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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
186/233

185 マンセルとローザ


 「バルタ聞いた?」

 

 「なにが?」

 

 ヴィーゼが口許を抑えてバルタに話し掛けている。

 今は戦車の中で、移動中の事だった。

 

 朝からヴィーゼはナニか言いたげで、どうしようかとソワソワしていたのは気付いている。

 言っちゃおうかな? どうしようっかな? な、態度はわかりやすい。

 チラチラと見てくるし。

 突然に口を開いて、それを自分で押さえている。

 言いたくてしょうがないのだろう。


 そして、とうとう我慢が出来なくなったようだ。

 そもそもヴィーゼに我慢などでき筈もないとわかっているバルタはそのうちに話すだろうと待っていたのだ。

 どうせ噂話の事なのだろうし。


 「ローザってさ、マンセルの初恋の人の名前なんだって」

 ムフムフと笑いを堪えているヴィーゼ。


 「マンセルが小さい時に家庭教師をしてくれた人なんでしょう?」


 「え? そうなの?」

 驚いていたヴィーゼ。

 勢い後ろを振り返り。

 「バルタはなんで知ってるの?」


 「なんでって……本人に聞いたから」

 昨晩の事。

 マンセルは珍しく酷く酔っていた。

 私は、38t軽戦車を見に行っただけなのに……思いっきり絡まれたのだ。

 

 38t軽戦車を見に行ったのは……そこが本当の私の居場所だからだ。

 今は、獣人の男の子が乗っている……砲塔。

 でも、パトはその戦車には乗らない様だ。

 再開してからはズッとシュビムワーゲンの後席に居たし。

 パトが居ないなら……その戦車も意味は無い、とも思う。

 なので、その場を離れようとした時……戦車から出てきたマンセルに捕まったのだ。


 「バルタか? どうした?」

 酒臭くて、呂律は回って居ない感じだった。


 「別に……」

 面倒臭そうなマンセルの目を見て、やはり立ち去ろうと踵を返す。


 その私の肩を掴んだのはローザだった。

 「待って……ねえ、助けてよ」

 チラチラとマンセルを見て。

 「じいちゃん……絡んで来て面倒なんだよ」


 そのローザとマンセルを交互に見て思う。

 自分の身内なんだから、私を巻き込まないで欲しい。

 正直、酔っぱらいは好きじゃない。

 ワケわかんない事を言うし。

 だいいち……うるさい。

 なぜにそんなに大きな声を出す必要がある?

 すぐ近くに居るんだから、普通に話しても聞こえるよ。

 

 「いや……ローザには悪いけど」

 首を振って立ち去る積もりが……今度はマンセルに捕まった。


 「用事が有ったんじゃあないのか?」

 フラフラな足取りで戦車から飛び降りて来て、私の肩を掴んだのだ。

 勢い、バランスを崩して振り向いてしまった私。

 マンセルもまたバランスを崩してたたらを踏んでいる。

 私の肩を支えにしてだから……重い。

 

 「別にナニも無いよ」

 ただ、見に来ただけだ。


 「じいちゃん……バルタが嫌がってるよ」

 私の肩を掴んだマンセルの手を取るローザ。


 「ローザか?」

 目を細めて首を横に振った。


 「そうですよ……ローザです」

 投げやりな感じで返事を返して。

 「ハイハイ、ここに居ますよ」


 「ふん……ローザか!」

 また突然の大きな声。

 「いや……違う! ローザさんはもっと背が高くて美人だったぞ」


 「いや……そのローザさんじゃないから」

 苦笑い。

 「じいちゃんの孫の方」


 うわ……鬱陶しい。

 横で聞いていてもダメな会話だとわかる。


 「ローザさんは優しかった」

 今度はしみじみとだ。


 「そのローザさんって……どんな人だったの?」

 私はその話で、マンセルをローザに押し付ける作戦に出た。

 だって、離れようと一歩を引くと、マンセルも着いて来るんだもん。

 ローザと話して居るのに……なんでよ! と、言いたい。


 「母さんの友人で、ワシの子供の頃の家庭教師だった」

 

 「母さんのって……ジュリアさん?」


 「そうだ……母さんよりも10才年下って言ってたかな? 若くて美人で優しい」


 後半はもう聞いた。

 「10才も年下なのに友人?」

 私は少し首を傾げる。


 「ローザさんが小さい頃に良く遊んで貰ったそうだ……同い年の……」


 首をカクカクといろんな方向に曲げて……思い出している?


 「名前は忘れたけど、ローザさんと同い年の子と……あとコツメさん?」


 自分で言った事に頷いている。

 コツメさんはうまく思い出せて口にできた事が良かったらしい。


 「とにかくだ……一緒に遊んでたそうだ」

 

 「遊ぶにしては年が……」

 どうにも疑問が残る。


 「仲間? だったか?」


 一応は疑問に答えようと努力かな?


 「じゃあ、ローザさんも強いの?」

 仲間となれば、冒険者の一員だった?


 「いや……ローザさんは戦えない」

 首を振る。


 「え? 仲間じゃ無いの?」


 「ん? お隣さん? 違うか……裏庭に済んでいたんだっけか」


 「ローザさんはジュリアさん家の裏庭にって事?」


 「そうだ! 裏庭の小屋だ」


 「下宿とかかな?」


 「違う……一家で住んでいた筈だ。父親や母親にも会った事がある」


 「貧乏だったの?」


 「それも違う……ローザさんの父親は商工ギルドの会長で銀行の頭取でも

有ったから……金持ちの筈だ」


 「それがなんで裏庭なのよ」

 わけがわかんない。


 「そんな事は知らん!」

 また急に大きな声だ。

 「ワシが物心着いた時にはもうソコに居た」


 「ふーん……小さい頃に面倒を見て貰ってたのね」

 

 「そうだ……母さんがワシを産んだのは21才の時だ。だから、ワシが3才の時は14才だった筈だ」


 「? ああ……ローザさんがって事ね」

 

 「でだ……ワシが学校に行くまで間は家庭教師もしてくれていたんだ」


 「じいちゃん……学校に通ってたの?」

 驚いているのは孫の方のローザ。


 ローザは学校には通った事が無いのだろう。

 私も学校には行ったことがない。

 まあ、普通の亜人や擬人は学校なんて行かない……ってか、そもそも行ける学校が無い。

 たぶんだけど……昔は在ったのかも知れない。

 どんな学校かはわからないけど。


 「10才で学校に入った時は……ワシは優等生だったぞ。ローザさんのおかげだ」

 ウンウンと頷いて。

 「ローザさんも学校に通ってたし、何よりも商工ギルドの会長さんの御令嬢だ。計算とかも含めて賢かったからな」


 御令嬢? 裏庭の小屋に住んで居て御令嬢? ワケわからん。


 「そういえば……お爺ちゃんのお父さんは?」

 ローザが聞いた。

 「ヒイお婆ちゃんの事は聞いた事は有るけど……ヒイお爺ちゃんは、あんまり聞かないね?」


 「ワシが産まれてスグに死んだって聞いた……詳しくは知らん」


 あれ? その時は元国王も一緒だったよね? どうしてゾンビに成らなかったのかな?

 もしかして……普通に離婚ってヤツ?

 ジュリアさんに追い出されたとか?


 「まあ……借金がどうのこうの言っていたから。無理でもしたんだろう」

 遠い目のマンセル。


 それも絶対に違うと思うけど?

 まあ、他人の親だし言わないけど……。


 「とにかく美人だったんだ」

 

 話が戻った。

 

 「で……そのローザさんは今は?」

 話ではマンセル依りも11才の年上だから、生きている可能性は有るよね?

 ってか、そうか10才年下で……11才年上。

 たぶん、ジュリアさんとローザさん……それからローザさんとマンセル。

 お互いがおんなじ様な関係だったのかな?

 なんとなくわかった気がした。


 「ワシが学校に通い始めた時に出て行って……それっ切りだ」


 「探さなかったの?」


 「その頃は……また戦争が始まりそうだったからか、銀行は無くなって、商工ギルドも廃止されて」

 首を振ったマンセルの顔は悲しそうだった。

 「何処に行ったかもわからん」


 「じゃあ……やっぱり探さないとね」


 「あああ……頭のいい人だったから、今も何処かで生きている筈だ」

 大きく頷いたマンセル。

 「だから……母さんにも会わないとだ」


 「生きていたんだもんね」

 ローザは頷いた。


 「まさか生きているとは驚きだ。母さんの部下か知り合いにでも会えないかと戦場をウロウロして居たのにな」


 「マンセルはそれで戦車に乗ってたの?」

 驚いたのは私だった。


 「そうさ……ローザさんを探す為だ」

 少し目を擦って。


 泣いてる?

 

 「生きていて……苦労をしているなら。助けたと思ったし……幸せそうなら子供の頃の礼も言いたい……」

 

 と、そこでマンセルは寝息を立て始めた。

 

 立ったまま寝るのか?

 さっきの目を擦っていたのは眠たかったから?

 

 「さすが……酔っぱらいだ」

 素直な感想が口をつく。


 「立ったまま寝れるのは凄いよね……ドワーフには多いけど」

 ローザはマンセルの肩を抱いて、戦車の方へ運んで行った。

 仕方無く私も手伝うと……寝れば酔っぱらいも鬱陶しくは無い。

 臭いけど。


 と、その傍ら……お礼を言われた。

 「付き合ってくれて有り難う。たぶん、昼間にマリーに言われて思い出しちゃったんだと思う……昔の事とかを」

 

 「まあ……たまには良いんじゃない。潰れるまで呑んでもさ」

 一応の社交辞令の積もり。

 たまもなにも……私に絡むのはヤダけど。

 

 「有り難う」

 ニコリと微笑んだローザだった。

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