226 次は草原エリア
ナイフを一本、口に咥えて空いた方の手でハチワレ猫の後ろ足を掴み引き摺って道に戻ったオリジナル・バルタ。
この一匹を仕留めた途端にそれ以外の気配も完全に消えた。
仲間が殺られて逃げたのか?
でも猫の世界につるむ何て無かった筈だが?
実際に複数居たようだし……つるんで居たのか。
そう言えば、猫科でもライオンの雌は共同で狩りをしたっけ?
それか?
「食べるのか?」
犬耳三姉妹のネーヴが聞いた。
「食べたいの?」
オリジナル・ベルタは猫を投げる。
「猫は……食べた事がないけど美味しいのかな?」
「さあ」
肩を竦めてルノーft軽戦車によじ登る。
「そんなに大きくないし……私は要らないわ」
砲塔の中におさまった。
ナイフを工具箱に仕舞う。
血と油はそのままだ……そのうち綺麗に磨こう。今は面倒だ。
そして服を着る。
「大丈夫?」
運転席のオリジナル・ヴィーゼに心配された。
「なにも問題無いわよ」
靴も履く。
何時もの格好……白いセーラーワンピに白コンバースの布バッシュ。
心配される様な事も無い筈だけど?
もちろんパンツも履いたし。
「なんか……ダルそうに見えるよ」
「そう?」
首を少し捻り。
「面倒臭い相手だったから……疲れたのかしら?」
自分ではそう感じない。
何時もの通りの筈だ。
「同族殺し……って感じ?」
「うん?」
眉が寄る。
「私がイタチを殺した時も何とも言えない気持ちに為ったから」
方眉を微妙に動かし……考える。
同族殺しか……。
相手は猫の魔物で……私は猫の獣人。
全く違うと思うのだけど……心の何処かで引っ掛かるのだろうか?
「よくわかんない……な」
「そうだよね……魔物やエルフに、人も殺す事には馴れた筈なのに、イタチの魔物が同族って事は無いよね? モヤモヤっとするのは、たぶん勘違いだ」
大きく息を吐いたオリジナル・ヴィーゼは前を向いた。
「先に進むみたい」
ハンドルレバーを握りアクセルを踏み込む。
「関係……無いでしょう」
ポツリと呟くオリジナル・バルタ。
それはヴィーゼにでは無くて、自分に言っている気もした。
その後は、順調……とはいかないけど。魔物には襲われていない。
ただ道に迷って右往左往はしたけれどだ。
次への道に続く洞窟の前に着いた頃には夜に成っていた。
「洞窟を少しだけ進んで、中でキャンプしましょう」
ゴーレム・バルタが無線で提案。
夜の森の猫は鬱陶しいと感じたのだろう。
それなら洞窟のハダカデバホブゴブリンの方が遥かにマシか。
そう考えればその案に異論はない。
実際、みんなも同じ様に考えた様だ。
誰からも文句は出なかった。
さて、洞窟はもう三度目。
一回目と二回目と……今回も全く同じだ。
寸分違わず正確にコピーされた……そんな感じだ。
ウロウロしているハダカデバホブゴブリンと出会う位置が違うけど、それだけだ。
やっぱり湧き水の泉は有るし、距離も変わらないし、道も真っ直ぐ。
そして出た先は……今度は草原だった。
洞窟を出て、いきなり魔物に出会う。
白と黒の斑の牛。
毛がフサフサの羊。
ウサギも居た。
その草食系の魔物? やはり二本足なので魔物とは思えないのだけど。
達が一斉に此方を見て……逃げ出した。
襲ってくるでは無くて逃げたのだ。
「追う?」
犬耳三姉妹がどうする? と、それらを順に指を指す。
「逃げたんだから……放っておけば?」
タヌキ耳姉妹は肩を竦めた。
「やっぱり二本足は……食べるには抵抗あるし」
「食べないなら、狩っても意味無いか」
エレンは頷いた。
「でも、美味しそうだよ」
一人で抵抗するネーヴ。
「二本足って言っても見た目は牛だよ……なんか無理矢理に立っている感じだし」
「そうね……殺してしまえば、普通の牛と見分けは付かないかもね」
アンナもそこは同意した。
「でもさ、二本足を殺すのが嫌じゃない」
「ハダカデバホブゴブリンも二本足だよ」
まだまだ抵抗して見せる。
「あれは……見た目が気持ち悪いじゃない」
アンナは両肩を竦めて両手の平を空に向けた。
「まあ……でも」
ゴーレム・バルタが話を奪う。
「草食のすぐに逃げ出す様なのが普通に居るって事は、ここには敵に為りそうなのは居ないって事ね」
「珍しく平和な所って事か」
ゴーレム・ヴィーゼも頷いた。
「だからって油断しちゃダメよ」
ゴーレム・エルはヴェスペ自走砲に近付いて。
「クリスティナ……お願い」
索敵を頼む。
鳥達が飛び立ってすぐ。
「草原だけの場所だけど……真ん中に大きな木が一本だけ生えている感じ」
クリスティナの報告。
「その木の近くには……猿? が居るわ」
「猿か……やっぱり二本足?」
聞いたにはエレン。
「猿は普通に二本足でも歩くでしょう」
それに笑ったイナ。
「そりゃそうだ」
アンナも笑う。
「反対側の洞窟の近くには……犬も居るみたい」
「もう洞窟を見付けたの? 今回は早いね」
エレンは笑われた事は無視してクリスティナの報告に反応して見せる。
「だって、これだけ見通しが良ければ」
「そりゃそうだ」
もう一度アンナが笑う。
少しムッとした顔に成るエレン。
「犬って、それは二本足? 上手く想像できないけど」
「立って歩いているかんじ」
「犬か……襲われるかな?」
ゴーレム・バルタが首を傾げる。
「どうだろう……側には普通に草食の奴も居るけど。どちらも気にしている素振りは無いよ」
「ふむ……」
考え始めたゴーレム・バルタ。
「見通しも良いし……真っ直ぐ進めば?」
ゴーレム・エルが真ん中を指差した。
大きな木が有る方向だ。
「そうするか」
頷いたゴーレム・バルタは皆の顔を見る。
異論は出ないと見て。
「じゃあ、出発」
大きな木はリンゴの実を付けていた。
猿は此方を見ても気にせず、そのリンゴを食べている。
「美味しそうね」
ネーヴは羨まし気にそれを見ていた。
「猿の持っているヤツは奪っちゃだめよ」
アンナが注意する。
「せっかく平和的に横切れるのに争いを呼ばないでよ」
リンゴは木の高い所で実を付けていた。
それを登れるのはヴィーゼくらいだろうけど……途中に猿が居て退けるか乗り越えるかしないと実にまで辿り着けそうにない。
つまりそれは揉め事の元に成りそうだった。
だから結局は誰もリンゴを採れないって事だ。
それでもリンゴから目が離せないネーヴ。
ジーっとリンゴを噛る猿を見詰めている。
「あんまり見ていると喧嘩を売っていると勘違いされるよ」
エレンがネーヴの前に立って視線を遮った。
と、ネーヴの見ていた猿。
小猿なのだが……多きな猿の側に行き、リンゴを1つ貰う。
猿達のボス? それともお母さん猿?
ねだる小猿に普通に手渡していた。
「私も頼みに行こうかな」
半分冗談だ。
……はんぶん。
「ダメよ……猿だから、犬は嫌いでしょう?」
後ろからマリーが笑って注意。
「犬じゃ無くて犬耳です」
ブスッと下唇をつき出すネーヴの元に、さっきの小猿が近付いて来て……手に持つリンゴを差し出した。
「え? くれるの?」
驚いたネーヴは素直に受け取った。
それを見てニコリと笑う小猿は、走って多きな猿の所に戻ると背中から抱きついた。
「貰っちゃった」
ニコニコのネーヴ。
「ちゃんとお礼言った?」
エレンが小言。
「あ……言えなかった」
しまったとそんな顔。
「ここから言ったら、驚くかな」
「大声に成るからダメよ……それはやめて」
エレンは首を振る。
仕方無いので、ネーヴはニコリと微笑み頭を下げる。
そんな仕草が猿に通じるかはわからないけど……そこは、自分の気持ちの問題だ。
そして噛ったリンゴは……とても美味しかった。
「んんん……最高!」
思わず唸ってしまう程だ。
頬を押さえて満足するのだった。




