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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
218/233

217 遺跡での白兵戦


 「止まれ!」

 警告を発したエレン。

 バイクに跨がった状態でstg44突撃銃を構えている。

 もちろん妹達も同じ行動をしていた。

 ただ、何時もとは違う。

 人形だけど明らかに魔物とわかるのに、イチイチ警告を出したのだ。

 それは、マリーの不安を汲んでの事。

 未知の古代遺跡……ペトラの家? もしかしたらドラゴン・ゴーレムの様に有効的なモノかも知れないからとだ。


 その魔物。

 車両のヘッドライトに照らされて、上から下まで見えた。

 仮にハダカデバホブゴブリンとしよう……顔がオークっぽくないから。

 どう見ても豚鼻では無い。

 なんならラージハダカデバゴブリンでも良いんだけど。

 見た目は老人の様に全身がシワだらけ、頭を含めて禿げている……たまに長い毛が斑にパラパラ見えるのもハダカデバゴブリンっぽい。

 でも、サイズが明らかに大きい。

 倍は有ると思う。

 そして、手には武器を持つ。

 こん棒か……石斧か……石槍。

 服も着ていた……方肩一方だけに掛けたワンピースの様なボロ布を腰で紐で留めている。

 そのまま原始人ぽい装備だ。

 

 そのハダカデバホブゴブリンがニヤリと笑い……そう見えただけかも。

 武器を上段に構えて近付いて来る。

 どう見てもヤル気満々だ。


 「撃つよ」

 アンナの二度目の警告。

 それでも魔物は止まらない。

 ライトの中に二匹目も入ってきた。


 「何匹……居るの?」

 ネーヴが呟く。


 「複数よ」

 タヌキ耳姉妹には暗い所に居るモノも見えている。

 「合計で6匹は居るわ……それ以上かも」


 「正確にはわからない感じか……匂いも臭いだけで、数はわからないし」

 「臭すぎなのよ」

 「やっぱりお風呂は必要よね」

 三姉妹は首を振った。


 「ついでに言えば、音もイマイチわからない。洞窟で変に反響しているせいかも」

 ゴーレム・バルタも銃を構えた、mp40だ。

 

 「止まらないわね……その気がない?」

 ゴーレム・エルが苦虫顔。

 手にはカンプピストル。


 「言葉がわからないとか?」

 ゴーレム・ヴィーゼもmp40。


 「それは有り得るわね」

 マリーが同意した。

 「ペトラ声を掛けてみて」

 ドラゴン・ゴーレムもペトラの声にしか反応しなかったからだ。


 頷いたペトラは声を張り上げる。

 「武器を下ろして止まって!」


 でも、魔物は止まらなかった。

 

 素早く前に出たゴーレム・ヴィーゼ。

 先頭に躍り出る。


 ハダカデバホブゴブリンは一瞬戸惑った様に見えた。

 ゴーレム・ヴィーゼの乗るクモゴレームに威圧されたのだろうか?

 しかし、それもすぐに無視された。

 振りかぶった石斧をゴーレム・ヴィーゼに投げ付けたのだ。

 

 ガキンっと音がしてゴーレム・ヴィーゼの胸で跳ねた石斧。

 「攻撃された!」

 叫んだゴーレム・ヴィーゼ。


 それが、こちらの攻撃の合図と為った。

 犬耳三姉妹はstg44の引き金を引いた。

 ゴーレム・ヴィーゼとゴーレム・エルはmp40の引き金。

 後ろからはタヌキ耳姉妹のkar98kが狙撃。

 一瞬の間を置いてゴーレム・エルはカンプピストルを撃った。

 これは照明弾で……ハダカデバホブゴブリンの背後の天井で光を出して燃え続けている。

 

 「全部で7匹!」

 灯された明かりで見えた魔物の数だ。

 

 前に立つハダカデバホブゴブリンが銃弾を受けて倒れた。

 一発二発では倒れないしぶとさを見せてだった。

 「なかなか頑丈ね」

 その辺りの強さもハダカデバゴブリンとは違う様だ。

 でも、痛みを感じているのも事実。

 二匹目のハダカデバホブゴブリンは二歩三歩と後退りして倒れた。

 

 「手榴弾を投げるわよ」

 ゴーレム・エルが叫ぶと同時に投げる。

 「伏せて!」


 前に出ていた犬耳三姉妹達は各々の近くのゴーレム娘達の後ろに隠れた。

 タヌキ耳姉妹はサイドカーを横にして、爆風を受けるのがバイク側。

 運転していたイナは飛び降りてサイドカーの後ろにしゃがむ。

 サイドカーに乗っていたエノは首を縮めて、バイクの影に隠れた。

 

 APトライクのマリーとダックス125のペトラは大慌てだ。

 背後に居るルノーftの影に隠れようとしたのだけど……間に合わずに爆風を浴びた。

 距離が有ったのと……APトライクは前後だけは囲われて居るので怪我は無いのだが。爆風の影響と慌てていた事で車両は転倒。横倒しに為った。

 ダックスの方のペトラはまだ小回りが効いたので、マリーよりも離れる事はできたのだが、それでもよろけて転がった。


 「狭い所でなんて事するのよ!」

 マリーの罵声が木霊する。


 ペトラは……気絶していた。

 キュウー。

 流石に剥き出しのバイクではモロはキツいのだろう。

 吹き飛んで転がったのだから。

 

 「敵は殲滅できた!」

 そんな事はおかまいなしな犬耳三姉妹。

 「おーるくりあー!」

 「まるこげー」

 笑っている。


 「いい加減にしなさいよ! ペトラが死んじゃったじゃないの!」

 大きな声で怒鳴り散らすマリーは倒れているペトラに駆け寄って抱き上げた。


 そのマリーの声に起こされたペトラ。

 うーん……と、唸る。

 

 「生きてるじゃん……大袈裟だな」

 流石に死んだと聞けば慌てた三姉妹が駆け付けたのだが。

 見れば明らかに生きている。

 唸り声は出しているし……微妙に動いてもいるのだ。


 「あんなの死んでもおかしくは無いわよ!」

 声のボリュームがおかしい感じでうるさい。

 耳がやられたのだろうか?


 「でも、白兵戦に慣れてない者にはキツいかもね」

 イナがマリーに同意した。

 「連携の問題なんだけどね」

 イナも頷く。

 慣れた者なら最小限の注意喚起で回避行動が取れるし……それが出来る位置取りを常に気にしている。

 使う武器はだいたい決まっているから……それに合わせるだけなのだし。

 

 「配置が悪かったわね」

 後ろに居たアマルティアが言った。

 「ルノーftをもう少し前に出して……ヴェスペとの間にマリー達が入るのが良いんじゃない?」

 

 「後ろはアマルティアが守ってくれる感じか」

 エレンも頷いた。

 「そもそも戦闘に成るって予想外だったもんね」

 アンナも同意。

 「逆はダメなの? ヴェスペが前でルノーftが後ろ」

 ネーヴは少し考えた様だ。

 「ヴェスペは前だけなら水平でも撃てるし、ルノーftは後ろも関係ないでしょう? 回転砲塔なのだし」


 「だめだよ、それじゃあ」

 ローザが否定した。

 「この狭い洞窟でヴェスペの10.5cm砲なんて撃ったら、さっきの手榴弾どころの騒ぎじゃ無くなるわよ……爆風の逃げ道が無いんだから、凄い事に成るよ」


 「そっか……ヴェスペは役立たずか」

 頷いたネーヴ。


 「火薬の量が多いだけよ……調整すればいいだけの事。発射薬を減らして弾は鉄甲弾なら問題ない筈」

 オリジナル・エルは反論した。

 役立たずは聞き捨てなら無い。


 「まあ……そうだろうけど。わざわざそんな事をしなくても、この狭い洞窟に出てくる魔物なんて知れてると思うよ? やっぱり10.5cm砲は過剰だよ」

 ローザがエルを諭す様にしてだ。


 「どっちでも良いけど……どうせ一本道で後ろからは魔物も来ないだろうし」

 マリーの声の音量が戻った。

 耳鳴りも治まったのだろう。

 「狭いなら、この全員が攻撃するのも無理が有るだろうから……そこらへんは適当でも良いんじゃないの」

 どう戦うかには興味がないと言いたい様だ。

 隠れる場所は戦車の後ろとわかっていればそれでいい。

 最初からその場所に居るからという事らしい。


 そのマリーは、自分の鞄から小瓶を出してペトラの鼻先に着けていた。

 

 「それは?」

 気に為ったイナが聞く。


 「気付け薬よ……とにかく動ける様にしないと」

 

 すぐに跳ね起きたペトラ。

 とても嫌な顔に成っている。

 「なに今の……臭すぎだけど」


 「気にしなくていいわよ」

 マリーは小瓶を鞄にしまい。

 「で、どこか痛い所は有る?」


 「顎とお尻?」

 鼻をゴシゴシと擦りつつに確かめる様に答えたペトラ。


 「どれどれ」

 マリーはペトラの顎を触る。

 「折れては居ないようね……歯も大丈夫」

 口を無理矢理開けさせて覗いてもいた。

 

 「ひゃ!」

 驚いたペトラ。

 今度はマリーにお尻を撫でられたのだ。


 「大丈夫よ……二つにしか割れてないわ」

 肩を竦めて笑った。

 「ふむ……生きているわね。問題ない」

 ペトラを引き上げて立たせて。

 「さあ、前進しましょう」

 進行方向を指差した。

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