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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
32/233

031 さあ……ドッチにする?


 シボレーの正規代理店であろうその店に勢い良く飛び込んだAPトライク。


 ガラス越しに見える綺麗な車を指差して興奮を押さえ切れなかった元国王。

 「カマロじゃ!」

 その奥の車も指差し。

 「コルベットじゃ!」


 「ちょっとカッコいい普通の車じゃないの……まあ大きいみたいだけど」

 マリーは眉を寄せるだけ。


 「おお? マリーにもこのカッコ良さが理解できるのか!」


 「何時もの車? が、変な格好過ぎるから……まだマシって事よ」


 「アルファ75の事か? アレはアレでカッコ良いと思うのじゃが……まあ、子供にはアレの良さは、まだわからんか」

 

 「見た目だけで!」

 前に乗り出すマリー。

 「あんたよりも年上よ!」


 「おばあちゃん?」

 はてな? な顔で大人しく後部座席に沈み込んでいるネーヴがポツリと。

 この場所にも、元国王の指差す車にも……家に置いてきた赤色の車のも、全く興味が持て無いとそんな態度。

 マリーの年齢を含めてどうでも良い事。

 

 「おばあちゃんじゃないわよ! まだそんな年じゃない!」

 ネーヴの呟きが気に触ったらしい。


 しかし、ネーヴは元国王とマリーを交互に指差す。

 どゆこと? そんな顔を造って。

 

 元国王もどっちじゃ? と、しかめた顔を造っていた。


 そんな二人を見たマリー。

 年齢の話はどっちにしたって、自分は損をするだけだと気が付いたので……話をズラす。

 「大体があんな普通の車で荷物は運べないわよ」

 ショールームの車に向かって手を振った。

 「トラックよ! 今必要なのはアレじゃない」


 「まあ……そうか」

 渋々とだが納得はした元国王。

 未練がましく横目でショールームを覗きながらに、ことさらユックリとAPトライクを進めた。

 裏手に在るガレージに向かって。


 裏手には整備工場が在った。

 その向かい側がガレージの様だ、幾つかの車が並んでいる。

 ナンバープレートが着いているので客の車か? 

 それにしては数も多いので、引き取った中古車も混ざっているのだろう。

 イヤ、整備や車検待ちの車もか?


 「アレで良いんじゃないの?」

 マリーが指差したのは、後ろがまっ平らのキャリアトラック。


 故障車とかを載せる為のトラックだ。

 背中の荷箱は大きな外車が載せられるだけのサイズが有る……まあ大きい方だが、いかんせん普通のトラックだ。

 「面白くないのう……」

 今の現状では一番に理に叶っているのだが、元国王の琴線には全くもって触れないモノだ。


 APトライクを停めて……降りた元国王はガレージを見て回る。

 乗用車ばかりが並んでいるだけ。

 大きな溜め息が出そうに成る。


 「これは?」

 同じく降りてきたネーヴがその反対側を指差した。

 整備工場の中……薄暗い中にボンネットを開けた状態で停まっていたソレ。

 ナンバープレートも無い状態なので納車前整備か何かか? 車自体はピカピカだ。

 所々にビニールもそのまま掛かっていた。


 「一応はそれもトラックなのね」

 マリーもふーんと見ている。


 それはしっかりとボンネットも有るダブルキャブのピックアップトラックだった。

 前半分は背の高い乗用車で後ろのトランクの部分が長く伸ばされた荷箱が着いている……そんな感じの車だ。


 「シルバラードか……」

 フムフムと元国王。


 マリーが質問。

 「これって5人乗り?」

 名前なんてどうでも良い、が5人乗れるならと後席を覗き込む。

 運転主は別として自分も乗れてあと三人……横に大きいからあと4人は乗れるかな? と、計算。

 「おお? 全員が乗れる?」

 ムーズにクリスティナにアマルティアにペトラもか。

 そして後ろの荷箱を確認。

 そんなには大きくないけど……積み上げれば、どうだろう?

 「ねえ……これで……」

 元国王に声を掛けようとしたマリーの言葉が途切れた。

 側に居たはずなのに居ないのだ。

 「どこ行った?」

 ネーヴに。


 「奥のフラフラと……」

 整備工場の端っこ奥を指差して。


 元国王の引かれたモノは牽引式の台車に載せられた派手な車だった。

 ペッタンコのそれは派手なカラーリングにボンネットとドアに直接に大きな数字が描かれている。

 わけのわからない大きな羽までが背中に着いていた。

 誰が見てもわかる……レーシングカーってヤツだ。


 「コレ……欲しいのう」

 元国王はのたまう。

 美味しいそうな蜜を見付けた蜜蜂の様に、足元もフワ付いた状態でフラフラと吸い寄せられていた。


 「ええええぇ」

 顔の半分をしかめたマリー。

 ツカツカと牽引台車に近付き……覗き込もうとした。

 残念ながら背が届かない。

 仕方無いのでネーヴを手招き。

 お尻を押さしてよじ登る。

 そしてレーシングカーの中を覗いた。

 予想に反して……悪い方の結果が見れる。

 「ひ、一人乗りじゃないの!」

 運転席は有る……だが助手席はその有る筈のシートが無い。

 完全な空いた空間、ホンガラだ。

 もちろん後ろに後席なども存在しない。

 狭い車内を更に狭くする太い鉄パイプ迄にが至る所かに走っていた。

 「ダメよ!」

 元国王を睨み付けて。

 「絶対に駄目!」


 「イヤしかしのう」

 コルベットを指して。

 「これは貴重じゃぞ!」


 「どんなに値打ちモノでもダメなものは駄目!」

 台車から飛び降りて、元国王の服を引っ張る。

 「さあ、早く行くよ」


 「エエェ……ええじゃろう?」

 大の大人……いい年したジジイの猫なで声。

 

 「無駄なモノは要らない!」

 グイグイと引っ張る。

 しかし元国王はビクともしない。

 「だいたい……そんな貴重なモノが何でこんなところに在るのよ!」

 それは絶対に偽物か何かよ!

 バッタもんよ!

 そう言いたかったのだが……元国王はマトモな答えを返してきた。

 「たぶんじゃが……販促様にショールームに飾る為のモノだと思うのじゃが」

 頷いて、載せられている牽引台車を指して。

 「コレが牽引なのも、引っ張る車がシボレーの車で移動そのものが宣伝? そんな感じじゃと思う……で、これから下ろすのか、はたまた飾り終わって次のディーラーに運ぶのか、その為のこの形?」


 「コレ……牽引フックが着いてるよ」

 ネーヴがシルバラードの後ろ……バンパー辺りを指差している。

 丸い突起が上に突き出していた。

 

 「ほう成る程……ソイツが次の販促様の車か」

 フムフムと元国王。


 「そんな事はどうでも良いのよ……ほら! そっちのトラックで良いでしょう?」

 まだまだ引っ張るマリー。

 「シルバラード? それでじゅうぶんじゃないの」


 「でも……それってどうやって下ろすの?」

 ネーヴが尋ねる。

 「ゴーレムを呼ぶ?」

 

 「ダメじゃ……ソレじゃと車体が歪むかもしれん」

 少しだけ目を細めて。

 「一端、外に引っ張り出そう」

 シルバラードを指差した。

 もう声音に迷いは無い。

 完全にコルベットに決めた様だ。

 

 


 シルバラード……シボレーのピックアップトラックを動く様にして。

 コルベットのレースカーを載せた牽引台車を引っ張り……外の通りに迄出る元国王。


 マリーは情けない顔で諦めたのか、APトライクを運転していた。

 後ろの席にはネーヴ。

 動かし方がバイクとほぼ同じなのでそのレクチャーを受けながらだが……思いの外に簡単だったらしい。

 何の問題もなく普通に運転できていた。

 もちろん車体も小さいので手足は届く。

 まあ……足はあまり関係無いのだが。


 「もうイヤ……あんなのに付き合ってられない」

 マリーはブチブチと文句を垂れながらに。

 「置いていくわよ!」

 大きな声で怒鳴る。


 それにもただ手を振るだけで答えた元国王を見たマリー。

 キイィっと歯を食い縛り。

 「勝手にしなさい!」


 そこにバイクで何処かに走り回っていたエレンとアンナが戻ってきて……小声でネーヴに尋ねる。

 「何か有ったの?」


 それには肩を竦めるネーヴ。

 「駄々っ子とお母さんって感じ?」


 なにソレ? な顔をしたエレンとアンナだった。

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