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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
33/233

032 バルタのシャー


 マリーの運転するトライクがバイク屋に戻ってきた。

 元国王はそのまま置き去りだ。

 あのワガママには付き合ってられない。

 もう放っておくしかないと、諦めた。

 自分一人で勝手にすればいいのだ。 

 私はもう関係がない。

 私はもう知らない。

 そう思えれば……それでもイライラはするけどムカムカ迄には為らない……はず。

 とにかく無理矢理にでも気分を変えるのだ。


 大きく息を吐く。


 と、狭くなっていた回りが良く見え始めた。

 そして気付く。

 「アレ? 誰もいない?」


 「ホントだね……」

 後ろのネーヴがマリーの背中の背凭れに手を掛けて立ち上がり……そして降りた。

 キョロキョロと確認。

 「あ! 良かった有った」

 走って行って……自分のバイクに跨がる。

 「こっちの方が良いや、ヤッパリ」

 エンジンを掛けてエレンやアンナの後ろに並んだ。


 「イヤ……誰も居ないのよ? 気にならないの?」

 ヴィーゼの様にオイテケボリダーと騒ぐ程では無いにしても気にしても良いとは思うのだが。


 「どうせ何処かに居るから……」

 そうネーヴは笑う。

 

 「みんなは、近くのスーパーに居るよ……私達がさっき見付けて教えて上げたから」

 「で、呼びに戻ったの」

 エレンとアンナも笑う。


 「あっそう」

 マリーにもわかった。

 ネーヴが慌てないのは、姉の二人が慌てて居なかったからか……と。

 三つ子だからか、普通の姉妹よりも深く繋がっているのだろう。

 もしかすると、お互いがお互いに依存するレベルまでか?

 成る程……と頷いた。

 同じ様なタヌキ耳姉妹もそうなのかもしれない。

 あちらは双子だが、違いは三人か二人かだけだ。

 イヤ……二人の方がもっと密度が濃いのかも知れない……あの二人のシンクロ率は、改めて考えると凄いモノが有る。

 まるで一人の人間と喋ってる気に成る時が有るほどだから。

 

 「で? 何処よソレ?」

 もうココには用は無いと、トライクをユックリと動かして反転する。

 元国王の凍結解除はモノのゴーレム化だ。

 だからか……とても素直に動く。

 半分は自律しているかの様だ。

 そして自分と同じ使役で主人となる者も同じ。

 これも有る意味シンクロなのかも知れない。

 意識が有れば会話出来るのに……。

 乗り物と会話してもどうだか? とそんな話だが。

 まあ……愚痴くらいは聞いてくれるだろう。

 ゾンビ蜂やその他の使役仲間は、大概に付き合いも古いので会話も出来るのだが……アレ達はどうも主人の方を味方したがる。

 一人くらいは私の味方でも良いと思うのだけど……。


 「なに、ブツブツ言ってるの?」

 「こっちだよ」

 エレンとアンナはもう既に通りに出て、マリーを手招きしていた。


 イカン……また腹が立ってきた。

 こんどアイツの料理に唐辛子を丸ごと入れてやろう……思いっ切り苦しめばいいのよ。

 もう一度大きく息を吐くマリーは……アクセルをユックリと捻った。





 ヴィーゼは買い物カートを押していた。

 そこそこ大きなスーパーなので……そのまま走り回れる。

 他の者達も幾つかのグループに別れて各々が走り回っていた。

 食料品を担当するイナとエノ姉妹達にペトラ。

 飲み物担当のムーズとクリスティナとアマルティア。

 残った三人はお菓子担当……ヴィーゼにバルタにエル。

 ちなみにローザは外で留守番。

 誰も居ないダンジョンで留守番の意味がわからないのだが……まあ一番に年上だから疲れたのだろう。

 オバサンだから……とヴィーゼは思っていた。


 「あんパン……あんパン」

 キョロキョロと探すヴィーゼ。


 「あんたもあんパンなの?」

 エルは何時もの調子に戻っている。

 バルタにどう宥められたのかは知らないけれど……でもバルタだ。

 バルタの言う事は絶対で何時も正しい。

 昔は良く怒られたけど……それもみんなの為にだった。

 それに、本気では怒らない。

 本気で怒ったのを見たのはヴィーゼでも一度きり。

 尻尾を膨らませてシャーって喉から音がしていた……あの時は本気で恐かった。

 目が合えば殺される、と思ったほどだ。

 何故に怒ったのかは……もう忘れてしまったが。

 たぶん誰かが限度を超したのだろう。

 ホントに誰よ……迷惑な話。

 ヴィーゼはその時を思い出す。

 お漏らししちゃったじゃない……私だけだけど。

 恥ずかしい話の筈が、恥ずかしい依りも恐いが勝ってしまって今でも背筋が震える。

 ホントに誰よ。

 

 「あんパン……有ったわよ」

 エルが一つをカートに入れた。


 「一個じゃあ足りないよ」

 まあ……どうでもいい話よねと切り替えてエルに聞く。

 「何処に有ったの?」


 「あっち」

 エルは奥を指差す。

 「まるでネーヴみたいね」

 

 「そのネーヴに頼まれてたの……あんパンを見付けたら確保ヨロシクって」

 別に自分が食べるわけじゃない。


 「ふーん……ネーヴは何であんパンなのかしらね」

 エルはわからないとそんな顔。

 「確か……前にダンジョン産のパンは歯応えが無いっていって無かった? 美味しくないって」


 「なんかね……マリーに聞いたらしい」

 カートを押して奥へと向かうヴィーゼ。

 「パンを咥えて走ると……彼氏が出来るらしい」


 「ああ……遅刻! 遅刻! ってヤツね」

 

 「そうソレ」


 「あんなのただのオマジナイじゃないの」

 ふふんと笑うエル。

 「だいたい遅刻って……あんたしかしないじゃない、みんな何時も一緒だし」


 「ちがう! みんなが私を置いていくだけよ」

 頬を膨らませて。

 「置いていかれるだけだから、それは断じて遅刻では無い」

 

 「ヴィーゼもお風呂なら、誰かに一声掛ければ良いだけなのにね」

 バルタは優しく……しかしハッキリと注意した。


 ヴィーゼの片眉がピクリと動く。

 確かあの時……一緒にお風呂に行こうよ。と、バルタも誘った筈。

 もちろんお風呂嫌いなバルタは、何時もの様に逃げたのだけど、それって一声掛けてない?

 掛けてるよね?

 ピクピクと頬も動く。


 「それは、あんたが悪い」

 エルはそのヴィーゼの顔を見て察した様だ。

 「そんなのは意識から無理矢理に排除されるに決まってるじゃないの」

 チラリとバルタを見て。

 バルタにお風呂なんて……言っても意味がない言葉よ。

 今までもバルタにお風呂を強要出来るのは、後にも先にもパトだけなのだから。

 フンっと鼻を鳴らしたエル。

 昔にバルタに水を掛けて……シャーって言われたのを忘れたのかしらとヴィーゼを見た。

 

 そして……エルは小さく身震いした。

 さっきの事を思い出していたのだ。

 ついグチグチとバルタに言ってしまった。

 当たり散らしてしまったのだが……その時。

 ほんの一瞬……シャーって。

 メチャクチャ小さな音だったけど、確かに聞こえた気がした。

 目は怖くて合わせれ無かったけど、絶対に怒ってた……と思う。

 あの時……勝手に動いてと怒ってしまったけど。

 よくよく考えればあの時の私は、もっと集団行動の和を乱す態度だった。

 もっと皆の能力を信じて任せるべきだと、そう思えなければいけなかったのだ。

 結果は上手くいってたのだし。

 今考えれば、あれは最善の策だったのだし。

 今一度の反省。

 チラチラとバルタを見るエルだった。

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