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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
187/233

186 帰ってきた泥の湖


 車列は大きな泥の沼の湖に通る一本道を進んでいた。

 強烈に照り付ける太陽のせいでか水位は下げている……もう雲に

隠れる積もりは無いらしい。

 その水面からの照り返しも有ってやたらと暑かった。


 「ダメだ……蒸し風呂」

 オリジナル・ヴィーゼはバテた声で漏らす。

 「バルタは平気? 生きてる?」


 「もう……とっくに死んだ」

 後ろから情けない程の弱々しい返事が返ってくる。


 「生きてるじゃん」

 力無く笑った。


 「魔石で冷やすヤツ……壊れてたよ」

 バルタがパシパシと叩いている風。

 「コイツが死んだの」


 「それ……小さいヤツだもんね。この照り返しじゃあ効かないんじゃないの」

 小さめのランタンの様な形をしたそれ。

 ガラスの部分の真ん中に台座が有って、氷の魔石をセットするとその回りがボヤッと冷える……そんなヤツだ。

 ちなみに冬は火の魔石で暖房なのだけど……それに合わせているからどうしたって小さい。

 戦車の中だとエンジンの熱も有って、暖める方が楽なのだ。

 「この感じだと……それとおんなじのが後3つは欲しいね」


 「そんなに要らないでしょう? 合計で2個でじゅうぶんじゃないの?」


 「それって、バルタが独り占めするって事?」

 

 「あ……ごめんヤッパ、合計4個だ」

 バルタはゴソゴソと前に顔をだし……運転席横の無線機を掴んだ。

 「マリー……冷やすランタン頂戴」


 少しの雑音の後、怒鳴り声。

 「しつこいな……だから無いって言ってるでしょう? 車両に付き1個を配ったのよ! 幾つ出したと思ってるの?」


 うん……沢山だろうね。

 ヴィーゼは後ろを透しして見る……車列は長い列を作っていた。

 合計で何両かもわからない。

 それに各々1個は多いと思う。

 逆に良くそれだけ用意出来たもんだ。

 

 「新しく……作ってよ」

 マリーに食い気味に懇願。


 「今……作ってると思うわよ。たぶん」

 無線の向こうでもウンザリとしている様だ。

 「私だって暑いのよ!」

 それで、ブチンと無線は切れる。


 「やっぱ……我慢だってさ」

 力の無い笑い。


 「我慢は出来ない」

 駄々を捏ね始めたバルタ。


 流石に手足をバタバタとはさせて居ない様だけど……ダルンダルンなのは想像が着いた。

 敢えて見ないけど……。

 「水に入る? ドロドロだけど」


 「やだ……」

 

 「まあ……そうだね」

 頷いたヴィーゼ。

 「私でも躊躇するもんね、これに入ると乾いた時にカピカピだよね」

 たぶん、ゴーレム・ヴィーゼと私と区別がつかなく為るおそれ。


 「そう言う問題じゃない……水は絶対に嫌」

 

 「そうね……ハイハイ」

 適当に返す。

 「でも、こう暑いと本当に水に入りたくなるね」

 こっちは独り言だ。

 「そのうちにミイラに成りそう」

 ちらりと地面の道路を見た。

 乾いた石畳の上に干からびたミミズの死骸がゴロゴロと有る。

 いや、乾燥しているからコロコロ?

 踏まれてペッタンコだから、ペラペラ?

 どっちにしろ干物だ。

 

 「こんだけ湿気が多いのにミイラって……どんだけよ」

 バルタの愚痴は続く様だ。


 「外に出てみれば?」

 ヴィーゼは横を走るバイクの犬耳三姉妹を指差して。

 「外の風の方が涼しいんじゃない?」

 そうは言ったけど……三姉妹も暑そうにしていた。

 盛んに額の汗を拭っている。


 「それは絶対に間違ってる」

 後ろでも体の汗をタオルで拭ってた。

 「それに、外に出るなら……服を着なきゃだし」


 笑ったヴィーゼ。

 バルタはすっかり真っ裸だったのだ。

 実はヴィーゼも真っ裸だけど。

 服は汗がへばり着いて気持ち悪く為るし、それに暑い時は裸が一番だとも思う。

 「まあ我慢しかないね……これ以上は脱ぎようが無いしね」


 



 そして夕方。

 車列が止まった。

 狭い道路の上だが、今日はこのまま休む様だ。

 パトも余りの暑さに無理は出来ないと思ったのだろう。

 でも、それは正解だと思う。

 日が傾いてもまだまだ蒸し暑い。

 

 「魚……要る?」

 ゴーレム・ヴィーゼが聞いてきた。

 湖の方を見ていた……ってか、左右のどっちを見ても湖だけどね。

 その水面の泥から時折顔を覗かせる肺魚を指差している。

 流石に肺と有るだけあって……呼吸の為に口を水面から出してパクパクとしている。

 

 「そんなに簡単に採れるの?」

 オリジナル・ヴィーゼはどうやるんだ? と、首を傾げた。

 泳いで捕まえるのか?

 

 「メッチャ簡単」

 ゴーレム・ヴィーゼが笑う。

 「やって見せようか?」

 そう言うと、乗っているクモゴーレムの糸を腰に巻き付ける。

 そのまま降りて、歩いて泥の中を進んだ。

 

 底の泥に沈んではいる様だけど……水深自体は浅い様だ。

 ガッポガッポと派手な音をたてて、足を抜き刺ししている。


 「そんなに騒がしいと……魚が逃げない?」

 オリジナル・ヴィーゼの素朴な疑問。

 魚でも他の獲物でも、獲る時は後ろからソーッとだ。

 それが狩りの基本の筈。

 音を立てずに近付いて……気付かれないうちにシュパ! だ。

 バルタにはそう教わった。

 ゴーレム・ヴィーゼも私と一緒なのだからわかってる筈なのに。


 と、考えていると……。

 そのゴーレム・ヴィーゼがイキナリ巨大ね肺魚に食われた!

 ゴーレム・ヴィーゼを簡単にヒト飲みだ。


 「あああ!」

 思わず叫ぶ。

 「早く助けないと」


 「まだよ……」

 そんな私を止める声。


 いつのまにか、ゴーレム・バルタとゴーレム・エルがゴーレム・ヴィーゼのクモの糸を掴んでいた。

 

 糸の先の……肺魚。

 もうゴーレム・ヴィーゼは丸飲みにされた?

 バシャリと泥水を跳ね上げて水面下の潜る素振りを見せた。


 「今よ! 引いて」

 叫んだゴーレム・バルタに。

 「オッケー」

 と、返事を返したゴーレム・エル。


 二人は掴んでいる糸を、思いっ切りに引いた。


 水面で暴れる肺魚。

 それはそうだ……自分の行きたい意思とは違う方向に引かれるのだ。

 首を振って抗う。

 

 もちろん気にせず引っ張る二人。

 力は有る……ゴーレムだから。

 クモの糸も頑丈で切れる素振りもない。

 ピーンと張っていた。

 そして、魚はズルズルと引かれる。


 石畳の上にまで引かれた肺魚。

 まだまだ暴れるそれの頭を拳骨で殴ったゴーレム・バルタは声を掛けた。

 「もういいよ」


 大人しく為った魚。

 気絶した?

 それとも死んだ?

 の、口が中から押し広げられて……ノソリとゴーレム・ヴィーゼが這い出して来た。


 「どう? 簡単でしょう?」

 ニコリト笑う。


 「えええ……食われるの? 自分がルアー!」

 そう叫んだのだけど……少し訂正。

 「生き餌?」

 ルアーだと疑似生物になる……ゴーレムだけど生きているのだし、この場合は生き餌? の筈? あれ? どっちだ?


 「どっちでも良いけど」

 大笑いのゴーレム・ヴィーゼ。

 「コイツらバカだから簡単に釣れるの」


 「まあ、年に数日しか出来ない湖だから……生きるのに必死なのよ」

 ゴーレム・エルが説明を足した。

 「水の有るうちに一年分の食事と繁殖もしないとだしね」


 「なるほど……」

 一応は納得。

 「でも……それって普通では出来ないよね?」


 「そうね……ゴーレムの体だから出来る事ね」

 ゴーレム・バルタも肩を竦めて頷いた。


 「本物のルアー……大きいヤツでも釣れるんじゃない?」

 パシパシと肺魚の頭を叩いて、ゴーレム・ヴィーゼ。


 「それが釣れるルアーも……竿もリールも無いよ」

 ゴーレム・バルタは首を振って否定。

 「それにそれを支えるのがゴーレムなら……今の遣り方で良いんじゃないの?」


 「あ! 確かにだ」

 もう一度、笑ったゴーレム・ヴィーゼ。


 「おおい! こっちでも魚を頼めないか?」

 その時、少し離れた場所の獣人が叫んだ。

 ゴーレム・ヴィーゼ達を呼んでいる様だ。


 「いいよー」

 軽く返事を返して歩いて行って。

 適当な場所まで行くと、また泥の湖に入っていった。

 

 「人気者だ」

 オリジナル・ヴィーゼは驚いていた。

 「てか……もう完全に馴染んでない?」


 「そりゃ……元がヴィーゼだし」

 何を驚くと、オリジナル・バルタの顔。


 「え? 私って……あんななの?」


 「寸分違わずあんな感じよ」


 「そ……そうなのか」

 微妙に複雑な顔に為ったオリジナル・ヴィーゼだった。

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