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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
18/233

017 ダンジョンの入り口での出来事


 ダンジョンの切れ目に張り付いていた建物。

 実際に近付いて見れば……床と地面の段差は1mも無いようだ。

 地面依りも少しだけ低い。

 そして、そのフロアーは3Fとあり……Pの文字の看板も見える。

 上にはもう一層も見える……合計で4階建ての建物の様だ。

 


 「これならゴーレム達に担いで越えられるわね」

 エルもホッと息を付く。

 

 「大きい店だった様ね」

 マリーはその屋内ガレージを見渡していた。

 駐車スペースには十数台……二十台は無い、車の数が停められている。

 それでも見た感じはガラガラだ。


 「ここが三階なら、上も屋上も同じ様なガレージだろうから規模は大きい様じゃな」

 元国王はサッサとその段差を下りて……ウロウロキョロキョロ。

 「一、二階が店舗か……」

 そして一台の車に近付いて……中を覗く。

 「時間は昼前……年代は2020年前後くらいかの?」


 「なんでわかるの?」

 4体のゴーレムに担がせたヴェスペをダンジョン内に誘導しながらのエル。

 ルノーft-17軽戦車はもう既に中に入っていた。

 

 「車の年式か種類でか……見たんでしょう」

 その疑問に簡単に答えたマリー。


 「いや……車検表じゃが」

 元国王はフロントガラスの上、中央に貼られたシールを指差した」


 「そう……」

 肩を竦めたマリー。

 「時間は……車内の時計? この男が近付くとそれだけで機械はゴーレム化……しかも鍵とかも関係無いし」

 もう一度、肩を竦めて首を振り。

 「なんなら燃料が無くても……男の放出する魔素だけでそれを動かせるのよ」

 

 「そうなの?」

 ローザが元国王を押し退けて、その車のドアに手を掛けた。

 「ホントだ……開く」

 そして乗り込んで……。

 「でも……エンジンはどう掛ける?」

 ダッシュボード……ハンドル横をゴソゴソと探りながら……鍵が無ければセルが回せないのだ。


 「鍵付きを探すのが一番に楽じゃが……」

 元国王はローザを奥、助手席側に無理矢理に押しやり、自身が乗り込みハンドルを握った。

 それだけでエンジンが掛かる。

 「ワシが動かすと意思を示せば……ホレこの通り」


 「おお、変わって変わって」

 今度はローザが元国王を車外に押し出した……が、直ぐにエンジンが止まる。

 「なんでよ……」


 「この車はワシの眷族に成ったからの……ワシにしか力をかさん」

 肩を竦めてだった。

 「だから鍵じゃ……鍵でエンジンを掛けてしまえば……それは誰でも出来る。元がそんな造りなのじゃからの」


 「ちぇえっ」

 眉間にシワを寄せて露骨な舌打ち。

 「まあ……良いわ……鍵の部分をスイッチか何かに変えてしまえば良いだけよ……面倒臭いけど」

 体を捻り、頭をハンドル下に捩じ込みブツブツと。


 「直結か? まあ好きにすれば良い」

 興味を無くしたのか、振り返った元国王。

 もう既に戦車二台は中に入っていた。

 そしてマリーが元国王を手招き。

 「なんじゃ?」


 「幌車から魔物達を外すのを手伝いなさいよ……アンタが遣れば早いんだから」


 「ヘイヘイ」

 幌車に近付き、魔物を縛る太い革紐を軛から外してやる。

 魔物には肩から胴の辺りに巻かれた金属製のカラーだけが残る。

 それも外してやっても良いのだが……元国王は面倒臭いと考えたのだろう……それはそのまま。

 軛とは馬車側に着いた馬と馬車を繋ぐ為の器具。

 カラーはその馬側に着いている金具。

 それらを革紐で固定すると、馬は肩や胴体を使って馬車を引けるので、その引っ張れる重量も増すのだ。

 流石に首に紐を掛けて引けば馬も首吊りで窒息してしまう。

 そうならない為の知恵。

 今のこの状態では……馬では無くて魔物のスピノサウルス。

 形状は馬とソックリなので扱いもそのまま同じ。



 そして次に荷車の魔物を解放してやろうと近付いた……その時。

 エルがそれを止めた。

 「そっちのは持っていくから……弾や武器ばかりだし必要かもでしょ?」


 チラリとエルを見て……荷車の荷物を見る元国王。

 「こんなに必要か?」

 結構な量の武器弾薬。

 

 「ついでにムーズ御嬢様の移動手段よ」

 

 「成る程……ワシも歩かなくて済むわけか」

 ふむと頷いた元国王。

 

 しかしエルはそれには少し怪訝な顔をした。

 頭の中には……歩かなくて良いの中に元国王は入っていなかったからだ。

 歩ける者は歩け。

 戦える者は歩兵として歩け。

 ただし機械化歩兵は別。

 ジジイでも脚が二本有って普通に歩けてネクロマンサーとか言う能力で戦えるのだからそれは歩兵だ……と、思っていたのだけど……。


 ジイッと元国王を見たエル。

 「まあ……良いわ」

 と、肩を竦めた。 

 年寄にイヤじゃ歩きたくないとか……なんとかと、駄々を捏ねられるのは面倒だと思ったからだ。

 

 その時。

 背後でガシャンと音がする。

 全員が振り向いた。

 

 ローザが動かした車が別の車にぶつかっていた。


 「事故?」

 ツカツカと歩み寄るマリー。

 窓を叩き、開けさせて……ローザに告げる。

 「あんたドワーフなのに車の運転も出来ないの?」


 「違うのよ」

 首を大きく横に振るローザ。

 「車が急に勝手に曲がったのよ」


 「欠陥? 故障?」

 マリーは少し考えたが……それは有り得ないと思い直す。

 ガレージに普通に停まっているということは、ここまでは普通に走って来たということだ。

 つまりは時間凍結中に故障したと?

 それは有り得ない。

 止まった時間は次に動き出す迄は無いも同じ。

 凍結と解除には時差は生まれない。

 「理屈ではそれは無いわね……アンタが下手なのよ」


 「そんな事はない!」

 大きな声での抗議だ。

 「チョッと変わって乗ってみてよ……わかるから」


 眉を寄せたマリー。

 「じゃあ……退きなさいよ」

 そう言いながらに運転席に潜り込むマリー。

 しかし……実は少しだけドキドキしていた。

 免許は持っている。

 元の世界で……日本で学生だった時に取得している。

 車は所有はしていなかったけど……父親の車を少しだけ運転した事もある。

 直ぐに変われと……二度と乗せないとは言われたけれども。

 でも、運転はしても良い筈だし出来る筈なのだ。

 シートを目一杯に前にやり、ハンドルにしがみつく……そして右足をアクセルに……アクセル……アクセルに届かない。

 八才の身体では小さすぎる様だ。

 仕方無いので身体をググッと下に押し込みアクセルを踏む。

 そのまま進んだ車は……また別の車にぶつかった。


 「ね?」

 ウンウンと頷いたローザ。


 「違うわよ前が見えなかっただけよ」

 車から降りて来たマリーが叫んだ。

 アクセルを踏むために目一杯足を伸ばしたらば、頭がハンドルの下に隠れたのだ。

 そして踏むことだけに集中した結果……前を見るという事を忘れたのだ。

 それはぶつかる……当たり前だ。

 「車自体は問題はなかったのよ……」

 フイッと横を向いて。

 「身長のせいよ」


 「じゃあ……次は私が」

 手を上げたのはイナ。


 「アンタも少し私よりも背が高いだけじゃないの」

 指を差すマリー。

 が……その指がユックリと上に上がる。

 イナの身長が伸びたのだ。

 「クッ……変身のスキルか」


 「成長のスキルよ……一時的に身体を成長させるの」

 クルリと回って見せたイナ。

 「今の身体は18才くらいかな? もう少し上かな? そんな感じ」

 クスリと笑い。

 「これなら運転は出来るでしょう?」


 免許も無いくせに……と、言いたいが。そもそもこの異世界に免許そのモノが無い。

 それに……イナもエノも車の運転が出来る事は知っていたマリー……渋々とその場を譲った。


 そして普通に運転して見せたイナ。

 ガレージをクルクルと回って見せる。


 「普通に動いているでは無いか」

 元国王も飽きたのか、荷馬車の方に行き。

 自分が座れる場所を作り始めた。


 と……。

 ガシャン。


 元国王が音の方を向けばイナの車はぶつかって停まっている。

 「また事故か?」


 降りて来たイナ。

 「確かに変だ……今、勝手に曲がった」

 首を捻る。


 「ね? でしょう?」

 ローザも頷く。


 「私の時は……」

 考え始めたマリー。

 そして思い当たった様だ。

 元国王を指差して。

 「アンタ! チョッと見ててよ」

 そしてイナをを見て。

 「もう一度運転してみて」


 頷いたイナは車を走らせる。

 ユックリとクルクルと……。


 何周かして停まり。

 「普通に動く……」

 わからないという表情のイナ。


 マリーはもう一度、元国王に。

 「今度は目を背けていて」

 そしてイナに。

 「もう一度」


 怪訝な顔のイナだが、言われた通りに車を動かすと……ガシャン。


 「ヤッパリ」

 成る程……とわかった表情のマリーは頷いた。


 「どういう事?」

 さっぱりとわからないローザが尋ねた。


 「この車はゴーレムで意識は無いけど……意思は有るのよ」

 元国王を指差して。

 「この男の意思を読めるだけの意思がね」


 「なにそれ?」


 「つまりは……この男の行きたい方向に、動かしたい方向に行ってしまうの……ただ動けと無意識に思っている時、見てる時は操縦者の動かしたい様に動くけど……見ていない時は車の事を考えてはいないから、車が勝手に動くのよ」

 腕組をして、眉にシワを寄せてのマリー。

 「私はこの男にゾンビにされているから……同じ眷族だと車も判断して動かせる……そんな感じか……」

 フムフムと。


 「なにソレ」

 情けなく呆れた声でのローザ。

 「意味無いじゃん」


 「アンタもゾンビに成る? そうすれば動かせるわよ」


 「だからソレだと動かせるだけで……売れないじゃん」

 ハアーと大きな溜め息を吐くローザだった。

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