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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
181/233

180 獣人の性格


 足下の水は、少しづつ……でも、確実に増えていた。

 トンネルの真ん中の一番に低い所で……足首にまで到達。


 そうなれば、流石の獣人達も焦り始めた。

 「トンネルから出た方がいい!」

 「いや……急いで貫通させるんだ!」

 意見は二分。

 ただ……大多数はそんな意見すら持っていなかった。

 「どうすればいいの?」

 「怖い」

 「ここで死ぬの?」

 自分で決断できずに……誰かにすがる。

 

 それを見ていたオリジナル・ヴィーゼは思わず声を上げる。

 「うわ……」

 続けて……酷いな! の言葉はどうにか飲み込んだのだが。


 「反応の違いは、種族事ね」

 オリジナル・エルも水位を確認するためかヴェスペ自走砲から降りていた。

 そして、騒ぎを見ていたヴィーゼの横に立ち。

 同じ方向を向いての観察。


 「ほんとだ……逃げ出そうとしているのは、草食系が多いね」


 「他にも、細かい差が有るみたい」

 指差した先には……たぶんアルマジロの獣人?

 体を丸くして踞っている。

 「動かず……考えず……って、感じ?」


 「でもさ……」

 そのアルマジロの獣人を見たヴィーゼ。

 「アルマジロってさ……とても泳ぎが得意なんだよ。水中でもお腹の中に空気を溜めて凄い時間を息を止めてられるし」

 ムフンと鼻を鳴らした。

 「泳ぎでは勝てるけど……水中の底を這い様に走るの。結構早いよ」


 「そうなの?」

 肩を竦めたエル。

 「じゃあ……あれはその準備?」


 「だと思うよ」

 

 「でも……アルマジロがそうだとしても。獣人に個性が有るのは確かで、そのせいで纏まりが無いのも確かでしょう?」

 今度は誰も指差さないエル。

 話が捩れるとでも考えた様だった。


 「まあ……そうね」

 そこは普通にそう思ったヴィーゼ。

 「だから国が作れなかったんだよね」

 そう言えば誰かがそんな事を言っていた……その誰かは忘れたけど。


 「危機的状況で意思の統一が図れないのは……致命的よね」


 「たしかに」

 自分の足下を見る。

 水は少しづつだけど、溜まっている気がする。

 少なくとも減っている気配はない。


 「あんた達も、大概だと思うけど」

 後ろからマリーがやって来た。

 「冷静になのはいいけど……観察している暇が有るならナニか手を考えるか動くかしないと、ダメなんじゃないの?」


 それは……あなたもでしょう?

 とは言わないで、ヴィーゼはパトを指差した。

 「大丈夫、パトが動き出したから」

 

 それにはエルも頷いている。

 「こんな時は、任せるのが一番」 


 マリーもパトを見た。

 「そんなに信用しているの?」

 それは殆ど聞こえないほどの呟きだった。




 「慌てるな!」

 パトは叫んでいた。

 シュビムワーゲンの後席だ。

 手をトンネルの後ろに振り。

 「土嚢を積み上げろ!」


 「土嚢を作る袋が無いですよ」

 シュビムワーゲンの側に居たマンセルの呟き。

 水位の事で二人して相談してた矢先だったようだ。


 「そのまま岩や土を盛り付けろ!」

 微妙に言葉を変えたパト。


 「土を盛っても……強度が出にくいですがね」

 横からのマンセルの指摘。


 チラリとマンセルを見たパト。

 「最悪はガッチリ埋め戻せばいい」

 トンネルの入り口を蓋をすると、そんな感じらしい。


 「そうなると……酸素の都合で時間制限ができますね」


 「酸欠の前に貫通されればいいだけだ」

 

 「ふむ……ギャンブルですかい?」


 「あああ……そのギャンブルだ」

 言い切ったパト。

 「俺はその手のギャンブルに負けた事がない!」


 「ほんとですかい?」


 「だから、今……俺は生きてここにいるんだ」

 吐き捨てた。

 「命の掛け金のギャンブルは負ければ、もうそこで死んでいるんだからな」


 「成る程……たしかに」

 納得したマンセル。


 

 そして、それを聞いていたオリジナル・ヴィーゼがポツリ。

 「うわ……無茶苦茶な屁理屈だ」


 「たしかに、その手のギャンブルは一回一回の判定だから……得意不得意も無いのにね」

 マリーも少し驚いた顔。


 「でもいいのよ……それを言い切るから、皆が動けるのだし」

 オリジナル・エルはただ頷いている。

 「嘘でも屁理屈でも、それで動いて結果が出せれば正解なのよ」


 「成る程」

 納得したマリー。

 「あんた達はそうやって戦って来たのね」


 「そうよ、パトが言う様に誰も死んで無いでしょう?」

 笑ったエル。

 

 「おおお……」

 なぜか感心していたヴィーゼ。


 「あんたもこっち側でしょうに」

 それを見て、苦笑いで呟いていたエルだった。




 モグラゴーレムが掘った分を、隊列の後ろに回して積み上げる。

 完全には塞がないで、上の方に少しの空気穴は残していた。

  

 「水圧に負けない様に分厚くだ!」

 誰かの声が響いている。

 獣人の中の誰かがリーダーと成ったようだ。

 そして、その作業にはその他の獣人がほぼ全員で掛かっている。

 小さな子供も持てるサイズの小石を拾っては後ろに運んでいた。


 バラバラの獣人達も、それを纏める者が居れば従う様だ。

 獣人のリーダーはパトがその主だと決め込んだ様だった。

 

 「あれは犬耳の獣人?」

 マリーが聞いた。


 「そうだよ」

 答えたのは犬耳三姉妹のエレン。

 バイクはエンジンを切って、押していた。

 「私達の同族」


 「本当は少し違うんだけどね」

 アンナもそこに居た。


 「違うって? のは」


 「犬にも種類が有るでしょう?」

 アンナは獣人のリーダーを指差して。

 「少し狼っぽい感じが混ざってるかな?」


 「ほう……例えばハスキー犬とか?」


 頷いたアンナ。

 「そういわれると……まったく犬みたいでなんだか嫌だけど。まあ、そう」


 「じゃあ、あなた達は?」


 「さあ……小型犬か中型犬かのどれかじゃないの?」


 「秋田犬だと思う」

 ヴィーゼが横から言い切った。


 「チワワじゃないの? 背が小さいし」

 エルも同じく言い切る。


 「ええ……背が低いのは関係無いと思う」

 ネーヴが膨れた。


 「そうね……」

 そのネーヴを見て大きく頷いたマリー。

 「たぶんだけど、コーギーがビーグルね」


 「なんでそう思うの?」

 さっきは適当に答えたヴィーゼだったが、具体的に二種類を言われると気になってしまう。


 「だって、牧羊犬や猟犬みたいに走り回るし……いつもお腹を空かせているからかな」


 「ビーグルなら、耳は垂れてない?」

 エルが面白がっている。

 

 「でも、ウサギを追いかけるのは好きみたよ」

 ヴィーゼはビーグルに納得しているようだ。


 「どっちでも無いよ! 第一に私達は犬耳の獣人で犬そのものじゃないから」

 エレンも膨れた。


 「そうよ……たぶんその二つの雑種ね」

 決まり! と、そんな顔になるマリー。


 「おおお……折衷案! で、しかも正解っぽい」

 ヴィーゼもエルもそれには納得と頷いた。


 「もうなんでもいいわよ」

 犬耳三姉妹は揃ってブー垂れる。


 「でも、犬と考えれば人を主人としやすいのも納得だし。他の種の誘導も得意かもね」

 マリーは犬耳の獣人のリーダーを指差した。

 「これも、ある種の獣人の性格なのかもね」


 「でも……それはそうだね」

 エレンがしみじみとした声を出す。

 「だから……人族の奴隷に成ったんだろうし」


 「性格……有るかもね」

 アンナもポツリと漏らす。


 「奴隷の時も……あんまり苦じゃあ無かったね。そう言えば」

 ネーヴはパトを見ていた。

 

 パトに拾われた時。

 奴隷時代を思い出しているようだ。

 でも、たしかにその時も今も変わらずハシャイでいる気はする。

 そして、やっぱりパトになついている。

 獣人の人の部分の理性で、ペッタリくっつかないだけで。

 でも、何時も気にしているのは確かだ。


 そう考えたヴィーゼも思う。

 それは自分もそうだ。

 イタチも実は人になつきやすい性格だったのかな?


 バルタは?

 猫だから……着かず離れずだけど。

 でも猫って飼い猫が多いよね?

 ってことは、実はなついているのかな?

 これも性格か。


 エルは狐は人になつくのだろうか?

 微妙だ。

 「! でも、たしかにエルは微妙だ」

 ウンウンと納得しているヴィーゼ。


 それを見てエルが眉間にシワを寄せた。

 「なに!?」

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