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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
25/233

024 役立たず?


 ペンギンに対しての、今のところの有効な撃退手段は二つ。

 ルノーの3.7cm砲で撃つ。

 もしくは向かって来たモノをゴーレムで受け止めて投げ飛ばす。

 

 後者はあくまでも受動的だ。

 ペンギンが攻撃してこなければその勢いを利用している限りでは……何も出来ない。

 そのままではただの睨み合いが続くだけ。

 それでも良いのだけれど……攻撃されないなら見られるくらいは許そう。

 遠目に遠巻きにならソコに居たって構わない。

 どうも向こうにはその気は無さそうだが。


 積極的に攻撃するには3.7cm砲だが……コチラは一匹に対して一発。

 砲弾の数もそうだが……一匹づつ倒していく事を作業として考えれば時間が掛かりすぎる。

 その間にも戦車以外は攻撃されるのだし……今はまだ被害は荷馬車だけだが、それも何時まで持つのか。

 いや……戦車も無効化される。

 履帯を凍らせられれば動けない……それはただの固定砲台だ。

 障害物の多いダンジョンで撃てる射線も殆ど無くなる。

 ペンギンにとっても自分に砲が向かなければそれはもう置物と同じ。

 

 さて……どうしたものか。


 どうも上手くいかないとエルは頭を悩ませていた。

 ヴェスペ砲では狙う事すら出来ない。

 敵が近過ぎるし……何よりも発射速度が遅い。

 スペック上は分6発と成っているが、そんなのは平時の訓練の時でも出せるモノじゃない、ただの理論値だ。

 実際にエルのヴェスペはその半分もいかない。

 良くても分3発……ミスれば分2発だ。

 子供での体力的問題とゴーレムに頼っての装填……その二つが速度を阻害していた。


 「よし」

 掛け声と共に立ち上がった元国王。

 スピノサウルスを放した後、荷馬車で呑気に休憩していたのだが……そろそろ動くようだ。

 「出番かの?」

 

 「出番も何も……」

 荷馬車の前を塞ぐ形のヴェスペ。

 エルが振り向けばすぐソコの荷馬車の上の元国王と目が合わせられる。

 「アレ……」

 元国王に指差して見せたのは……凍り付いたスピノサウルス。

 もう一頭も違う方向で同じ様に動けない。

 「倒されてるじゃない」


 「いやいやゾンビじゃぞ?」

 エルの指摘に首を振る。

 「もう既に死んでいるのにそれ以上に倒されるわけがない……あれは動けないだけじゃ」


 「おんなじ事じゃない!」

 このジジイは何をノンビリと構えて居られるのだ?

 状況が見えてないのか?

 苛立ちが隠せないエルの声。


 「わかったわかった」

 宥める様な仕草で。

 「闘えるモノが居ないなら……増やせば良かろう?」

 後方……三姉妹達が倒したペンギンを親指だけでクイクイっと示す。


 「まあ……そうね」

 マリーも頷いていた。

 「この男の戦い方は何時もこう」

 少しだけ肩を竦めて。

 「倒した相手を味方にするのよ」


 


 元国王は銃で撃たれて倒れているペンギンに魔法を掛けた。

 地面に光る魔方陣が流れる様に拡がる。

 ほんの数秒の出来事だが死が静から動に変わる……死は死のままだ、それはゾンビと成る。

 脱力した肢体を放り出しながら横たわっていたペンギンはヒョコリ立ち上がった。


 「よし!」

 元国王は早速に指示。

 まだ生きている、敵のペンギン達の方向を指出さし。

 「行ってこい!」


 ペンギンは直立不動で右手を縦に額に着けた。

 どうも敬礼らしい。

 

 「ウム……頼もしいのう」

 ニコニコの元国王。


 「そうかな……」

 疑問の声は後ろの方から聞こえた。

 「なんか頼り無さげ」


 「何を言うか」

 元国王はもう一度ペンギンに向かって。

 「その実力を見せ付けてやれ」


 今度は深く頷いたペンギン。

 ヒョコヒョコと歩き……狙いを定める鋭い眼光? のつもり?

 敵を睨み付けている風だが……その瞳はつぶら過ぎる?

 見ている子供達には不安と諦めと残念な思いしか生まれない。


 そのペンギン。

 突如、腹這いに成り……文不相応な加速を見せた。

 地面を滑るロケット。

 向かってくる分には、迫る迫力は確かに有ったが所詮は遠近……首が左右に振れる程の凄さはない。

 しかし間近で、それも横に飛ぶように動く様は、目や首の動きを遥かに凌いでいたのだ……全く追い付かない。


 あっという間に敵の集団に到達したゾンビペンギン。

 多分、アレに狙いを定めたのだろう敵のペンギンも驚いていた。

 いきなり味方に攻撃されればそれは驚く。

 そんな冷静さを欠いた敵に不適な笑みを漏らすゾンビペンギン。

 貰った! とでも叫んでいるのか一声鳴いた。


 が……。


 敵はアッサリと避けた。


 もう一度、一声のゾンビペンギン。

 アレ? かな?


 そして……交差点から次の交差点へ行き、まだ滑るままにまた次の交差点……。

 何処まで行くのだろうか?

 首を捻るしかない子供達。


 「で?」

 呆れていた皆の中で最初に我に返ったエルの疑問。

 あれでどうなるの?


 「あれぇ?」

 元国王はまだ呆けたままだった。


 「まあ……そうね」

 マリーは頷く。

 「単純な突撃攻撃……確かに速度は速いかもだけど、それでも150kmかそこらでしょう? 野球のピッチャーが投げる球と変わんないじゃないの」


 「いやいや170km近くは出ているからメジャーリーガー並みじゃぞ」


 「そんなのは誤差の範囲よ……そのピッチャーが投げる球をキャッチャーは受け止めるのでしょう? それも簡単に」

 フームと鼻息。

 「人が目で見て受け止めてられるのなら……魔物が避けるのも簡単じゃないの?」


 「まあ……そうだね、例えがわかんないけど」

 犬耳のエレン。

 「見て避けられるから……未だに被害は荷馬車だけなんだし」


 「持久戦に為れば油断が出来ないだけだよね」

 ネーヴも頷く。


 「結局は今の所は相手も私達も決定打が無いから、こんな状態が続いているだけだし」

 アンナもポツリ。


 「役立たず……とわ言わないけど」

 エルは大きく首を振って。

 「もう少しだけ緊張感を持ってくれない?」


 「な!」

 仰け反る元国王。

 「役立たずとはなんじゃ!」


 「だから……そこまでは言わないと」

 エルの言葉を遮り。

 「いやいや、これで有益な情報が手に入ったのだぞ!」


 「それはなに?」 

 ピクリと眉を動かすエル。


 「ペンギン達のスキルは氷の鎧じゃが……簡単な防御での鎧は何時でも任意に瞬時に出せる」

 指を立てて。

 「じゃが、ぶつかった時の氷の塊には自分の意思では成れんのじゃ」

 少し首を傾げて。

 「多分じゃが恐怖か驚きかで勝手に発動するのじゃな」


 「だから滑ってぶつかる時には氷の塊」

 フムとマリー。


 「そうじゃ、しかもその大きく凍るというのには相当にエネルギー……この場合はペンギンの持つ魔素を消費するので、次に凍る迄暫く時間が掛かるというわけじゃ」

 

 「凍る事自体は瞬時にだから……燃費も悪い」

 頷いたマリー。

 「魔素が回復するまでに……時間が掛かる」


 「そうじゃ! そうじゃ!」


 「成る程……だから高い位置に投げ飛ばされたモノは……落下の二度目の衝撃に対処出来ていないと」

 マリーは補足しながらも……視線は泳いでいた。


 「そんなのは、もうとっくにわかっている事だよ」

 「今更?」

 「見たまんまじゃない……」

 犬耳三姉妹のボヤク様な呟き。


 それを聞いたマリーも思う……そうだよね、今更だよねそんな情報。


 「で……他には?」

 エルは冷静にだが……冷たく。

 「ペンギンをゾンビに使役して得た情報なんでしょう? 弱点とかは無いの?」


 少し驚いた顔をした元国王。

 何故に皆の視線が刺さるのじゃ? わけがわからん。

 とても有益な情報ジャロウが……。

 しかし、目の前のエルは仁王立ち迄はしていないが……とても圧飛ばしてくる。

 「他には? と……言われても」

 口ごもるしかない。

 元国王が知り得た情報はペンギンのスキルのみなのだから。

 ……。

 少しだけ考えて……諦めた元国王はポツリと。

 「無い……」


 「役立たず!」

 罵声が四方から飛んだ。

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