192 エルフ軍の本隊
一行は、彷徨いているエルフを気にしながらダンジョンに向かった。
エルフの偵察兵から、一度離れたコノハちゃんもスグに再発見できたのでそのまま追跡させている。
位置的には随分と離れた場所だ。
やはり真っ直ぐ北に向かったらしい。
コチラは西だが……ソロソロ北に向かうか?
ダンジョンがそちらだからだ。
「ダンジョンの西側から入れる所を探そう」
パトが無線で指示。
いまダンジョンの上空を飛んで居るのはマガモ兄弟。
なのでクリスティナは先にダンジョンの形を把握しようとしていた。
もちろん、出入りの出来る場所も探してだ。
「背の高いビルが多い感じ」
マガモ兄弟が見たモノを順に声を出していく。
「東と北に高架道路の端が繋がってる? そこだと高低差はアンマリ無い感じ」
「ダンジョンの底との高低差は?」
聞いたのはパト。
「随分と深いかな? ビルの4階分ぐらい?」
「西には入れそうな所は?」
「この建物かな? ショッピングセンターの一部だと思う」
「一部?」
「大部分は崖で切れてる感じ」
「スロープは残っているのか?」
「それはたぶん大丈夫」
「成る程……そこからか」
「あとは道はどうだ?」
「真っ直ぐな感じじゃないかな……大きい道も細い道も結構グニャグニャ」
「そうなると……関東の何処かか」
「カワズはまだ居そうか?」
「見えないけど……他の人が走り回っているから、居ると思う」
「そうか」
少し考える風な返事だ。
「あ!」
その時、大きな声を出したクリスティナ。
「どうした?」
「エルフ軍がそのダンジョンの方向に移動してる」
「偵察兵か……」
「違う、偵察兵が本体と合流して西に動き始めた感じ。ダンジョンは別の偵察兵が発見したのかな? それも合流した」
「エルフ軍の規模は?」
「シャーマンが5で、bt-7とチャーフィーとスチュアートの軽戦車が合わせて10だから……全部で15だ。他はジープが5とトラックが2」
「軽戦車の内訳は?」
「bt-7が4であとは3と3」
「ふーん……大規模だな」
「ダンジョンに入る積もりだろうか?」
アンが聞いてきた。
「わからん……エルフにダンジョンに入る意味は無いと思うが」
パトが唸っている。
「でも、その規模の部隊をこちら側のこの場所に置いていたのを考えると……なんだかダンジョンを待っていた様にも見えるね」
それまで聞くだけだったオリジナル・エルが声を出す。
「確かに……それだけの規模なら、こちら側の人間に見咎められる可能性も大きく成るから、エルフ軍にしては大胆だと思う」
アンもその意見に頷いた。
流石にそれは観光や旅行とかの言い訳も出来ないだろう。
下手をすれば戦争でも始めるのか? と、見られて当然の規模だ。
「昨日のは……パト達を探して居たんじゃ無いんだ」
オリジナル・ヴィーゼが呟いた。
「そうかも知れんが……でも、それだとダンジョンに向かう理由がわからないな」
パトはまた唸った。
「わかんなくても良いじゃない?」
マリーが話に加わり。
「こちらの用事はダンジョンじゃ無くてカワズでしょう? だったらダンジョンはエルフ達に任せてカワズだけを呼び出せばいいんじゃないの?」
「そうだな」
パトは少し笑った。
「エルフが何をしようがどうでもいい事だったな」
「でも、エルフは本当にダンジョンに入るのかな?」
オリジナル・ヴィーゼの意見ももっともだ。
「ダンジョンの位置だけを見に来たとか? そんな感じの事は無い?」
「かもしれないが……そこは様子を見よう」
パトは納得して。
「それだと、意味も無く大部隊をこちら側に寄越した事に成るから、また別の問題が有るのだが」
アンは唸り出す。
「それは、後で調べればいいじゃない……目的がダンジョンじゃ無いなら、本当の目的が果たせる迄はここに居るでしょう? 王都に帰ったら警察軍を動かせば?」
そのマリーの意見をもっともだと頷いたパトはアンにも頷けと促した。
「そうだとしても俺達にやりようがない……まあ彼奴等を殲滅しろと言うならそれなら出来るが?」
パトが方眉を上げてニヤリと笑った。
「それは……やめといて欲しいな」
アンは苦笑い。
「わかった、そのカワズだけを呼び出そうか」
大規模なエルフ軍とパトを会わせれば絶対に戦争を始めるに決まってる。
どっちも我慢できないと思うからだ。
てか……はじめから殲滅とか言っているし、よけいにだ。
マリーの言う通り……ここはスレ違うのが正解らしい。
それが一番に平和だとも思う。
納得したアンの顔を見たパトは無線機で。
「と言うわけだ……クリスティナ。カワズを探してくれ」
先ずはクリスティナに指示を出し。
「俺達はダンジョンに出来るだけ近付こう」
全員に告げた。
ダンジョンの西側の縁にまで到着した一行。
崖の端からダンジョンの中を覗く。
「見た感じ……普通のダンジョンだよね」
ゴーレム・ヴィーゼが言った。
オリジナルの方は戦車の中で待機だ……一応はエルフの大部隊が近くに居るのだからと警戒中。
「人も見えないな」
パトも覗いて首を振る。
「カワズの仕事は終わったのか?」
「それ……嫌な言い方」
マリーがパトを睨む。
「理由はどうあれ殺人だからね……カワズのやっている事は」
「だが……この世界には必要な事なのだろう?」
「そうかもだけど……そんな合理的に割りきれないわよ」
「わかってる……だから元国王と一緒になってカワズを追いかけ回したんだろうけど。今回は見なかった事にしといてくれ」
それも無茶な注文だとは知っていたパト。
マリー自身がここでは無い別のダンジョンでカワズから逃げて今が有るのだ。
その時はカワズとは直接に遭遇はしなかったらしいが、逃げ惑う人達は見ている。
そして悲鳴と一緒に言葉も聞いたらしい。
殺人鬼だ! とか……魔物だ! とかだ。
そして、カワズが殺した死体も見ただろう。
そんなリアルな自分の体験が有るから、カワズには赦せない気持ちも有ると思う。
……それが、何百年も昔の事だとしても。
忘れる事は出来ない体験だと思う。
そして、そのマリーはわかったとも首を横に振るともしなかったので、クリスティナを呼んだ。
手紙を手渡す為だ。
メモに走り書きだが、内容はカワズを呼び出すモノ。
それを受け取ったクリスティナは真ん中に9mmの弾を三つほど包み込む様にして丸めた。
以前にやった事と同じだと笑う。
そして、それをコノハちゃんに託した。
まだ、カワズは見付けては居ないけど、居るのなら必ず見付けられると信じていた。
コノハちゃんとマガモ兄弟はやるときはやってくれる筈だ。
優秀だもの。
丸めたメモを持ち飛び立つコノハちゃん。
ダンジョンの上を飛び回る。
すると、カワズでは無いモノを見付けた。
「ダンジョンの中にエルフ軍が入ってる……前に言った規模とだいたい同じだと思う」
見たままをパトに告げた。
はっきりと明言出来ないのは、隠れて居ると空からは見えないからだ。
「やはり……ダンジョンが目的なのか?」
「人は殺しては居ないと思う……気にしていない感じ?」
「まあ、そうだろう。転生者が目的とも思えない、転生者はエルフでは無いのだし」
「では……どうしてだ? なにかを探して居るのか?」
ドンと砲撃音がダンジョンから響いた。
「撃っているな……」
「居た……エルフが撃って居る先にカワズだ」
クリスティナが叫んだ。
「エルフの狙いはカワズ?」
首を傾げたパト。
「どういう繋がりだ?」
「カワズが応戦しているけど……剣で戦車を相手にするのは無理じゃない?」
うわ! っと、驚いた顔に成っていた。
「兎に角手紙は渡せた」
少しして。
「返信を貰った」
「返信? カワズがナニかを書いて上に投げたのをコノハちゃんが受け取ったの」
指をダンジョンの上空に向けると。
そのコノハちゃんが帰ってきた。
そして、パトの前に落とす。
丸められたそれは、パトが書いたメモだった。
そして、裏には……「助けてくれ」と有る。
一瞬、助けが必要なのか? とも思ったが、まあ助けてくれと直接に言われたのなら仕方がない。
「戦争を始めようか」
そのメモをアンに渡した。
もちろんアンは苦い顔だ。
「自国民が盗賊だかナンだかに襲われている様だぞ?」
パトはアンを見る。
「しかも国の王のドラゴンの直接の部下では無いのかな? カワズは」
「セカンド……とか言うヤツか」
唸ったアンを横目に、今度は大きく叫ぶパト。
「これよりカワズの救出作戦を行う」
その顔はとても楽しそうに見えたのだった。




