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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
207/233

206 それぞれの白兵戦

 

 音を立てずに動くヴィーゼ。

 木の影から草影へ。

 即席で修理した槍を両手に持っての移動。

 ハダカデバゴブリンの気配は360度、何処でもだ。

 前の奴か?

 右の奴か?

 それとも左か?

 チラッ……チラッと視線を走らせていると。

 後ろから突然に肩を叩かれた。

 体が無意識にビクリとはするが……驚く事はしない。

 私の背後に気付かれずに立てるのはバルタだけ。

 そのバルタの手が、顔の横に付き出された。

 指しているのは前のハダカデバゴブリン。

 それはバルタが殺ると言う事だ。

 なら……私はと右を指差した。

 バルタの手が肩に触れて引っ込められる。

 それが、了解の合図だった。

 背後のバルタが消える。

 ほぼ同時に前方のハダカデバゴブリンの気配に生命感が無くなった。

 「はや……」

 ボソリと呟き、右に走る。

 姿勢を低く……草の隙間から槍を突く。

 手応えは背中の骨。

 ハダカデバゴブリンは仰け反り、盛大に悲鳴を上げた。

 その反り返った首にもう一突き。

 致命傷は与えたが即死はさせない。

 さっきと同じだ、また仲間を集めて貰おう。

 後ろに下がり……草の影に伏せる。

 

 ガサリとと音がして……三匹のハダカデバゴブリンがやって来た。

 左に居た一匹と……後方に居た二匹だ。

 そのうち、一番近い奴に下から槍を突き上げる。

 残りの二匹が気付いて、私を見下ろす。

 「ばか」

 そのハダカデバゴブリンを下から笑ったやった。

 同時に脳天をナイフで刺されて一匹が倒れた。

 バルタが木の上から落ちてきたのだ。

 残った一匹は、私が下から……バルタが横殴りで刃を立てる。

 

 「何匹やったの?」

 バルタに聞いてみた。


 「さあ……数えて無いけど」

 不意に顔を横に向けて。

 「数で比べるなら……私は負けているわね」

 その方向でM24柄付き手榴弾が三つ……連続で爆発した。

 

 「あああ、三姉妹ね」

 ヴィーゼもそりゃそうかと頷いた。

 私もバルタも接近戦の狩りに関しては、単独での行動が基本だ。

 だけど犬耳三姉妹は三人で協力して、敵を追い込む。

 大量に集めて。

 走らせて。

 疲れさせて、からの攻撃。

 そんな感じだから、武器は選ばない。

 今ならstg44突撃銃とM24柄付き手榴弾で派手にやるだけだろう。

 私達と遣り方は正反対だ。

 鼻で見付けて音で追い立てるんだから。


 

 エレンは走り続けていた。

 林の中なので、バイクでは無くて二本の足でだ。

 後方には爆発した火薬の臭いに草木が焼けた臭いに、ハダカデバゴブリンの死んだ臭いが立ち込めている。

 肉の焦げた臭いと、爆発で破裂した内蔵の臭いに、吹き出す血の臭いだ。

 それと……音。

 アンナとネーヴが派手な音を立てている。

 銃を横にして草を叩いている音だ。

 それはハダカデバゴブリンに私達の存在を教える為。

 音に気付いてこちらに向かって来るものは私が撃ち殺す。

 音に驚き逃げるモノは追い掛けて、誘導する。

 よい感じの場所まで運んだら、さっきの要領で纏めてドカンだ。

 

 エレンは前に数発の弾を打ち込んだ。

 こちらに敵意向けたモノを、適当な狙いでバラ弾を流し込む。

 stg44突撃銃のクルツ弾でも簡単に倒れてくれる。

 皮の鎧を着ていても、所詮はハダカデバゴブリン。

 奴等はその名の通り、毛も無い皮膚がそのままむき出しで、柔らかくシワだらけの体だ……防御力は皮の鎧だけで、他は無いに等しい。

 風呂にも入らず、着たまんまだから……臭くてたまんない。

 お陰で居場所は丸わかりなのだけれど。

 

 逃げた敵を見付けた。

 そのまま追い掛ける。

 すると、その奥に居たモノも逃げ始めた。

 ハダカデバゴブリンの繋がる力のお陰で、そのへんは楽だ。

 逃げたいと思う意識も伝播するのだから。

 後ろの二人も左右に散開し始めた。

 これから集団を作ってそれをコントロールするためだ。

 右に走ったアンナが銃を撃った。

 バラける敵を逃がさない為だ。

 

 左後方に居たネーヴが前に出てきた。

 集団を右に曲げる。

 そちらにもう1つの集団を見付けたからだ。

 最初に見付けたのはエレンだが、ネーヴは自身がまだ見付けていなくてもエレンの行動で先読みした。

 その動きには指示を出す言葉も要らない。

 それはアンナも同じで。

 他の娘が見付けても私もそうする。

 エルフやハダカデバゴブリンみたいに繋がる力が無くたって、私達ならそれを簡単に出来るのだ。

 それでも無線を使う事もある……その場合は、私達以外の誰かに聞かせるため。

 お互いの場所と行動の確認の為だ、安全の為。

 フレンドリーファイアーは嫌だからね。

 で、今回はその必要は無い。

 集団で狩るのは私達とゴーレム兵くらい……バルタやネーヴは単体での狩りなので、場所も方法も被らない。

 ゴーレム兵は此方を撃つことも無いだろうからダイジョブだ。

 彼等は、相手に先に攻撃させる。

 硬い体だから出来る技だ。

 

 ピンと音が右側からした。

 アンナがM24柄付き手榴弾の底の安全ネジを抜いたのだ。

 その音を聞いてネーヴもM24柄付き手榴弾を用意し始めた。

 前方には30匹弱のハダカデバゴブリンが逃げ惑っている。

 そろそろかとエレンもM24柄付き手榴弾を手にした。

 走りながら安全装置のキャップをねじり、出てきた紐を右手の小指に絡めた。

 

 最初に投げたのはアンナ。

 続いてエレンが投げた……上に振り上げて横から回す様に投げる。

 少し遅れてネーヴも投げた、少し集まりが悪いと感じたのだろう……時間差だ。

 ドカン! ドカン! ……ドカン!

 

 結果の確認はせずにまた次を探し始める。

 走る事は止めずに永遠と終わるまで繰り返すのだ。

 私達の遣り方は足を止めた時点で終わる。

 止まった時が最大の弱点に為るのだ。

 だから動き続ける。

 走り続けるのだ。




 イナとエノは焚き火の明かりを背にkar98kを構える。

 タヌキ耳姉妹の武器は目だ。

 暗闇でも遠くを見通せる視力。

 明るさもほんの少し有ればいい。

 今晩の月明かりなら十分すぎる。

 それでも焚き火の明かりを背にするには、別の理由が有った。

 ハダカデバゴブリンの数が多いから、その明かりを見付けて集まって来たヤツを待ち伏せするためで。向こうが私達を見付ける前にこちらが見付けて、撃ち抜くのだ。

 

 パンと左手に居たエノが銃を撃つ。

 イナはそれを聞いて、視野を広げた。

 エノが銃口を下げてボルトを引く間に、その範囲もフォローする為だ。

 と、右手の木と木の間……少しだけ空いた隙間にハダカデバゴブリンを見付けたイナ。

 銃をほんの少し動かして狙いを定めて、引き金を引いた。

 同時にエノの銃口が水平に構えられるのが見えたので、急いでボルトを引き上げる。


 ここはそんなに忙しくは無い。

 犬耳三姉妹とゴーレムが前の出て、派手に暴れて敵を引き付けてくれて。

 そこから溢れたモノをバルタとヴィーゼが確実に数を減らしてくれる。

 それでも漏れたモノの数は、もうたかが知れていた。

 実際にほとんど敵が来ない。

 何時もの感覚なら、もう少し来てもいい筈なのにと考えたイナ。

 そして、思い当たる。

 今回からは、ゴーレム三人娘達が居る。

 たぶん最前線のど真ん中で暴れているに違いない。

 そう確信して頷いた。



 ゴーレム・バルタは歩いて居た。

 場所は林を出てすぐの草原。

 傍らにはクモゴーレムが着いてくる。

 

 そしてまとわりつくハダカデバゴブリン。

 それを掴んで握り潰す……頭をや首をパキリとだ。

 

 剣や槍で斬ったり突いて来たりもしたが、それも手で掴んでへし折る。

 体を叩きたいなら叩けばいい。

 私には痛くも痒くも無いのだから。

 あ、傷は着くか……後でペトラかアマルティアに修繕して貰おう。

 

 ハダカデバゴブリンも焦れたのか纏めて捕まえに来た。

 集団で囲まれて全員で押さえる?

 「無駄な事を」

 腕を振り回して力で振りほどくのでもいいが、どうせならとM24柄付き手榴弾を取り出して、足元に転がした。

 股の間で爆発する。

 私は少し焦げたが……ハダカデバゴブリンどもは全員が吹き飛んだ。


 「あああ」

 少し離れた位置で暴れているゴーレム・エルが首を振っている。

 「無茶して」


 「別にたいした事でもないでしょう?」

 

 「体はそうだけど……服が」

 抱き着かれたハダカデバゴブリンにルガーp08を押し当てて弾いているゴーレム・エル。


 それを言われて、自分の姿を見下ろしたゴーレム・バルタ。

 確かに服が焼け焦げてボロボロだ。

 「でもさ」

 ゴーレム・バルタはゴーレム・エルを指差して。

 「エルだってボロボロじゃない、掴まれて引きちぎられている?」


 自分で確認したゴーレム・エル。

 「失敗した」

 首を横に振って。

 「ヴィーゼみたいに裸に為っとくんだった」


 そのゴーレム・ヴィーゼはもう1つ前で暴れていた。

 stg44突撃を逆さに持って、ストックの部分で殴り倒す。

 

 「銃なんだから……撃ちなさいよ」

 エルは笑って言った。


 「近いんだから殴った方が楽じゃん」

 ヴィーゼも笑って気にしない様だ。

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