030 集団行動って……なに?
元国王とマリーと犬耳三姉妹達が三輪の小さな乗り物とモンキー50zの2台で通りに出ていったのを見ていたイナとエノ。
「大丈夫なのかしら」
バイク屋の店の中に居たのだが……すぐ外にはアザラシが居る。
「大丈夫じゃあ無いと思うけど? 何処まで行くかはわからないけど……すぐに範囲外でしょうに」
アザラシを指差したエノ。
「わかっているのかな?」
首を捻るイナ。
「わかってないと思うよ」
肩を竦める。
「まあペンギンに追い掛けられて直に戻ってくるでしょう?」
不用意な行動は自己責任だとでも言いたげだ。
そこにローザがやって来た。
「呼んだって?」
ローザは元国王達の事は心配してない様子だ。
アザラシの効能というか威光というかの効果を忘れてるっぽい。
元国王達と同じだ。
「まあ良いんだけどね」
ポツリと呟いて、ローザに向き直るイナは目の前のバイクを指差した。
「これ……」
「モンキー125だって」
エノが説明した。
「兄弟車かな? 形は似てるけど……大きくない?」
「ホントだね……デカイね」
ローザも少しだけ驚いた顔。
「でも面白そうじゃない……外まで引っ張っていこう」
「乗れないんでしょう?」
足が届かないと言うのも有るが……元国王のスキルの都合も有った。
「ウーン……まあそうなんだけどね」
苦笑いのローザ。
「でもさ、一度バラバラにしてみたり……まあなんか方法を考えるよ」
頷いて。
「その為の材料……かな?」
「ホントにソックリだね」
クリスティナはモンキー125見て驚く。
外に引っ張り出されたモンキー125……その横にはネーヴが置いていったモンキー50zが有った。
「細かい所とか……ってかほぼ全部違うんだけど似てるよね」
ローザも頷いている。
「でもこんなに大きければ……意味は有るのでしょうか?」
ムーズお嬢様の疑問?
「意味って……」
笑ったローズ。
「小さいのは単に三姉妹の背が低いから選んで居るだけで……本来はこっちのサイズが普通なんだよ」
ショールームに飾られた他のバイク達をズラっと指差して。
「これでもまだ小さい方だよ」
「お嬢様……本来は大人用ですよ」
「あ! クリスティナに馬鹿にされた」
頬を膨らませるお嬢様だった。
「でもさムーズの身長なら丁度良いとも思うよ」
ローズはムーズの横に並んで、右手で背比べ。
19才のローズはドワーフなので背が低い……150センチに届かない位だ。
それでもドワーフの女子としては高身長の様なのだが。
それよりもムーズは数センチ高い。
14才の普通の人間の女の子の身長。
ローズと比較すれば150センチの半ば位?
実は子供達の中でも一番に背が高いのだ。
お嬢様特有の控え目な性格? 振り? なので目立たないだけ。
「一度股がってみれば?」
「いえ……私は……」
目を伏せてお茶を濁すように。
興味よりも怖さが勝った様だ。
「なら私が!」
ローズの視界の外から現れたヴィーゼ。
ペトラとアマルティアと一緒にアチコチ回って居たようだが……バイクしかないので飽きたのだろう。
5人が固まって楽しそうに話しているのを見てやって来た感じだ。
「無理だよ……足が届く筈がない」
「一番に小さいじゃないの」
イナとエノは指差して笑った。
「やってみないとわからないじゃない」
ブー垂れたヴィーゼはスルスルとモンキー125によじ登り……股がった。
8才のヴィーゼは120センチ程。
7才のクリスティナとほぼ変わらない……いや、微妙に負けているか?
そんな感じなので届くはずもなく……足はブラブラと宙ぶらりん。
「足はともかく、手も短いから無理矢理にしがみついてる感じだ」
ペトラも笑った。
ってか……全員で大笑い。
ひとしきり笑ったローザは……ふと思う。
「あれ? エルは?」
最近はヴェスペの運転をする事の多いローザとは何時もペアだった。
そして何時も煩い。
本当ならさっきの元国王達が勝手に別行動をした事にギャアギャアと文句を言っている筈だ。
なのに静だ……どうしたんだろう?
そんな疑問を感じたのだ。
「籠ってる」
アマルティアがヴェスペを指差した。
ローザがそちらを向くと。
ヴェスペの防御板越しにバルタが見えた。
「バルタも一緒?」
少しだけ首を捻って。
「二人きりなんて……珍しいね」
それには、ペトラも肩を竦める。
「エルが……なんだか拗ねてるみたい」
その理由が自分だと理解はしているようだ。
「ああ……宥めてるのか」
ふーんと小さく何度も頷いて。
「バルタも大変だ」
しかし声音は他人事の様。
「エルもたまに面倒臭いからね」
イナは少しだけ心配しているようだ。
「でもさ……もっと面倒臭いのがここに居るからまだマシじゃん」
エノはもう一度ヴィーゼを指した。
「私の何処が面倒臭いのよ」
モンキー125からスルスルと降りてエノを睨んだ。
「小さい時からズッとバルタにピッタリくっついて甘えてたじゃない」
エノはわざと少し背伸びしてヴィーゼを見下ろし。
「今も小さいままだけど」
「すぐ泣くしね」
イナも頷く。
「そんなの子供の時の話よ」
イナも睨み付ける。
「でも……ついこの間も泣いてたよね」
ペトラが横に立つアマルティアに尋ねる様にして。
「置いてかれたぁって感じで」
「まあ……今も子供って事なんでしょう?」
突然に振られた話を適当に返したアマルティア。
「あんた達は私の子供頃って知らないでしょう?」
ペトラとアマルティアを指差しながらのヴィーゼは半泣きに見える。
置いてかれた事を思い出したのだろうか?
「まあまあ」
これは確かに面倒臭そうだと宥めに入るローザ。
「私に言わせれば……あんた達全員が子供なんだから」
だが火に油を注いだ様だ。
その全員がローザをジトリと見た。
何も言わずにただ見た。
その視線には言葉が乗っかっている気がしたローザ。
「なによ」
少しだけ怯む。
「私をオバサンと思ってる?」
自分で言って……ムッとする。
「19才はお姉さんだからね……まだオバサンじゃない」
さてその頃の元国王の乗ったAPトライクが軽快に走っていた。
「曲がりしなは少し恐いが慣れれば問題無さそうじゃの」
幾つかの交差点を曲がりアチコチと走り回る。
「操作も簡単じゃし……もこれならマリーでも大丈夫じゃ」
ウンウンと頷いた。
「どうも言い方が引っ掛かるけど……まあいいわ」
後ろに座るマリー。
「でもこれじゃあ、荷馬車の代わりにはならないんじゃないの?」
「まあ、そうじゃな」
「ねえ、さっき見えたんだけど……外車屋? 大きな乗用車みたいなトラックが有ったわよ」
マリーは後ろを指す。
「交差点を曲がった先」
「ほう」
元国王は速度を落としてUターン。
小さい車体はクルリと向きを変えた。
「見に行ってみるか」
と、件の交差点を曲がるとすぐに見えた。
シボレーの看板。
「アメ車か……ウン良さげじゃな」
控え目な言葉とは裏腹に、その顔はしっかりとニヤケていた。
「ピックアップトラックかぁ」
声音も少し上擦っている。
そんな元国王を後ろから見ていたマリー。
「わかりやすい」
ボソリと呟いた。