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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
177/233

176 丸い形


 ゴーレム・ヴィーゼは崖を登っていた。

 もう半日以上は登り続けている。

 日が暮れて夜に成り……そして、また空が白み始めた。


 ゴーレム・ヴィーゼはその間、一度も休む事無く動き続けている。

 右手に握ったピッケルを大きく振りかぶって、壁面に刺して体を持ち上げて。

 左手のピッケルを一段、高い位置にブッ刺す。

 足はそのピッケルが空けた穴を掛かりにして交互に上げていく。


 ゴーレムの体は疲れないのは良いのだけれど……体が小さくて若干に太っちょなのがいただけない。

 一歩一歩が時間が掛かるし……全体でも進むスピードが遅い気がする。

 オリジナル・ボディならもっとスルスルと登れた筈なのに。


 「ふう……ここら辺かな?」

 最後の中継器……3個目を壁面に張り付けた。

 クモの糸の粘着性をそのまま接着剤だ。

 3つを使ったという事は3000m登ったと言う事……つまり3km。

 なんだこの遅さは……と、愕然とした。

 一晩とプラスアルファーで……たったそれだけ?


 ヴィーゼが正確に近い数字を手に入れているのは、無線を常時オープンにしているからだ。

 省電力無線の通話距離は開けた場所で1kmなので、通信が怪しくなってきた所が1kmだ。

 

 「仕方無い」

 ブツブツと独り言を漏らして。

 無線機を手に取った。

 「定期連絡……3km地点どうぞ」


 「ズジャジャジャジャ……順調な様ね」

 雑音が酷く入る。

 声の主はゴーレム・エルかしら。


 「エルはもう探索は済んだの?」

 

 「日が暮れる前に終わった……ってかすぐに行き止まった感じ」


 「そうなの?」


 「壁が回り込んで、向きが北に為ったから意味が無くなった感じね」


 「ふーん」

 どんな感じで進んだのだろう?

 少し興味を持ったヴィーゼは、首を曲げて下を向いて覗いて見た。

 思念体を出す必要も無く見える崖下。

 「ああああ……まん丸だ」

 大きな湖とそれを囲む崖が、見事に丸だった。


 「やっぱり?」

 溜め息の音?

 「そんな気がしてたのよね」


 「なんか……へこみ形を見ると、隕石とかが落ちた感じかな?」


 「成る程……砂の地面に石を投げ付けた時の形って事ね? でも、それだと隕石は何処にいったのかしら?」


 「ははは……どうなんだろうね」

 笑ってしまった。

 まだ本当に隕石だって決まったわけでも無いのに、それを探したってどうしようも無い気がする。

 「実は魔法か何かの爆発だったりして?」


 「いや……隕石ってヤツの方が濃厚かな」

 エルの声は変わらずに。

 「実はスッゴい純度の高い魔石がゴロゴロと見付かったの……それが隕石の証拠かもしれない」


 「強力な魔法でも魔石は出来ない?」


 「うーん……その魔石、どうも普通っぽく無いのよね」


 「そうなの?」

 適当に話を流したヴィーゼ。

 ドッチだって今は大した意味は持たない。

 隕石にしろ魔法にしろ……それらは過去の出来事だ。

 私が登る事には全く影響はしない。


 「まあ……それは後で見せてよ」

 上に向き直ったヴィーゼ。

 「また登るよ……次の連絡が取り敢えずの最後だと思う」


 「まだまだ上に続きそう?」


 「見た感じは……てっぺんは見えないね」

 上は雲に隠れて全く見通せない感じだ。

 

 「わかった、頑張ってね……落ちて来ないでよ」

 

 「ん……気を付ける」

 振りかぶったピッケルを振り抜くと。

 カンっと岩が弾ける音が一方向の崖だけに反射して消えていった。

  


 

 ペトラはローザに左腕を引っ張られた。

 その面と向かいに立つローザの左手には薄く平べったい銀色の板? アイスの棒を幅広く長くした様なヤツ。

 それをペトラの左腕に叩きつけると、クルンと腕に巻き付いた。

 「どう? 面白いでしょう」

 

 「う……うん」

 面白いかどうかは別にして……可愛くは無い、気がする。

 

 「こっちの方が良いんじゃないか?」

 ローザを横にグイッと押しやったマンセル。

 その手には、細く長い板……やはりアイスの棒の様なモノ。

 ローザのとの違いは細くやたらに長い。

 それを、今度はペトラの右手にクルクルと蛇の様な感じで巻き付ける。

 「ドッチがいい?」

 ニヤリと笑って意見を求めてきた。

 完全にワシの勝ちだと決めてかかった顔だ。


 「う……ん」

 ドッチも可愛くない。

 

 「なんだよ……ハッキリしろよ」

 眉間にシワを寄せるマンセル。

 

 「そんな古いデザインじゃあね」

 笑うローザ。


 古い?

 確かに古いと思う。

 なんか、クレオパトラとかの腕にクルクル巻かれているヤツの様だ。

 でも、そう言うローザのも……新しいかも知れないけど。まるで子供のおもちゃみたい。

 「あのー……出来ればもっと普通でシンプルなヤツが」

 ビクビクとだが、頑張った意見。

 どうも、二人して対抗意識を燃やしているようだ。

 何でも祖先……マンセルのひい祖父さんが、凄いアクセサリー職人だったらしい。

 マリーに言わせると飲んだくれのただの酔っぱらいらしいのだが、それでも職人ギルドの最後の会長だったらしい。

 職人ギルドとは、今は無いのだが……その昔は人族とドワーフがまだ近しい頃には有ったらしい。

 ラシイラシイとは……それの事実を知っているのはマリーだけだからだ。

 直径のマンセルすら知らなかった事なのだ。

 どうも母親のジュリアはそのお祖父さんの事はあまり話したがらなかった様だ。


 さて、その血を濃く受け継いだのは……ワシだ私だと始めた二人。

 伝統工芸のミスリル細工が余計に火を着けたのだ。


 「もう……ただの輪ッカで良いんじゃないの?」

 マリーも呆れ気味。

 さっさと造って、それに魔方陣を描きたいらしい。

 モノが機能すれば造形なんてどうでも良いと、全くの拘りが感じられない。


 「わっかね……」

 二人して唸り出す。


 「もういいわ」

 マリーはイライラし始めたのだろう。

 言い放ち。

 黄色い鞄から出したメモにカキカキ。

 それを、広げた転送風呂敷に放り込む。


 「? 何をする?」

 「それって……ジュリアお婆さんに頼んだって事?」


 程無く、輪ッカの一部が欠けただけの腕輪が送り返されて来た。

 とてもシンプルだ。

 肌が当たる部分は平ら。

 外側は優しく丸い感じ。

 魔石が3つ填まっている。

 赤と青と白。

 そしてメモも添えられていた……説明書?

 

 暑い時は涼しく。

 寒い時は暖かく。

 重さは飛空石で殆ど感じない。

 

 成る程……デザインよりも実用性か。

 これなら納得できる気がする。


 「あとは魔方陣を描くだけね」

 マリーは裏の平らな所に先の尖ったペンの様なモノでササッと描き込み始めた。


 そして、ハイっと渡されたそれ。

 左腕に填めてみても……確かに重さを感じない。

 固い筈なのに痛さも無い。

 着け外しも簡単だ。


 「気に入った様ね」

 腕に填めて上や下に振ってみて頷いているペトラを見て、マリーも満足そうだ。

 そして、ローザとマンセルに向かって。

 「ジュリアの勝ちね」

 そう、言って笑った。


 「そんなもん……母さんに勝てる筈も無いだろう」

 マンセルはブチブチ。


 「ひいお祖母ちゃんなら……負けてもしょうが無いな」

 肩を小さく竦めたローザ。


 スゴスゴと各々の場所に戻っていく。

 マンセルは38t軽戦車の横。

 ローザはルノーft軽戦車の横。

 そして自分の作業に戻った。

 取っ替えた砲の砲弾をコピーして造っていたようだ。

 タングステンの代わりは劣化魔石を成型したモノ。

 もう相当に出来上がっている様だが、それでも続けていた。

 まあ……暇なんだろうね。

 

 と、その時ゴーレム・バルタに呼ばれた。

 いや、呼んだのは私じゃ無くてマリーの様だが……一緒に居たのだから私も着いて行く。


 「ねえ……見てよ」

 バルタは地面の上に転がった魔石を指差していた。


 「ちょっと薄いけど……普通の魔石よね?」

 首を傾げるマリー。


 「これって、さっきペトラが魔素を放出させて空っぽにしたヤツなんだけどさ……地面に投げて放って置いたら、また魔素が復活し始めたんだよ」


 「それって……どういう事?」

 

 「わかんない」

 首を傾げるバルタ。

 「この場所がそう言う所? それともペトラがやった事に関係してる?」


 「ふむ」

 考えるマリー。

 「実験ね」

 黄色い鞄から劣化魔石を取り出して地面に投げた。

 「これの魔素が増える様なら場所ね」


 「成る程」

 頷いたバルタはジッと二つの魔石を見続けていた。

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