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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
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018 ダンジョン探索開始


 「まあ……限定条件が付くけど車が動かせるのはわかったのだし、良いじゃない」

 マリーはローザにそう告げて、自身は踵を返して荷馬車の方へと歩いていった。

 イナも肩を竦めて、ヴェスペの方へ向かう。


 残されたローザはまだブツブツと言っていた。

 

 「さあ……出発するわよ」

 エルの声が屋内ガレージに響く。

 「ダンジョン探索」


 それに頷いた皆はサラちゃんとその家族に手を振った。

 「じゃあ行ってくるね」

 「お見上げ期待して良いよ」

 「夜までには戻るから、お留守番……御願い」

 口々にの一時の別れの挨拶。

 

 そしてルノーft-17軽戦車を先頭に動き出す。



 ガレージの端……スロープを隊列を組んで下る。

 重い荷車にはブレーキが着いていないので……後方でゴーレムが押さえながらだ。

 馬車でもそうだがブレーキやサスペンション何かが着いているのは途方もなく高級品だ。

 普通に使うそれらに着ける必要も意味も無い。

 そもそもがそんな急な登りや下りの在る場所で使う代物でもない。

 どうしてもという時は……ゴーレムが居なければ、御者とは別の人間が後方で丸太や気の棒等を使い地面を擦りながらにそれをブレーキにするのだ……ただし地面が不整地の場合。

 整地されていれば、馬の蹄に頼る事に成るし、坂の角度もそれを元に造られる。

 が、ここは車が普通に走る世界……馬車の事などは考えてもいない。

 なので少しだけ怖い思いもしなければいけない。

 木で出来たワッカだけの車輪なのだから、コンクリートは平ら過ぎて滑りもするからだ。

 

 「うわ!」

 マリーが悲鳴を上げた。

 荷馬車が横にズレたからだ。

 本来進む方向と違う方に動けば驚くの無理はない。

 「チョッと……もっとしっかりと持っててよ」

 後方で支えているゴーレムに注文を着ける。


 それを後ろで見ていたヴェスペのエル。

 「もういっそのこと滑り落ちてしまえばいいんじゃないの? その方が早いわよ」

 

 そしてそれを横で聞いていたイナとエノは……そのエルを引き気味に見る。

 荷車はエルが持っていくって言い出したのに……と、心の声。


 と、今度はそのヴェスペがズルリと滑った。

 車体が進行方向の斜め横を向く。

 平らなコンクリートは鉄で出来た戦車の履帯も良く滑るのだ。

 「うひゃ」

 エルの肝が縮み上がった。


 「人の事を言ってるからよ」

 震える指を指したマリーがひきつった笑いで。


 「ワシ……車に乗れば良かったかの」

 荷車で冷や汗を脱ぐって愚痴を垂れた元国王。


 そんなこんなで、最後はバイクを除く全ての車両がゴーレムに支えられて下まで……滑り落ちたのだった。


 「ふいい……やっと着いた」

 グッタリと荷馬車の縁に身体を預ける元国王。


 指を指して笑う犬耳三姉妹。

 

 そしてクリスティナは今降りて来たスロープを見ながらにポツリ。

 「これって……また登れるの?」


 「登れるじゃろう」

 慌てる元国王。


 「降りたのだから登らなきゃ」

 マリーの声は少しだけ不安げだ。


 「まあ……登りは下りよりは楽な筈だよ」

 ペトラは楽観的に。


 「ペトラが登れるって言うなら大丈夫なんでしょう」

 アマルティアもホッと息を着く。

 「確か……元は運送業の娘だものね?」

 

 人間としてはそうなのだ。

 今回は運送業を営んでいた家族の元に転生したのだから、馬車や荷車の扱いは慣れたものの筈。

 まあ、根本はドラゴンの娘なのだが……それは転生前の元の元。


 


 下まで降りて、建物の外へ出た一行。

 一息を着きながらに各々が口を開く。

 「さて……先ずは食料の有るスーパー? 食料品店? 探しね」

 「さて……先ずは魔物を探して退治よね?」

 「車屋や自転車屋や修理工場……は、意味無いのか」

 「洋服屋」

 「お菓子」

 「電気屋もよいのう……炊飯器が有れば米が食える」

 「……」

 「チョッとバラバラじゃないの!」

 最後のはエル。

 その怒鳴りに皆の口はピタリと止まった。

 そしてお互いの顔を見る。

 皆は自分の口にした事は、絶対に必要だと譲る気は無いようだ。

 そして、一応は危険なダンジョンの中……では各々で、とは為らないのもわかっている。

 全員がもう一度口を開け掛けた時。

 エルはもう一度叫ぶ。

 「わかった! じゃあバルタに決めてもらいましょう」


 そして皆は頷いてバルタに注目。

 

 ルノーft-17軽戦車のハッチに座り込んでいたバルタは驚いた。

 皆の目が私の意見に賛成しなさいよ……と、圧を掛けてくる様だ。

 「えええわたし?」

 

 「食料品店に行けば……お菓子も有るわよ……ついでにお米が無ければご飯は炊けないと思う」

 フムよ頷いた二人はその提案者とガッチリと握手する。


 残りの者はお互いに顔を見合わせた。

 民主主義の多数決なら負けが確定だ。

 いや……魔物退治組は最初から三人か? しかし末の娘はお菓子や食べ物に引き摺られる可能性が有る。


 服屋と車屋とがタッグを組んで、もう一人を物色し始めた。

 まだ意見を言っていない誰か……その一人でも取り込めばイーブンに持ち込める。

 意見は割れるが……最悪は避けられる。

 それにもし仮に優勢を勝ち取った後には、もう一度協議すれば良いだけの事だ。

 

 さて……どう説得して意見を通すか。

 各々に別れた組はブツブツと協議を始めた……バラバラで。


 「はあ……」

 溜め息を吐いたバルタ。

 これは何時まで立っても先に進めそうにない。

 しかし……自分が独断で決めるのも違う気がする……と、いいわけ。

 バルタにはそもそも決断をするというスキルは持ち合わせてはいなかったのだ。

 頭を悩ませたバルタ。

 優柔不断な解決索を思い付く。

 「とにかく進んで……見付けたモノから順番で……」

 

 三組に別れていた皆がキッとバルタを睨んだ。

 

 えええ……ソレもダメ? 決めないといけないの?

 モゾモゾと戦車に引きこもろうと腰が引ける。


 が、皆はわかったとバルタに賛成した。


 「仕方無いからその先送り案に乗るわ」

 「スーパーなんて何処にでも在るだろうし……先に見付ければ良いだけ」

 「少し不利だったけど……早い者勝ちなら」

 「どうせ魔物はほっといても向こうから来てくれる……ダンジョンの中なら狂暴性も上がっているし」

 ボソリと呟く皆の声はバルタにも聞こえた……耳は良いのだからどんなに小声で内緒話でも聞こえてしまうのだ。

 

 苦笑いのバルタ。

 「じゃあ……偵察を御願い」

 これ以上の揉め事は要らないと、犬耳三姉妹に指示を出す。

 皆の意見はたいした問題では無いと思うのだけど……危険なダンジョンでは意思の統一は必須なのだと理解しているからの、間髪入れずにの行動だ。


 三姉妹は頷いて走り出した。

 建物から出て右か左か?

 バルタは少し迷っていたのだが……バイクが向かったのは左だった。

 理由は直ぐ先に交差点が見えるからだと思う。

 そしてその交差点は右に向かう筈。

 今、背中に建物……そしてダンジョンの端っこの壁。

 壁は丸く円形なのだから……左はヤッパリ壁の筈。

 真っ直ぐ進んでも……道の歪み具合がわからないけど、中心部には向かっていないのは確かだ。

 エレン達なら兎に角突き進む筈なのだから……多分間違いない。


 「行きましょう」

 バルタが運転席のヴィーゼに一声を掛けた。

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