218 面倒臭く為った二人
洞窟を進んで丸1日。
途中で1拍したものの……未だに出口は見えない。
「どんだけ深いんだよ」
少しウンザリとした声をあげたエレン。
「ほんと……面倒よね」
ホンダ・モンキー50zのアクセルをボフンボフンと捻り、イライラを隠さないアンナ。
足下には何度目かの襲撃をしてきたハダデバホブゴブリンの死体を踏んづけていた。
「こいつら……食えないのに」
バイクを停めてゲシゲシと蹴っているネーヴ。
「しつこさは本家のハダカデバゴブリンと一緒ね」
イナはモンキー125のハンドルを握りながら、肩を竦めて。
「うん……まるでエルフだ」
エノは横のサイドカーで、kar98kにクリップで束ねた弾を押し込み、頷いた。
「えらい言われようね」
ルノーft軽戦車の後ろに隠れていたマリーは呟く。
最初以外は、警告も出さずにこちらから一方的に攻撃している。
ほとんど虐殺で蹂躙だ。
「愚痴を言いたいのは、コイツらの方だと思うけど」
横たわっている死体をAPトライクで踏んづけて進んだ。
狭くて暗い中では避けるのも面倒だからだ。
「イマイチ小回りが効かないのよね」
愚痴も出た。
「それ、小回りが効く方だよ」
ペトラが笑う。
「四輪の車とかだと全然回らないし」
マリーのは三輪の後輪駆動なので前の1輪を曲げただけ回るのだ。
まあ、着いてくる後ろの2輪の幅が広いから、避けにくいってのもわかるんだけど。
「あんたのはバイクだから、そう思うのよ」
ビシリとペトラのダックス125を指差した。
「これも、小回りは面倒なんだよ……クラッチが無いし」
苦笑いのペトラ。
「でもさ……根本の問題だけど」
「なによ」
「私達……なんで運転だけしてるの?」
小首を傾げた。
「なんでって、運転しなきゃ動かせないじゃないのよ」
「うーん」
唸ったペトラ。
「私のは2人乗りでマリーのは三人乗りなのに……なんで一人しか乗ってないって事」
は! っとした顔のマリー。
「効率悪いよね?」
「たしかに……あんたのバイクの後ろ私が乗れば、これは必要ないわよね」
「私と……あとアマルティアもマリーの後ろに乗れるよね?」
「あ……いや、それだと私が運転?」
首をブルンブルンと振って。
「アマルティアのロバ車の後ろが……正解じゃない?」
それだと誰も運転しなくてもいい。
ロバ車はロバゴーレムが勝手に動かしてくれるからだ。
そりゃ……多少の指示は必要だろうけど、そんなのはアマルティアの仕事だし。
「これは……要相談ね」
後ろを見たマリーだった。
洞窟を進んで、少しだけ変化の有る場所に出た。
小さな滝と小さな泉。
上から落ちてきた水が床のへこみに溜まり、壁の横穴で水位を保っている感じ。
「大きな洗面台の流しみたいね」
マリーは関心していた。
時間的にもソロソロ夕方前なのでタイミング的にも良いと、ここでまた1拍の予定だ。
「水は冷たいし、透明だから綺麗だよ」
オリジナル・ヴィーゼは早速に丸裸に成って滝に体を打たれている。
すっかりシャワーのつもり?
その姿勢で見るに深さはヴィーゼのヘソの上……水深にして1mくらい?
広さは壁を堀込んだかんじで……半径5m程の歪な円型?
洞窟で暑くは無いのだけれど、汗や返り血で汚れた体を洗うには良さそうだ。
長時間は浸かってられないけど……冷たい水は体が冷えそうだ。
「マリー……焚き火の薪を注文してもいい?」
アマルティアがテントの準備を始めた。
天井の有る洞窟なので雨の心配は無い。
でも、虫や霜や夜露は有りそうだ、だからそれ避けの為。
「いいけど……私も相談が有るのよ」
マリーは鞄から転送魔方陣の風呂敷を出しつつアマルティア聞いた。
「実は……効率、悪くない?」
APトライクを指してダックス125を指差した。
「どういう事?」
小首をかしげるアマルティアに説明。
「……なるほど」
頷いていたアマルティア。
「運転が面倒臭く為ったと」
「別に面倒とか、楽しようとか思ってないわよ」
少し目線を斜め下にずらして。
「効率が悪いって話よ」
「ほら……バモスが有ったときは楽だったじゃないの、アレよアレ」
横からペトラもアマルティアに説明。
ペトラはハッキリと楽がしたいと言い切った。
少し眉をしかめたアマルティア。
「だったら、転送魔方陣でAPトライクとダックス125を送れば?」
「ロバ車にスペースは有る?」
頷いたペトラが聞いた。
「荷物の間にでも潜り込めば?」
「えええ……普通に座れないの?」
露骨に嫌な顔をしたペトラ。
「荷物の乗っているやつって、乗り心地が悪いやつよね……お尻が痛くなるやつ」
マリーも顔をしかめる。
「じゃあ……乗り心地のいい感じのやつを送って貰えばどう?」
いい加減に面倒臭くなってきたアマルティアは、言い放つ。
「そうね……いい感じのヤツ、有るかしら」
マリーはメモに注文を書いて送った。
返信のメモは薪と一緒に送られてきた。
蒔きはそのままアマルティアに渡してメモを睨むマリー。
「これって軽トラの後ろだけのヤツよね」
それを横から覗き込んだペトラがロバ車を指差す。
「おんなじじゃん」
「サス付きって書いてあるけど」
ちらりとロバ車を確認する。
「おんなじね」
メモを書いてもう一度送る。
と、すぐに返事。
「二人掛けのソファーを送るってさ」
「それを乗っけて座れって事?」
「そうみたい……取り付けはローザに相談しろ、だって」
顔を見合わせた二人はローザの元に走った。
「ふん……それって面倒臭がられただけだよ」
蒔きに火を着けながらに独りごちたアマルティアだった。
さて、翌日。
マリーはロバ車の後ろに乗った。
もちろんペトラもだ。
シートは柔らかそうな二人掛けのソファーが横に対面で着いている。
荷箱に4人乗れるって寸法。
箱の前にも一人掛けのソファーが着いているから、合計5人乗り。
土台に為った荷箱は、いつもの軽トラの後ろだけのヤツ。
人がの乗るだけの専用設計?
なのでついでに幌も着いた。
さて……マリーの感想。
「なんか、鳥取砂丘に行った時に見た記憶が……ラクダがこんなの引いてた気がする」
「ラクダ? 一応はロバたって言い張ってるよ」
ペトラはそれを引っ張るロバを指差す。
ロバは地面のナニかを口に加えて租借……唇をブルブルと震わせてブベベベっと吐き出した。
「ろば……」
「ろば……らしい」
「紛れもなくロバよ」
先頭の一人掛けソファーに座り込んだアマルティアが叫んだ。
「何回、このクダリをやる気? いい加減にして欲しいわね」
プリプリと怒り出した。
「ああ……ごめん」
素直に謝るペトラ。
まったく謝る気のないマリーは違う話をした。
「アマルティアはこっちに乗って大丈夫なの?」
今までは自分のゴーレムを載せているロバ車に乗っていた筈。
「ペトラのゴーレム兵が馭者をやってくれるって」
そちらを指差すと、コンクリート・ゴーレムがアマルティアの席に居た。
「あら、ほんとだ」
驚いた顔をしたペトラ。
「え? あんた知らなかったの?」
アマルティアもそれに驚いていた。
「だって、普段は自由にしてていいって言ってるから」
ペトラの返答にはやっぱり驚かされる。
「それで、普通に動いているのね」
呆れた顔のマリー。
「細かい指示もなくって、完全に自立してるじゃないの」
「え? でも、なにかやって欲しいときは頼むよ」
なにがおかしいの? と、そんな顔のペトラ。
「……まあ、いいわ」
溜め息を吐いたマリー。
「完全に人格が芽生えているでしょう? それって」
アマルティアは諦めた顔だ。
「そのうち……独立だ! って騒がなければ良いけど」
首を振りながら。
「ゴーレムに絡んで南北戦争なんていやよ」
「どうして北と南なの?」
ペトラは首をひねる。
「奴隷解放の代表的な戦争の名前よ」
マリーは、そこは気にしなくてもいいと手のひらをヒラヒラとさせていた。




