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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
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225 森のプレデター


 さて、十字路なのだが。

 オリジナル・バルタは無線機を掴んで提案。

 「真っ直ぐに進みましょう」

 それは、もめて時間を食うのが嫌だからだ。

 ゴーレム・バルタも同じ事を考えている筈だが、顔の見える所に立つと各々の顔色を伺ってしまう。

 自分も他からの影響でか悩み始めてしまう様だったからだ。

 こう言う指示や決断は、相手の顔が見えずに一方通行の無線機はとても便利だ。

 こちらが話している間には、向こうからは話せない。

 話がしないならそのためのボタンをイチイチ押さなければいけない。

 無線機とはそう言うものだ。


 さて、暫く進むとゴーレム・バルタが小首を傾げた。

 道の左右の森を気にしている。


 「何か聞こえたの?」

 ルノーftの砲塔から見ていたオリジナル・バルタが聞いた。


 「わからないけど……気配は感じた」

 ゴーレム・バルタはクモゴーレムの上から無線で答える。


 「私には聞こえないな」

 戦車の音のせいか?

 「陸に上がったイタチじゃないの?」

 ヴィーゼも完璧では無いけれど、音を消して移動が出来る。

 ならイタチの魔物だって出来る筈だ。


 「いや……ヴィーゼのレベルなら注意すればわかる」


 「それ以上に音がしないって事?」

 確かに森でかくれんぼをしてもヴィーゼを見付ける事は出来る。

 他のみんな見たいに簡単とは言わないけれど……見失う事は無い。


 「湖からイタチが飛び出した時でも、微かな音はしていたでしょう?」


 「確かに気付けた」

 唸るオリジナル・バルタ。

 「では、もっと別のナニかって事ね」


 「たぶんね」


 ゴーレム・バルタもオリジナル・バルタも、それは勘違いや聞き間違いでは? とは思わない。

 耳にナニかが反応した時は、必ずナニかが有るのだ。

 でも、それがナニかはわからない。

 そんな経験は……とても小さな時にしかしていない。

 まだ、家が在った頃だ。

 父が居て母が居た。

 そして、親戚の子達。

 その中の私と同じ歳か年上と本気のかくれんぼをした時だ。

 年上の気配は全くわからなかった。

 同じ歳くらいなら、音は聞こえないけど気配は微かに感じたりした。


 「猫耳……かな?」

 ゴーレム・バルタも同じ事を考えていた様だ。


 「それなら……少し厄介ね」

 洞窟に入ってから……マリーの言う別の空間にはいってからか? 今まで友好的なナニかに出会った事がない。

 猫耳だとしても、獣人じゃないと思われる。

 イタチの亜人か魔物が居たくらいだ……猫の亜人か魔物も居ても不思議ではない。


 「誘ってみるよ」

 ゴーレム・バルタはクモゴーレムに乗ったままで、森の中の木々の中に入って行った。


 歩いて入る選択をしなかったのは、隊列の速度を落とさない為だろう。

 バラけない様に固まっての移動は、左右を気にしながらだからその速度は遅い。

 それでも歩く速度……走る速度よりかは速いからだ。


 ゴーレム・バルタも体が土塊だから、オリジナル程の速度も出せないという事もある。

 どうしたって柔軟性に欠けていた。

 だから気配を消すのもオリジナルには勝てない。

 ならクモゴーレムでも同じと考えたのだろう。

 

 その時、森の木々の間からカンっと小さな音が聞こえた。

 ゴーレム・バルタからの音だ。

 でも、ゴーレム・バルタがそんな不用意な音は出さない。


 「攻撃された」

 無線機からの声。

 「やっぱり……猫耳の魔物だ」


 「魔物なの?」

 さっきのは明らかな金属音。


 「黒と白のハチワレノで毛むくじゃら……武器はナイフだ」

 ゴーレム・バルタが道に戻ってきた。

 「今の私じゃ……速度が足りない感じ」


 「そう……わかった」

 オリジナル・バルタは戦車の中の道具箱から二本のナイフを取り出した。

 そして、服を脱ぐ。

 完全に真っ裸だ。

 服の布が擦れる着擦れの音は致命傷に為ると判断したからだ。


 「行くの?」

 運転席にオリジナル・ヴィーゼが心配気に後ろを覗いている。


 「大丈夫よ」

 軽く答えて走る戦車から、横の木々の間に飛び込んだ。

 

 草木の影で、見知った音だけを排除する。

 でも、不審な音は拾えない。

 わざと音を立てて走り出した。

 それでも音はしない。

 眉をシカメテ……今度は音を消して走る。

 「どこに居るのよ」

 その呟きは、自分の耳にも届かない程の小声だった。


 「助けはいる?」

 それは無線からでは無くて道の真ん中からのゴーレム・バルタの叫び声だった。


 有り難いと思った……でも返事は返せない。

 返したくない、今は音を立てたく無いのだ。


 無言が了承と捉えたゴーレム・バルタ。

 「二人はアッチをお願い、派手に音を立ててくれればいいから」

 ゴーレム・ヴィーゼとゴーレム・エルにオリジナルがいる方と反対側を指差した。

 そして、自分はオリジナルの居る側の少し先で森に入る。

 

 ゴーレムの体だとナイフは効かないから……囮だろう。

 でもどうだろうか? 

 一度、攻撃して歯が立たないと思えば、警戒しないのだろうか?

 いや、それはそれで良いのか。

 少し離れた場所の私が索敵をすればいい。

 派手な音の方を気にしているなら、それも出来る筈だ。


 何時もの行動では無いのだけれど、最小限の移動を止めた。

 待ち伏せの為に一ヶ所にとどまる事もしない。

 動き続けるのはヴィーゼが良くやるヤツだ。

 それを思い出してやってみる。

 完全に気配を消しながらのそれは難しいものが有る。

 それでも、ヴィーゼ以上には気配は感じさせない筈だ。


 カン……。

 これは道の反対側だ。


 少し首を捻ったオリジナル・バルタ。

 「いつの間に向こう側に移動した?」

 それとも、複数居るのだろうか?


 一瞬……削がれた気。


 瞬間……背後から殺意を感じた。

 ナイフが喉の前に出る。

 ギリギリの所で自分のナイフをそこに差し込み、斬られるのを防ぐ。

 同時に空いた方の手のナイフを逆手に変えて、下から後ろに滑らせた。

 

 だが、それはかわされた。

 スーっと下がり、草影に消える。


 「なるほど……複数ね」

 こちらの陽動を上手く利用されたって感じだ。


 少し雑に走り、ゴーレム・バルタを追い越した。

 そのゴーレム・バルタは草影に潜み音を消している。

 完全に静止していた。

 心臓の音もしていない。

 固まって微動だにせずにいれば、それは石ころと同じだ。

 足りない速さを補う為の待ち伏せか。


 ガサリ。

 ゴーレム・バルタが音を立てた。

 私を追っていたヤツが近くを通ったのだろう。

 それを掴まえるか、攻撃しようとした音だ。

 だが、それは失敗したようだ。

 私がした様に音を立てて前に進み、追い抜いて行く。

 今度は私が待ち伏せる番。

 

 草の影にしゃがみ……耳だけを左右に動かす。

 私は心臓は止められない。

 それでも気配は消せる。

 1秒……2秒……3秒……4。

 左頬に空気の揺れを感じた。

 目だけを動かして確認。

 音を立てずに動いているハチワレ猫。

 口にはナイフを咥えて四つ足だ。

 大きさは二本足で立っても1mと少しか?

 見た感じ完全に猫だが……さっきナイフを突き出した手はちゃんと握れていた。

 肉球の手では出来ない事だ。

 だからあの手は人に近い。

 もしかして猿の様に拳を握って四つ足にしているのかもだ。


 そんな事を考えながらに、お尻を二・三回振る。

 飛び付く為の準備、距離を無意識に計っているのだ。


 足に力を込めて……跳んだ。

 音は立てていない。

 隠れていた草も飛び越えた。

 そして狙うのは背中と首の後ろ。

 前に出せばその分遅れるので喉は狙わない。


 右手は顎の下でナイフは逆手。

 左手はヘソの少し斜め上でナイフは順手。

 後は体重を掛けるだけだ。


 前を気にして居た猫は、突然に後ろを振り向いた。

 でもこれは予測出来た。

 飛び出した瞬間に耳が動いたからだ。

 「やることが私と一緒なら、動く先も予測が出来るのよ」

 右手をグーっと伸ばして、サッと下ろす。

 背中のお尻の上辺りを掴まえた。

 ナイフの歯が猫に触れる。

 猫は背中を上に膨らませて逃げる体制……でも、そこにはナイフがある。

 自分で背かをナイフに押し付けたのだ。

 

 後は刺さったナイフ引き寄せる様にすれば私の体も猫に地下付けれる。

 左手のナイフで横腹を刺して切り裂いた。

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