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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
21/233

020 魔物は?


 元国王は少しだけイライラしていた。

 呆れてもいた。

 何故なら……。


 チラリと来た方向を見る。

 そこにはダンジョンに入って来た入り口の建物……ホームセンターが見えていたからだ。

 そして首の角度を90度曲げれば……交差点の通りはまだまだ奥へと続いている。

 なのに……足下のこの場所。

 コンビニ前にたむろした子供達は……至福の顔でお菓子を頬張っていたのだ。


 「どんだけ時間が掛かるやら……」

 ボソリと呟くその手には……うまい棒のバーベキュー味。

 「まあ……さしたる意味もなく、ただの暇潰しなのだから、これで良いのか?」

 

 「なにをブツブツ言ってるのよ」

 マリーが咥えていたのは、ガリガリ君……梨味。


 「いや……」

 うまい棒を一噛りで。

 「ここ……ダンジョンじゃよな」

 目線は子供達に。

 「危険な場所なのじゃろう?」


 「確かに……ダンジョンは危ない場所ね」

 ガリガリ君なのにペロペロとしゃぶる。

 「まあ……偵察に出た犬っ娘達も何も言ってこないから今はまだ大丈夫なんでしょう……ここはまだ入り口みたいな所だし」

 危機感は無いようだ。


 だが元国王はおもむろに子供達を指差して。

 「そりゃ……報告は無いじゃろう」

 マリーを見て。

 「待っていても一生こんと思うぞ」

 もう一度、子供達をツツク素振りで何度も指差した。


 マリーも指された子供達を見る。

 その中には犬耳三姉妹も混ざっていた。


 目をひん剥いたマリー。

 ガリガリ君が半分、地面に落ちた事も気付かずに怒鳴る。

 「アンタ達! なにやってんのよ」

 ツカツカと側に寄っての仁王立ちだ。

 「魔物はどうしたのよ! その為の偵察でしょうが?」


 え? なに? 何で怒ってんの?

 地面に直接座り込んでいたネーヴは、あんパンを咥えてキョトンと見上げた。

 アンナはバームクーヘンを一皮一皮と噛り剥きながら食べている。

 細かい作業に熱中してそれどころでは無いらしい。

 そしてエレンは左手にチョコポッキーの箱を握りつつ、空いた右手で交差点からダンジョンの奥を指差した。

 「あれ……」

 

 眉間にシワが寄るマリー。

 「あれってなによ」

 指された方を見る。


 少し遠い所。

 あと二つ程の交差点の端ッコ……停められた車の陰に隠れて動く何かを見付けた。

 眉間のシワをもう一段深くして……目を細める。

 動く何か……は、わかるが、それ以上は遠過ぎて判別が付かない。

 そこにスルメを咥えたエルが近付いて来て、マリーの手に双眼鏡を差し出してきた。

 受け取って覗いてみる。

 黒色の背中に腹は白。

 二本脚で少し身体を斜めにして立って……こちらを見ていた。

 つぶらな瞳だ。


 「ペンギンの様じゃな」

 いつの間にかに隣に来ていた元国王。

 

 マリーは双眼鏡から目を離して横目で。

 「見えているのなら先に教えてよ」

 

 「いや……言われて今気付いた」

 目頭を押さえながら。

 「やはりスキルが今一上手く働かん」


 「遠目……だっけ? 遠くが見えるスキル」


 「そうなんじゃが……前は意識する事も無くに使えていたのじゃが、どうも今は見ると意識しないと働かん様じゃ」


 「単純に歳じゃないの?」

 二人の後ろに居たエルの感想。

   

 「まあ……それは良いのじゃが」

 後ろを振り向いた元国王はエルに。

 「あれは……どうにかせんのか?」


 「それを今……協議中」

 チラリと子供達の集団に目をやり。

 「見た目があんなだから……無闇に倒すのも可哀想かと思って」


 「でも魔物でしょうに」

 マリーはもう一度双眼鏡を覗いた。

 「確かに……見た目は可愛い感じか」

 あの見た目では躊躇する気持ちもわからんでもない。


 「サラちゃんのお父さんも可愛い感じの魔物とは言ってたけど……狂暴とは言ってなかったし」

 エルは顎を親指で摘まんで。

 「おとなしい魔物かも知れないでしょう」


 「ダンジョンの魔物も稀に友好的とまでは言わないが……敵対してこない中立的なのも居るしの」

 フムと元国王。


 「それに別段……食料に困っているわけでもないし……」

 エルは少しお茶を濁す様な素振りで。

 「まあ……困っていても、あれは食べ難い気もするけど」

 そしてまた魔物を指差す。


 「見た目か……」

 「見た目ね……」

 元国王とマリーは同時に呟いた。

 誰がどう見てもただの可愛いだけのペンギンにしか見えないのだからしょうがない。

 

 「ねえ……なんか増えてない?」

 そんな三人に近付いてきたタヌキ耳姉妹。

 イナの口のまわりには煎餅だろうか? の食べかす。

 「それに……近付いてない?」

 エノの口からは白い棒が突き出ている……方頬の膨らみを見るに飴? チュッパチャップスか何かのようだ。


 が、それはどうでも良い。

 

 元国王とマリー……そしてエルはもう一度魔物を注視する。

 すぐ隣の……次の交差点の車の陰に一匹。

 その後ろの建物の陰にも何匹か居るようだ。

 そして最初に見付けた二つ目の交差点には……もう隠れる事を辞めたのか数匹が堂々とこちらを見ている。


 「食べ物が気になるのかしら」

 スルメをしゃぶるエル。


 「ワシ等が珍しいんじゃろう?」

 適当に答える元国王。

 「一応はダンジョンなのだから人間もなかなか来んじゃろうし」


 「そうね……」

 マリーは自分の手に有るガリガリ君を見て……そして少し考えて。

 側に来たエノの口からチュッパチャップスを引き抜いて。

 魔物の方に投げた。


 「なにするの?」

 いきなりで驚いてブー垂れるエノ。


 「私のアイスは流石に食べないかと思って」

 エルを指し。

 「スルメは投げ難そうだし」


 エルは元国王を指し。

 「うまい棒が有るじゃないの」


 「軽すぎて飛ばないでしょう」

 笑うマリー……の、すぐ横を何かがスレ違った。


 え?。


 と、その場の全員がそのスレ違ったモノを目で追い掛ける。

 結構なスピードで地面スレスレの低い所を飛ぶようにだったそれは……交差点の端っこの放置車両にドカンと派手にぶつかり……車の側面を大きく凹ませている。

 

 何事?

 他の皆もそちらを見た。


 車を凹ました張本人がすくりと立ち上がり。

 こちらを向いて小首を傾げる……つぶらな瞳はそのままにニコリと微笑む様にも見えたそれはペンギンだった。

 

 と、背後から叫び声。

 クワッ!

 グワッ!

 ガアガア!

 もう一度、振り返る全員が見たのは。

 集まって来たペンギン達が威嚇する様に口を大きく開いて鳴いていたのだった。


 先頭のペンギンが低く構える。

 腹の白い部分に何か光るモノが集まり……湯気の様な霧を立ち上らせた。

 そして走りだし、小さくジャンプして地面に腹から落ち……その勢いのまま滑る。

 腹這いのロケットの様な勢いのソリ?

 ガーと硬いモノが擦れる音もする。

 

 その向かって来たペンギンを元国王は間一髪で避けた。

 足下の低い所だったので片足を上げて飛び退いた感じだ。


 「今のは……ワシを狙った?」


 「明らかに攻撃よね?」

 マリーも頷いている。


 「あのお腹のは……氷?」

 イナは少し離れて居たのでそれが良く観察出来た様だ。

 「お腹に氷を張り付けて……それで滑って攻撃?」

 疑問系だが、エノにもそうとしか見えないとそんな感じだ。

 

 そしてその二人の声は、驚き呆けて居たエルの意識を取り戻させる働きをした。

 「敵襲!」

 大声を張り上げる。


 コンビニ前の子供達も。

 「警戒!」

 「銃を!」

 「襲撃!」

 蜂の巣をつついた大騒ぎだ。

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