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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
232/233

231 パトの転生


 「さあみんな!」

 マリーは大きな声で子供達を集めてパトの前に立つ。

 そして、小さな水晶玉を取り出して。

 「今のうちに話したい事は話しといて……暫くは話せなく成るからね」

 水晶をパトに掲げる。


 思念体のパトはその行動に訝しむ。

 「これは?」

 水晶を指差して首を傾げた。


 「本来は、霧散しそうな魂を捕まえて保管しておく器よ」

 

 「それは……つまりは俺の今の状態をその水晶に移すと言うこと?」


 「そう、そして新たに造った体に移す事も可能……元国王のネクロマンサーの力を研究して造ったの」


 「新しい体か」

 考え込むパト。


 「大丈夫よ……以前の体と遺伝子情報は全く同じだけれど、赤ん坊からだからエルフにだってわからないし、判別も出来ない筈よ」

 クローンなのだから、どうしたって初めは赤ん坊だ。

 いきなり大人の体は造れない。


 「そうか……では俺の死は無駄には成らないわけだな?」


 「私に言わせれば、たかがエルフごときの為に死んだ事が無駄死にだと思うけど」

 肩を竦めたマリー。


 「まあ……いい」

 パトも頷いた。

 「好きにすれば良いさ」


 「もちろん、無理矢理にでも好きにするわ」

 笑うマリー。

 「あ! それとだけど……ここの本って、持ち出し禁止?」

 たぶんそうなのだろうけど……一応は聞いてみた。


 「無理だな」

 左右上下に視線を這わせて。

 「ここは世界が違う別空間だ。壁も天井も無限に延びる、床はそれ以上は下がる事は無いが何処までも平らに境界線が有る……ここの物がそれを

越える事は出来ないよ」


 「消えて無くなるって事?」


 「消滅はしないが……元の場所に戻る」

 

 それを聞いて、わかりやすく残念そうな顔を作って見せたマリー。

 

 「ここに入った事が大事なのに、知識の持ち出しはダメだよ……世界が滅ぶ」


 「それって、記憶も消えるって事?」


 「消えはしないが……所詮は人の脳、その小ささでは覚えていられる事も少ない」

 ニコリと笑い。

 「多少の知識の流出は……進化の範疇だな」


 「多少……ね」

 フン……と、鼻を鳴らした。

 「何百年と生きた私の知識も含めて多少なのね」

 

 パトはそれには何も答えなかった。

 ただ肩を竦めて見せただけ。


 「まあいいわ……今度こそ始めるわよ」

 チラリとパトの側にずうっと居たバルタを見て……その変わらない表情を掴み損ねていた。

 もういいのだろうか? と少し悩みはしたが、何時までも長々と話してもいられない。

 どうせ、ほんの少しの我慢だ。

 次にバルタが見るパトは……もう透けていないのだから。


 マリーは水晶玉をパトに掲げた。

 




 俺は空中にうつ伏せで浮いていた。

 上から真下をまっすぐに見下ろす視界。

 見えるのは……裸の赤ん坊。

 大事なモノも小さいけど付いている。

 ああ……これが俺に成るのか。

 今は不細工だが……成長した顔は想像が着く。

 ってか……知っている。

 鏡なんて滅多に見ないが、それでも見る事も有ったからだ。

 それでも、たいして男前には成らないが。

 この猿の様な顔よりはましだ。


 ふと、感じる別の意識。

 バルタが俺に成る赤ん坊を見ている。

 「かわいい」

 そう心の中で思っているようだ。

 

 そうか? と、突っ込みたいが……どうも意識は一方通行の様だ。

 バルタの意識はこちらに伝わるが、此方の意識は届かない。

 それは、バルタだけでは無かった。


 ヴィーゼも居る。

 見ているのは手か?

 「ちっちゃい」

 触りたくてウズウズしているのがわかる。


 エルも居た。

 赤ん坊の食事の心配をしていた。

 魔物では無い動物の牝のヤギを手に入れたのだが、そのお乳を飲んでくれるかとそればかり考えている。


 タヌキ耳姉妹は布を持って待機だ。

 風邪を引かない様にと、それで包む準備。

 

 犬耳三姉妹は成長を楽しみにしている。

 いっぱい遊ぼうと今からワクワクとしていた。


 マリーも居た。

 少し離れた場所にはローザも居る。

 マリーの意識は明確なのだが……離れた位置のローザは少し希薄に感じる。

 今のここからの距離でも関係しているのだろうか?

 思念体の体だからか、俺の能力……シャーマンの力が何の触媒も無しに発動しているのだろう。

 そして、それでも距離でも制限が有る。

 たぶん、そんなところだ。

 それともう一つ……やはり触媒が無いせいか、たまに揺らぎが出る。

 思念体の自分が揺らぐのか?

 意識だけが揺らぐのかは……わからない。

 それでも……突然にグラリと来るのだ。

 そんな時は……誰かの過去を見る。


 そこには俺は居ないのに旅をした記憶が誰かの視点で見えるのだ。

 いや、俺が側に居ても……俺を見ている記憶か?

 複数の記憶が混ざり込んでいるので、中々にややこしい。


 直近の記憶では。

 バルタがカワズと会っていた。

 マリーも見える。

 その奥に大きな試験管が見えて、入れられた液体に浮かぶ……胎児? これから胎児に成る前か?

 そんのも見える。

 たぶんその胎児が今見下ろしている赤ん坊だ。


 「ファウストの残した拳銃は有るかい?」

 カワズはマリーに尋ねていた。

 見ているのは相変わらずにバルタの視点だ。

 

 「一応は取って置いて有るけど……なにかに必要なの?」

 チラリとカワズを見たマリー。

 少しの警戒が見える。

 「出来るならそのまま取って起きたいのだけど……時間凍結も掛け直しているので、予備の細胞はそれしか無いから」


 「いや、今すぐは必要は無いが」

 カワズは試験管を見詰めている。

 「そのファウストが大人に成った時? 脳が大きく育った時かな? 記憶を戻す為の触媒に使えばいいよ……それが言いたかっただけ」


 「触媒?」

 マリーは怪訝な顔をしている。


 「赤ん坊に魂を入れても……その小さい脳では記憶の殆どが溢れるだろうけど、彼はシャーマンだからねモノに宿った記憶が読み取れる。自分の記憶なら簡単だろう?」


 「あの銃が……メモリー?」


 「死ぬ直前で……それで死んだからね。記憶が強く刷り込まれているのは確実だよ」


 「成る程……脳の許容量か」

 頷いたマリー。

 そして振り返り。

 「バルタ、もう少しは我慢できるでしょう? たぶん……12年か13年くらいかしらね。それくらいなら脳も大きく成っている筈だし、記憶を入れ直しても溢れる分も少ないと思うわよ」


 小さく頷いたバルタ。

 寂しいはズッと有るけど。

 楽しみも少しずつ大きく成っていた。

 待てばそれが叶うなら、何時までも待っていられる。


 「でも……こっちの子達はどうしよう?」

 マリーはバルタの小さな返事を確認して、次の試験管に目を移した。

 そちらにも胎児の前の状態のモノが浮いている。

 ただ、パトのとは少しだけ形が違う。

 耳と尻尾らしきモノが付いていた。

 ……これは、ヴィーゼかしら。

 オリジナルの方では無くてゴーレムの方の器に成る体だ。

 その奥にはエルも居るし、私のクローンも居た。

 パトが産まれる時には、ゴーレム三人も産まれるのだ。

 一緒に育って兄弟に成れる……それは少し羨ましい。


 「記憶か……三人にはシャーマンとしての力は無いからね」

 ウーンっと唸るカワズ。

 「ゴーレムの体の方に細工でもするかな?」


 「なにかいい方法でも有るの?」


 「今は思い付かないけど……そのうちに調べとくよ」

 スイっと指で上を差す。

 飛空石の上のペトラの部屋にでも行くのだろうか?

 あれから何度か行こうとしたけど……もう辿り着けなかった。

 あの実験場のフィールドで迷うのだ。

 洞窟を抜けると全く知らない場所に出る。

 洞窟は同じなのに出る場所が変わっているのだ。

 カワズは……そのパズルの様な迷路を歩けるのだろう。

 一応は、神の端くれだし。


 「そう、期待しているわ……生まれ変わっても記憶が無いんじゃ、それは同一人物とは言えないものね」


 「客観的に見れば同一人物だよ」


 「それは他人の目」

 首を振ったマリー。

 「本人視点では、記憶がその人物を作っているのだから……いくら遺伝子が同じでもそれは他人よ。ついでに言えば記憶が無くなった時点で死よ」


 「まあ……そうかもね」


 「その事が有るから、自我が芽生えたゴーレム兵達にも体が造れないでいるのよ」


 「肉体を得ても、記憶が無いので……元のゴーレムは死ぬって事か」


 「本人の主観的にはね」

 肩を少し竦めて。

 「客観的に見ても、ゴーレム達の肉体を持った姿が想像できない私達では……やっぱり死んだのと同じ事に成るし」


 「確かにね」

 頷いたカワズ。

 「それも含めて調べておくよ」


 そこで意識が揺らいだ。

 俺はまた赤ん坊を見下ろす。

 こんな感じの記憶がドンドンと混ざってくるのだ。

 経験をしているわけではない、ただの記憶だから時間の感覚は無い。

 入るのは一瞬。

 それを順に思い出すと、その時には時間が掛かる。


 なんとも不思議な感覚。

 いや、やっぱりややこしくて面倒臭い感覚なのか。

 

 と、また揺らいだ。

 でも、誰かの意識は混ざらない。

 なんでだ? そう考えていると……宙に浮いた思念体の体が徐々に低く成る。

 赤ん坊にドンドンと近付く。

 「ああ……そろそろ時間なのか」

 子供達の記憶が……折角に見れたモノなのに、それが溢れ始めた。

 俺自身の記憶も含めてだ。

 暫くは夢の時間なのだろう。

 赤ん坊を楽しむとするか。

 ……。

 体が重なった。

 

 


 

 

 


 

 

 

 ---ファウストの子供達---

           ---終わり---

みんな長い間のお付き合い、ありがとう。

前作の続きで、少し読みにくい書き方に成ったのだけれど……それでも最後まで読んでくれて有り難う。


この感じのお話だと……評価をしてくれとは言いにくいけど。

それでも評価をくれた方もいたのは、とても嬉しかった。



次はもっと普通に書く事にするよ。


もう一度。

みんな有り難う。


          またね


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