023 面倒臭いペンギン
おおおw
ありがとう。
また増えた。
まだまだ頑張るよ。
これからもよろしくね。
バルタは急な寒さに驚いた。
突然に車内の温度が下がったのだ。
「どういうこと?」
「踏んづけたペンギンの氷が広がってるよ」
バタバタと暴れて身体を捩って逃げようとするヴィーゼ。
「装甲の内側も氷始めてる!」
ヤー! とか、ワー! とか、キャー! とかと叫びながら。
「それってどうなってんの?」
ヴィーゼの説明がわからないと叫ぶバルタ。
理解出来ないわけじゃない……見えないのが不安なのだ。
「ちょっと! 右の下半分が凍ってるわよ」
無線からのエルの声。
ゴーレムを向かわせるのにルノーft-17軽戦車を見ての叫びだった。
「ええ! それって履帯も?」
慌てたヴィーゼがアクセルを踏んだ。
エンジンが唸り車体が右に振れる。
右側の履帯が完全凍り付き、ロックしてしまっていた。
それでもヴィーゼは右側だけを動かそうとレバーを操作しているのだが……今度はギクシャクした動きだけで前進はしない。
「今、引き剥がすから……少し動かないで」
エルかの指示。
エルのゴーレムがペンギンを捕まえたのだ。
「ヴィーゼのゴーレムで車体を持ち上げてくれない?」
追加での注文。
ヴィーゼのゴーレムとは、いつもルノーの尾橇に乗っている土塊ゴーレム。
本来はファウスト・パトローネが使役しているのだが……ルノーft-17軽戦車の為にとヴィーゼに指示命令系統を移しているのだ。
ゴーレムそのモノは、ごくごく普通の市販品なので隷属の魔方陣の簡易版の様なモノでそれが出来る。
実際に使役するでは無いが……まあ言うことは聞くとそんな感じの繋がりだ。
市販品のゴーレムはそれも有るので、そんなに賢くない、器用でも無いのだ。
エルのゴーレムは2年前に頭に大怪我をした時、その影響で自身の出す魔素のコントロールを失ってしまい。
その治療の為にと元国王が5体のミスリルゴーレムを造ってくれたモノ。
完全に使役されて、エルの溢れる魔素を消費してバランスを取ってくれているのだ。
ついでに言えば。
アマルティアが欲しいのはエルの持つスペシャルな方のゴーレム。
だけど……そのゴーレムを動かせるだけの魔素は無い。
市販品の様に燃費を優先すれば……全く自分のスキルでは意味がないのだ。
ただ見えるだけになる。
出来るなら歩兵として……せめて銃くらいは撃って欲しい。
剣術とかも出来るなら欲しいスキルだ。
スキル……つまりはゴーレムにそれを持たせたいのだ。
市販品では出来ないが……スペシャルな特注品なら。
もちろん……それを買うお金は無い。
有っても、何処に売っているのかもわからない。
商品として扱っているドーワフのローザでさえ……そんなレベルのモノは、元国王が造ったソレ以外は見た事もないという。
結局のところ……自分に合わせて造るハンドメイドしかないだろう……と結論付けられた。
エルの持つ特別なゴーレムと同じモノ。
ゴーレムにスキルは持たせられないが……主人であるエルと同等の事が出来る。
繋がりでスキルもコピーする感じか?
でもソレだと大量の魔素を消費してしまう……1体でもそれこそ命に関わる程に。
もしくは……コチラがマリー先生の提案の本命。
燃費の良いゴーレムにスキル自体を持たせてしまえばどうかとの考え。
それだと使役する主人の出来ない事でもスキル次第で出来る。
スキルにエルフの持つ念話か……もっとキツイ隷属の魔方陣かで、いやこれの使用は今は違法か。
繋がり方にも何かの方法を模索しなければ……まだ駄目だ。
しかし、そもそもが今のアマルティアでは市販品と同程度の土塊ゴーレムを造るのが精一杯なのだから……先にそちらのレベル上げだ。
などとエルのゴーレムの動きを見ながらに考えるアマルティア。
自分にはまだまだ先だと思い知らされる。
エルのミスリルゴーレム。
銀色に鈍く光るソレが……ルノーft-17軽戦車の履帯の下の氷の塊に成っているペンギンを両手でガッチリと捕まえた。
同時にヴィーゼの土塊ゴーレムが尾橇から降りて戦車の下の潜り込み、車体事……右側だけを持ち上げた。
履帯に張り付いたペンギンが履帯を引っ張りぶら下がる。
そして捕まえているゴーレムもを凍らせに掛かる。
だがゴーレムは時折身動ぎをしてその氷を割った。
重さは無いがそれが出来るパワーは有る。
「くっついてしまってるわね」
エルは無線でヴィーゼに。
「戦車を落とす様に言って……こうガンガンと打ち付ける様にして氷を割るの」
「ええ……」
躊躇するヴィーゼ。
簡単に言ってくれるけど……それって乗っている私達はどうなるの?
衝撃は絶対に中まで伝わるでしょう?
「早くしないと履帯が切れるわよ」
冷静に冷徹に。
急かせる様でも無く……決断を求めている風でない。
見たままをそのまま伝えただけ。
だけども……それがかえってヴィーゼの恐怖を刺激した。
慌てたヴィーゼ。
ゴーレムへの指示も声に出る。
「揺すってぇ!」
グワングワンと揺すられたルノー。
「まだくっついてるわよ」
「落として!」
小さな抵抗も諦めた。
「叩き付けてぇ」
最後は悲鳴だ。
「わってぇぇぇぇ」
ガンガンと上下に激しく揺すられる。
中に乗り込んでいるバルタとヴィーゼにはシェイク状態。
牛乳と卵と砂糖にバニラエッセンスを持っていればミルクセーキが出来上がるだろう程の激しさで……フレンチスタイルのヤツだ。
アメリカンスタイルなら牛乳とアイスクリームだね。
それを見ていたイナとエノの感想。
言葉には出してはいないけど、流石は双子。
エルフなのみ以心伝心……だたし食べ物かくだらない事限定だ。
「うぎゃあぁ」
「やぁーん」
二人の悲鳴は外まで聞こえた。
そんな事に成っている最中でもペンギンは襲ってくる。
誰かの何かを待っていてくれるわけは無い。
そんなのは何処かのヒーローの悪役だけだ。
魔物にそんな義理も厄介も存在しないし……御約束なんて端から無視だ。
ヴェスペに突撃したモノはエルのゴーレムに受け止められていた。
そして凍らせられる前に巴投げ。
相手を捕まえて後ろに転がり足で蹴り上げる……柔道のアレ。
手足の短いゴーレムでも、更に短いペンギンならそれも可能だ。
ってか、勢いに任せれば勝手にそうなる。
そしてその勢いは150km以上のスピードなのだ……ソレだけで見事に空を飛んだ。
何処かのビルの2階か3階かの壁に激突。
そして地面に落ちる。
ペンギンはドンと当たれば、暫くは動けなくなる様なので受け身も取れずにそのまま落下。
その時の微妙な時差は氷を瞬時に纏いまた瞬時に脱ぐをするスキルと相性が悪いらしい……地面に落ちる頃には氷の鎧は小さく為っていた。
だからか、次に立ち上がったペンギンはフラフラとしている……脳震盪でも起こしているのだろうか?
足元を見ても酔っぱらいの千鳥足の様だ。
「いただきっ」
犬耳三姉妹はそのふらついている隙を突いてstg44を至近距離で撃ち続けた。
一匹目の挙動を見ての、イケるって判断だ。
だから飛ばされるであろう方向にあらかじめ散開している。
氷の鎧も至近距離での連射では再生が間に合わない様だ。
徐々に削って……最後は柔らかい本体に到達した。
氷さえ無ければペンギン自体は柔らかい普通の身体の様だ。
一、二発でトドメをさせる。
「面倒臭いけど……それが一番か」
ゴーレムに指示を出しているエルの呟きだった。




