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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
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022 ペンギンとの攻防


 元国王を呼んだペトラ達が乗る、荷馬車は片輪が無くなり傾いていた。

 これを動かすにはゴーレムに担いで貰うしかないだろう。

 だがそれでは移動出来る速度も距離もたかが知れている。

 現状……ペンギンからの攻撃は続いたままだ。

 それらを考えるに……やはりここに放置して人だけが逃げる事を優先すべきでは無かろうか?

 その判断を自分でしても良いのだろうか?

 側で踞り震えているクリスティナを見ながらに悩んでいたペトラ。

 実際にはそんな具体的な思考は巡ってはいない……ただ、どうすればいいの? と、それだけなのだ。

 が、父と一緒に運送の仕事を手伝った時の経験に依るところの行動。

 トラブルが有れば先ずは生きている馬を解き放す。

 これは判断するしない以前の事なので即座にソレを実行しようとした。

 それが出来る元国王を呼ぶ行動。

 そしてそれが何故に最優先なのかは……知らない。


 理由も意味もちゃんと有る。

 襲われた時、攻撃された時、荷馬車が破壊されてしまえば移動は出来ない。

 が、馬を放てば馬は勝手に逃げてくれる。

 上手く敵から逃げ延びて……荷馬車の方の防衛も成功した時には……つまりは事が終わった後。

 静かに成ればいつの間にかに逃げた馬は戻ってきているのだ。

 そうすれば、その馬を足代わりに出来る。

 荷物は諦めても、その後の生存率は飛躍的に上げられる。

 襲ってきた敵が魔物でも人間でも、その追撃から逃げられるかもしれない。

 何もない荒野や砂漠でも移動出来る距離が伸びれば……助かる可能性だって上がる筈。

 ペトラの父親はそれを意図しての、その行動だったのだ。




 パンと銃声が響いた。

 ペトラはハッと我に返ってそちらを向いた。

 撃ったのはアマルティア。

 反対側のペンギン……馬車の車輪を壊して壁に激突していたヤツが立ち上がった所を撃ったらしい。

 しかしそのペンギンは平気な顔でそこ居た。


 「外したの?」


 「当たったけど……」

 もう一度ボルトアクションのアマルティア。

 ピンと軽い金属音で焼けた空薬莢を飛ばした。

 「氷が鎧の様に成ってる……弾が通らない」

 もう一度撃った。


 銃声と同時にペンギンの腹が白く弾けて煙を上げる。

 弾は弾かれてはいるが、氷は削っている様だ。

 しかし……見る間にその氷は再生を始めた。

 また氷が元道理の形にペンギン張り付くのだ。


 別の所でも銃声が聞こえた。

 撃ったのはイナの様だが……その顔は苦虫を噛み潰している。

 そして背中のエノと話をし始めた。

 多分……銃弾が効かないとでも言い合っているのだろう。


 「銃も駄目か……」

 元国王の声。

 引馬のスピノサウルスを放している最中だった。

 「困ったのう」

 そう言う割には顔はニコニコとしている。

 緊張感の欠片も感じさせない。


 「顔とか頭とかは?」

 マリーは荷馬車の後ろに回って、予備と為っていたもう一匹のスピノサウルスの皮のベルトの引き綱を包丁の様な見た目のナイフで切っていた。


 「的が小さいから……狙えないかな」

 アマルティアはもう一度撃った。

 その銃弾は、否定した割には正確に頭へと向かっていた……が、ペンギンの氷の鎧は全身に広がり、それを阻止した。

 ほぼ全身が氷の塊に覆われた状態。


 「成る程……瞬時にあの状態か。結構な勢いでぶつかって居たが、あれで自身を守っていたんじゃな」

 フムと元国王。

 「ついでに破壊力も上がると云うわけか」


 キュラキュラとガリガリと音を音を立ててヴェスペが荷馬車の前に出た。

 ペンギンの攻撃に立ち塞がる格好。

 上半分は薄い装甲板だけだが、下半分はそのまま戦車だ……2号軽戦車。

 一応は車体前面で15+20mm有る。

 +20は追加装甲だ……一枚モノでは無いにしても合計で35mmは下ばかり攻撃してくるペンギン相手には十分だろう。


 「何で嬉しそうなのよ」

 ヴェスペの砲の横で分離薬莢……発射薬の火薬の缶詰を担いだエルが元国王に言い放った。

 前に出たことでその顔が良く見えたのだ。


 「実際に嬉しいのよ」

 スピノサウルスを解き放ってマリーが荷馬車に登ってきた。

 「久し振りの実戦で浮き足立ってるの」


 「なにソレ……さっきまではイライラしていた癖に」


 「ダンジョンなのに……のんびりしているからでしょう?」

 肩を竦めて。

 「楽しい楽しい遊園地なのに……入り口で休憩は無いとイライラしてたのよ。兎に角ジェットコースターに行きたいとね」


 「なに言ってるか良くわかんないけど……つまりは子供って事ね」


 「御主等には言われたくないのう」

 子供に子供と言われた老人の気持ちがわかるか?

 そんな目でマリーを見た元国王。


 本当の事でしょう?

 と、口の端で笑い返された。



 

 ルノー軽戦車が隊列を離れる様に加速を始めた。

 各々が戦闘配置に着いたと判断したのだろう。

 防衛行動から積極的に前での戦闘に移行する為だ。


 突然に目立つ戦車が前に現れたと、ペンギン達は一瞬……焦った。

 見た目アヒルの鉄の塊だ。

 コイツは何者? と、若干狼狽えるモノも出始めた。

 今までも鉄の塊はソコには在った……放置車両の車だ。

 しかしソレが動く事は無かったのだ。

 今、目の前の鉄の塊は動いている、まるで生き物の様に顔と嘴をコチラに向けてくる……丸い棒の筒のような嘴。

 そしてその嘴が火を吹いた。

 ドカンと音を立てて身体を揺らす。

 同時に一匹のペンギンが吹き飛ばされた。

 瞬時に跡形も無くだった。


 


 バルタは砲塔内、照準器から見ていた。

 立ち尽くしたペンギン。

 明らかに隙を見せている。

 即座に引き金を引く。

 もちろん外しはしない。

 「まず……一匹」

 ボソリと呟く。


 「来るよ」

 そのバルタに注意を即したのはヴィーゼ。

 「右から当たる」


 ガンと車内に音が響く。

 車体の揺れは知れていた。


 「大丈夫なようね」

 ペンギンの体当たり攻撃ではビクトモしない。

 「でも……倒せる手段が3.7cm砲弾だけだと問題よね」

 チラリと車内の砲弾ラックに目をやる。

 弾はズラリと並んではいる。

 元国王からの援助で買って貰ったものだ。

 荷馬車には予備だって有る。

 が、それをバンバン撃っても……はたして間に合うのだろうか?

 ワラワラと沸いて出てくるペンギン達の方が数が多そうに感じたのだ。

 

 「また来るよ」

 バルタの思考を止めさせたヴィーゼの叫び。

 「今度は前から」

 

 ガンと当たった。

 バルタの照準器では見えない場所。

 戦車の真ん前でぶつかって止まったペンギンが立ち上がった。

 

 「踏んづけちゃえ」

 見えないのだが、今までの行動なら暫くはソコに立ち尽くす筈とバルタはヴィーゼに指示を出す。

 ヴィーゼなら鉄の板を越して見えている筈だからそれも容易な筈だからだ。


 「オッケイ」

 明るい返事と同時に唸るエンジン音。


 右前が浮き上がる感覚が伝わってきた。

 実際に車体は傾いている。

 

 「うわ……硬いなぁ」

 ヴィーゼは運転席の右下を見て呻く様に。

 その方向、履帯の下にペンギンが居るのだろう。

 そしてウーンと唸る……エンジンでは無くてヴィーゼの突き出した下唇がだ。

 ブレーキを踏んで一旦停止。

 オートマチックのギアをバックや前身に入れ変えながら、ゴリゴリと削る様に踏む。


 「どう?」

 見えないバルタは聞くしかない。


 「駄目みたい……動けない様に押さえ付ける事は出来てもソレだけかな」

 

 「そう……なら」

 バルタは無線機を取り。

 「エル! ゴーレムで引き千切れない? 今踏んでるヤツ」

 コイツは流石に動けない筈だ。

 速さは有っても10tの戦車を持ち上げる事などは出来ないだろうからだ。

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