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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
196/233

195 それぞれの戦闘


 その頃、ゴーレム娘達三人は犬耳三姉妹のもう1つ奥の通りを走っていた。

 クモゴーレムの六本足が思いの外幅を取り、狭い道では動きに制限されると成ったからだ。

 小さなバイクのモンキー50zとでは、どうしても走り回れる差が有った。

 なので、わかれて別の道。

 でも、出来るだけ離れない様にはしていた。


 ゴーレム・バルタが先頭で、敵のbt-7軽戦車を発見した時。

 右側から音がする。

 連続したファウスト・パトローネの発射音に戦車に当たった音。

 これらは犬耳三姉妹の攻撃の音だ。

 同時に見ていた敵戦車が停まった。


 それ以前から履帯が地面を擦る音は聞こえていたので、前が詰まったとわかる。

 エルフは狭い市街地戦闘なのに、戦車を固めて運用していたのだ。

 なぜそうなのかは……たぶんだが戦車を守る歩兵が居ないからだろう。

 エルフの繋がる力は、繋がろうとする者はわかる。

 しかし、ここにはそれ以前の転生者が何処かに居る。

 息を殺す微かな音はバルタにも聞こえて居るのだが……場所までは特定出来ない。

 エルフも……感じたわけでは無いのだろうが、見たか聞こえたかかして大量の人が居るとわかって警戒していたのでは無かろうか?


 転生したての者には攻撃力も……たぶん意思も少ないだろうけど。

 それはエルフでは判断が付かなかったと思われた。


 それでも無防備に戦車だけを動かして居たのは、ハッチさえ締め切れば大丈夫との目論見……私達の存在は計算外だったのだろう。

 だから単純に人数に押し負ける歩兵は出さずに戦車だけ。


 でもそれは私達にはチャンスで有利に運べる。

 実際に犬耳三姉妹は奇襲に成功していた。

 

 ゴーレム・バルタはルノーftから外したプトー砲を構えた。

 台座の無い状態でも無理矢理力で支える格好だが、ゴーレムの体はそれを可能にしていた。

 だてに戦車を持ち上げられるだけの力を持っているわけではないのだ。

 これくらいは楽勝だ。

 ただ照準器は無いので狙いは勘頼み。

 それならそれで当たる距離にまで近付けば良いだけの事。


 ニヤリと笑ったゴーレム・バルタは引き金を引いた。

 ドンと跳ね上がるプトー砲。

 同時にbt-7の砲塔横を撃ち抜いた。

 威力の無いプトー砲でも鋼入り新型高速鉄甲弾なら近付けさえすれば21mm以上も抜ける。

 bt-7の砲塔横は13mmだから楽勝だ。

 

 そのまま意識をクモゴーレムに任せて自動で走行。

 ゴーレム・バルタはプトー砲の尾栓を開けて空の薬莢を手で抜いて、新しく詰め直す。

 その間。

 クモゴーレムはスルスルと敵戦車の後ろを登って降りた。

 もう一度の攻撃。

 今度は後ろ向きに反り返っての発射。

 抑えの効かない無理な姿勢だとわかって居るので、低い位置を狙った。

 結果、当たった場所は履帯を転がす転輪の1つを破壊した。

 

 そのほぼ同時。

 ゴーレム・ヴィーゼがクモゴーレムを誘導して、bt-7の後ろエンジンの上に乗り上げさせて……2cmゾロターン戦車砲を連続で真下に発射していた。

 ドンドンドンと10発を連続発射。

 分600発の能力そのままに……10発入りマガジンの全部を連射。

 bt-7のラジエーターに穴を開けて、ブシャーと白煙の様な水蒸気を吹き出させていた。

 戦車の中の人間はどうなったかは知らないが……戦車そのものは完全に無力化出来た筈だ。


 2cmゾロターン戦車砲を撃ち切ったゴーレム・ヴィーゼはそのまま離脱。

 後ろに続いて着いてきた。

 マガジンの交換は手間なので、今は移動に専念するらしい。


 そして、最後のゴーレム・エル。

 倒した戦車には見向きもせずに、その後ろの戦車に向かって8cm,sgrw34迫撃砲の砲弾だけを直接に投げていた。

 近い事も有って爆風がクモゴーレムとゴーレム・エルを焦がして居る。

 その爆煙でどうなったかが見えないが、流石に正面を向いた戦車……チラリと見えた感じではこれもbt-7だと思う。

 倒すべき目の前の戦車に集中していたから、いまいち自信は無いがそう見えた。

 を、倒したとは思えない。

 迫撃砲の砲弾はデッカイ手榴弾みたいなもので爆発で回りを吹き飛ばすのだが。

 戦車の鉄の板を撃ち抜けるには爆風だけでは無理だからだ。

 まあ、エルもそれはわかって居る筈。

 目眩ましの為に投げたのだろう。

 お陰で敵の攻撃を受けずに済んだ。


 「いったん三姉妹と合流しましょう」

 そのゴーレム・エルが爆風の煙を掻き分けて飛び出し、前の二人に向けて大きく叫んだ。


 元から一撃離脱の積もりだったので、バルタもヴィーゼも頷いて。

 交差点の向こう側の道に走り込んで、そのまま加速した。

 後ろからの攻撃は、壊れた戦車を退かさ無いと砲を向けられる所に迄には進めない筈。

 

 何輌かの戦車は壊れた戦車に挟まれて、暫くは身動き出来ないと思う。

 その前の戦車は動けるし、後ろの戦車も戻れば良いだけだけど……分断には成功している。


 ゴーレム・バルタは無線機を掴んだ。

 「間の詰まった戦車! 狙える?」

 聞いた相手はヴェスペ自走砲だ。


 「見てた……20秒頂戴」

 返事を返して来たのはイナ。

 ダンジョンの外……崖の上から観測していたラシイ。


 時間が掛かるとは、たぶん狙って居たのが先頭か後端の戦車だったのだろう。

 砲の微調整か、少しの移動で解決すると言う事だと思う。


 ドン! っと音がして……背後で大きな爆発音が響いた。

 大きく背の高いビルを避けてだから、ほとんど真上から落としたのだろ。

 距離の割に発射音と着弾音の間が開いている。

 

 もう一発の発射音。

 落ちた所は同じ場所。

 目一杯の速度で連射している様だ。


 


 ヴェスペ自走砲のオリジナル・エルは大きな声で叫んでいた。

 指示を出す相手は自分が使役しているミスリル・ゴーレム。

 一体が砲弾を抱えて砲に押し込む。

 次の一体が代わって発射薬を押し込む。

 それを確認して別の一体が砲尾栓を閉じる。

 そのガチャンと言う音を聞いてオリジナル・エルは引き金を引いた。

 ドン! っと発射音。

 すぐに尾栓を開けて発射薬の燃えカスを確認。

 そして、また砲弾を突っ込む。

 5体居るうちの3体はそれ。

 残りの2体は砲弾と発射薬を用意して、バケツリレーの様に前に差し出す役だ。

 

 「どう? 当たってるでしょう?」

 オリジナル・エルは通信士席に座るクリスティナに、興奮した感じで聞いた。

 半分は自慢も混じっている口振り。


 「うん、凄いね」

 耳を両手で塞いだクリスティナはその自慢に答えてあげた。

 出せる限界の大きな声を出す。

 

 「まだまだいくわよ」

 誉められた事に調子に乗るエルは叫ぶ。

 唇の端が浮わついている。


 単純と、それを見ていたクリスティナは……突然に動きを止めた。

 そして、何かを気にして通信士席から這い出して来て外を見る。

 見ている方向は……ダンジョンの外周の片方の外側。


 「なに? どうしたの?」

 オリジナル・エルは手と指示は止めずにクリスティナに聞いた。

 

 「見えないけど……何か来る」

 慌てて其処らに投げていた魔方陣の描かれたヘルメットを被った。


 それを見たエル。

 「エルフが来るのね」

 慌てて砲撃を止めて叫ぶ。

 「エノ! あっち」

 クリスティナの見た方向を指差して。

 「何か来る!」


 APトライクの屋根の上に立ってダンジョンを覗いて居たエノ。

 エルの声に反応して、そちらを向いた。

 「土煙?」


 「どうしたの? 見えないの?」

 APトライクの運転席に居たイナが聞いた。


 「土煙は見えるけど……いまいちハッキリとわからない感じ」

 エノはそれでも精一杯に目を凝らして居た。

 

 そこに走り寄ってきたエル。

 手には双眼鏡。

 「これで見てみて!」

 精一杯に背伸びをして手を伸ばしてソレを差し出した。


 「有り難う……」

 双眼鏡を受け取って……もう一度そちらを見るエノ。

 そして、眉を寄せて……渋い顔で言った。

 「エルフの戦車だ……たぶんM5スチュアート」

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