001 魔物狩り
暫く休んでいたのですが、また書き始めようかと思いましてのコレです。
面白そう。
応援したい。
そう感じてくれたなら評価を着けて戴けると作者はまた調子に乗ります。
おだてる積もりでポイントを戴ければ、ドンドンと続きを書いてしまいます。
何卒……宜しくお願い致します。
では、また暫くの間のお付き合いを……。
今は梅雨の晴れ間。
いや……ここは異世界なのだから、雨季の雨と雨のその間と言うべきか。
スカッと晴れた青空とは程遠いが、それでも雨が落ちてくる気配は無いと……そんな感じだ。
その草原に巨大な恐竜が居た。
背中に大きな帆。
口はワニの様に尖り。
太い後ろ足二本で立つそれは……スピノサウルスと思われる。
それが低い声で吠えて威嚇しているその先には……小さな戦車が砲を向けて停まっていた。
ルノーft-17軽戦車だ。
乗り込んで居るのは、猫耳娘のバルタとイタチ娘のヴィーゼだった。
バルタ・ザール16才で黒色のヒラヒラのワンピースを着ていた。
ヴィーゼは8才で紺色のセーラーだ。
二人ともに頭には似合わない、第二次世界大戦中のドイツ軍のヘルメットを斜めに辛うじて引っ掻けている。
小さな頭にはサイズが合わな過ぎるのだった。
「今度はチャンと当ててよ」
運転席のバルタは左右のレバーを握り込みながらに背中越しにヴィーゼに声を掛けた。
「わかってる……動かないでよ……」
ルノーft-17軽戦車の戦車砲、ピュトーSA18……フランスの第一次世界大戦の時代の半自動垂直鎖栓式閉鎖機の3.7cm砲。
ヴィーゼは、そのライフルをズングリムックリにした様な形のそれの後方の防御板に右肩と体を預けて左側の照準レンズの覗き込んでいた。
そして……砲の閉鎖機下のグリップとその前に有るトリガーに力を込めた。
ルノーft-17軽戦車の砲がドンと音を立てて車体事揺らす。
放たれた砲弾は……スピノサウルスの右頬を掠めて、ソコから後方の何処かに飛んでいった。
「外したぁ……」
ヴィーゼの情けない声。
「もう」
バルタは唇を尖らせてアクセルを踏んだ。
スピノサウルスが戦車、目掛けて突進してきたからだ。
それほど頭の良くない恐竜でも、何度も砲で撃たれればそれは攻撃だとは気付く。
そして、それが目の前でチョロチョロとしていれば怒りもするだろう。
低い咆哮を上げての全力疾走だ。
体長20mを越える巨体。
速さも相当に有る。
一方のルノーft-17軽戦車。
第一次世界大戦のフランスのルノーが造った、全周旋回砲塔を備えた世界で最初の戦車らしい戦車。
それ以降の戦車の基本形となったものだ。
つまりは戦車の元祖。
その当時はあくまでも歩兵支援の為のもの。
当時の戦争は掘られた塹壕から、銃を突き出して撃つ。
お互いがそれだから、常に睨み合い。
それを打開する為の兵器、その答えが戦車だった。
だから、その速度は後方に続く歩兵の走る速度と変わらない。
それよりも速ければ……歩兵を置いてきぼりにしてしまう。
それでは意味は無かったからだ。
第二次世界大戦に成れば戦車同士の撃ち合いに為るのだが、まだそんな設計は想定されていない。
本来なら遅いのだ。
速度は草原の様な不整地では時速10kmも出ない……筈なのだが。
バルタの操縦するルノーft-17軽戦車は猛スピードで加速した。
フロントを持ち上げて、塹壕を越える為の尾橇を平らな地面に押し当ててのダッシュ。
ルノーft-17軽戦車では有り得ない光景だった。
その理由は至極簡単。
エンジンが載せ変えられているのだ。
この戦車の設計から50年後のメルセデス・ベンツのエンジンにだった。
排気量も少し上がっているが、馬力は10倍程も違う。
元のエンジンは4500ccなのに40馬力しかないのだから50年の進歩は格段だ。
そして、サイズも小さくコンパクトに成っている。
全ての効率が上がっているのだ。
もちろんメルセデス・ベンツだ……ミッションはオートマチック。
トルクコンバーター型、いわゆるトルコン。
なのでその馬力差でのギアチェンジは不要に成っている。
アクセルを踏めば踏んだだけ走るのだ。
とは言っても……時速で100kmを越えると言う事は無いのだが。
そんなのは履帯で走る戦車には無理がある。
高速で回転する履帯が暴れて外れるだけだ。
いったんスピノサウルスから距離を取ったルノーft-17軽戦車。
それでも突進してくるスピノサウルスに砲を向けて停止する。
もう一度、砲撃をしようと狙いを定めて居るのだ。
だが……その暇は与えては貰えなかった。
走り来るスピノサウルスの速度が速いのだ。
「早く撃って」
バルタの叫び。
スピノサウルスのサイズも重さもルノーft-17軽戦車よりも上だ。
それは体当たりでもされれば吹き飛ばされるか……良くても転がされるは必至。
それでも一応は硬い戦車だから歯も爪も防いではくれるだろうが……横に成って動けないんじゃあ、後は閉じ込められるだけだ。
サッカーボールの様に蹴り転がされれば、中の人間も唯では済まないとも思われる。
それが理解出来るからのバルタの焦りだった。
戦車砲の先が微妙に揺れる。
迫るスピノサウルスの上体が走るそれで微妙に上下に揺れるので、狙いもそれに合わせる様に定まらないからだった。
「早く」
もう一度バルタ。
そして、ドンと咆哮。
戦車の砲から火が吹いた。
今度の砲弾は……掠りもせずに何処かの明後日の方向に飛んで消えた。
「当たらない」
ヴィーゼの泣きそうな声。
「もう……」
バルタはまたアクセルを踏んだ。
その動き出したルノーft-17軽戦車とスピノサウルスの間に小さなバイクで割って入る者が居た。
草原の草葉の影に隠れて居た三人の娘。
犬耳三姉妹のエレンとアンナとネーヴだ。
長女のエレン・ジョンズは白色に赤線の入った子供服のセーラーのワンピースに、背中には赤色のランドセルを背負っている。
次女のアンナはそのセーラーの線が青でランドセルも青。
三女のネーヴは黄色だった……ランドセルは黒なのだが、それに黄色いカバーが掛けられていた……本人は黄色いランドセルを欲しがったのだがそれが無かったからの妥協案だった。
そして、三人共に年は三つ子なので同じ13才。
三人は少し離れた草葉に寝転がりルノーft-17軽戦車の狩りの様子を伺って居たのだ。
それぞれの傍らには、小さなバイクを転がしてだった。
そのバイクはホンダのモンキー。
1997年のダンジョンで手に入れたそれは、一型前の50ccの原付きだ。
この異世界でのダンジョンは、また別の世界からの空間が転生して来たモノだった。
そして、それは主に地球の何処か。
日本が多いがヨーロッパも在る。
それぞれの時代と空間が切り取られて、コチラの異世界にコピーされるとダンジョンに成る。
町の一部が転送されれば、そこには建物もその中に有るものも……そして、人も含めてコチラの世界にコピーされる。
なのでそこに居た人達は皆が転生者だった。
そして、それは二種類が存在する。
物の時間が凍結されて動かせないが人は普通に転送されるダンジョンと。
もう一つは逆で、物は動かせるが人の時間が凍結されて石の様に成っているダンジョン。
その二つの違いは転生させた人物の違いだ。
魔王と呼ばれた時間と転生の勇者……河津と言う召喚者がスキルを使えば物が凍結されたダンジョン。
もう一人、河津のスキルに影響された百合子と言う少女が転生させたダンジョンはその逆の人が凍結されたダンジョンが転生される。
どちらも意図的にそうしている様だったが……思惑は各々が違うようだ。
まあ今はそれは良いとしよう。
とにかく日本かヨーロッパの何処かの空間が時代別にコチラの異世界に現れると言う事だ。
だからルノーft-17軽戦車と言う戦車がここに在り。
ホンダのモンキーと言うバイクがここに在るのだ。
そのバイクに股がった犬耳三姉妹はスピノサウルスを牽制するように辺りを走り回る。
速度は時速50km程の事だが、小さくて小回りが効くのか大柄なスピノサウルスを翻弄していた。
三人と言うのも効いていたのかも知れない。
的を絞らせないとそんな感じだ。
そして、時折……銃を撃つ。
stg44と言うそれ、第二次世界大戦中のドイツ軍が使っていたアサルトライフルの元祖だ。
右手のアクセルはそのままで、左手だけでそれを支えて撃っている。
そんなだからかマトモには当たりもしないのだが……しかし、たとえ当たっても所詮は7.92x33mmのクルツ弾。
弾のサイズも小さいけれども威力も小さい。
人に向ければ殺傷力も有るのだろうが、相手が大きな恐竜では致命傷は無理だと思われるそれ。
三人もそれがわかっていての牽制だと割り切っての事の様だ。
ルノーft-17軽戦車のバルタとヴィーゼに任せて居たのだが、どうにも無理そうだと加勢に入ったのだった。
三姉妹の武器はstg44の他にM24柄付手榴弾……これも第二次世界大戦中のドイツ軍の装備品。
それと、対戦車兵器のファウストパトローネ……同じくドイツ軍の使い捨て式の無反動砲。
だがどちらも最大飛距離は30m程のモノ。
M24柄付手榴弾は訓練された兵士が投げれば60m近くは飛ぶのだが……三姉妹は三つ子で13才にしては体の小さな女の子。
しかもバイクに乗りながらでは、飛距離の稼げる柄付手榴弾でもそれが限界だった。
そして、暴れるスピノサウルスにその距離で近付くのは流石に危ない。
もう少し予測の出来る動きなら接近も考えただろうが……突発的に首や尻尾を振られては対処のしようがない。
長女のエレンはそう判断した。
バイクで走りながらにstg44を投げ棄てて、胸に付けていたKENWOODと書かれた小さく黄色いプラスチックの省電力無線を握り。
「エル聞こえる?」
スピノサウルスを遠巻きに横切りながらの事だった。
「聞こえてるわ」
雑音混じりに返事が帰ってくる。
「やっぱり駄目みたい、そこから撃って」
エレンはルノーft-17軽戦車とスピノサウルスを交互に見ながら。
次女と三女のアンナとネーヴは、そのエレンにスピノサウルスが向かわない様にと、目線を惹き付ける様にとバイクで動き続けていた。
「私のヴェスペは10.5cmの榴弾よ……食べる所が半分無くなるけどいいの?」
無線の声は少し緊迫感の薄いノンビリとしたものだった。
「仕方無いわよ! 良いから撃って」
エレンは早口で捲し立てる。
と、同時に砲撃音。
それは丘を二つか三つ越えた先からの音だった。
そして、スピノサウルスの上半身が爆散した。
一撃だった。
自走砲の10.5cm砲の威力だ当たればそれは当たり前なのだが……それを一発で仕留めたのが神業だ。
標的の見えない遠方からの砲撃でだ。
それはエルの持つスキル。
キツネの獣人の能力でだった。
キタキツネが雪に埋もれて見えない小動物をジャンプして仕留める……それの異世界版なのだろう。
大体の位置がわかれば、距離と方角と湿度や風向きまで考慮しての正確な砲撃。
もろんその位置を教える観測者も必要では有るが、それでも凄い能力だった。
そして、観測者はタヌキ姉妹のイナとエノ。
格好はダンジョンで見付けた、何処かの学校のセーラー服にイカツイく濃い色のサングラスを掛けている。
二人はスピノサウルスとエルのヴェスペの両方が見える一番に高い丘の上に無線機を手に立っていた。
彼女達もまた特殊な能力を持っているのだ。
条件付きだが、それは類い稀な視力だった。
そのキツネ娘のエルは10才でピンクのヒラヒラのワンピースにそれを隠す様にして赤色のスカジャンを羽織っている。
タヌキ姉妹のイナ・サバーカは長女で13才。
エノは次女だ、双子のなで年は同じ。
そして、服はミニスカートとセーラー服、色はどちらも真っ白。
彼女達のそれらの服は異世界ダンジョンで拾ったモノだ……だいたい1990年から2020年前後の日本の一部をコピーされたダンジョンだった。
そして、もちろんルノーft-17軽戦車に乗っているバルタやヴィーゼも特殊な能力を持っていた。
今回はそれが、少し噛み合わなかっただけ……。
まあ……主にヴィーゼのワガママに依るものでは有ったのだが。
因みにだが、犬耳三姉妹にも特殊な能力は有る。
タフで怪我に強い体がそうだ。
多少の怪我なら嘗めていれば治る……そんな能力だ。
後もう一つ……犬の獣人だからか鼻が効くと言うのも有った。