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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
182/233

181 開通


 足下の水は……取り敢えずは落ち着いた?

 トンネルの入り口を塞いだので、暫くは持ちそうだ。

 でも、剥き出しの土の部分は……水に溶けるかもだから、油断は出来ない。

 

 「モグラゴーレムのペースを上げられないか?」

 パトがペトラに聞いていた。


 聞かれたペトラ。

 モグラゴーレムの方を見た。

 微妙に尻を横に振っている。

 

 「あれは……わかったと返事か?」

 パトもそれを見ていた。


 「無理……って、事じゃないのかな?」

 パトの側に居たクリスティナが、モグラゴーレムの尻を真似して首を横に振る。

 両腕にはコノハちゃんを抱いていた。


 返事に困った顔のペトラ。

 上を向いた。

 トンネルの天井だ。

 

 それに合わせて、またパトも上を向く。

 「落盤の危険が増える……とかか」

 渋い顔に成った。


 「たぶんそう……いまいち良くわかんないけど」

 ペトラも頷いた。

 「あ……でも。もうすぐ貫通しそうだって言ってる」

 

 「わかるのか?」


 「掘るのが軟らかく成ってきた……って」


 「表層に近いって事か」

 少し考えて……トンネルの入り口の方を見た。

 モグラゴーレムのすぐ後ろに居てはその先はまったく見えないのだが、それでも唸っている。

 「近いなら……完全に埋めてしまうか?」

 空気の通り道を考えた小さな穴……それでも、人が這いつくばって進める程は有る。

 それが有るから強度が出せないのだ。

 その穴に水が通れば……回りの土を巻き込んで大きくなる。

 そして、最後にドカンだ。

 それは避けたい。


 「兎に角、確認に行くか」

 独り言の様に呟き、足を踏み出した。


 「あ!」

 ペトラが叫ぶ。

 「開いた!」


 パトも振り向いた。

 モグラゴーレムの大きな体で邪魔されていても、外の光がボヤリとわかる。

 暗いトンネルの明かりはバスやトラックのヘッドライトだけだから、辺りは見えるが決して明るいわけではない。

 だから、余計にわかった。


 「外か!」

 モグラゴーレムに取り付いて、大きな尻を押した。

 すると、モゾモゾと体を捩らせて端に寄り……造ってくれた通り道を進んだパト。

 

 「おおお……本当だ」

 別に疑っていたわけでは無いのだろうけど、それでも貫通した穴を見て喜んでの声だと思う。

 

 ペトラも後ろを着いていく。

 穴は真ん中に小さく空いていた。

 人が覗けるくらいの窓の様な感じだ。

 

 実際にパトは、その穴に首を突っ込んで外を見ている。

 

 ペトラも真似をして、横にならんで見てみた。

 上も下も横も……真っ平らな壁だった。

 いや、下の随分と遠い所に裾に広がる斜面が見える……とても人が立てる感じでも無さそうな急な坂だけど。

 

 「どうするの?」

 横にパトが居るのだ……だから考える必要はまったく無いと、そのまま聞いた。


 「うーん……横に掘るか」

 右を指差した。

 「壁に沿う感じで……溝? 道だな」


 「わかった」

 即答して、モグラゴーレムを見る。

 「下り坂で……あんまり急にはしないでね」

 バスやトラックの為だ。

 

 「あ……いや、ここから少し上に上ってくれ……トンネルのてっぺんを越えるくらいで……そこから下りだ」

 考え考えとパトの注文。


 肩を竦めてモグラゴーレムを見ると、モグラも頷いていた。

 なぜにいったん上るのか?

 たぶん意味が有るのだろうけど……それは別にいいやと作業に掛からせる。

 横を削るだけだから早い様だ。

 でも、上は気にしていた。

 落盤?

 支えの壁が奥に一面だけだからかな?

 やはり弱いのだろうか?


 様子を見ていたペトラ。

 

 モグラゴーレムは崩れそうな所はわざと崩していた。

 横が開いているので、崩れた瓦礫もドンドン落としていく。

 後ろに回さない分、やはりか早い。

 気にしていたのは自分が崩れた瓦礫に押し出されない様にだった。

 

 モグラゴーレムが大雑把に崩す。

 コンクリート・ゴーレム達が地面の床を作る。

 そして、順番に後ろに着いていく。

 戦車……バスやトラックに乗用車……で、ロバ車だ。

 そして、各々から歓喜の声が順番に聞こえてきた。

 こちら側に出られた事が嬉しいらしい。

 

 なるほど……そう言えばそうだ。と、ペトラももう一度景色を見た。

 青い空。

 雲は下に薄く見える。

 感動……した方が良いのだろうか?

 「ふむ……凄い」

 一応な感じで口に出してみる……が。

 どうにもそこまでの事には成らない様だ。

 「どう見たって……なんにもないただの山道だよね」

 素直に言えば……それ。


 これは、たぶん地面が見えないからだ……きっと。

 まだ山の途中だからだ……たぶん。

 いやそれでも、こっち側は……ついこの間も通ったのだし、目新しさ無いかもだな。

 だって、平らな所……完全に山を降りたって、そこはガレ場の砂漠だ。

 今のここと大差ないと思う。

 唯一の違いは広さかな?


 そんな事を考えて歩いていると……置いてけぼりをくらってしまった。

 モグラゴーレムも後ろを進むクモバモスも、もう随分と前に進んでいる。

 パトはと見れば、いつのまにかにシュビムワーゲンに乗り込んで、やはり前に居る。

 「うえぇー……まってよ」

 慌てて走り出したペトラだった。





 さて、ペトラはクモバモスに乗り込んでいた。

 置いてかれて走っていると、バイクに乗ったアンに救出されたのだ。

 大きい方のモンキー125だが……モンキーはモンキー。

 1人乗りで……なのでアンの後ろに乗ると、固いキャリアーに直接に乗る事に成った。

 完全に平らでは無い所を通るので、とてもお尻に響く。

 しかもタンデム用のステップも無いのでその、痛むお尻も浮かせられない。

 なかなかに厳しい状態だった。

 その上……崖側の方に寄って走るもんだから怖い怖い。

 それは前を進む戦車や車両を避けながらだから、どうしようもない事だから文句も言えない。

 追い越さないと、ほぼ先頭に居るクモバモスに追い付かないのだし。


 と、そんなわけでクモバモスに到達した時はペトラはお尻を突きだしてうつ伏せに転がり唸る事に成る。

 つまりはそれが今だ。


 「だいじょぶ?」

 ムーズに同情された。


 「大丈夫じゃない……お尻が割れた」

 

 「あらほんと……縦に真っ二つじゃないの」

 笑うアマルティア。


 マリーも指差して。

 「接着剤を造ってあげようか?」


 「縫うならわかるけど。接着剤って……酷くない?」

 弱々しいが一応は抗議の言葉を漏らすペトラ。


 「なに言ってるの……今の最新は接着剤よ。縫うなんて古い古い」

 ケタケタと指差したまま。

 「瞬間接着剤で一発よ」


 「くっ付けちゃったらトイレは?」


 「あら? お嬢様はウンチはしないんだよ」

 ねえ? ムーズとアマルティアは笑う。


 「私はお嬢様じゃないから……トイレは大事よ」


 「なら……オムツも作ろうか?」


 「いや、くっ付けちゃったら出せないって話だから意味無いじゃん」

 

 「あら、そうね」

 成るほどと手を打ったマリー。

 わざとらしい顔だ。


 「普通に痛み止は無いの?」


 「あるけど……そんなのほっときゃ治るわよ」


 「今の格好が少しみっともないだけよ」


 マリーもアマルティアも他人事だと思って。

 睨んでやろうと体を捻ると……お尻の肉が引っ張られて痛い。

 「もー」

 

 そう叫んだと同時に……地面が揺れた。


 「なに?」

 アマルティアがピクリ。

 

 「なにかした?」

 マリーはペトラを睨んだ。


 「なんにもしてないわよ」

 呻く様に叫んだ。

 「なんでもかんでも私のせいにしないで」


 と、今度はドンっと大きな音。


 その方向に走って行って外の様子を伺うマリーとアマルティア。

 「うっわー!」


 「なになに?」

 見に来たいけど動けない。

 それが不安に感じてまた叫ぶ。


 「壁が……漏らした」

 

 「何よそれ……ワケわかんない」

 痛みを堪えて、首だけを後ろに向けると……たしかに漏らしていた。


 崖のトンネルから大量の水が横に噴水の様に吹き出していたのだ。

 

 「まあ……虹ね」

 ムーズのお嬢様らしい感想も出た。

 

 「詰まってたからさっぱりしたんじゃない?」

 アマルティアの感想は……聞きようによっては下ネタだ。

 

 「トンネルの便秘?」

 マリーはハッキリと下ネタとして受けていた。


 そしてみんなで大笑い。

 とてもしょうも無い笑いだけれど。

 誰も巻き込まれなくて良かったとホッとしたのも含めての事で、安心したのだった。

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