188 パトと王都に行く人?
廃村で一泊した一行。
獣人達はアルロン大佐を中心に移動の準備を始めた。
国の西の端に行って北の端に行く……相当な長旅だ。
とは言っても、これまでの移動と準備は変わらない。
減る荷物は有っても増える荷物は無いからだ。
廃屋から溢れた獣人達がテントを畳んで居たのを眺めていたペトラ。
コンクリート・ゴーレムを集めて新しい指示を出す。
「あなた達は、大佐に着いて行ってお手伝いよ。獣人達にナニかを頼まれたら自分の判断でお手伝いして上げて」
ハイ……っと手を上げた1体のコンクリート・ゴーレム。
「それは無茶な事を言われたら……断っても良いって事ですか?」
「そうです。自分の体が壊れる様な事は断って下さい」
少し胸を張って……無い眼鏡を手のひらの先で整える仕草。
「でも、出来るだけ頼み事は聞いて上げて下さい」
「それは何時までですか?」
また別のコンクリート・ゴーレム。
「そうですね……最終地点の私達の町までにしましょうか」
うーんと考えたペトラ。
「その後は自由です」
「自由とは?」
「何をしても良いって事です」
うーん……と、考え始めたコンクリート・ゴーレム達。
自由の概念が理解出来ないのだろうか?
「では、こうしましょう……私が新しい指示を出す迄は、自分が知っている人間と誰かに紹介された人間のお願いを叶える事」
スイーっとコンクリート・ゴーレム達の顔を確認して。
「有り難うと言われた数を数えておいて下さい、その数で御褒美を上げましょう……どうですか?」
「御褒美ですか……」
それでもいまいちピント来ない様だ。
「とにかく……次に会った時に誉めて上げるって事です」
説明と説得は諦めたペトラだった。
そんな事の出来る上等なコミュニケーション能力は無い。
「わかりました」
頷いたコンクリート・ゴーレム達は各々にバラけて解散した。
「自由ってなんだ?」
「わかんないよ」
「誰か理解出来たモノは?」
適当なグループで各々が雑談しながら歩いて行く。
でも、誰もが首を捻るだけだった。
「ねえ……なんでそんな変な指示を出したの?」
ペトラがコンクリート・ゴーレム達を見送っていると、後ろからマリーに声を掛けられた。
横にはアマルティアも居る。
「だって、パトが王都に行くって言うからそっちに着いて行かないと」
ペトラはマリーに告げる。
「え? そうなの?」
考え出したマリー。
「じゃあ、私もそっちに行くは」
そう言ってアマルティアを見る。
「もちろん私もパトに着いて行きたい」
アマルティアは慌てて答えた。
「そうじゃなくて、ゴーレムに指示は出さなくて良いの?」
「私のゴーレムは市販品に近いからもう譲渡契約してるよ」
指でロバ達を指す。
「主人を決めとかないと動かす魔素が供給出来ないから」
「あああ……そうね」
頷いたマリー。
「最近は特別なゴーレムを見すぎて忘れてたわ」
肩を竦める。
そんな話をしながら、パトの所に向かう三人。
するとパトの回りで数人がもめていた。
「私も着いて行きたいです」
珍しく声を張り上げて居るのはムーズだった。
「だめだ、ムーズにはお願い事をしたろう?」
パトは首を横に振っている。
マリーは側に居たアンに聞いた。
「なに騒いでるの?」
「ムーズ様が私達と王都に行きたいって言い出したのよ」
「ムーズ様?」
「一応は格上の貴族様だから」
笑うアン。
「でもさ、ムーズのベルダン家は元伯爵でアンは現役の貴族だから……それだと現役の方が上じゃないの?」
ペトラは指摘する。
「そうだろうけど……独立自治区を作るとなると、また貴族に成るかもだし」
笑うアン。
「一応は……ね」
「まあ……元貴族とは言っても、戦後は原則的に貴族制度は無くなったのだし。元貴族でも現役だと宣言すれば良いだけだもんね」
アマルティアも頷く。
「今の貴族には、なんの特権も無いのにね」
笑うマリー。
「それでも、自治区と成れば……特権も着いて来そうだけどね」
アンは肩を竦める。
「私家の家業の国防警察軍とかは、有る意味は特権だし」
「成る程ね」
マリーも納得の顔。
「で……もめてるのは?」
話を戻した。
「で、パトがベルダン家に自治区の宣言を頼みたいらしいだけど」
「ああ、成る程……だからムーズに、お爺さんに獣人の町を作る為の伝言を託したって事ね」
頷いたアン。
「良くわかんないんだけど」
ペトラは首を捻っていた。
「お爺さんに独立国は無理でも、町長に成って欲しいって事よ」
アマルティアが小声で教えている。
「町長はパトがやれば良いのに」
「たぶんだけど、これから王都に行ってその自治区の根回しでもするんじゃ無いの?」
「その後に町長はダメなの?」
「時間じゃあ無いかな?」
そこはアマルティアも首を捻る。
「反対が起きるのはわかってるのだし……先に宣言させて、無理矢理に飲ませるとか? それとも既成事実を作ってからの交渉? もしかしたらドラゴンに直接頼むのかも……で、エルフの攻撃前に宣言しとけばおかしな事も出来ないとかかな?」
そんな話がアンの耳にも届いて居たのだろう。
そうなのか? と、頷いて居た。
「大丈夫よ、私達が居るから」
そこにやって来たオリジナル・バルタがムーズを宥める。
「絶対におかしな事にはしないから」
「ん? ちょっと待て」
オリジナル・バルタの方を見たパト。
「お前達も町に戻れ」
「なんで?」
オリジナル・バルタの横に居たオリジナル・ヴィーゼが叫んだ。
「一緒に行っちゃダメなの? 私達は除け者?」
「いや……王都にはアンと二人だけで行こうかと」
「それはダメだよ」
オリジナル・エルもやって来て話に混ざる。
「ここから王都までの途中には竜の背のトンネルも有るのよ! エルフが確実に居るのに……それに指名手配もだし」
「そこはほら、アンも居るし」
「だめ……着いて行く」
ヴィーゼは食い下がった。
「どうしても駄目だって言うなら、私達で勝手に王都に行く」
オリジナル・エルが宣言する。
「元国王の以来も途中だし、それを果たしに行くの」
「依頼?」
パトはマリーを見た。
「王都まで行って、元の町にまで無事に戻るのが依頼だったわよね、たしか」
「そう、もうお金も貰った」
オリジナル・エルは大きく頷く。
「キャンセルは駄目でしょう? そんなの信用問題だし……次から仕事が無くなる
」
「いや、キャンセル料なら俺が払うし……それに、依頼と言っても身内の事だろう?」
「仕事は仕事よ……彼女達の最初の仕事だからキッチリとやり遂げさせないと駄目なんじゃ無いの?」
マリーも追撃の言葉。
自分も着いて行く積もりだから、エルの話には乗っておかないと駄目そうだと感じた様だ。
「それなら……私も」
ムーズまでもが手を上げた。
悩み出したパト。
ウンウンと考えて、導き出したのは。
「わかった、ムーズが町に行く事を説得してくれ」
これはどうにも譲れない事らしい。
オリジナル・バルタは頷いて……ムーズを見る。
見られたムーズは簡単に頷いた。
「わかりました、後はお願いしますね」
オリジナル・バルタに頷いて返したムーズ。
少し目を細めたパト。
「うまく……填められた?」
小さな声で呟いた。
そこにやって来たハンナとタヌキ耳姉妹。
2台のAPトライクに乗っていた。
「もう出発の準備は出来たから、これを渡しに来た」
ハンナがAPトライクから降りてくる。
タヌキ耳姉妹の乗っているゴーレム化したヤツでは無い方だ。
こちらに来てダンジョンで拾った方。
「ああ……もうそれは必要は無くなった」
パトはハンナに向けて手を横に振る。
「この子達の戦車にのせて貰うよ」
オリジナル・バルタを指差す。
「え? みんなは一緒に行くの?」
ハンナは驚いている。
そこに居た子供達全員で頷いた。
「ええ……」
じゃあ私も……っとの言葉は飲み込んだ様だ。
「仕方無いか……私達は頼まれた仕事も有るし」
肩を落として大きく息を吐く。
「王都の用事が済んだらすぐに帰るから。待ってて」
オリジナル・エルがハンナに言った。
「そうするわ」
ハンナはもう一度APトライクに乗り込んで、その場を去って行った。