211 パトの計画
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薄暗い部屋。
床は冷たい石。
そこに直接寝かされていた。
ただ、放り投げられて居た……とも言う。
間が覚めたオリジナル・バルタは頭を抱えて大きく首を振った。
「ここは……何処?」
体を起こして、視線を巡らせる。
触れる床以外にも壁も天井も……石?
唯一、開かれた壁には鉄格子。
「牢屋……みたいよ」
マリーが教えてくれた。
「マリー……大丈夫だったの?」
声の方を見る。
壁に凭れて、膝を抱えて座り込んでいた。
「生きて……はいないはね。ゾンビだから」
苦笑いのマリー。
「少し、魔素を吸われたから……ちょっとシンドイかな」
「とにかく無事なのね」
目を細めてもう一度、確認。
「他のみんなは?」
「そこら辺に、寝かされているわ」
バルタの足元を、震える指で差し。
「気絶しているだけ」
指を反対側の壁に向けると、そこにはゴーレム娘の三人が倒れて居る。
「そっちは……時間凍結を掛けられた見たい」
ゴーレムを気絶させる方法が無かったからか?
「まず、先にペトラを起こしてくれない?」
ゴーレムの時間凍結を解除出来るからか?
「私の鞄にも時間凍結が掛けられていて……魔石からの魔素の補給も出来ないのよね」
「魔石からって……マリーは元国王から魔素の供給を受けているんじゃ無かったっけ?」
「この牢屋……結界が張られているみたいで、繋がりが切れているのよ。だから自力でなんとかしないと」
転がる皆を見てみると、その中に元国王は居なかった。
そういえば、アンも居ない。
大人と子供を別けられたのかと見ると、ローザは居た。
ローザはドワーフだから背は低いけど、それでも19才……子供では無いと思う。
でも、実際の年齢なら……マリーは数百歳だから。
見た目で別けられた?
バルタは小首を傾げながらに、這うように進んでペトラを揺する。
どうも、まだ本調子では無いようだ。
立ち上がろうとすると……目が眩む感じだ。
「う……ううん」
揺すっても起きないペトラ。
気絶と言うより……寝ている感じ?
それも熟睡で、ニヘラと締まらない顔はナニか夢でも見ているのだろうか?
仕方無いので、叩いて起こした。
ちがった……ごめん。
少し腹が立って殴ってしまったのだ。
「うへー」
まだ寝惚けた感じで、頭を押さえながらに起き出したペトラ。
「なに?」
「ん!」
バルタはマリーを指差す。
「マリーの所に行けってこと?」
グズグズと確認をしてくるペトラを蹴飛ばした。
「なによ……いたいじゃん」
ペトラも這うように移動。
「これ、時間凍結されてるの」
マリーは自分の錬金術の黄色い小さな鞄を差し出した。
「解けってこと?」
胸にぶら下がる石を左手で握って、右手で鞄に触れる。
パリンっと音を立てて、時間凍結が解除された。
「有り難う助かったわ」
マリーは鞄をゴソゴソ。
魔石を取り出して握り閉める。
「向こうにゴーレム娘達も居るから、起こしてあげて……あっちも時間凍結をかけられているのよ」
頷いたペトラはそちらに這って行く。
その間、バルタは他の子を起こして回った。
全員が起き出した頃を見計らったように人影が現れた。
鉄格子の向こう側にカワズだった。
「やあ、やっと起きたね」
声は軽やかだ。
その声を聞いた途端に唸りを上げるバルタ。
文句を言いたいが声にも成らない。
とにかく腹が立ってしょうが無いのだ。
代わりに声を上げてくれたのはオリジナル・エルだった。
「どうしてパトを殺したの?」
疑問系だが……声音は優しくはない。
エルも怒っている。
「私はナニもしていないよ」
首を振ったカワズ。
「見殺しにした!」
エルは続けて。
「彼は死にたがって居たからね……あれは何時もの事だし」
カワズは小さく首を振る。
「今回の人生が楽しかった証拠だよ」
「どういう事よ」
マリーも復活したようだ。
声に張りが戻っている。
「彼は満足すると自死を選ぶ。誰かに殺されると、暫くは魂が迷う事に為るのだが……自死だとスグに記憶の部屋に行けるからね」
「記憶の部屋?」
マリーの眉が動いた。
「ペトラの部屋でも有る……記憶が保管された部屋の事だよ」
「死ねば魂だけがソコに行くって事?」
「そうだ……ファウストとペトラだけの特別な部屋だ。そこで次の転生を待つんだよ」
「殺されると迷うってのは?」
「その言葉の通りさ……魂が肉体に引かれて中々離れ難く為るんだ」
「だから……もういいと成ったら、自死を選ぶって事?」
「そうだね、彼も少しは心配した様だが」
チラリとクリスティナを見たカワズ。
「特に一番に小さい子の事が……でも、暫く一緒に居て確信したみたいだね。もう大丈夫だ。一人でも生きられるって」
「そういえば……最近はクリスティナの側に居る事が多かったわね」
エルも唸る。
「って事は……パトはずっと前から死ぬつもりだったって?」
「エルフがグダグダ文句を言っているのを知った辺りで決断したみたいだね」
カワズは頷き。
「だから、自分からエルフを焚き付けて指名手配までさせた様だし」
「全部がパトの計画?」
「彼が総ての罪を背負えば……エルフも他には向かないだろう? 特に獣人とかにはね」
「私達のためってこと?」
エル声は小さく萎んだ。
「君達だけじゃない……獣人全部と転生者達全部さ。独立した自治区を造るにしても、どうしたってエルフが邪魔しそうだったしね」
ニコリと笑い。
「だからエルフを其どころじゃない様にした。序でに弱体化もね」
「でも……それをパトが一人で背負う事なんて無いじゃん」
オリジナル・ヴィーゼも叫んだ。
「彼はファウストだ……死でもまた何処かで復活する。十年後か百年後か千年後かにね」
肩を竦めて。
「だから、彼にとっては死は別段特別でもない。以前にも何度も繰り返してきた事だ」
「それって……本来の記憶が有っての事でしょう?」
マリーは首を傾げる。
「たぶん……少しだが記憶を取り戻して居たと思うよ」
「どうして? 死なないと、記憶は戻らないんでしょう?」
「少し前に一度……死んでいるじゃないか。彼は」
「二年前の……事か」
唸るマリー。
殺したのは元国王とマリー達だ。
元国王はネクロマンサーだから、他人の死に対して無頓着に成ってしまっている。
殺してもゾンビとして戻せば、それは死ではないと勘違いしてしまっているのだ。
なんども、それを繰り返した……弊害。
「誰も彼も……死を簡単に考えすぎよ!」
マリーは吐き捨てた。
「ああ……それには同意するよ」
カワズも深く頷いた。
「で、なんで私達は投獄されているの?」
マリーが聞いた。
「そりゃ……ドラゴン王も面前で暴れたからだよ」
肩を竦め。
「仮にも王だよ、その前で暴れてはいけないと思うがね」
「不敬罪で死刑って事?」
「いや死刑は無いな……一晩ほど反省してくれればいいよ」
カワズは懐か鍵を出した。
それを前に翳して見せて。
鉄格子の向こう側、カワズの足元にソッと置いた。
手が届く場所では無い位置。
「そのうちにアン長官補佐官が来るだろうから、その時に出して貰えばいいよ」
カワズはその場を離れた。
横に歩いて行く。
たぶんそちらが出口。
「ちょっと待ちなさいよ」
マリーが叫ぶ。
離れるカワズの後ろ姿。
そのままの姿勢で、後ろ手に手をヒラヒラとさせている。
それが……別れの挨拶?
他の子供達は……それが合図のように、声を出して泣き出した。
「子供を泣かすなんて最低ね!」
怒鳴り続けたマリー。
止まらないカワズ。
それでも声は出した。
「一応はヒントはあげたよ」
それが最後で完全に見えなくなった。
「ヒントってなによ!」
イライラしたマリーは右手の親指の爪を思いっきり噛んだ。




