183 プテラノドン
モグラゴーレムの作った道は、完全な迂回路に成っていた。
亀裂にぶち当たった、その場所から山側に進み大きく曲がるトンネルを掘る。
イメージとしては、ダンジョンで見掛ける大きなショッピングモールとかの階層の有るガレージ間の通路?
ここでは大きく曲がりながら……少しづつ下っている。
その曲がりは螺旋階段の半周?
……。
まあ、とにかく小さく曲がり続けるトンネルだ。
そのまま進めば、どこかでまた壁面に出るのだろう。
でも、タイミングとしていい感じ。
トンネルの中ではプテラノドンも襲っては来れないし……魔物が見えないだけでも不必要なプレッシャーを感じなくて済む。
「はー……」
と、大きな声を出して息を吐いたエノ。
肩の力も抜けて、kar98k小銃も適当に斜めに成っていた。
「ほんと……嫌な奴等ね」
「シツコイわよね」
同調するイナ。
「でもさ、そのうちにまた……じゃないの?」
「だろうね……たぶん出口で待ってるね」
「ちょっとだけのインターバルって感じか」
が、何時まで進んでも出口が見えてこない。
それに、いつのまにかトンネルも直線に成っていた。
「これってさ……壁面に平行に進んでない?」
イナが首を捻っている。
「うん……そうだよね」
エノも頷いた。
「魔物に会わないのはいいけど、でも何処まで?」
「それもだけど、トンネル掘るの早くない?」
「このへんは柔らかいとか?」
「まあ……見た目はたしかに岩盤では無さそうね」
うーん……っと、イナ。
「それって……もしかして壁面が終わったとか?」
「裾野が広がってるから……出口が遠いってこと?」
イナはもう一度、首を捻る。
「それにしては……おかしいと思う。だって、トンネルに入る前は下は見えなかったのに」
「実は錯覚とか?」
少し考えて。
「ほら、上から見てたから。実は広がっていてもまっすぐに落ちてる様に見えたとか?」
「なるほど……」
いまいち納得はしていない顔だ。
「まあ、外に出ればわかるよ……たぶんそのうちに出口だよ」
「そうね」
また暫く。
やっと明かりが見えてきた。
と、同時に銃声も聞こえてきた。
「やっぱり……居るみたいね」
エノはまたkar98k小銃を握り直す。
「まあ……そうだろうけどね」
イナも少し緊張が感じられた。
「さあ……出るよ」
トンネルはやはり、壁面にほぼ平行に走っていたようだ。
片側の壁が無くなる……というよりも薄すぎて崩れた? その先にプテラノドンが両翼を広げて突進してきていた。
素早く狙いを着けたエノ。
プテラノドンの胸に銃弾を撃ち込む。
「もう一発」
そう呟き、ボルトを引いて空の薬莢を飛ばす。
が、先に誰かの銃弾がプテラノドンの眉間を貫いて、力無く落ちていく。
「まだ居るよ!」
イナが叫んだ。
エノの緊張感が一瞬緩んだと感じたのだ。
「わかってる!」
銃に頬を当てて横にスライドさせ、次の目標を探して……引き金を引いた。
今度は目から頭を撃ち抜けた。
もちろん、プテラノドンはそのまま落下。
「次は?」
エノの視界には何匹かは見えていた……だが、狙うために利き目だけを効かしている状態だと、遠近間がわからない。
近いヤツから狙わないと意味がないのだ。
だから、デッカク見えるヤツを探した。
パンと銃声。
これは自分の撃った音。
そして確実に当たったと、またボルトを引いた。
その間に的を探す。
見付けた敵を狙おうとしたら、それは誰かに撃たれた様だ……弾けて後ろに落ちていく。
「邪魔しないでよ」
揺れる銃口。
「誰が倒しても一緒よ……落ち着いて」
「わかってるわよ」
また、引き金を引いた。
「しかし……多いわね」
ハンドルを握るイナは愚痴る。
「余所見して落ちないでよ」
「大丈夫よ、半分APトライクに任せているから」
「ああ……ゴーレム化の自動運転だ」
エノは笑う。
「だったら、イナも撃ってよ」
「それは無理! そんなの怖すぎるじゃない。出来ないとは言わないけど、こんな場所で完全にハンドルから手を放すなんて無謀よ」
「まあ……いいけどね」
銃声を響かせた。
そして、ボルトを引いた。
空の薬莢が飛ぶ。
だが、エノはボルトをそのままで膝上に銃を固定して、ポケットからクリップに付いた銃弾を取り出した。
クリップには5発の7.92x57mmモーゼル弾が、薬莢の後ろだけで固定されていた。
それをボルトを引いて開いた所に上から差し込み。
クリップは動かさず、弾だけを上から押し込んでいく。
最後に刺さったままのクリップ、弾の無い棒板状のそれを抜いて捨てると、ボルトを押し込んで戻す。
それらの動作を見ずに、イナと話ながらにやってのける。
もう完全に手が覚えた動きだ。
「さあ……次は?」
銃を頬の位置に戻して的を探した。
「プテラノドンは雑魚だ! 動きを止めるな」
パトはmp40を撃ちながらに叫んでいた。
止めるなとは、モグラゴーレムに対してだ。
空を舞うプテラノドンの数はやたらと多い。
なら、こちらも数で応戦するのがいいと道を作らせているのだ。
最後の戦車……タイガー1重戦車がトンネルを抜けるまでだ。
別段、タイガー1戦車に期待しているわけではない。
小銃で撃ち落とせる魔物には8.8cmのアハトアハト砲では過剰過ぎる。
副武装のマウザーmg34機関銃でも勿体無いくらいだ。
mg34の弾はkar98k小銃の7.92x57mmモーゼル弾と同じ……だが、それを毎分800発から900発も撃つ。
そんなバラ弾……多過ぎだろう。
殆どが無駄弾に成る。
だから、戦車から体を出して普通に小銃で撃って欲しいのだ。
……。
まあ、アルロン大佐ならmg34を撃たせるのだろうけど。
派手好きだからな。
実際、数分後にはカナ切り音の様な連続音が響き出す。
そちらに視線を向ければ、熱く焼けた弾が線を引いて見えた。
プテラノドンもパラパラと火に焼かれた蛾の様に落ちていく。
「殲滅するには……まあ……良しとしよう」
弾は戦車なんて、何をするにもコストが掛かる。
もうそれは仕方の無い事だと諦めるしかない。
「出来るならもっと強い敵……普通に戦車相手に撃ってくれれば良いのだけれどな」
戦車相手にmg34は無意味か。
なら……歩兵にか?
ってことは、プテラノドンに向かって撃ってもいいのか……。
パトは自分のmp40の空に成ったマガジンを投げ捨てて、新しいマガジンを差し込んだ。
「いかんな……どうもケチ臭く成ってる」
後払いの金の事が、考えを邪魔しているのか?
「さっさと精算しないとな」
一斉に攻撃をして、何分かが過ぎた。
まだ何匹かのプテラノドンは見えるが、こちらに向かって来る気配は無くなった。
ていうか……別の魔物、始祖鳥が集まり始めている。
だが、その始祖鳥もこちらは見ていなかった。
一直線に落ちたプテラノドンに群がっている。
反撃を食らう可能性のこちらに来るよりも、落ちて死んでいるプテラノドンの死骸を漁った方が楽で安全と踏んだのだろう。
実際にそうだし。
成る程、始祖鳥は頭が良いらしい。
そして、生きて飛んでいる方のプテラノドンもその始祖鳥を気にしていた。
大きさはプテラノドンの方が大きい。
が、今は死んだ同類が餌さとして地面に大量に有る。
それをむざむざ始祖鳥ごときに取られるのは我慢が成らないのだろう。
盛んに挑発を繰り返している。
「もう大丈夫そうか?」
独りごちるパト。
それでも眉根は寄せて無線機に叫んだ。
「警戒は怠るなよ」
そのパトの号令で、それまで散発的に聞こえていた銃声も完全に止んだ。
もう撃たなくてもいいと皆が判断できた様だった。
「今度は、もっと広い所で相手したいもんだ」
狭い通路で逃げ場がないと、弱い敵でも追い詰められた気になる。
「余裕は大事だよな」
「そうだと思うよ」
横に頭を隠していたクリスティナが呻く。
「パト……独り言が多過ぎ」




