203 カワズの技術
ヴェスペ自走砲の上から顔を出したクリスティナ。
「見付けたよ」
北西を指差して。
「ワニっぽい……恐竜? でも手足は長い感じだね」
「大きさは?」
「あんまり大きは無い感じ……でも群れているよ」
「オッケイ! 見て来るよ」
犬耳三姉妹がそちらに向けて加速した。
「たぶんプレストスクスだな」
無線で聞いていたパトが呟いた。
「三畳紀後期の恐竜で肉食だったな」
「ここらに居るとなると……餌は虫か」
カワズも答える。
「虫の魔物もデカイ奴は大きいからな……十分に食料に成るんだろう」
「見付けた! 群れは12匹で全長は5mから10m」
無線から聞こえたのはエノの声だった。
モンキーのサイドカーでも125ccはやはり速いようだ。
犬耳三姉妹のモンキー50zを追い抜いている。
「今日の夕食は決まりだな」
パトは笑った。
しかし、すぐに真顔に戻り。
「さっきの続きだが……エルフに転生ダンジョンでは、結局はエルフが喜ぶだけでは無いのか?」
「気付いた?」
カワズは笑って。
「だからダンジョンに少し細工をしたんだ……いや違うのか、細工をしなかったかな?」
「よくわからんが……どっちなんだ」
「いつもは、転生者には命に関する罪悪感を感じない様にするための魔方陣を足していたのだけれど……さっきのダンジョンではそれはしていない。ってこと」
「魔方陣の細工……か」
「だからあのダンジョンの転生者は……良くも悪くも都会の日本人そのものって感じだね」
「日本人はダメなのか?」
首を捻って疑問に思う。
「虫や細菌やバイ菌を極端に嫌うし、生きた生き物を捌いた経験は魚くらいがせいぜいだろう?」
カワズは子供達が走り去った方向を指差して。
「それだと……あんな風に狩りは出来ないだろうから。たぶん苦労すると思うよ、受け入れた方のエルフ達が」
「全員が全員……そうは為らないだろう?」
「まあ……そうだろうけど、結構な人数がそうなると思うけどね」
少し肩を竦めて。
「実は結構大事な事なんだよ、この異世界で生きるにはね」
「一応は意味が有る魔方陣だったってことか」
「最初にそれを言い出したのは君なんだけどね」
「俺が?」
「はじめて仕事を任された時に、魔方陣の書き方を教えてくれたのが君だから」
「記憶に無い……最初の俺って事か」
「まあ……どちらにしてもだ。暫くはエルフも戦争は出来ないよ。軍隊を持つ事にすら抵抗を感じる様にも成るかも知れない」
「9条ってヤツか」
「それを変えようとしただけで、相当な抵抗に為っただろう? 元の世界の日本では」
「確かに……ニュースには為っていたな」
「エルフの繋がる力は、結局は意識が解け合い1つに成ろうととするから……転生者の思想も思いも感情すら取り込んでしまうから。やっぱり嫌がらせには成っているだろう?」
「成る程ね……でも、いい感じの嫌がらせだ」
頷いたパト。
「奴等……争い事は大好きだからな」
「ついでに逆恨みと思い込みと合わせて……シツコイ」
笑ったカワズ。
「確かにだ」
ドン! と、砲撃音が遠くで響いた。
これは、ルノーftの新しい方の音だ。
金属の擦れる音も混じっている。
「仕留めた様だな」
パトは話をそこで切り上げて……音のした方向に加速した。
草原を走るAPトライク。
それに着いてくるロバ車……マリー達が乗っているヤツと荷物が乗っているヤツだ。
最後にモンキー125のアン。
それ以外はとうに魔物に向かっていた。
その日の夜は、草原の真ん中でキャンプに成った。
中央の焚き火の横には、ワニっぽい恐竜のプレストスクスは腹を割かれて、内蔵を綺麗に処理されて積み上げられていた。
「結構な数だが……食いきれんだろうに」
パトは少し呆れ気味に苦笑い。
「余った分は、ジュリアさんの所に送るから大丈夫」
肉を焼く準備をしていたイナがニコリと笑う。
「なんなら時間凍結を掛けてくれたら腐らないし」
スープの準備のエノがカワズを見ながらに言った。
「おお……それは確かにだ」
パトもカワズを見る。
「ついでだから、その魔法のやり方を教えてくれ」
「難しくは無いが……君が覚えるとヤヤコシイだろう? 触れるだけで解除してしまうのに」
「ふーん」
考えたパト。
「簡単なら、他の誰か」
チラリとタヌキ耳姉妹を見た。
「その子達には無理だよ」
カワズはキョロキョロと探して。
「ペトラ、来て」
と、手招きの混ぜて呼んだ。
だが、それを止めたのはマリー。
ペトラの腕を掴んで。
「ダメよ、ペトラには凍結解除をさせるんだから!」
その目は金に眩んだ感じに見える。
当のペトラは苦笑い。
「まだダンジョンで仕事をさせる気?」
「チョッと待った!」
遅れて飛び込んできたのはローザだった。
誰かに、今の話を教えられたらしい。
「そのスキル……解除の方を私に教えて!」
「あ! そうね私にも教えて」
マリーもその手が有ったかと自分を指差した。
「うーん」
困った顔のカワズ。
「二人にもヤッパリ無理だね」
「どうしてよ……確か時間凍結解除は出来る人も稀に居るって聞いたよ」
ローザが食い下がる。
「たまにダンジョン産のとかが売られていたりするものね」
マリーも同意。
「そんな魔方陣も有るらしいけど……それは複雑過ぎて私には理解出来ないんだよ。実際に凍結解除が出来る人は相当に修行と研究をしたみたいだし」
「なんでよ!」
二人揃えて叫んで抗議。
「なんでって言われても、元から有る能力を介在した方法しか知らないし」
パトとペトラを順に指差した。
「結局は……二人だけって事」
ガッカリと項垂れた二人。
「わかったよ……なら時間凍結の方に制限を着けよう。そうすれば二人にもどちらも出来る様には成るから」
「右手で時間凍結解除で、左手は時間凍結って感じ?」
ペトラが聞いた。
「いや、それだとヤヤコシイから……うーん」
考え初めて。
「時間凍結の方は魔方陣を使おう」
頷いて。
「マリー君、小さな魔石は有るかい……出来るなら魔素を使い切ったヤツがいいのだが」
「有るわよ……ゴーレム娘達が食べ残したヤツ」
肩に掛けた小さな黄色い鞄から、透明に成った魔石を取り出して前に出す。
マリーの小さな手の平の上で転がる大きさ。
それを受け取ったカワズは、もっと小さくと剣の束のお尻で叩き……砕く。
小指の先程の大きさの石を二つ用意して。
「これくらいでいいかな?」
今度は、メモと万年筆を取り出して、魔方陣を描きはじめた。
メモにはやたらと細かく複雑な魔方陣。
そのメモの上に先程の砕いた魔石を乗せて、魔法を発動させた。
「なにしてんの?」
何やら騒がしいのが興味を引かれたのかオリジナル・ヴィーゼもやって来た。
「魔石に魔方陣をコピーしているんだよ」
カワズが丁寧に教えてやる。
それを聞いてフムフムと頷いた三人……マリーにローザもだった。
「ローザはともかく……マリーもこのやり方は知らなかったのか?」
パトが驚いて聞いた。
「知るわけ無いじゃん……こんなの」
目はジッとカワズの手元を見たまま。
「魔石に魔方陣をコピー? そんな発想すら無かったわよ」
「これは、結構古い遣り方なんだけどね……もうスッカリ廃れちゃったけど」
「ほう……便利そうだけど何故に廃れた?」
何が便利かはわからないが、とにかくそう言っておくパト。
「魔方陣が細か過ぎるし、使う魔素? 魔力も多いからね」
「確かに……古い感じの魔方陣だ」
マリーは頷いていた。
「今の簡略化した魔方陣ではダメなの?」
「簡略化する為にはサイズを大きくしないと、干渉してショートしてしまうんだよ。だから、最近の魔方陣は大きなサイズで地面に描くとかだろう?」
「マリーは布に描いて持ち歩いて居たね」
ヴィーゼの感想。
「あれも確かに大きいか」
頷いたマリー。
「成る程……ね」
「流石は生きた化石って所だな」
パトは笑う。
「知識が豊富な大賢者って風には成らないのかい?」
「長生きした結果なんだろう?」
肩を竦めて。
「まあ、どっちでもいいんだけど」
と、話を終わらせた。
もう、理屈には興味は無い。
出来上がったモノを貰うかナニかをするのでじゅうぶんだ。
それはペトラも同じらしい。
とっくの昔にソッポを向いていた。
これで蝶々でも飛んでいれば……そちらに歩いていくかも知れない感じに為っている。
ヤヤコシイのは興味の有るモノ達だけでやってくれ。
パトもそんな感じだった。




