213 ペトラの部屋の場所
急ぎ王都を出た子供達。
またおかしな事に成って牢屋に閉じ込められるのは嫌だし、早くパトを生き返らせないと、との思いでだった。
が、王都を出た途端に立ち尽くす。
「どっちに行けばいいの?」
オリジナル・ヴィーゼは戦車の運転席前のハッチを開いて、呟いた。
「さあ……どっちだろう」
答えたのは犬耳三姉妹の長女のエレン。
次女のアンナと三女のネーヴも小首を傾げている。
そして、全員はマリーを見た。
見られたマリーは、少し腰の引けた状態で……ペトラを見た。
「え? わたし?」
「カワズはペトラの部屋ってハッキリと言っていたわ」
指を突き立てて捲し上げた。
「あんた! 自分の家なんだから場所わかるでしょう?」
「えええ……ムチャだよ」
ペトラは困惑顔に成る。
「ペトラの部屋って……そう言ってるだけで、そこって死んでから行くところでしょう? わかるわけ無いよ」
「わからないって……使えないわね」
「ねえ、ドラゴンもでしょう?」
エレンが考える。
「ってことは……竜の背?」
「あそこは上れないし……横に長いし」
アンナは首を降る。
「ならさ……以前に行った事のある、ペトラ遺跡? ドラゴンのゴーレムが居た所」
ネーヴが顎に人差し指を立てて、小首を傾げた。
「! そこだ!」
エレンとアンナが叫んだ。
同時に皆も頷いた。
「そこって、南の荒野の様な感じの砂漠に在った遺跡だよね」
オリジナル・ヴィーゼが指を差す。
「正確には南西」
オリジナル・バルタがヴィーゼの指を少し動かした。
「あっちね」
「よし! 行こう!」
最初に走り出したのは、犬耳三姉妹。
続いてペトラが走る……乗っているのはパトのダックス125だ。
アンが来ないのでモンキー125から、ダックスに変わったのだ。
そしてAPトライクのマリーにサイドカー付きのモンキー125のタヌキ耳姉妹。
アマルティアのロバ車は何時も道理で、人を乗せずに荷物とゴーレムを載せたロバ車も着いていく……ロバ車の合計は4両だ。
後は戦車が2両。
減ったのはアンとモンキー125に……パトだった。
砂漠をさ迷う事……七日。
そんなに日にちの掛かる場所では無い筈だが……入り口がわからない。
完全に迷子に為っていた。
「どこだよー」
犬耳三姉妹はバラバラに別れて、適当な場所を探索。
「だれかー見付けた?」
これは無線からの声。
それには誰も答えないで居た。
「ねえ……クリスティナ」
オリジナル・エルは運転席横に声を掛けた。
「空からでもわからないの?」
肩を竦めて首を横に振ったクリスティナ。
それだけで、声に出した返事は返さない。
「前回は……ドラゴンのゴーレムを見付けて着いて行ったのよね?」
ヴェスペ自走砲を運転しているローザが尋ねる。
「そうなんだけど……」
エルは大きな溜め息を吐く。
「骨だけに成っていたドラゴンに、食料を運んで居たのよね。ゴーレムには死の概念が無かったのね」
「実際に死んでいたわけでは無いんでしょう? 今は王城に居るのだし」
「そうだけど、骨だけよ……死んでいるのと変わらない状態。実際にドラゴンの体は復活の魔方陣で再生した感じだし」
「大陸間弾道魔方陣がそうだっけ?」
「本当はドラゴンの魔方陣だったらしいけど」
「そのドラゴンが遺跡から出てきたから、もう食料を運ばなくても良いって感じに成ったのね」
「そうね……退屈凌ぎに散歩でもすれば良いのに」
「ゴーレムに退屈ってあるの?」
横のクリスティナがクスリと笑った。
「大きいだけで、頭の悪そうなゴーレムだったからね……無いかもね」
実際……ボケボケだった気もする。
「だったら……地道に探すしか無いのね」
ローザは大きな溜め息を吐いた。
「でも、この辺だったのは確かなのだし」
エルはヴェスペの防護板から半身を乗り出して、キョロキョロと首を動かした。
と……ムカデの魔物を見付けた。
とても大きなムカデ。
全長でも10mは有りそうなヤツ。
「前は、あれを捕まえてドラゴンの餌にしようとしてたのよ」
「ドラゴンて……虫を食うのか!」
驚いて見せたローザ。
見た目がトカゲなのだから……まあ不思議でもないとは思うけど。
ムカデはどうにもグロテスク過ぎる気もする。
「でもさ……魔物の生息域が合致しているなら、やっぱり近いんだよね?」
「あ!」
無線から大きな声が響いた。
「ゴーレムが出てきた!」
叫んだのはエレン。
「何処よ!」
素早く無線機にとりついたエルが叫び返す。
「右に反転して」
クリスティナも見付けた様だ。
ローザに指さしで指示を出す。
「突然! 出てきた!」
驚き慌てている風だ。
皆でそちらに向けて全速力だ。
荒野の砂塵を巻き上げての疾走。
「ローザ! 急いで! 見失ったら大変よ」
「わかってるけど、ヴェスペは砲が長いから揺れて大変なんだよ」
そう言いながらも速度はしっかりと出している。
積み換えたエンジンが強力だからだ。
だが、もっと強力なエンジンに積み換えたルノーft軽戦車に追い抜かれた。
「おさきー!」
ヴィーゼの声が無線から聞こえる。
「きー! 負けてるじゃないの!」
エルは運転席のローザの背中をバンバンと叩く。
「痛いよ……だからヴェスペは遅いって言ってるじゃん」
叫んで返しているローザ。
その横を今度はサイドカーのモンキー125にも抜かれた。
モンキー125はサイドカー無しで時速90km位は出せる。
もちろんアスファルトの話。
そこからサイドカーの分と荒野の地面を差し引いても、ヴェスペ依りかは速かった様だ。
「また抜かれた!」
「いや……競争じゃ無いんだし」
なかば呆れ顔のローザ。
「誰か一人でもドラゴンのゴーレムの側に行ければ良いんだし」
見失っても誘導して貰えればそれで良い筈。
「そんな事はわかってるわよ! でも、悔しいじゃん」
またバシバシと叩いた。
「うぎゃー!」
無線からぺとらの叫び声が響く。
「こっちに来ないで!」
「どうしたのよ!」
エルが聞いた。
「ゴーレムの所に一番に着いたのがペトラなんだけど」
ゴーレム・エルの解説?
「近付き過ぎたのか、ムカデの魔物に見付かって追い掛けられている感じだ」
「なにバカな事やってんのよ! 近付くにしても加減が有るでしょうに!」
「攻撃する?」
オリジナル・バルタが聞く。
「ダメよ! ゴーレムを起こらせるかも知れないから」
止めたのはマリー。
「とにかくペトラは逃げ切りなさい! あんたのバイクは早いんだから!」
ダックス125は時速で80km以上は出せる。
ただし、これもアスファルトの注釈は付くのだけれど。
「お? ドラゴンのゴーレムがムカデを掴まえた」
ゴーレム・ヴィーゼだ。
「戦う感じ?」
「今のうちに逃げなさい!」
マリーがペトラに叫んでいた。
ドラゴン・ゴーレム対巨大なムカデの魔物の戦いが始まった。
ムカデに掴み掛かるゴーレム。
そのゴーレムに巻き付いて締め上げようとするムカデ。
……もうムカデの興味からペトラは消えた様だ。
鎌首をもたげてゴーレムに顎の牙を突き立てようとしていた。
普通に噛まれれば毒の有るムカデは驚異だが……土塊のゴーレムではその攻撃は効かない。
だが、ゴーレムの攻撃……殴るにしても蹴るにしても、ムカデの固い殻に阻まれている。
いや、グネグネと柔らかく曲がる体が、叩かれた力を逃がしている様だ。
「相変わらず……ドンクサイわね」
両者の戦う姿が、見える所に到達したヴェスペの上からエルが呟いた。
その横まで逃げてきたペトラが聞いた。
「ゴーレムはどうすべきなの?」
逃げて荒くなった呼吸を整える感じも含めての質問?
「力は有るんだから……胴体を踏んづけて引っ張り上げれば良いのよ! 体と頭をブチって引き千切ってやるの」
「成るほど……」
頷いたペトラはゴーレムに向かって叫んだ。
「だって!」
「って、ゴーレムが理解するわけないじゃん」
ペトラを笑ったエル。
だが、ドラゴン・ゴーレムはその指示通りに動いた。
片足でムカデを押さえて抱き付き、引っこ抜く感じで胴体と頭を二つに分けたのだ。
「聞こえたみたいよ」
今度はペトラがエルを笑う番に為るのだった。




