193 ファウストの罪と責任
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ショッピングモールのスロープの所まで移動した。
丁度良い感じにスロープに元の世界の地面が接している。
スロープの方は斜面だが、斜めに入れば問題ない感じだ。
「まるでここから入ってくれと言わんばかりだな」
パトはバイクを進めた。
本の小さな段差は有ったが気にもならない。
「ロバ車も一緒に?」
アマルティアが聞いた。
「一旦は下まで下ろそう」
頷いたパトは続けて。
「戦闘に直接やくに立たなくても、敵がダンジョンの中だけとも限らないだろうから……近い方が守るのも楽だ」
「エルフが外にも居るって事?」
「エルフ以外にも、ここはダンジョンだからな別の驚異も有るだろう?」
「魔物とか?」
マリーが聞いた。
「それもだが……たぶん一番の驚異に成りそうなのは、転生者だな」
「逃げているだけなのに?」
転生されて直ぐではなにも出来ないとは思うのだけど? と、そんな顔。
「人はパニックに成れば……何をするかはわからんぞ」
「武器も……無いじゃない」
一瞬つまったのはスキルもと言いたかったのだろう。
「武器なんて、そこらに落ちている鉄パイプでもじゅうぶんだ。探せば包丁だって有る」
「そんなものに?」
殺られないでしょう?
「善良な顔をして近付かれれば……油断もすると思うけど?」
「でも……私達を襲っても……」
話を途中で奪い。
「カワズを見た者は、少しでも妙な格好をしていれば敵だと思うんじゃないか? それにコチラには武器も有る。奪おうと考えてもおかしくはない」
肩を竦めて。
「女子供しか居ないから組みやすいとも思えるだろうしな。エルフの戦車や兵士達と違ってだ」
考え始めたマリー。
まだ、それでもとでも言いたいのだろう。
「こちらに転生した時点で、殺人に罪悪感も抵抗も感じない様に為っているんだ……魔物と同じだぞ」
だめ押しの一言。
「転生者を見付けたら……殺すの?」
マリーはジッとパトを見た。
「俺は……カワズほど慈悲深くは無い」
首を振って。
「この世界で生き延びる為に地獄を見るのも……それは他人事だ」
「地獄って……」
「運と能力が無ければ、なんの伝も無い……それどころか人間とさえ認めて貰えないかも知れない場所で、平和ボケした日本人に生きる術は無いだろう」
苦笑い。
「下手に誰かに自分が転生者だと話しただけでも魔物として討伐されるか。奴隷にされるかだな」
「魔物って事は無いでしょう?」
「そうだな、たぶん奴隷だろうな」
「もう奴隷もダメなんでしょう?」
「奴隷は違法だが、それを告発する者が居なければわからない事だからな。転生者はこちらの世界に家族も知り合いも居ないのだから……まあ国民では無いからな。好きに出来るさ」
パトはダンジョンの向こう側を見て。
「大半はエルフの奴隷かな? 女子供だけだろうけど」
「男は?」
「戦えない兵士は必要ないだろう? 肉体労働もエルフの領土では足りているだろうし……成り損ない? だったか?」
エルフから産まれて繋がる力が無かった者達の事だ。
自分の子供でもエルフで無ければ平気で捨てる。
そんな者達が肉体労働や下級兵士に成る。
もちろん第二次世界大戦当時の転生者は奴隷兵士にはピッタリだし、それも大量に居た。
日本人の男にはナンの価値もない。
戦えないし体力も無いのだから。
仕事を与えようもない。
「女子供……だけ」
「オモチャには使えるからな……生かしておく意味も有る」
「オモチャって……」
マリーは獣人の子供達を見た。
この世界の獣人だってそうなのだから……そう成るしかないのもわかるけど。
「地獄でも生きてはいられる……死が数年延びるだけだろうけどな」
「殺されるって事?」
「オモチャだからな、大事にされなく成れば勝手に壊れるだろう?」
とても嫌な顔に成ったマリー。
「慈悲をくれてやるなら……」
パトはルガーp08を差し出した。
眉をしかめて受け取るマリー。
「体は小さくても力は有るだろう?」
ゾンビなのだから……は、言わないが。ハンドガンぐらいなら軽く扱える筈だ。
「殺せって……事?」
「それを決めるのはマリーだ」
残念ながら正解はわからない。
ただ……元の世界に戻った方が幸せに成れる。いや、少なくとも不幸に成る確率は下がるだろう。
ただし、それには死を体験する事に成るが……でも、それも一度だけの事だ。
その死の体験が、最大の不幸って言うなら……もう、どうしようもない。
そうなれば転生そのものがダメに成る。
しかし、転生を辞めれば此方の世界が死ぬ。
生きるのに必要な魔素を補充出来ない……確保出来ないからだ。
それは、所詮は此方の世界が紛い物で有るからなのだけど……でも、それでも、人は生きている。
此方の世界の住人も、もう既に各々の人生も有る。
紛い物の世界でリアルに生きているのだ。
なので……極端な解決策は、以前に元国王が企んだ事。
此方の世界を完全に潰してしまう事だ。
全部の人間を殺すこと。
生きるモノが居なくなれば世界を維持する必要も無い。
そして、ユックリと時間を掛けて……大元に成った思念体の、なにも無い世界に戻すのだ。
大地どころか空間も時間も無い世界にだ。
さて……そのどっちを選択するかだ。
パトは唸り考える。
しかし、此方の世界を創った大元はパトだ。
ファウストと呼ばれた俺なのだから……その責任は有ると思う。
つまりは此方の世界の存続が……俺の意思だ。
だが、他の考えも理解は出来る。
でもだ、滅ぼすと言うなら……最大限の抵抗はさせて貰う。
それがファウストの責任だ。
……。
まあ、ファウストの記憶は無いのだから、その実感も無いのだけれど。
ヴェスペ自走砲を先頭に全員でスロープを降りた。
床の固い平らな所では、履帯が滑る事が有るので一番に重い戦車が先に行く。
少し遅れてルノーft軽戦車。
各々にはクモゴーレムも着いている。
糸で繋いで安全確保だった。
そしてロバ車にバイクだ。
タイヤ付きは、スロープ自体がそれ様に出来ているので安心出来るから最後に成った。
そのスロープは完全に横が塞がれている。
外が見えないタイプの緩い曲がりの坂がダンジョンの中に入り込む形で続いている様だった。
この建物のガレージは五階から上だけらしいので……途中に分岐も無い。
ヤハリ……意図的なモノを感じたパト。
ここまで出入りがしやすいのは初めてだ。
カワズは何を考えてここを転生させたのだろうか?
疑問は残るが……今はいい。
楽に降りられる道が有るなら使わせて貰うだけだ。
暫く進み。
2Fの看板を見付けて、それを過ぎた頃。
分岐も無いのに看板とは、日本らしい親切だと笑うパト。
が、先に無線を取った。
「出口付近の索敵は大丈夫か?」
パトが聞いた。
「もうじき地上だぞ」
「音はしない」
オリジナル・バルタとゴーレム・バルタが同時に返してきた。
「探してるけど……敵も見えない」
オリジナル・ヴィーゼにゴーレム・ヴィーゼにペトラもだった。
ペトラがなぜ? とも思ったが。
そう言えばと思い出す。
ナキウサギを使役して、そのナキウサギの能力がヴィーゼと近いモノだったと聞いたのだった。
「鳥達も呼んだ方がいい?」
クリスティナが聞いて来た。
「いや……そのままダンジョン全体の索敵を頼む」
空を飛べるなら上からの見れるのは大きなアドバンテージに成る。
出来るだけ早くに地形を把握したい。
「出口が見えた」
ヴェスペ自走砲のオリジナル・エルだった。
「私が先行する」
ヴェスペ自走砲を糸で支えていたゴーレム・バルタが前に出るらしい。
……。
「音はしない」
……。
ガタガタと響く音が聞こえた。
固いコンクリートかアスファルトを、土塊の固い六本足で蹴る音なのだろう。
「大丈夫そうね」
呟く声。
「みんな……降りてきて」
その声に戦車のエンジン音が答える様に一段大きくなる。
「建物から出て、少し先に左右の道……左はダンジョンの壁に潰されているから右だけに注意して」
ゴーレム・バルタの報告が続いた。
最後のパト達バイクが出口を降りた頃には、出口に一角の制圧が終わっていた。
敵も邪魔も居ないが、索敵はそのまま続けている。
そのメインがゴーレム娘の三人にペトラのゴーレム兵とアマルティアのゴーレム兵だった。
銃を構えて脇に停まっている車の影に隠れつつの目視での確認だ。
「よし……まずは侵入成功だ」
パトは出口の先の道路の真ん中にまで進んで声をあげた。




