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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
230/233

229 知識と経験の本


 半透明な透けたパト。

 それはやっぱり肉体が無い事を表している。

 オリジナル・バルタはそんなパトを見上げて思う。

 会えて喋れるのは嬉しい……でも、最終的には悲しいのだ。

 ここに来れば何時でも会えるのかも知れないが、でもヤッパリ生きてはいないのだと実感させられる。

 「マリー……どうすればいいの?」

 以前にマリーはどうにか出来ると言った。

 この状態のパトをどうすれば良いのだろうか?

 まったく想像が着かない。


 「どうとは?」

 マリーに聞いたのにパトが聞き返す。


 「生き返らせたい……生きたパトと一緒に居たい」

 素直に答えるバルタ。

 他の子供達も頷いていた。


 「そういえば、カワズの能力のコピーはどうなのかしら」

 マリーがふと思い立った様に呟く。


 「どうにも為らないよ……あの能力はあくまでもコピーだ。だから、今の俺をコピーしても思念体が二つに別れるだけ、てか同じ世界に居れば直ぐに融合するからコピーにも為らない。あれは異世界どうしで分断された空間でこそのコピーだよ」


 「なるほど……ならやはり肉体が必要なのね」

 大きく頷いたマリー。

 パトの答えは予想出来た範囲だった様だ。


 「肉体ね……まあ、少し待てば適合する肉体が生まれるだろうから、その時だな」


 「そのちょっとってどれくらい?」


 「ん……100年か200年か、1000かも知れないね」

 

 「そんなの私達が生きていない」

 オリジナル・バルタは呻き呟く。


 「適合する肉体って、どう生まれるの? 誰かの子供って事?」


 「それも有るけど、ナニもない所に突然に魔素が集まり形造る事も有る……色々だ」


 「赤ん坊で……とか、今のままでとかか」

 フムフムとマリー。

 「適合する……に条件は有る?」


 「この思念体が解け合える体? それくらいか……まあ、それが一番に難しい事なのだろうけど」


 「前の体を再生すれば……どう?」


 「適合は出来るだろうけど、死んだ体を元の様に生き返らせる事は無理だろう? 元国王だったゾンビ化だ……それだと思念体は癒合出来ない。生体と死体では流石に違うからね」


 「なら……生きた体、と」

 

 「そうだ」

 頷いたパトは微妙に目線が動いた。

 本棚の奥の方だ。


 マリーもそちらを見てみる。

 なにか有る?

 

 「でも、人間を一から造る方法などは無いよ」

 目線をマリーに戻したパトは笑う。

 「例え有ったとしても……問題を解決は出来ない、エルフとの因縁だ」


 「それはどうにか出来そうよ」

 笑ったマリー。

 もうエルフの事は考えていなかった。


 「どうにかとは?」


 「別人に成れば良いだけ」

 簡単に答える。

 「でもね……1つ問題が有るのよね」

 

 「1つなのか?」

 驚いたパト。

 わざわざ1つと言うのなら……もしかして目処が立っている? そんな顔だ。


 「まあ……少し考えるわ」

 マリーはそう告げて、本棚の方に行って本を見て回る。

 「時間は在るのでしょう? 100年でも1000年でも待てるのだから」


 「まあ、こうなってしまえば時間は腐る程に在る」

 思念体の状態の事だろう。

 老いて腐る肉体が無ければ永遠か?

 そう答えながら……チラリと椅子に座るペトラを見た。

 

 ペトラは動かない……喋りもしない。


 それでも、パトはマリーに声を掛けた。

 「その本は……ペトラの日記みたいなモノだ。それを勝手に覗くのは宜しくないと思うぞ」


 「そうなの?」

 マリーは本棚の途中で立ち止まり……ペトラに視線を向ける。


 そのペトラが動いた。

 本棚の一角……その奥を指差した。


 「そこなら見ても良いってわけね」

 頷いたマリーはそちらに向かう。

 「ねえ、誰か手伝ってくれない? 流石に本が多過ぎ」

 

 それには一部……特に犬耳三姉妹は首を横に振る。

 「そんな字ばっかりのやつは……眠くなるよ」

 三姉妹が揃って苦笑い。

 「お腹減ったし……なにか食べるものでも作ろうかな?」

 これはネーヴだ。

 

 「あんた、料理出来るの?」

 マリーが笑う。

 「それ以前にだけど……図書館とか本が沢山有る所では飲食は禁止よ」


 「ええ……うそー」

 ネーヴが自分のお腹を両手で抱え込んだ。

 「我慢が……出来るかな?」

 とても可能性が低いと感じている、否定だった。


 と、またペトラが動いた。

 今度はネーヴを呼ぶ仕草。

 そして自身の近くに光の半球の空間を作り……ソコを指差す。


 「なに?」

 呼ばれたので素直にそこに行くネーヴ。

 でも、それがナニかはわからない。


 「その中なら……飲み食いは良いってさ」

 パトが通訳した。

 そして、パトも手と指先を動かす。

 するとテーブルと椅子に、その上にお菓子が出てきた。

 「どうぞ」

 

 お菓子は、バームクーヘンとロールケーキだ。

 あとはお茶……香りの良い紅茶。

 

 「パトなのにコーヒーじゃ無いんだね」

 早速にテーブルに着いてお菓子をパクリ。

 「おいしい!」


 「この体では食べられないからね……腹持ちの良いお菓子の方が良いだろう? それに合うのは紅茶だと思っただけだよ」


 「流石はパト」

 なにが流石だかは、言った本人もわかっていない。


 

 さて犬耳三姉妹はお菓子を堪能しながらにマッタリ。

 クリスティナとオリジナル・ヴィーゼは、本棚とお菓子のテーブルとを行ったり来たり。

 「いっぱい絵の描かれた本て、無いかな?」

 オリジナル・ヴィーゼがクリスティナと笑っていた。

 

 オリジナル・バルタは……ひとりパトの側を動かなかった。

 ただ黙ってジッと側に座っているだけ。

 放っておけば、そのまま寝てしまいそうだ。

 

 ゴーレム・バルタの方はマリー達に混ざって本を引っ張り出してはペラペラと捲っている。

 

 「ふむ……元は同じなのに、短い時間で個性に差が着いたのか」

 パトはその二人を見ながら、呟いていた。

 「でも、あのゴーレムの三人は……なんとかしてやりたいが」

 顎に手を当てて考え始める……と、また思い当たった。

 ペトラを見て。

 「そうか、ゴーレム三人の事も有るから本の閲覧を許したのか」

 成る程と納得の顔。


 そのパトの呟きを聞いていたオリジナル・バルタ。

 大きな欠伸をして体を伸ばして、散歩をする様にマリー達の所に歩いた行った。

 そして、二言三言となにかを伝えて、またパトの側で座り込む。


 

 オリジナル・バルタが来て言った。

 さっきのペトラの指差した方向には、ゴーレム娘の問題を解決出来るモノが有りそうだ……とだった。

 ゴーレム娘達の問題は、つまりはその体の事だ。

 それは、マリーが知りたいと思っていた、1つの問題の解決にもつながる筈。

 今まで研究してきたクローンの寿命だ。

 どうしても10才か12才でその寿命が終わる。

 その問題さえ解決出来るなら、そのクローンをゴーレム娘達の細胞やパトの細胞で造れば良い。

 材料なら有る。

 ゴーレム娘達にはオリジナルがそこで生きているのだから、少し細胞を貰えば良い。

 パトは血や肉片の着いた拳銃……しかも時間凍結までされているので鮮度は折り紙つきだ。

 なにか有る筈……そう考えて次から次へと本を手に取る。

 その中には今は関係が無いが興味深い事も発見した。

 例えば、今のペトラの状態。

 椅子に座り殆ど動かず、喋らない……これは、ここに有る本の数だけの記憶が今の小さいサイズの人の脳に総てが入ろうとしている。

 それを耐えるため、抵抗するためのアノ行動なのだとわかった。

 なん世代もの生きた記憶と……それ以前の知識。

 ここの本棚も奥に有るのは知識で、手前は生きた記憶の日記だった。

 それらが普通の人間の脳で処理しきれるわけがない。

 勝手に入ってくるそれらの経験と知識を、必死になって忘れているのだろう。

 いや、それも難しいか。

 もしかすると、あの座っている椅子にナニかの細工が有るのかも知れない。

 だからそこから動けない?

 後半は予想だが……たぶん大きくは間違っていないと思う。


 「あ! 進化の本だって」

 その時、叫んだアマルティアにマリーは飛び付いた。

 進化はどっちだ?

 スキルの事か?

 それとも、人や動物の肉体の事か?

 もし後者なら……そこにヒントはないのだろうか。

 マリーはそう考えたのだ。

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