かせられた様だ。
滑る途中で氷の塊に成り転がり始めた。
その氷も真ん丸では無いイビツな形なので、あらぬ方向に曲がっていく。
「手榴弾でも効くのか」
元国王は疑問に思う。
最初の段階では手榴弾では驚きはさせても凍るまではいかなかった筈なのに……と。
「エルの10.5cm榴弾が怖いんでしょう? たぶん」
エレンの答え。
「そうか……先に大きな爆発で恐怖も増幅されたのか……だから次の小さな爆発でも危険と感じたと」
フムフムと納得と偉そうな顔……だが、その姿は引き摺られていた。
今更に威厳を出そうにもその姿が、それを許す筈もない。
というか……アンナの機嫌を苛立たせるのには役に立った様だ。
トラックの裏に投げる様に放り込まれた。
雨に濡れた路面と、もしかするとガソリンが油の役にでも成ったか引き摺る速度も速く成っている。
よって勢いの着いた状態で投げ出された。
「二人ともバイクは?」
三姉妹が集まりネーヴがエレンとアンナに尋ねる。
それに答える様に、二人は各々がガソリンスタンドの方を指差した。
「どうするの?」
ネーヴのバイクは近く寝かせられている。
「もう少し安全な場所まで引き摺ったら取りに戻るよ」
アンナは元国王をチラ見して。
「皆の所に合流出来れば良いのだけど……」
エレンはまだ先の方に視線を向けて。
そちらの方向に皆が居るのだろ。
「どっちにしても……まだ先って事ね」
ネーヴは次の手榴弾を握る。
アザラシの速度に合わせて、こちらに向かっている皆はまだまだ時間が掛かりそうだからだ。
「いや……もう大丈夫じゃと思うぞ」
元国王は伏せて倒れた状態で三人に声を掛ける。
「動ける様に成った?」
エレンは元国王の方を見るのだが……首を傾げた。
どう見ても駄目そうだ。
「助っ人が来た」
元国王は今来た方向に指を立てた。
三姉妹がそちらを見る。
皆がいる方向とは逆で……皆は一塊に成っている。
なので助っ人と言われてもピンとこないのだ。
が、見てみれば成る程、助っ人だと納得。
こちらに向かって来たのは二匹のスピノサウルスだった。
「ワシの騎兵隊じゃ」




