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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
195/233

194 犬耳三姉妹は接敵機動


  ダンジョンの底に降りて、辺りを見渡した。

 背が高いビルはヴェスペ自走砲の射線を大きく邪魔している。

 曲がりクネッタ道は、戦車の射線も制限していた。

 つまりは、出会い頭にドカンの接近戦だ。

 

 パトは犬耳三姉妹を見た。

 バイクに跨がり、アクセルを煽っている……何時でも行けると自分とバイクに気合いを入れているのだろう。

 恐怖を音と振動で誤魔化しているのかも知れない。

 武器はstg44を肩から斜めにぶら下げて。

 腰に巻き付けたベルトにはM24柄付き手榴弾が幾つも刺さっている。

 そして、背中のランドセルの横にファウスト・パトローネの一本が刺さっていた。


 「ここでは……お前達が一番に強いかも知れない」

 犬耳三姉妹に告げるパト。

 「でも、それは一番に危険だとも言える……わかっているな? 無茶はするなよ。単独で動くな!」

 少し鋭い視線で睨み。

 「確実にシトメろ……お前達のターゲットは戦車だ」


 「普通の人間……転生者が出てきたら?」

 エレンがパトを見ずに……前だけを見ながらに聞いた。


 「邪魔だと思ったら撃て」

 

 「わかった……優先は戦車だね」

 アンナも頷く。


 「優先の順番は自分で次に戦車だ……後はその二つが邪魔されるなら排除だ」


 「おっけー」

 ネーヴも小さく呟いた。


 「よし……索敵開始だ」

 クリスティナに告げるパト。


 頷いたクリスティナは空を見る。

 もう既に三羽の鳥達は飛び回っていた。


 「私達は?」

 聞いてきたのはゴーレムの三人娘達。


 正直……能力の総てがわかっているわけではない……が、オリジナルと同じだと考えるなら。

 「三姉妹のサポートを頼む」

 ゴーレム・ヴィーゼが目で敵を探し。

 ゴーレム・バルタが耳で索敵。

 ゴーレム・エルは敵との距離だ。

 それ以上の事が出来るなら……三人、各々に任せるのが良いだろう。

 「それと……やれると思った時は遊撃だ」


 頷いた三人。

 「じゃあ……行こうか」

 ゴーレム・バルタが動き出した。

 それに、他のゴーレム娘も続く。

 一歩遅れて、犬耳三姉妹もスタートした。


 「イナ! エノ! ヴェスペ自走砲の位置を決めるわよ」

 オリジナル・エルが叫ぶ。

 

 頷いたタヌキ耳姉妹はクリスティナに注文。

 「高台で見通しの良いところは無い?」

 

 「一番に高い所は、真ん中だけど射線は難しいと思う。砲撃で狙うなら、反対側の高架道路だけど……そこはエルフが入ってきた場所だから」

 唸って考えて。

 後ろを振り向いた。

 「いっそのこと……ダンジョンの外は?」

 入ってきたスロープを指差した。

 「外の広い所を動いて射線を見付ける方が良いかも知れない……敵は直接見えないけどイナとエノがサポート出来るでしょう?」


 「りょうかい」

 APトライクのタヌキ耳姉妹を先頭に戻り始めた。


 少し眉を寄せたパト。

 それを見たアマルティアが言った。

 「護衛は私がするわ」

 ロバ車から半分のゴーレム兵だけを下ろす。

 「上からでも下のこの子達を動かせるし……いざと為ったら。上のゴーレム兵と入れ換える」

 意識だけで動かすのだから、そこは自由自在なのだろう。

 なかなかに便利な能力だ。


 「私は?」

 マリーが聞いた。

 自分は戦車相手に戦える能力は無いとでも思ったのだろう。

 

 「消耗品の補給を頼む」

 パトはアンをちらりと見て。

 「俺とアンで守るから心配はするな」


 「マリーの護衛なら私達が出来るよ」

 手を上げたのはペトラ。

 「コンクリート・ゴーレム兵にはあんまり機動力が無いから、丁度よくない?」

 

 走るだけなら二本足のゴーレムも人と変わらないって事か。

 ロバ車で移動するなら、一塊でも有る。

 「わかった、取り敢えずはその形で移動しよう」

 状況が変われば、その時々だ。


 そして、全隊の移動が始まった。

 

 「もうエルフと全面対決か?」

 アンがポツリと呟く。


 「構わないだろう?」

 パトが笑う。

 「最後の責任……その結末は決まっているのだし。それは変えられない」

 チラリとアンを見て。

 「違うか?」


 大きな溜め息を吐くアン。

 「その責任の大きさは変わると思うが?」


 「もうじゅうぶんに大きいだろう? これ以上は膨らんでも同じだよ」


 「その責任って……なに?」

 横からマリーが聞いた。

 ロバ車の荷台の上からだ。


 「さあ」

 笑って肩を竦めるパト。

 

 アンはそれを見て苦笑い。

 「暫くは見てみぬ降りだけはしてやる」

 

 「有り難い」

 

 


 先頭を進む犬耳三姉妹。

 「どっちに行けばいい?」

 バイクで走りながらに、前方の交差点を見る。

 上にはマガモ兄弟のドッチカが飛んでいた。


 「真っ直ぐ……3つめの交差点を斜め右」

 

 ここのダンジョンの交差点はどれもがいびつだった。

 ピッタリ90度は珍しく思える程だ。

 「方向感覚がオカシク成りそう」

 眉を寄せるが……クリスティナの目が有るからそれを信じるだけだと、アクセルは緩めない。


 「ルノーftは1個めを右に曲がって」


 鳥達は確実に見えている。

 だから斥候は任せればいい。

 私達は敵に近付く接敵機動と……その先に有る遭遇戦だ。

 交差点で大きく膨らみ右に車体を傾けて走り抜けた犬耳三姉妹達。

 

 その遭遇戦は唐突に始まった。

 敵の位置はわかっている。

 場所も教えて貰っていた。

 しかし、進んでいた道は細く、上下左右にグニャグニャと曲がり次の交差点が見えなかったのだ。

 別段、坂や曲がりが急だったわけではない。

 単純に犬耳三姉妹の身長が低かっただけ……バイクのモンキー50zもシート高も低いし、敵が近いと頭も低くしていた。

 なので、随分と見通しが悪かったのだ。


 歪んだ形の道の幾つかの登りが終わった時。交差点が坂の下に見えた。

 その距離はソコソコ近い。

 そこに左のビルの影からM4シャーマン中戦車が現れた。

 まずは砲の先が突き出し。

 次に車体の前面が出てくる。

 戦車が進んでいる方の道は広い様だ。

 

 前半分が見えた時……エレンは決断した。

 「倒すよ……」

 無線は握らずにファウスト・パトローネを背中から取り出す。

 そして、微妙に速度を調整する。

 敵戦車が通り抜けた後ろを横切る為だ。


 その行動は後ろの二人にも理解できた様だった。

 無線や声がなくても見ていればやりたい事はわかる……と、二人もファウスト・パトローネを左片手でぶら下げる。

 

 ファウスト・パトローネを撃つには両手が必要だけれど……モンキー50zは半分はゴーレム化されている。

 両手を放しても、ソコソコは適当に走ってくれるのだ。

 それに曲がるはバイクは体重を傾けるだけだし……コントロールは出来る。

 練習はした。

 下半身でしがみつくだけだ。


 「ネーヴ!」

 先頭を走るエレンが叫んだ。

 戦車が近付いたのだ。

 まずは最後尾のネーヴに撃たせる。

 ファウスト・パトローネは前に攻撃するモノだが、後ろにも被害を出すのだ。

 10mか15mも離れて居れば大丈夫なのだけど、それでも後ろから吹き出るバックブラスの白い煙と炎は怖い。

 ファウスト・パトローネを片手にではそれよ避けるのも難しくなる。

 出来なくは無いがワザワザそんな難しくする必要は無い。

 

 ブシュウとメチャクチャ大きな音を立ててファウスト・パトローネの弾頭が横を掠めて戦車に当たった。

 ガキン! と、ガン! と、バン! が混ざった音だ。

 場所は砲塔のど真ん中だった。


 「次は私!」

 アンナが叫んだ。

 すぐに発射。

 それは同じ戦車の後方のエンジンを撃ち抜いた様だ。

 

 エレンは自分のファウスト・パトローネを下げる。

 左手一本で腹の前に横にして、交差点に飛び込んだ。

 左右を素早く確認。

 撃たれたM4シャーマン中戦車は動かない。

 その前にも居たM4シャーマン中戦車は動いてはいたが、砲を180度後ろに回すには時間が掛かる。

 それ以前に後ろの戦車が殺られた事にも気付いていないかも知れない。

 

 問題は後ろに居た戦車だ。

 急停止して砲塔を回し始めている。

 攻撃には気付いた様だが……しかし、此方の位置は正確にはわかっていないだろう動き……完全に慌てた感じだ。


 交差点を敵戦車の間をすり抜けて横切る形に成る犬耳三姉妹。

 エレンは腹に横に構えて居たままのファウスト・パトローネの発射ボタンを押した。

 狙ってはいない。

 だけど、これだけ近ければ外れる方が難しいと決め込んだのだ。

 まあ、走り抜けるスピードも有るので狙う暇などは端から無かったのだけれど。


 ブシュウ!

 発射音と同時に撃ち終わった空のパイプを投げ捨てる。


 敵戦車がどうなったかの確認はしない。

 それよりも逃げるのが先。

 戦車と戦車の間を縫うように抜けて、交差点の向こう側の道に飛び込んだ。

 そのままアクセル全開だ。


 「やった?」

 少し離れた位置まで来て後ろに確認。


 「前面のトランスミッションは潰したと思うよ」

 最後方を走っていたネーヴは見ていた様だ。


 「了解……補給ね」

 三人はそのまま走り続けた。

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