205 ヴィーゼの散歩
夕食の肉をたらふく食って、お腹パンパン。
オリジナル・ヴィーゼは自分のポッコリと出っ張った腹を擦った。
傍らに見える湖には綺麗に月が反射して写り込んでいる。
王都に住んで居た時には、何度か来たことの有る場所だ。
パトはこの場所を気に入っている。
私も好きな場所だ。
皆も同じ筈。
だからか、その顔も楽しそうだ。
犬耳三姉妹はまだ肉にがっついていたし、タヌキ耳姉妹はその肉を少しづつつまみながらに肉を焼いている。
エルとバルタは、パトと微妙な距離を開けて座り楽しそうに話をしていた。
本当は二人とももっと近くに行きたい筈なのに、変な我慢が見える。
クリスティナの様に、普通に後ろから抱き着けばいいのに、別にパトはそれでも怒らないと思うよ。
なんの我慢なんだろう?
アマルティアとペトラとマリーは、食事を終えて。
良くわかんない話をしていた。
魔法がどうたら……魔方陣がなんとか。
ペトラ以外は真剣な顔だが……でも楽しそうにはしている風に見える。
ゴーレム娘の三人は、ペトラのコンクリート・ゴーレム達と騒いでいた。
どの魔石が美味しいか?
そんな話らしい。
これは全くわからない。
魔石に味が有るとも思えないのだけれど……それを燃料としているゴーレム達には違いが有るのだろう。
ローザはアンと一緒だ。
アンがバイクを指差しているので、たぶんその話なのだろう。
修理……ではないか。
まだ壊れる程には乗っていないから……なら改造の注文?
と、見ていると。
他のバイクや戦車も指差している。
なるほど……たぶんだけど。
ゴーレム化の相談だと思う。
アンのバイクとサイドカー付きと、パトが気に入っていたダックス125はゴーレム化されていないから、それをして欲しい……ってところかな?
ゴーレム化……あれは確かに便利だ。
ほとんど自動で勝手に動いてくれる。
最近ではルノーft君も呼べば来るもん。
なんだか子犬みたいな感じだ。
……。
と、ローザとアンはマリー達の所に歩いて行った。
そして、バイクを指差して話はじめている。
マリーは頷いて風呂敷を引っ張り出した。
ペトラもダックスを指差して騒いでいる。
あれもあれもと言っているのだろう。
もう暫く、ペトラはダックスだからだと思う。
さて、パトは……カワズと話をしていた。
クリスティナがパトの膝に乗って座って食事をしているから、たいした話はしていないのだろう……雑談?
パトの目線は側で、肉片をつついているクリスティナの鳥達と、ペトラの動物達に向いている。
ペトラのガラガラヘビの親子もクモもナキウサギにカエルもそこに一緒に居た。
カエル? あれも使役していたのか……と今更な発見。
ペトラの動物達は何時も何処かに隠れているから、良くわからないのだ。
と、地面が持ち上がり……モグラが顔を出した。
そう言えば……あれもそうだ。
飼い主に似たのか……みんな自己主張が小さい。
ってか、性格が暗いのか?
おとなし過ぎるって事でも無いと思うけど。
……いや、あの子達の元から性質か。
飼い主に似たんじゃ無くて……類友だ。
ペトラは、隠れる事を好む動物を選んで使役しているのだ。
モグラの掘った穴にカエルが潜り込んでいる。
ヘビの子供達がモグラになにかを話しかけている。
あれは、たぶん……自分達にも穴を掘ってくれと頼んでいるのだ。
で、パトはその生き物達を見ては、楽しそうに話している。
ふう……と、大きく息を吐いたヴィーゼ。
擦っていたお腹もこなれた様だ。
おもむろに立ち上がり……服を脱ぎ始める。
「もうひと泳ぎしよ」
音も立てずに水面を足で割って、そのまま水中へと消えた。
暗い水中で漂う様に泳いで居たヴィーゼ。
時折、水面に顔を出して呼吸。
エラは無いけど、結構長い時間潜って要られる。
昼間の暑い中での水中も気持ちいいけど。
夜の冷たい水もまたいい。
月の光だけが届く湖底も、淡く濃淡のマーブル模様を作り出す。
その岩陰や朽ち掛けた流木の裏には魚が寝ていた。
目が閉じない魚だけど、ジッと見居ると不意にこちらに気付くのか驚いてビックと体を震わせて逃げていく。
ただ寝起きは相当に悪いラシイと笑うヴィーゼ。
ソーッと手を伸ばせば簡単に掴めそうだ。
魚の種類も結構多い。
イワナやヤマメも居る。
カワムツ? タナゴ? フナ。
マスにナマズ。
パトが好きなブラックバスも居た。
バスは大きいから食べこたえが有るのだ……ムニエルにすると美味しい。
ただ、臭いのが難点だ……そこは上手に処理をしないといけない。
上手く出来ない時とか……面倒な時なら香草での蒸し焼きだ。
まあ……今はいらないけど。
もう既にお腹一杯だし……と、バスを見ていると。
突然にハッとした顔をした。
私に気付いた? でも、起こす様な事はしていないのだけれど……と首を捻る。
そのバスは私にも気付いて気にしている素振りだが、もっと別の何かを探っている風でも有る。
湖の外……水面の上の様だ。
ヴィーゼもつられて気になった。
なんだろうと体を浮かせて、ソッと水面から顔を出した。
途端に銃声が聞こえた。
「なに? 襲撃?」
慌てて岸に泳いで戻る。
陸に上がると、タヌキ耳姉妹がkar98kで焚き火を中心に周囲を警戒している。
その奥では、パトやアマルティアのゴーレム兵がマリーとカワズを守って居た。
「どうしたの?」
ヴィーゼが声を上げると。
「ハダカデバゴブリンよ」
イナがそう叫んでstg44を投げて寄越した。
「戦車は大き過ぎて意味無いから、それで応戦して」
「数は?」
stg44突撃銃を拾ったヴィーゼが二人に加わった。
「沢山」
今度はエノが答える。
「他の皆はそれぞれバラけた」
バルタは耳で敵を見付けて。
犬耳三姉妹は鼻で探り。
……。
「あれ? クリスティナは?」
「今は戦車に隠れてる」
そこに無線の音が聞こえた。
イナが代表して無線機を取る。
私は裸のままなので……無線機も何も無いから横で聞いた。
「ハダカデバゴブリンだけ……他は居ない」
声はクリスティナだった。
上を見上げると、コノハちゃんが飛んでいる。
「ねえ、槍かナイフは無い?」
私が聞くと。
「槍は無いけど包丁なら有るわよ」
エノが肉を捌いていた包丁を二本渡して来た。
銃を返して代わりに受けとる。
「じゃあ……行ってくる」
両手に包丁を握ったヴィーゼが……音もなくその場を駆け出した。
林の中……音を立てずに移動するヴィーゼ。
まずは見付けた一匹目。
身長は1mと少し……始めてクリスティナと会った時と同じくらいだ。
そして、ボロボロの皮の胴鎧を着込み手には短い錆びた剣を持ったヤツだ。
ハダカデバゴブリンは魔物のくせに武装をする。
それでも弱いのだけれど……人よりチョッと強いくらいだ。
頭も悪いし、夜目が効くくらいで後は人と変わらない。
ただ……エルフと同じで繋がる力を持っている。
一匹が得た情報を皆で共有するのだ。
だから、すぐに囲まれる。
「まあ……バカだからそれでも関係無いけど」
ヴィーゼはスーッと背後に回って、包丁で首を切り裂いた。
喉から笛の様な音と泡の音が混じった感じの音を立てる。
「ほら……あそこにも居た」
ハダカデバゴブリンの断末魔の音に反応して、別のヤツが顔を上げた。
「わざと音を立てさせたのに……その意味がわかんないだから」
クスリと笑って伏せて隠れる。
音に釣られたヤツが近付いて来た。
胴鎧と短い槍を持っている……先の刃の部分は錆びてしまい、ただの棒と変わらない。
「手入れくらいすればいいのに」
その槍のハダカデバゴブリンの前に飛び出した。
短くても槍は懐に入られれば振り回せない。
ヴィーゼは腰だめの包丁を横にして、心臓めがけて付き出した。
深く刺さる包丁。
「しまった……勢いを付けすぎた」
苦い顔で笑う。
深く入り込んだ包丁が抜けなく為ったのだ。
仕方無いと槍を奪って。
残った包丁を刃の部分にくくりつける。
紐はハダカデバゴブリンの皮の鎧を留めていたヤツだ。
皮の紐でベルト代わりだったのだろう。
「適当なやつら」
そのヴィーゼも適当に作った簡易な槍を持って、次の獲物を探す。




