222 森の中の湖
さて、空からの索敵の結果。
このフィールドの大きさはおよそ10km四方……つまりは前回と一緒。
変化は森と……湖と川。
川には橋がちゃんと掛かっている様だ……が、さて耐荷重はいかほどか? 戦車の重さに耐えられる?
余裕をみて15トンは欲しい所なのだが。
で、問題は目的地。
反対側に洞窟の入り口は見付けられた。
まだ、先が有るらしい。
それは、まあいいのだが……その間の森の中がサッパリわからない。
「これは……適当に進むしかないか」
オリジナル・バルタが溢した。
「防御は?」
ルノーftの前に顔を出しているオリジナル・ヴィーゼが後ろを振り向いた。
「隊列を考えようかな……音に敏感な私とゴーレム・私で前後に分かれよう」
オリジナル・バルタはゴーレム・バルタを呼んだ。
「前を頼める?」
戦車を後ろに回した方が都合が良いと考えたのだ。
結果……先頭はゴーレム娘三人に決まった。
続いてヴェスペ自走砲。
犬耳三姉妹はその後だ……それは無防備に為りやすいタヌキ耳姉妹とロバ車の三人の護衛。
アマルティアには4体のゴーレム・兵も出して貰う。左右に別れて二体づつの護衛。
そして、後ろを蓋をするようにルノーft軽戦車。
あと、万全を期する為にペトラに3体の小さな子クモゴーレムも出して貰う。
以前にゴーレム・ヴィーゼと一緒に崖に登ったヤツだ。
それらがガラガラ蛇の子供を背中に乗せて森の中を探って貰うのだ。
蛇には熱を関知するピット気管が有るから、草に隠れていても見付けられるからだ。
それらをすると、全隊の速度は出ないが……安全が優先だ。
実は大した敵が居なくて杞憂に終わる可能性も有る……が、その時は結果良かったねで終われば良いだけの話。
早くパト会いたい気持ちも有るけど、その時に誰かが欠けて居たのでは嬉しい依りも悲しいが先に立つ気がするからだ。
森の中をユックリと進む。
道の左右は深い森。
「道は案外……しっかりしてるね」
エレンがバイクに乗りながら左右をキョロキョロ。
警戒を怠らない。
「それよりもさ……今気付いたんだけど、太陽が見えない割りに明るいんだね」
アンナは上を見ていた。
背の高い木の影で、薄暗い所に道に沿って空が見えた。
「臭いもシッカリ森だね」
ネーヴは鼻をヒクヒク。
たぶん……一人だけ探しているモノが違う気がする。
「さっきの荒野も太陽は無かったかな?」
ネーヴは無視する事にして……イナが返事を返す。
「無かった気もするね」
エノも同意。
「やっぱり不思議空間?」
アマルティアはマリーに聞いた。
ゴーレム兵が4体だと、話す余裕が有るらしい。
「そうなんでしょうね」
頷いたマリー。
「木がこれだけ育つって事は……水やりも出来てるって事だろうし、雨でも降る様に為っているかもね」
「なるほど……」
ペトラは素直に感心していた。
雨とは考えもしなかった。
でも、たしかに植物が育つには水は必要だ。
てか、ここの空間が変だと言われても、雨は普通に降るモノだと思い込んでいた。
それも含めて不思議空間なのか。
そのまま進むと川に当たった。
橋は道に沿って在る。
石で出来た頑丈そうなヤツだ。
川幅も深さも其ほどでも無い感じだ。
「渡れそうね」
オリジナル・エルがヴェスペ自走砲を運転していたローザに尋ねる。
「大丈夫だと思う」
ローザは問題ないと頷いた。
落ちてもこの川なら大丈夫……なのかも知れないけど、物造りの得意なドワーフが言うのだ、間違いないのだろう。
それでも、多少の不安は有るので戦車は単体で越える事にする。
最初はヴェスペ自走砲。
次にルノーft軽戦車だ。
残りの車両は戦車とは一緒に橋に乗らない、その順番は適当だけど落ちるなら戦車だけでいい。
「一応は川の中も警戒しといてよね」
以前に川から飛び出してきた殆ど魔物な亜人? も居たからだ。
ヴェスペ自走砲の上から水面を覗き込むオリジナル・エル。
橋の前後での誘導は前が犬耳三姉妹、後ろがタヌキ耳姉妹だ。
三人が並び真ん中のエレンが両手を上げて後ろに振る。
左右のアンナとネーヴはしゃがみこんで、履帯と橋の幅を確認していた。
幅は其ほどギリギリでも無いのだが、運転しているローザからは視角だからだ。
後方の二人は後ろの履帯を見ていた。
ズレる様なら、前に合図を送るのだ。
ゴーレム組は周辺の警戒。
それ以外は……見学だ。
マリーもペトラもやる事がない。
一応はペトラの眷族達も仕事をしているのだが、勝手に動いているのでペトラは暇。
指示を出し忘れるペトラを諦めた眷族達……なのかも知れない。
「上手に誘導してるわね」
ペトラはマリーに差し出された水筒からお茶を飲んでいた。
「本当ね」
マリーも感心しきり。
「この川の水って透き通ってて綺麗よね。キラキラしてる」
「本当ね、そのまま飲めそうね」
「ダメだよいくら綺麗に見えてても、細菌や微生物にヒルの卵とかいるかもだし」
「いや……飲まないけどさ」
どうでもいい会話だと呆れるアマルティアだった。
橋を越えるとすぐに分岐が在った。
十字路だ。
「目的地を考えると真っ直ぐかな?」
ゴーレム・ヴィーゼがゴーレム・バルタに聞いていた。
「でも、真ん中に湖が在ったけど……それは迂回できるのかな?」
ゴーレム・エルは小首を傾げて考えている。
「行って見ないとわかんないんでしょう? んじゃ考えるまでもないよ」
ゴーレム・ヴィーゼが真っ直ぐ真ん中の道を指差した。
「一応はみんなに相談してみる」
ゴーレム・バルタは決断をせずに無線機を取った。
どうする? の返事は多数決に成った。
誰もが道の先に自信がないからだ。
で、決まったのは圧倒的多数で真ん中の道。
「ほら、みんなそうだよ」
勝ち誇ったゴーレム・ヴィーゼは胸を張る。
「まあ……そうだけどさ」
ゴーレム・エルはイマイチ腑に落ちない顔に成る。
湖で泳ぎたいだけじゃないのか?
それが二人も居れば多数決になんないんじゃ無いの?
そう思ったのだ。
「なにブチブチ言ってるの? 先行くよ」
ゴーレム・ヴィーゼはいの一番に走って行った。
「先に行くのはいいけど……ちゃんと索敵しなさいよ。それが仕事なんだし」
一言いいたくなるゴーレム・エルは後に続いた。
湖に到着した一行。
やはりか、まさかか……道は途切れていた。
「どうする?」
ゴーレム・ヴィーゼとオリジナル・ヴィーゼが同時に聞いた。
ここで休憩といきたいのだろう。
みえみえだ。
「もどって他の道を探しましょう?」
少し意地悪をしてやろうとゴーレム・エルが提案。
案の定、二人はあからさまにガッカリとした顔に成る。
それを見れば可哀想にも成ったので、もう1つ提案。
「少し休む?」
「ハイハイ!」
勢い良く手を上げた二人。
顔も含めてわかりやすい。
「まあ、ここまで敵は出てこなかったのだし……いいか」
二人のバルタも頷いた。
早速に水に飛び込むゴーレム・ヴィーゼ。
服を脱がなきゃいけないオリジナル・ヴィーゼは一足遅れて飛び込んだ。
他のみんなは各々適当。
湖を見ながら座り込んだり。
何人かは集まって雑談。
マリーはお菓子を発注していた。
「魚が居るよ!」
水面から顔を出したオリジナル・ヴィーゼは手に持った魚を見せて自慢。
魚はニジマスの様だ。
「水温が低いのかな?」
それを見てのマリーの感想。
「じゃあ魚を焼く火を起こそうかな?」
タヌキ耳姉妹は準備を始めた。
昼食はもう過ぎている。
夕食には全然早い時間帯。
「軽く軽食代わりね」
と、バルタが二人……湖の近くに移動して、湖面をジッと見る。
「今の……」
お互いが顔を見合わせて。
「何かの音がしたわよね」
「水に入る音……小さいけどたしかにした」
ほぼ同時に水面を割るオリジナル・ヴィーゼ。
「なにか! 居る敵だ!」
顔を出して叫んだ。
「武器を頂戴!」
慌てた子供達。
ロバ車の近くに居たアマルティアはアリの槍を掴んで投げる。
ヴィーゼには届かないけど、それでも結構な距離を飛んだ。
素早く泳いで湖面に浮いている槍を掴んだヴィーゼはまた潜って行った。




