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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
26/233

025 捕食者


 「もういい!」

 犬耳三姉妹の長女のエレンは元国王に吐き捨てた。

 「牽制するから後退を考えて!」


 叫んで走り出す。

 stg44を時折撃ちながらにルノーft-17軽戦車の影に迄到着。

 そしてM24柄付手榴弾を取り出して、前方に適当に投げ付ける。


 もちろんペンギンはそれを避ける。

 しかし音に驚いたのかその場で氷付けで硬直した。


 「お? 固まったの?」

 元国王が指を指す。

 「アレなら倒せるのでは?」


 「ソレも今更よ! 手榴弾は投げた場所には近付けないから待ち伏せ出来ないでしょう」

 犬耳三姉妹の次女アンナも、エレンに続く様に走り出す。

 「爆発した後に走り込んでも……元に戻る方が早いから駄目」

 三女のネーヴも一緒だ。

 「モグモゴモゴ」

 ネーヴの口にはいまだにあんパンが刺さったまま。

 いや……ポケットが異様に膨らんでいる。

 きっと中にはあんパンが詰め込まれているのだろ


 「ネーヴ……なに言ってるかわかんないわよ」

 フウゥっと溜め息のエル。

 「いい加減に食べるの止めたら?」


 「氷を削るには近付いて連射しないと……と、そんな感じの事を言いたいんでしょう?」

 エノも肩を竦めて。

 「そのわりには……話し言葉の尺が足らないけどね」

 笑うイナ。


 まああそうでしょうけどねと、苦笑いのエル。

 しかしすぐにアレ? と、そんな顔に変わる。

 「でも……」

 そして……考え出した。

 「何を食べているのだろう」

 頭を整理させる為の呟き。


 「あんパンでしょう?」

 マリーはそれに返事。


 「違うわよ……私が言いたいのはアノ」

 ペンギン達を指差して。

 「あれだけ沢山の数を維持できる食事よ」


 「モゴモゴ」

 ネーヴはそう返して。

 手榴弾を建物に向かって投げ込んだ。

 交差点の角に在るコンビニの真向かいの角のビルの一階。

 ガラス戸の割れた部分に吸い込まれる。


 割れているの今回の戦闘でだろう。

 割れた欠片がその下に真新しくキラキラと輝いている。


 「なに?」

 エルは驚いた。

 「ソコにもペンギンが居たの?」

 建物の中は予想外だ。

 イザと為れば狭い場所……建物の中に逃げるも選択しに有ったからだ。


 数秒もしないうちにドカンと爆発。

 割れ残ったガラスも全てが吹き飛ぶ。


 そして……中から小さな生き物が大量にあふれでた。

 

 「ハムスター?」

 マリーも見ていたのだ。

 茶色と白のブチ模様の丸っこい小さなネズミ。

 それが塞き止められていた水が流れる様にだった。


 そのハムスターを素早く捕まえたネーヴ。

 戦車の方……三姉妹達の足下にも大量に走ったそのうちの一匹。

 それをエルのヴェスペの方へと投げた。

 「モゴ」


 「わっ!」

 いきなり放り込まれたネズミ……ハムスターに片足を上げて避けるエル。

 床に落ちたハムスターを上げた方の足先でツツク。

 「死んでる?」

 と、ピクリと動いた。

 「生きてる!」


 いつのまにかに、ヴェスペの後ろに迄やって来て覗き込んでいるマリー。

 「気絶しているだけのようね」

 後ろから足をバタつかせてよじ登ると、ハムスターを掴んでまた投げた。

 先は元国王。


 「うを」

 飛んで来た小さなそれを両手で受け止めた。

 そして……? な顔。

 

 「使役して」

 マリーの注文もすぐに飛んで来た。


 「これをか? 何故に?」


 「上手く誘導すればペンギンの気を反らせるかも知れないでしょう? 餌なのだし」

 

 「一匹でか?」


 「上手くいきそうなら……ソコソコの数を揃えればいいじゃない」

 手を横にヒラリと回して。

 「そこいらじゅうに大量に居るみたいだから」


 「まあ……よいわ」

 頷いた元国王は魔方陣を発動させた。

 今度は生きているので隷属の魔法。

 ネクロマンサーのスキルのそれは少し特殊だ。

 生きている間はただの隷属。

 そして、死ねば……そのままゾンビとして使役される。

 一度、掛ければそれは一生以上……死んでからも骨に成ってもスケルトンとしての支配下に置かれる。

 まあゾンビの予約魔法の様な感じだ。

 

 魔法を掛け終わると……何時もならムクリと起き上がる。

 しかし今回は気絶しているだけ。

 仕方無いので突いて起こしてやる事にした。


 ハムスターはか細くモゾモゾと動くだけ。


 「何処か怪我でもしておるのか?」

 フームと面倒臭く成った元国王は小さなそれをギュウっと握り潰した。

 パキパキと骨の割れる音がする。


 「うわ!」

 見ていたアマルティアは声を上げた。

 横のクリスティナは口元押さえる。

 お嬢様のムーズは顔をしかめて横を向く。


 しかし、確実に死んだと確信していた三人は目を剥いた……耳を疑った。


 「キュウー」

 と、鳴いたハムスターが立ち上がったからだった。


 「まあ……ネクロマンサーだからね」

 それを見ていたマリーが呟く様に教えるように。

 「死者は滅して……生者には回復。それがネクロマンサーの攻撃なのよ」


 「攻撃そのものの効果が反転して現れるって感じよね」

 自身も一度それを経験しているエルも補足するようにだった。


 その他の獣人の子供達もその事は知っていた。

 だから驚いたのはその三人だけ。


 「別に知らなくても良いことじゃ。生死に関わる怪我や病気以外ではワシもこの力は使わんからの……治療じゃとしても攻撃される恐怖はそのまま残るからの」

 ボソボソと元国王はハムスターに顔を向けてだった。

 

 そのハムスター。

 何やら訴えている。

 死んでゾンビと為れば魔物判定なのでか? 念話で会話が出来るのだが……生きた状態では何を言っているのかはサッパリわからない。


 それでも身振り手振りでのそれを解読する事は可能だ。

 会話が出来ないだけでお互いの意志は伝わるのだから。


 ハムスターは交差点のペンギンの少ない方……下りて来た入り口のホームセンターの建物の方角を指差して。

 自分の耳を押さえた。

 もう一度ペンギンを指差して……最後に死んだ振り。


 「食われる対象だとでも言いたいのか?」

 首を捻る元国王。


 「でも……耳を押さえてるよ」

 いち早く立ち直った……子供だから受け入れが早いのかクリスティナもハムスターの仕草をうかがっている。


 「耳か? なんじゃろう?」

 ヤッパリ首を捻る。


 と、無線からヴィーゼの叫び。

 「バルタがおかしい!」

 とても慌てた声だ。

 「耳を押さえて唸ってる……滅茶苦茶クルシイ感じに見える」


 「あ……私にもなんか聴こえる」

 「ぴーーーって感じ?」

 「キーーンって感じも」

 犬耳三姉妹が口々に……そして少し苦しそうだ。

 ネーヴがあんパンを口から落とす程にだ。


 「音?」

 エルはイナとエノを見る。

 

 二人は首を左右に振った。

 「何も聞こえないよ」


 エルも頷く。


 「目に頼る獣人には聞こえない?」

 マリーが顎に手をやり考える。

 「エルは半分エルフでしょう? イナとエノとヴィーゼも……後、アマルティアもか、は目に頼るスキルの筈」

 うーんと唸り。

 「それ以外は人かエルフ……」

 自分がゾンビだとは言わない……あくまでも人扱いだ。


 「確かに……猫耳のバルタ程では無いけど、匂いに敏感なエレン達も獣人の中では耳は良い方の部類か」

 イナも頷いた。


 と、エノが叫んだ。

 「ペンギン達が氷始めた!」


 「何もしていないのに?」

 イナはその方向を確認。

 「ほんとだ……」

 

 適当にバラけていたペンギン達が次々と氷の塊に成っていく。


 「何が起こっているのじゃ?」

 元国王も不思議に思いハムスターに訪ねる様に。


 その時。

 ぼぉぉぉぉお……。

 ンモォォォ……。

 そんな音。

 何かの鳴き声? がする。

 

 全員がその方向を向いた。

 ハムスターが指し示していた方向だ。

 そこには別の魔物がペンギンを噛み砕こうと噛り付いていた姿があった。


 「捕食者!」

 マリーが叫ぶ。


 「あれがこのダンジョンの食物連鎖の頂点か!」

 サイズは大型トラックなみのアザラシだった。

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