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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
34/233

033 雨


 ローザは一人でスーパーの駐車場に居た。

 その手には何やら部品を持っている。

 「ヤッパリね、ここなら有ると思ったんだ」

 電動アシスト自転車を見下ろして。

 「これもバラせば二つ目だ……バルタに頼まれた砲塔の電動アシスト化も出来る」 

 だが問題も有った。

 部品のモーターも固まったままだ、それを元国王に動く様にして貰ってもどうなのだろうか?

 「まあ取り敢えず1個を試して見よう……自転車もまだ有るだろうから予備も含めて3つか4つだ」

 ブツブツと呟きながら、目の前の自転車に取り付いた。

 後ろに子供を載せる為の椅子が目立つソレだった。

 何処かのお母さんが買い物に来ていたんだろう。

 そして思う。

 そのお母さんは……どうなったんだろうか?

 上手く逃げ延びたんだろうか?

 「まあ……このダンジョンに来て、まだ一度も死体やソレらしき痕跡は見ていないのだから」

 取り出したモーターを確認しつつ。

 「何処かに行ってしまったのだろう」

 大きく頷いたローザ。

 「よしいい感じだ」

 立ち上がり次を探した。

 そのローザの頬にポツリと雨が落ちた。

 頬を掌で拭いつつ、空を見上げる。

 ここ最近の、代わり映えのしないドンヨリとした鉛色の分厚い雲だけが見える。

 拭った筈の頬にまたポツリ。

 今度は拭わずに掌を上にして広げてみる。

 そこにもポツリ。

 「とうとう降りだしたか……」

 チラリとヴェスペに視線をやって、首を振る。

 「幌はまだ掛けなくても良いかな?」

 頷いて。

 「いいよね」

 それよりもモーターだと、また自転車を探し始めた。



 

 「ウワー……雨、降ってんじゃん」

 スーパーから最初に出てきたのはタヌキ耳姉妹とペトラ。

 カートには食料品の山……脈絡は全く感じられない適当。

 というか……各々が食べたいと思ったモノをそのまま積んでいったとそんな感じだ。

 

 「まだパラパラだけど……どうする?」

 イナはヴェスペを指差した。

 「うーん、これは本降りに成りそうね」

 エノも渋い顔。


 「何が?」

 ペトラはハテナとそんなの顔をする。

 

 「ヴェスペに幌を掛けるかどうかよ」

 イナはその場を動かずに答えた。

 焦っている風では無い。

 「一応はここはダンジョンだし……戦闘態勢は維持しておくべきだと考えるならそのまま?」

 エノも微妙だとそんな顔。


 「もう危険は無いんじゃないの?」

 ペトラはヴェスペの後ろで踞るアザラシを指差した。


 「まあ……そうなんだけどね」

 イナはエノの顔を覗き込む。

 エノもイナの顔を覗き込んで。

 「面倒臭いしね……幌は重いし」

 二人で苦笑い。


 「重いってゴーレムにやらせるんでしょう?」

 肩を竦めたペトラ。

 「少しだけサポートするだけじゃん」


 「それが面倒なのよ」

 「フックを掛けるのはゴーレムは遣ってくれないし……どうしたって引っ張るから」

 ブツブツと……だがヤッパリ動かない二人。

 「ソレにほら……もともと濡れても大丈夫だから」

 「うん中も外も防水はバッチリ」


 「私を説得してもなぁ」

 苦笑いのペトラ。

 「でも……濡れるのは嫌だな」

 

 「ウワッ……雨だよ」

 後ろからも声。

 クリスティナだった。

 飲み物担当のカートを押しているのはアマルティア。

 ペットボトルや紙パックが山積み。

 その殆どが、甘いであろうと思われるジュースだ。


 「降りだしましたか」

 ムーズも小さくため息をつく。


 「で……いいの?」

 アマルティアは先に来ていた三人に聞いた。


 その三人も……何が? とは聞き返さない。

 考えた事は同じだと思ったからだ。

 でも一応のいいわけ。

 「ほらまだ魔物が出るかもだし」

 「何時でも撃てる様にはしてなくちゃ……ね」


 「ふうーん……そう」

 アマルティアはそれ以上は突っ込まなかった。

 だいたいを察したのだ。


 と、犬耳三姉妹の乗るバイクがスーパーのガレージに入ってきた。

 後ろからはトライク。

 フロントガラスの下から一本、突き出たワイパーが忙しなく動いている。

 雨の量とのバランスを考えれば動かし過ぎだ、調整機能が適当なのだろう。

 で、そのおかげで誰が運転しているのかも見えない。

 

 それがわかったのは子供達の前に来てからだ。

 窓もドアも無いので、横から見れば中は丸見え。

 

 「アレ? 元国王は?」

 最初に気が付いたのはアマルティア。


 「ウットウシイから置いてきた」

 ボソリと吐き捨てて……プイと横を向くマリー。

 

 「喧嘩でもしたの?」

 この声はエルだった。

 

 ヴィーゼの押すカートはヤッパリ山積み……大量のお菓子。

 そして後ろからはバルタが店から出てきた。

 とてもイヤな顔をしながらだった。

 頬もヒク着いている。

 その理由も誰もがわかってはいたが……何も言わずに見て見ぬ振り。

 雨をどうにかなんて誰も出来ない。

 自然に喧嘩を売る方法は誰も知らない。


 

 ヴィーゼはネーヴを見付けて手を振った。

 「あんパン有ったよ」

 カートの中に手を突っ込んでゴソゴソ。

 出来るだけ雨の話題は避けたかったからだ。

 なんだろう……背後のバルタの圧が凄い。

 これだけ降れば戦車に乗り込む迄に……否が応でも濡れてしまう。

 まあ、流石にバルタも雨でキレる事はないだろうが……ついさっきの話が頭の片隅に引っ掛かったままなのだ。

 優しいバルタは好きだけど……怖いバルタはマジ勘弁だ!

 手を突っ込んだままで、スルスルとカートを押して三姉妹の元へ。

 濡れない軒の下なのだけどそのギリギリの場所。

 ここならバルタと距離を空けられる。


 「ん?」

 ヴィーゼは妙な顔をした。


 「ん?」

 あんパンが出てくると期待していたネーヴも小首を傾げる。


 ヴィーゼの手に握られて居たのはハムスターだった。

 二人でそれをジッと見る。

 「元国王の配下のヤツ?」

 手の中でモガイて暴れるハムスター。


 「ハム助ならここに居るよ」

 クリスティナが自分の服のポケットを指した。

 小さな頭が覗いている。


 「ハム助?」

 そんな名前に成ったのかとボーッと考えていたヴィーゼ。

 視線は手の中のハムスターに釘付けだ。


 「食べちゃダメよ……」

 バルタだった。

 いつの間にかにヴィーゼの背後に立っている。

 音も無く。

 気配も無く。

 それなりの戦闘経験も有り、気配には敏感な部類のイタチの獣人のヴィーゼが……声がするまで気付かない程に。

 

 ドキリとしたヴィーゼ。

 「食べないよ……もう子供じゃないんだし」

 ポイとハムスターを投げ捨てた。


 と、クリスティナのポケットの中に居たハム助が騒ぎだした。


 「ん? もしかして知り合いだった?」

 「兄弟とか?」

 エレンとアンナはハム助にたずねる様に。


 だがハム助はその二人を無視するようにして。

 クリスティナの肩にまで、服を伝って登り何かを訴えている様だ。

 

 「相手にされてない?」

 ヴィーゼが二人を笑う。


 ムッとした二人は下唇を突き出していた。


 「でもなにかオカシイわね」

 エルはそんな犬耳三姉妹やヴィーゼよりもハム助が気になったのだ。

 「何か言いたいのかしら」


 その時。

 ガレージで雨に濡れていたアザラシが鳴いた。

 「ブモモモモォ」

 ハム助と合わせる様に?

 それともハム助の言いたい事の補足?

 

 そして渋い顔に成っているマリーが呟く。

 「あのバカ……なにやってるのよ」


 それには全員が振り向く。

 どうも何事かが起こっている様だと察したのだ。


 キッと顔を歪めたマリーは、今度は皆に向かって。

 「ペンギンに襲われているそうよ」

 そして指を差す。


 ここに居ないのはただ一人……元国王だ。

 それは誰もがわかるから、誰も誰がとは聞かない。


 その代わりにその場の全員が動いた。


 犬耳三姉妹はバイクを走らせて、その方向に向かう。

 エルとローザはヴェスペに。

 バルタとヴィーゼはルノー軽戦車に。

 残りの闘える者は、自分の得意とする武器に弾を込める。

 それ以外のムーズとクリスティナはマリーに即されてトライクの後ろに乗り込んだ。

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