189 懐かしい感じ
うお!
寝てた!
先に出発したのはアルロン大佐の率いる獣人の難民達。
そして残されたのは何時もの子供達とパトにアンにマリー。
それと、ゴーレム・バルタとゴーレム・エルにゴーレム・ヴィーゼ。
アマルティアが残ったので私兵ゴーレム達も居る……ただしこれらは動かすのにアマルティアの意識が必要なので、停止状態でロバ車に乗せられている。
そのロバ車は合計で5つ残されている。
マリーが居るのだから必要は無いのだけれど、一応はだ。
ペトラのコンクリート・ゴーレム兵も5体は残っていた。
どうも他のコンクリート・ゴーレム依りも強烈に自我の目覚めが有るようだ。
あまりにもペトラが頼りないと感じて、我々でお守りせねばと! とかなんとか……半分は冗談なのだろうけど。
その冗談を言えるってことは、それも理解している証だ。
……もう、ほとんど人間族に近くなって居ると思われる。
ペトラはその事には気付いていない様だが……単純に凄い! が、彼女の評価で、そこで止まってる。
ゴーレムは後は乗り物のクモゴーレムだけに為る。
クモバモスは大佐にハンナ達に預けた。
王都に行くのに……あれは目立ち過ぎると思ったのだの。パトがだけど。
こんなのは、絶対に混乱するだろうから駄目だ!
クモバモスに意識はまだ芽生えてはいないけど……ちょっと可哀想に為る言い方だと思った。
まあ、でも……ルノーft軽戦車に二人。バルタとヴィーゼ。
ヴェスペ自走砲に3人。エルにローザにクリスティナ。
犬耳三姉妹は何時ものモンキー50z。
アンはダンジョンで貰ったモンキー125。
パトはナンヤカンヤでローザのダックス125を運転する事に為った……これもダンジョン産だ。
アマルティアは自分のゴーレム兵を運んでいるロバ車だし。
後はペトラとマリーしか居ない……そう考えればクモバモスは大き過ぎるのも確かだ。
あ、普通のゴーレム……ルノーftの後ろのヤツはそのまま。
エルのチョッと特別なヤツも、ヴェスペ自走砲が引いている弾薬車にとに別れて乗っている。
この1体と5体は……もう戦車とセットなのでソコに居て当たり前で誰も数にすら入れていなかった。
「さあ私達も出発しましょう」
ロバ車に乗って張り切って声を上げたのはマリー。
だけど、みんなは動かずにパトを見た。
「チョッと……無視?」
「あああ……行こうか」
パトが声を上げる。
なにかを躊躇して見えたのだが、それよりもこのまま放って置くとマリーが煩くなるとでも感じた様だ。
その場の二人以外の全員は思う。 正解!
そして、何に躊躇したのかはわからない。
アルロン大佐の事だろうか?
パトはダックス125のセルを親指で押してアクセルを煽ってエンジンを掛ける。
音は静かだ。
静かに聞いていると単気筒のポポポポポっとは聞こえる程度。
まあ、戦車2両の音が大き過ぎるってのも有るのだろうけど、でも煩くは無いのは本当。
支えて居る足を組み替えて、左足のギアを入れる。
ガコンっと音がして、車体を微妙に前に振れさせる。
この動きはスーパーカブに似ていた。
同じ円心クラッチなのだからそうなるのだろう。
そして、ユックリとアクセルを開けて……発進した。
そのまま先頭に出る。
向かうのは北だ。
パトの後ろにはアンが着いた。
モンキー125だ。
これも音は静かだ、同じエンジンなのだから早々は変わらないとは思うけど。
でもモンキーの方はクラッチ付きだから……ガコンの音は無い。
もっとスマートにスムーズに発進していた。
次に続いたのはルノーft軽戦車。
こいつは……煩いのは仕方が無い。
いや……エンジンを載せ換えているので、これでも静かに成った方だ。
そもそもが、鉄の塊の履帯が石畳を擦る音が大きいのだから静かに成りようが無い。
ロバ車が続いて、それを守る様にクモゴーレムの
三人。
続いてAPトライクで最後にヴェスペ自走砲。
三姉妹のモンキー50zは前を行ったり後ろに下がったりと自由だった、これは何時もの事なので……やっぱり、誰も気にしない。
随分とコンパクトに成った一行は、速度もそれなりで進む。
一番に遅いのがロバ車に為る。
ロバ自体はゴーレムで実はソコソコ早く走れて体力も無限なのだけど……後ろで引いている2輪のリアカーに問題が有った。
サスペンションの無い状態では、平らなで綺麗な路面でも40kmくらいが限界の様だ。
まあ、綺麗と言っても石畳だし……多少のデコボコも有るからそうなる。
とはいえ、40kmも出ているなら文句も言えないとも思う。
次に遅いモンキー50zでも55kmに少しプラス出来る程度なのだし、何より戦車が居れば本当はもっと遅いからだ。
この速度は他者から見れば相当に速いのだ。
「みんな……随分と大人しいな」
走り出して暫くの所でパトが口を開いた。
見ていたのは犬耳三姉妹。
「この辺は食べられる魔物が少ないからでしょう」
後ろに着いていたアンが笑う。
「成る程ね」
パトも笑った。
「みんな暫く見ないうちにお姉さんに成ったのかと思った」
「2年だよ……もう子供じゃないよ」
エレンが横に来てブー垂れる。
「13才だしー」
アンナはその反対側。
「虫はね……」
ネーヴはアンの言葉を肯定していた。
アンの横だ。
「あ! 北西に魔物を見付けたよ……どうする?」
クリスティナの声が無線から聞こえてきた。
「どうせ虫でしょう?」
一応の返事を返すネーヴ。
「ちがうよ……トリケラトプスだと思うよ。3本角のヤツ」
「! 狩りだ!」
色めき立った三姉妹。
アクセルを全開にして、道から逸れて行った。
「肉だー!」
砂漠の砂塵を巻き上げている。
「2年か……そんなに変わらないか」
笑って居たのはパト。
三姉妹の後を追う様に加速したルノーft軽戦車を眺めつつだった。
「見付けた」
「追い込むよ」
「肉だ」
無線を聞いているだけで、ほとんど実況中継だ。
「だめ! 銃じゃ効かない」
「固いよね」
「やっぱりバルタにか……」
「バルタは打てる?」
「まだだめ……場所はわかったけど射線が通らない」
「じゃあ、もっと加速するよ」
「そっちに誘導するから」
……。
ドン!
一発だけの号砲が響いた。
「やった!」
「しとめた!」
「にくー」
「終わった様だな」
パトは肩を竦める風で。
「みんなで見に行くか」
そう言って、道を外れてそちらに向かった。
後続もそれに着いて来る。
トリケラトプスは地面に横たわって居た。
生きていないとはスグにわかる。
額に大穴が空いていたからだ。
「サイズは……象の三倍くらい? かな?」
アンも到着した。
「なんだか……脂が多そうだ」
「皮下脂肪が多いだろうから、皮は分厚い目に削った方が良さそうだな」
パトも頷いて居る。
「まだ、早いけど……今日はここでキャンプしよう」
「やった!」
「さっそく捌こう」
「新鮮なうちに食べられる」
アンは空を見上げた。
日はまだまだ天辺だ。
でも、まあ……良いだろうと頷いた。
全員が到着して準備を始める。
トリケラトプスは首を落とされた状態で血抜き。
砂漠なので木が無いからとどうしようか? と、迷っていたタヌキ耳姉妹の横に来たマリーが飛空石の魔石を渡した。
「これを後ろ足にくくりつけて空に浮かせれば良いんじゃない」
「なるほど!」
頷いた二人は早速に実行。
飛空石は魔素を放出するか吸収するかで空を飛ぶ。
なので、軽く叩いてヒビを入れればそれだけでも浮力が発生するのだ。
良く子供達が遊んで居るのは、その方法だ。
因みにゴーレム等の重さを調整するときは逆の吸収を使う。
微弱な魔素を吸わせるのだ。
「その飛空石の小さいヤツ無い?」
オリジナル・エルがマリーの横に来て尋ねた。
「これくらいで良い?」
小石サイズを差し出して。
「それでいい」
それを受け取ったオリジナル・エルはテントの中に放り込んだ。
すると、テントは中から持ち上げられて三角の天辺がピント張る。
「この方法……良いでしょう?」
どう? と自慢げにテントを指差した。
「いいね! 私もやろう」
マリーも同じ事をする。
それを見ていたパトが感心した。
「なるほど、そんな使い方もあるのか」
「普通はダメだけど……今は魔石が一杯あるからね」
マリーは笑う。
「でも飛空石は元から安いから方法としては良いんじゃない?」
アンも感心していた。
その時……微妙に風が吹いた。
テントが揺れて……ヘチャげる。
「ぎゃー出して」
オリジナル・エルが悲鳴を上げていた。




