215 ペトラ遺跡
「さっきの仕掛けと同じ様なモノなのかしらね?」
マリーが恐る恐ると近付いた。
ドラゴンのゴーレムが消えた場所だ。
「入って見たらわかるよ」
犬耳三姉妹達は躊躇しないで、バイクに乗ったままで突っ込んでいく。
「凄いわね……性格?」
マリーは関心するしかない。
「だからあの三人は突撃兵なのよ」
オリジナル・エルが笑う。
「成る程、必然なのね」
マリーも笑った。
「うお!」
飛び込んで消えて、すぐに三姉妹の叫びが聞こえた。
「どうしたの?」
慌てたマリーが問い掛ける。
他の子供達も一瞬、強張った。
「すげー!」
が、続いた三姉妹の声で危険では無いと安心出来る。
「洞窟だった!」
あれ? っと思ったマリーは、確かめる為にも中に入る。
消えた境界線を越えると確かに洞窟だ。
深くは無い、少し距離を置いた先に出口は見えている。
が、やはりオカシイ。
マリーはもう一度、境界線を戻った。
広がる荒野。
境界線は岩に張り付いた感じ。
その岩をグルリと一周してみると、然程大きくは無いとわかる。
「何してんの?」
ペトラが迎えに来たのだろうか?
一度入った洞窟から、出てきて聞いた。
「いや……サイズが合わない」
洞窟のサイズなら岩の回りも幻影の筈なのに……普通に通れた。
「荒野に見せかけた幻影なら洞窟の壁は何処にいった?」
ん? と首を傾げたペトラは洞窟に戻って……壁に手を触れる。
「固い岩の感触は有るね」
少し奥まで行っても同じだ。
出口付近の距離の有る所でもだ。
もう一度小首を傾げて、戻って洞窟を出てみる。
マリーが居た、そして荒野だ。
岩を回る。
「ほんとだ、オカシイよね?」
「これって、転移かな?」
マリーは考えていた。
「そうみたいだね」
ペトラもそう思うと頷いた。
「でも、前に来たときも転移っぽい感じだったよね?」
「あれは……明確に場所が変わったじゃない、しかも一方通行だったし。これは双方向で繋がっている感じだわ」
ペトラを見て、自分の鞄を指差して。
「ほら、転移の魔方陣も一方通行でしょう?」
「ああ……そうか」
そう言えばと頷くペトラ。
「まったく別物って事なのね」
「オーイ」
「早く来てよ」
「ドラゴンのゴーレムさんが、先に行っちゃたよ」
あれやこれやと考えている二人を、呼びに来た犬耳三姉妹。
マリーとペトラはお互いに顔を見合わせて、小さく肩をすくめて。
「あとで考えましょう」
「そだね」
と、もう一度洞窟に入って行った。
さて、少し遅れたので慌てて追いかける。
洞窟を抜ければ、そこは深い谷の底……渓谷。
地面は相変わらずに荒野と同じ感じ。
ただ、砂の下に固い岩盤が感じられるのが、少しの違いだ。
自然に出来た渓谷なので、左右にグネグネと捩れている。
でも、地面はズッと平らなままだ。
底は埋める為り掘る為りして、手をいれたのだろうか?
でも……なんの為? と、疑問が沸いてくる。
ゴーレムが歩くなら二本足なのだから……整地をする必要も無いと思う。
牽き台車か何かを使っていたのだろうか?
もう少し奥に進むと、今度は両側の壁を彫り込んだ像が見える。
ドラゴンの形もあれば人形も有る。
それらが順番に並んでいた。
それを見るに、古代人だからとドラゴンの形では無いのだろう。
いや、良く良く考えればパトもカワズも神様だ。
ドラゴンの形に拘っているのは……ペトラの父親のドラゴン王だけ?
あれは確か……膨大な記憶を保持する為に巨大な脳みそが必要だったから、ドラゴンの形に成ったと聞いた。
なら……ドラゴン王も其程の拘りは無いのかも知れない。
まあ、大きなゴーレムは便利ではあるので、古代人もその都合かも知れないなとも思う。
と、そこまで考えたマリー。
ふと思う……この大きな壁像。
この中にはパトも居るのかも知れない。
なんならペトラもか?
こんな大きな壁像をただの飾りだけでは掘れないと思う。
絶対に信仰か何かの対象の筈だ。
二人は神様なのだから……と、そう思うと、壁像の顔が気に為ってきた。
だからツイツイ人形の方ばかりを見てしまう。
ソロソロ渓谷も終わりそうなのに……と、見知った顔の似ているモノを見付けた。
「あれって……カワズ?」
たぶんそうなのだろう。
でも、あんなニヤケ顔では……神秘性も神格も、まったく感じないのだけど。
あんなのを並べるようじゃ、古代人もたかが知れてると感じてしまう。
古代人の名誉の為にもアレは壊すべきだと思う。
顔をしかめたマリーだった。
渓谷を抜けると、広い場所に出る。
広いと行っても、両脇に町並みが並ぶので道の大きさは変わらない。
ただ渓谷の崖の壁が遠くに成っただけ。
その町の建物は極端に大小な大きさの違いが見える。
で……造りは土か煉瓦で出来ていた。
サイズが違うのは……たぶんドラゴンのサイズと人間のサイズだと思う。
前に一度ここに来ているので、そう驚くモノでもない。
でも、二度目でも……壁像は圧倒されるし、感動もした。
カワズの壁像を見るまでだけど。
そして、道の奥には神殿が在るのも知っている。
肉が無くなり骨だけに為っていたドラゴン王が寝ていた場所もソコだった。
「やはり……ペトラの部屋もその神殿に在るのかしら」
想像のしやすい予測だ。
「まあ……ドラゴンのゴーレムも真っ直ぐ向かっているのだし、そうだと思う」
でも、神殿の中だとしたら戦車も他の車両も入れないわね。
たぶん奥だとは思うけど……サイズがドラゴンに合わせて有るから大きいのよね。
歩くのがシンドそうだ。
あれ?
今、思うと……ペトラは遺跡に案内してって言ってたわよね?
もっと詳しくペトラの部屋って言わないとダメなんじゃないの?
あの広い中を探すのは嫌よ。
マリーは無線機を取り。
「ぺとら案内なんだけど……」
もう一度、ドラゴンのゴーレムに指示を出してと注文。
わかったと返事は早かった。
前の方を進んでいたペトラがバイクを加速させた……マリーが余所見をしていたから遅れがちなだけだけど。
ドラゴン・ゴーレムに追い付いたペトラは大きな声で叫んだ。
「部屋に行きたいの」
案内してと伝える。
その途端に停まったドラゴン・ゴーレム。
ペトラの方を見て。
道を戻り始めた。
「え? 方向が違った?」
「今……早く言ってよって顔してたね」
エレン達もユーターン。
バイクを寝かせてクルリと回る。
ドラゴン・ゴーレムは皆を避けて、ドンドン戻っていった。
渓谷の入り口に迄だ。
ソコで止まった。
「? ペトラの部屋だよ? 案内してくれないかな?」
あれ? っと思ったペトラはもう一度指示。
一番に奥まで行っていたペトラが、今度は遅れ気味。
それでもドラゴンのゴーレムは大きいので仕草はわかる。
ドラゴンのゴーレムはペトラを見て頷いて……でも、動かない。
「この辺の何処かに入り口が有るとか?」
マリーも首を捻る。
渓谷の入り口には、ひときは大きな壁像が両側に有る。
片方はドラゴンの形。
もう一方は……人形だけれど。
「男? 女?」
胸は有るようだから女?
でも、裸の股間は男そのモノだ。
「うん……ぶら下がっているね」
横に並んだアマルティアが目を伏せてポツリ。
「その横がカワズよね?」
エルのヴェスペもその反対に並ぶ。
エルにもカワズに見えるなら、やっぱり確定ね。
「でも、二番目だよね?」
クリスティナが顔を覗かせている。
「カワズはセカンドとも言われていたのだし……ファウストは、コレ?」
男女の壁像を指すマリー。
「ええ……パトはハッキリ男だよ!」
エレン達が抗議する。
「わかっているわよ……でも、この壁像だけ、性別が変じゃない?」
マリーは唸る。
「ペトラの部屋って……ペトラとパトだけが行ける所だよね?」
クリスティナの考えはこうだ。
「その二人が行く場所だから、もしかして魂が混ざるとか? かな?」
「なるほど、実際にそうかどうかはわからないけど……古代人は同じ人物と考えたのかも知れないわね」
フムとマリーも頷いた。
「想像と創造の神だから、創造するには想像を覗かないとダメだし……もしかして最初は魂が混ざり合ったのかも」
エルも仮説を考える。
でも、なんだか納得の出来る説でも有った。
「それよりもさ、場所を特定するのに……指差して貰えないかな?」
ローザはドラゴンのゴーレムを見ていた。
「そうね」
マリーは遅れて来たペトラを見る。
見られたペトラは肩を竦めて。
「ペトラの部屋の入り口を指差して貰える?」
頷いたドラゴン・ゴーレム。
差した指は……男女の壁像の股の下だった。
「え? そこ?」
困惑の声は全員だった。




