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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
179/233

178 トンネルの残土


 「と……言う感じ」

 ゴーレム・ヴィーゼはパトに報告を上げた。


 そして、向かいにたつパトはフムと考えている。

 「トンネルか……」


 「はじめは天辺に着いたら横に移動して、越えやすい所を探すつもりだったけど。ゴーレム・エルの報告も有って……横に移動してもダメみたいだったからその方が良いかなって思った」

 丸く抉れているのだから、どの方向に行くよりも一番に薄い所で、どうにかする事を考えた方が良い筈。


 「そのトンネル……どれだけの速度で掘れるかだな」

 パトは湖の側で欠伸をしていたモグラゴーレムを見る。


 「それは……ペトラと相談して」

 そんな事は聞かれてもわからない。

 でも、結構速いとは思うのだけど……オリジナルのエルフのモグラはトンネルを掘りまくっていたし。


 「ん……わかった」

 頷いたパト。

 ゴーレム・ヴィーゼの頭を撫でて。

 「報告……ご苦労。で、良くやった」

 ニコリと笑顔で褒めてくれた。


 頭を撫でられるのは嬉しい。

 思わず首が引っ込むけど……掌の感触がわかるとグイグイと押し付けたくなる。

 流石に猫の様にゴロゴロと喉は鳴らさないけど……でも、バルタも喉は鳴らして無かった気がするし、獣人ではそれは無いのかな。

 なら……ゴーレムはもっと無いか。


 それに達成感も有る。

 登り切った達成感は……降りるときにもっと大きく爆発した感じだ。

 クモの糸で壁面を滑る様に落ちる様にして降りたのが余計に感情を揺さぶったのかも知れない。

 壁面を蹴って……ヒューっと落ちる。

 それを何度も繰り返すと、加速度的に速さが加わって爽快感がハンパ無かった。

 登るのは苦労したけど、降りるのは一瞬だ。

 でも、みんなが山に登りたがる気持ちもわかった気がする。

 降りる時がメチャ楽しいのだ。

 気持ちいいのだ。

 それを得るために登るのだ……たぶん。

 だって、気持ち良く降りる為には登らないといけないからね。


 



 ゴーレム・ヴィーゼがムフフと笑っていると、パトがペトラを連れてきた。

 試しにモグラゴーレムに掘らせる為らしい。

 その掘る速度によっては別の方法も考えなくてはと、マンセル達も呼んでいた。


 「取り敢えず……この辺で良いですか?」

 ペトラが壁面を指差して、モグラゴーレムを手招き。


 呼ばれたモグラゴーレムは大きく頷いて、ノソノソと前進を始めた。

 岩盤の様な崖の壁面を両手を交互に回して掘り進める。

 ガラガラと小さく砕けた岩や残土が腹の下を潜って後ろ足で蹴り出される。

 壁面の穴に頭が入ったぐらいの時に……少し首を傾げてバックしてきた。

 そして、ペトラを見る。

 

 「いいですよ……ドカンとやっちゃって下さい」

 皆に注目を浴びるのが苦手なペトラは言葉が少しおかしくなっている。

 それでもモグラゴーレムの能力は確信しているのか、その指示は力強い。


 さて、モグラゴーレム。

 了解は得たと、首をコキコキと鳴らす様な仕草の後に……口を大きく開いた。

 その口に光が集束していく。

 例のレーザービームか破壊光線かだ……が炸裂した。

 

 光の太い束が壁面を砕いて消し去っていく。

 それを何度か繰り返して、自分の身長の三倍程の深さの穴を開けた。


 ムフンと肩を持ち上げて頑張ったでしょうと自己主張。

 

 ハイハイとペトラは後ろから背中を撫でてやっていた。


 「数分も掛からずにこの深さか」

 マンセルは冷静に見守り。

 「地面を平らにする依りも時間は掛かってはいるだろうけど……これならトンネルも掘れるんじゃあないか?」


 「モグラだもんね……元々はトンネルを掘るのが得意だし」

 マリーも見ていて頷いている。


 「そうだね……だからエルフはモグラの魔物だけは使役しようとするのだし」

 ローザも納得の顔。


 「わかった、このまま掘り進めてくれ」

 パトも大きく頷いた。

 モグラの仕事に満足出来た様だった。


 

 

 さてと……トンネルが開通するまで暇に成るのかな? と、思っていると、そうでも無かった。

 モグラが後ろ足で蹴り出す残土の岩殻には大量の魔石が混じっていたのだ。

 もちろんそのままではダメだ。

 こびりついて居る普通の固い岩を剥がして綺麗に整えなければいけない。

 でも、それさえすれば純度の高い魔石が簡単に手に入る。

 そして、その魔石は……マリーの転送魔方陣でジュリアの所に送れば、今までの借金の返済に当てられる。

 あわよくば完済。

 ダメでも相当数を減らせる筈だ。

 なので、トンネルの外では全員での内職が始まった。


 あちこちでハンマーの叩く音がする。

 大きく叩けば魔石に傷が付く。

 なので小さく軽くトントン……カンカンだ。

 ヘバリ着いた邪魔なモノだけを剥ぐ作業。


 


 そんな事を三日ほど続けていた。

 トンネルの深さは3000m程だ。

 それでも未だ開通はしていない。

 やっぱりソコは竜の背……薄い場所を掘っていても、3kmごときではマダマダなのだろう。


 そして、モグラゴーレムの掘るスピードも少し落ちている。

 崩した岩の殻の処理が追い付かないのだ。

 流石に後ろ足で蹴るだけではトンネルの外までは運べない。

 なので、お手伝いが増えた。

 コンクリート・ゴーレム達が率先して普通のゴーレム達に指示を出す。

 ロバ車の荷台に岩を放り込ませて……順次、外に出すを繰り返す。

 

 そして、また外では内職が続いている。

 たまにビックリするくらいの大きさの魔石を堀当てた者は、大騒ぎをして。

 小さくても数を集めた者も大騒ぎだ。


 「今すぐ金に為るわけでは無いが……借金を完済したその余りはいずれナニかと交換も出きる」

 パトはそう説明して、獣人達や兵士達を鼓舞していた。

 「この魔石自体が金の代わりだ」


 そして魔石の鑑定はマリーの仕事。

 光に当てて透かして見たりとしている。

 合格なら転送魔方陣に放り込む。

 イマイチなら、モグラゴーレムを含めてのゴーレム達の燃料だ。


 外れでも十分に質が良いようで、ゴーレム達の力も増している気がする。

 流石に良い燃料は効率が良いらしい。


 「でも……こんなに量を集めて大丈夫なの?」

 オリジナル・エルはマリーの横で心配気だ。

 「消費するには多過ぎるだろうし」


 「大丈夫よ……ジュリアが売るなりなんなりしてくれるは。それに魔石は腐るモノでも無いし、値崩れしない程度に保管しとけばいいのよ」

 マリーは手を止めずに返していた。


 「でもこれだけ有れば……私達も大金持ちじゃない?」

 オリジナル・ヴィーゼもニコニコとしている。

 「もうお金の心配はしなくても……幾らでも撃ち放題だね」


 「だめよ……この魔石は獣人達の復興資金に為るのだから」

 オリジナル・エルはたしなめた。

 「新しい土地で生きていくにもお金は必要だからね」

 

 「そっか……うーん」

 そう言われれば納得もするけど。

 「でもさ……チョッとくらいはね?」


 「余ったらね」

 マリーもポツリと呟いた。

 「だから、余らせる為にもアンタも仕事しなさい」

 顎でゴーレム達が積み上げる岩殻を指す。

 

 ヘーイ……と、オリジナル・ヴィーゼも内職に加わろうと歩いて行った。


 「で、実際の所はどうなの?」

 オリジナル・エルがマリーに聞く。

 「借金は後どれくらい?」


 それには首を傾げたマリー。

 「相場がわかんないし……それに正確な借金の額もわかんないからね」

 苦笑い。

 「ジュリアが納得するまでじゃあないの?」


 「うわ……適当」

 わざとらしく驚いて見せて。

 「でも、元々が身内も居るからの先渡しだったのだろうし……ジュリアお婆さんも数えて無いかもね」


 「そうでしょうね」

 肩を竦めるマリー。

 「ジュリアが金額も言わずに、しかも後払い何て……普通なら無い事だし」

 少し言葉を溜めて。

 「あ……でも、昔はそうだったかも。ジュリアも昔を思い出して楽しんだのかもね」


 「昔って?」


 「私達……コツメやジュリアと一緒に冒険していた頃よ」

 懐かしむ様に微笑んでいたマリーだった。

 「大昔の話」

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