029 新しい? 乗り物
あ!
ポイントが上がってる。
イイネまで付いてる!
初めてのイイネだ……メチャ嬉しい。
応援ありがとう。
マリーは荒れていた。
バイク屋の軒下に並べられたスクーターを蹴り飛ばしての大暴れだ。
「やはり……どれもこれも足は着かんか」
元国王は笑いを堪えていた。
「10才の女児で、それも背が高い方では無いのじゃろう? どだい無理じゃな」
「まあ……そのうち背も伸びるから」
ムーズがマリーを宥めている。
「ムーズお嬢様……ゾンビは成長しないと思うよ」
クリスティナが突っ込んだ。
「あら……そうなの?」
驚いた顔で続けて。
「それは大変ね……どうしましょう」
それを聞いていたマリーは益々暴れた。
「あんた達! わざとやってるでしょう!」
ムーズとクリスティナを交互に指差し。
「下手な猿芝居は辞めなさいよ」
「マリーよ……いい加減落ち着かんか?」
元国王が声を掛けた。
「皆もウンザリしておるのじゃから」
それに合わせる様にムーズとクリスティナが両肩を竦めた。
「こんな乗れない様なモノを造って、馬鹿ばっかり?」
倒れたスクーターをゲシゲシと蹴飛ばして、元国王を睨んだ。
「ワシが造ったわけじゃない……文句は造ったバイクメーカーに言ってくれ」
そんな元国王も並んでいるスクーターを順に見て。
「まあ、だから最近は……この時代のだが、売れなくなっておるのじゃがな」
フンと鼻を鳴らして。
「自業自得か?」
笑った。
と、そこに犬耳三姉妹がやって来た。
「こっちに変なのが有るよ」
「三輪で屋根が着いてる」
「でもハンドルはバイクでクラッチも無い」
アッチアッチと整備工場のガレージを指して。
「ほう……トライクか」
頷いた元国王はマリー向かって。
「トライクなら足着きは関係ないぞ……どうじゃ?」
「どう言う事?」
動きを止めたマリーはその整備工場の方を見た。
「三輪なら停まっても倒れんから足が届く必要も無いじゃろう?」
考え込んだマリー。
どうもイメージが湧かないらしい。
「よく分からないけど……そのトライクってのなら私でも乗れるの?」
「最初は戸惑うかも知れんが……」
少し考えた元国王。
「いや……おぬしはバイクはもちろんスクーターにも乗った事がないのじゃろう? なら、その方が慣れるのも早いかも知れんのう」
「乗った事くらい有るわよ」
少しだけ目を伏せて。
「子供の頃……母親のバイクの後ろだけど」
「母親はロードパルじゃったか? 原付の二人乗りは違法じゃろうに……」
と、そこまでで思い付いた仕草の元国王。
「そうか……マリーの子供の頃はまだ合法の時代か」
フムフムと。
「ねえ……早く来てよ」
「動く所を見てみたい」
「本当なら乗ってみたいんだけど……ヤッパリ無理?」
三姉妹は元国王を引っ張り出した。
「三人が乗れそうって感じるなら……私でも乗れるのかも」
そんな三姉妹を見て頷くマリー。
「身長も5センチくらいしか違わないし」
マリーも同年代と比べれば背は低い方だが。
犬耳三姉妹達は低身長と分類されるくらいに成長が遅かった。
それはバルタやヴィーゼやエルもだ。
幼少期に奴隷として閉じ込められて居たので、その時の食事の栄養価が足らなかった影響だろうとファウストは捉えていたらしい。
しかし実際はわからない。
犬や猫……その他動物でも小型種も有り得る。
まあ、地球に宇宙人がやって来れば……人間を見てアジア人は小型種と見るかも知れないし……その場合は欧米人は大型種か。
所詮は他種族から見ればそんな大雑把な見方しかされないのだ。
だから低い身長も……どうでも良い事なのだ。
ついでに成長しないのもどうでも良いのだ。
「フン」
と、無理矢理に妙な屁理屈で自分を納得させたマリーはその整備工場に向かった。
「見てみようじゃないの……その私に膝ま着くトライクってやつを」
「はあ? 何がどうなってそうなるんじゃ?」
元国王も良くわからんと首を捻りつつ。
それでも整備工場の方へと歩いていった。
整備工場の片隅にそれは有った。
納車整備を終えて引き渡す前の状態で置かれて居たのだろうそれにはナンバープレートも付けら、鍵も刺さったままだ。
そして……小さい。
いやバイクとしては大きいのだが車としてはメチャクチャ小さいと感じるサイズ感。
後ろから見れば、屋根が有りタイヤも左右に着いてるので、見た目は車だ。
前に回れば、タイヤは中央に一輪だけ……プラスチックで上から横までしっかりとカバーされているので妙な感覚に成る。
しかも横は窓もドアも無い……そのまま素通し。
「これ……オート三輪じゃないの」
ボソリと呟くマリー。
「成る程……そうか」
元国王は言われて納得。
「カタログにはAPトライクって書いてあるよ」
エレンが差し出したそれには確かにだ。
「後ろのシートの上に乗ってた」
アンナも覗き込む。
「ココ」
ネーヴはその後ろの座席に座っていた。
横に長い平たいシート。
カタログを捲れば三人乗りらしい。
前は一人様の背凭れの着いたシートが真ん中に有り……股の下、足で挟むような位置にエンジンが有る。
「ほう……面白そうじゃ」
元国王はその運転席に乗り込んだ。
座った感じは普通の椅子だ。
エンジンを掛ける為に鍵を回す……メーターに灯りが着いた。
「エンジンが掛からないじゃない」
マリーも横から覗き込んでいる。
「フム……」
目線を動かす元国王は……はたと思い当たった。
「そうじゃこれはバイクじゃ」
左右のハンドルの付け根を確認。
「有った有った」
右手の付け根のボタンを押した。
キュルキュルと音を立てて……そしてボロロンとエンジンが掛かる。
それ以外にも雑音が多い感じだ……ガシャガチャにキシキシと至る所から音がする。
暫くそのままで元国王はカタログを読み始めた。
このまま動かすのは危ないと感じたからだ。
それはメーターとハンドルはバイク……でも左の横にはシフトレバーが生えている。
どうも混ざった感覚が良くわからない。
実際にエンジンを掛けるだけでセルに辿り着く迄に時間が掛かった。
走り出してから、これはなんじゃ? とかやっていれば事故りそうだと感じたからだ。
カタログなのは、使用説明書でも有れば良かったのだが無いので仕方無い。
しかしざっと読んだだけで大体わかった。
とても単純な構造だ。
それこそマリーが言ったオート三輪依りも単純だ。
「良し……走るぞ」
元国王はマリーに目配せ。
「後ろに乗るか、離れるか……してくれんかの?」
言われたマリーは後部座席を選択した。
「では出発」
左手でギアをガコンと1速に入れる。
右手でアクセルを捻った。
ボロロローっと車体が前進する。
試しにブレーキを掛けてみた、
前も後ろも握り込むタイプのハンドブレーキだ……つまりはそのままスクーターと同じ。
制動力もまあ問題ない。
一通り試した元国王はそのまま通りに出た。
音は煩いが順調に走る。
左右にはエレンとアンナがモンキー50zで並走しだした。
それを見て後席でハシャイデ居たネーヴが。
「しまった!」
と、声を漏らす。
「別に良いじゃない」
そんなネーヴに、同じく後席に座るマリーがポツリ。
「何時も何時も同じでなくても良いでしょうに」
それでも停めて貰って降りてバイクを取りに行こうかと悩んでいる様子。
「それよりもさぁ……」
マリーは少しだけ体を乗り出して、前の元国王に話し掛けた。
「外車しか乗らないんじゃあ無かったの? 変な乗り物ならコダワリも関係無いとか?」
少しだけイヤらしく笑った。
あんたのポリシーってのも安っぽいわね……と、そんな顔で。
元国王にもそのニュアンスは伝わったようだ。
後ろ手で、マリーにカタログを放って渡す。
「心配せずとも……コイツは中国製じゃ」
ムモホホホと笑いながら。
眉をしかめたマリー。
「アッソ」
そのまま背凭れにも垂れ込んだのだった。




