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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
209/233

208 アンの仕事とパト


 湖の林を出て、数時間で王都に到着。

 城壁外の貧民街はまた大きく成っているようだ。

 

 戦争は人を大量に殺す。

 人口が減り、平和に成れば人は増えようとする。

 人口が増えるのと正比例するように産業も発展する。

 誰かの為の何かを作ってもすぐに売れるようになる。

 もう少し余裕が出れば、誰かの為のサービスも発展する。

 それは、つまりは仕事が増えるのだ。

 ……。

 だが、この世界の先の戦争では……死んだのは転生者ばかりだ。

 兵士を転生者で賄ったのだ。

 だから、人工は減らなかった。

 しかし、それでも産業は衰退する。

 買い手も作り手も減らないのに、戦争が消費を拡大した。

 お互いが大量に生産して、それを潰し合う。

 転生者の兵士もその消耗品だった。

 それでも、戦争に勝てれば負けた相手側に賠償を請求できる。

 暫くは負けた国の国民は安い労働力……ほとんど奴隷のようなものとして扱われる。

 経済が破綻したのだから、物価もガタガタで労働者の賃金もそれに会わせて下がるのだから……もう、ほとんど奴隷。

 戦勝国の子供小遣い程度で、労働者が雇えるのだ。

 勝った方は戦争特需ってヤツだ。

 でも、負けた方もそれで仕事にはありつける。

 少なくとも飢える事は無い。

 そのまま暫く、何年か何十年かを我慢すれば、また勝った方の国と並ぶだけの経済も戻ると言うわけだ。

 その頃には……戦争のキナ臭い話もまた出てくるのだろうけど。

 

 しかし、前回の戦争は勝ったも負けたもない。

 お互いが消耗だけして……しかも食い扶持も減らなかった。

 そうだから、食料品からドンドン値上がりして……それは今も続いている。

 高く売れるなら、農作物を作れば良い……とは簡単にいかなかった。

 転生者の兵士は大量に死んでいるのだ。

 誰が広大な畑を守る?

 昔ながらの冒険者達か?

 それらの仕事を奪い、時代遅れにしたのは転生者達だ。

 転生者を奴隷にして、使った者達なのだが。

 奴隷を使う者達は外でのシンドイ仕事はしたがらない。

 いまだに机仕事に固執している。

 汗を掻くのを嫌がるのだ。

 そんな場合でも無いのだけれどね。

 結果、すべての仕事が崩壊した。

 傾いたモノを建て直すのは用意だが……完全に消えて無くなれば一からだ。

 それは相当な難題になる。

 経験者が居ないからだ。


 「貧困層と公務員だけが残るのか……末期だな」

 パトは呟いた。

 どちらも……なにも生産はしない。

 

 その貧困を象徴する町並みを進む。

 町では無いな……テントや木造の適当な造りのバラックばかりだ。

 そして、そこの住人達が、死んだ魚の様な目でこちらを見ていた。

 何かをするわけではない……無気力が体力や意思、感情までもを支配しているのだろう。

 だた見ているだけだ。

 

 その中に見覚えの有る……派手な柄のテントを見付けた。

 三角でナバホ柄の……バルタが気に入っているテントと同じものだ。

 その入り口には、小さな女の子が顔を覗かせていた。

 テントの中に半分隠れる様にして、こちらを伺っている。


 「どうにか……して欲しいのだけどね」

 後ろのカワズが呟いている。


 「それは誰に言っている?」

 パトは後ろを見ずに聞き返した。


 「君でもいいし、ドラゴンでも他の誰かでもいい」


 「なら、時間に祈るしかないな……どうせ、この国はもう一度滅びる。その時に立った新しい統治者に任せるしかないな」


 「滅びるのか?」


 「滅びるだろう……この惨状では」


 「そうか……滅ぼす積もりは無いのか」

 

 「さて、門が見えてきた」

 話を変えたパト。

 王都の街を囲む城壁、その正面の門だ。

 門番も居ない。

 それどころか、閉じる扉もない。

 開けっぱなしだ。

 だが、見えない境界線は有るようだ。

 中に覗かれる小綺麗な町並み。

 ただし、人の気配は無い。

 なので、外側の貧乏人は入るのに勇気が必要だろう。

 入った所で、なにも無いのだが。

 中の町の商店では、パン1つ買えないだろうからだ。

 そのたかがパン一個が、ここの者達には高過ぎる筈だ。

 引かれた線とは……そう言う事だ。


 パトはAPトライクを停めた。

 降りてアンの所に向かう。

 

 その途中。

 「マリーはAPトライクには乗れるだよな? 変わってくれないか?」

 手招きした。

 「ゴーレム化も済んでいるから、ハンドルを握っているだけでもいい筈だぞ」

 まだゴーレム化されていない車両は、一度マリーの転生魔方陣でどこかに送っていた。

 そのゴーレム化をするためだ。

 パトはその車両を始めて乗った時には驚いた。

 殆ど自動運転が可能なのだ。

 ゴーレムはAI以上に賢いと思ってしまった。

 元の世界の日本よりも遥かに優れた技術だ。

 

 「出来るけど……あんたはどうするの?」

 マリーがロバ車の荷箱から降りてくる。


 「ちょっと……アンと用事を済ませてくる」

 アンの前に立ったパト。

 両手を揃えて前に出す。


 「今は勤務外だ」

 アンはパトにそう告げた。

 

 「なら、後ろに乗ってもいいか?」


 「これは……1人乗りだ」

 モンキー125のタンクを叩いたアン。


 「そうか……ペトラ!」

 ダックス125に乗っているペトラを呼ぶ。

 「バイクを交換してくれ」

 アンの乗るバイクを指差して。

 ペトラのバイクを指差した。

 ダックス125は2人乗りが出来る。

 少し長めのシートも付いていた。


 「良いけど」

 チラチラとパトとアンを見ている。


 「あなた達は……私の家で待ってて」

 アンは子供達にそう告げた。

 「前のパトの家だから……場所はわかるでしょう?」

 ついこの間もそこで会った場所だ。


 「どこかに行くの?」

 ルノーftの砲塔ハッチから身を乗り出しているオリジナル・バルタが聞いた。


 「何処か……か」

 パトはアンを見た。

 「警察署か?」

 まさか、そのまま留置所か刑務所では無いだろうと予測。


 しかし、その予測は外された。

 「先ずは王城だ……ドラゴン王がパトを呼んでいた」

 交換されたバイクに股がったアン。


 頷いたパト。

 「わかった……会いに行こう」

 そのままダックス125の後ろに股がり、両手をアンの腰に回す。


 「チョッと待って」

 マリーが大きく声を出す。

 「ドラゴンに会うなら私も行くわ」


 ん?

 眉を寄せたパト。

 「何か用事か?」


 それには少し口ごもるマリー。

 だが、後ろのカワズが代わりに答えた。

 「私が用が有る」

 

 「カワズを送っていくのよ……あと、あの男が王城に居る筈だから、その迎えよ」


 あの男?

 少し考えて……思い付く。

 元国王か。

 成る程……カワズと鉢合わせすれば喧嘩に成ると言う事か。

 いや、喧嘩で済めば良いが……元国王はカワズを殺したがっている。

 理屈はどうあれ、どうにも許せないらしい。

 前の戦争もそのせいで起こした様なモノだし……それほどなのだ。

 

 「そうか」

 まあ、仕方が無いと頷いたパト。

 「では、残りの者はアンの家だな」


 「私達も行く」

 バルタが大きな声を出した。

 

 「お前達は、用は無いだろうに」


 「私が約束したの……ドラゴンにお友達を紹介するって」

 ペトラが叫んだ。

 「だから、全員で行かないとね」


 「そう、ペトラのお父さんにまだ挨拶してないの」

 ヴェスペ自走砲の上から、オリジナル・エルも叫ぶ。

 「だから……全員」


 ふーん……と、大きく鼻を鳴らしたパト。

 出来るならここで別れたかったが……でも、ドラゴンに上手く誤魔化して貰うかと考えた。

 たぶん先に会うのは俺に成るだろう。

 そして、すぐに別の場所に移動させられる。

 広い王城なら、別れるのと同じ事に成るだろうから大丈夫だと……納得して、頷いた。

 「わかった……途中までは一緒に行こう」

 

 「出すぞ」

 アンも、その答えに頷いて。

 ダックス125のアクセルを捻った。

 パトを背中に乗せて……ユックリと進み出す。

 

 走る王都の町並みは、2年前と変わらない景色だった。

 いや、変わったのかも知れないが……パトにはそう感じたのだ。

 懐かしい……と。

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