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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
176/233

175 無効化の無効化


 マリーがペトラのお腹に魔方陣を描いていた時。

 ゴーレム・バルタが帰ってきた。


 「何してるの?」

 腰の引けたマリーが、スカートをたくし上げたペトラのお腹に顔を突っ込んでいる姿は、おかしな格好に見えたのだ。


 振り返ったペトラ。

 苦笑いと、くすぐったさに歪めめた顔とがミックスされてオカシな事に成っている。

 「うひゃ……はほっ……ひんひょ」

 うん、言葉もわからん。

 

 「もう……声出して笑っとけば?」

 たぶん我慢の限界ギリギリだ。


 「だめよ! 動いたら書き損じるから」

 マリーがそれも許さないようだ。


 「イジメ? 新手の拷問?」

 違うとはわかっていても……そう見えなくもない。


 「違うわよ」

 マリーの声のトーンが上がった。

 「ペトラに新しい魔方陣を描いているのよ」


 「ふーん」

 良くわかんないけど、またペトラに新しいスキルが増えるのね。

 どうでも良いわけでは無いが……必要な事ならそのうちに教えてくれるだろう、とゴーレム・バルタは背中のランドセルを下ろして中をゴソゴソ。

 「それよりもさ……すんごい魔石を拾っちゃった」

 ランドセルから魔石を取り出してマリーに見せる様に突き出した。


 「ん?」

 チラリと魔石を見たマリー。

 顔が変わった。

 一目で魔石の質が高い事がわかったようだ。

 「ちょっと待って……もうすぐ終わらせるから」


 「えええ……ちゃんと綺麗に描いてよ」

 マリーの手が一瞬止まった隙を着いてのペトラ。

 魔石に注意を取られた事がわかったのだろう。


 「大丈夫よ手は抜かないわ……私に取っても大事だし」

 マリーは最後に大きく振りかぶって、チョークを払う。

 「出来た! 我ながら完璧」

 額に流れた汗をぬぐう。


 そして、間髪入れずにゴーレム・バルタの差し出す魔石に飛び付いた。

 「おおおお……凄いわね」

 掌で転がし、空の光に透かして……マジマジと見詰める。

 

 「メチャクチャ純度も高いよ」

 ゴーレム・バルタは自分の腹を擦る。

 魔石がエネルギー源なので食べてしまえばそれがわかるのだ。

 腹の脹れ具合でだが、結構正確だと思う。

 

 「確かにね」

 ホーっと関心の息を吐き出す。


 いきなり関心の外に置かれたペトラ。

 自分の腹を見て……そそとスカートを戻す。

 そして、マリーの側に寄り……その手の中を覗いた。

 「透明だけど……真っ赤ね」

 不思議だとそんな顔を見せた。


 「これは火の魔石だからね」

 赤いのはそのせい。

 

 「透明度の高さは純度の高さよ……不純物が殆ど入ってないのね」

 マリーも教えている。

 「色が濃いのに透明度が高い……それだけ凄いって事よ」

 途中で説明をはしょった?

 面倒臭く成ったのだろうか?


 「へー」

 感心して指を出すペトラ。

 マリーの掌のそれをツンツンとつつく。

 

 ふむ、ペトラは気にしていない様だ。

 いや、説明をハショラレた事にも気付いていない?

 成る程、ペトラの知識の枠を越えていると理解をした上での事だったのか。

 流石はマリーと……しておこう。


 そのマリーの手の中の魔石が、急に光をおび始めた。

 透明な石の中心に出来た光の粒から放射状に白い光線が走る。

 そして、パンと弾ける様に、今度は赤い光が拡散した。


 「なに?」

 驚いたペトラ。


 「これは……」

 マリーも驚いている。


 私も驚いた。

 マリーの手の中の魔石は、その蓄えた魔素を総て放出して……ただの透明な石に成っていた。

 「魔石の劣化?」


 「いえ……それ以上よ」

 首を左右に振ったマリー。

 「完全に魔素が無くなった状態……普通なら有り得ないわ。吸い出してもどうしたって少しは残るモノなのに、これはスッカラカン」

 

 「確かにそうだ……こんな無色透明なヤツは初めて見た」

 目を細めたバルタ。

 「でも、どうして? いきなり?」

 魔石が発光して魔素を拡散させるという、その事も初めての経験だった。


 少し考え始めたマリー。

 ハッと顔を上げて。

 ペトラを見た。

 

 魔石をつついていた指はそのままに、仰け反っている。


 「あんたね!」

 マリーがビシリと指差して。

 「なにしたの!」


 「え? 少し触っただけだよ……ダメだった?」

 シドロモドロのペトラ。

 

 「触るだけならいいわよ」

 ペトラに詰め寄って。

 「他になにした?」


 「ええ? なにも……」


 「無いわけがない!」

 

 「う……お腹を掻いた? 魔方陣を描いてくれた所が痒くなって」

 苦い笑いのペトラ。

 たぶんなにも思い付かなかったからか、取り敢えず口にしただけの様だ。

 

 動きを止めたマリー。

 「その時……なにか考えた?」

 

 「んん……どんな風に成るのかな? とかかな?」


 「魔方陣の効果の事ね?」


 「うん、魔法かスキルかはわかんないけど……どっちなんだろう? って、触るときに」

 

 「それだ……」

 クククッと眉をしかめるマリー。

 「あんた……ちょっと修業でもしてくれない? 不用意に触られると私もバルタも死ぬよ」

 ゴーレム・バルタを指差した。


 「え? どういう事?」

 指されたバルタは、死ぬって言葉に狼狽える。


 「この子の新しいスキルってのが、魔法的なスキルや……その逆も含めて、魔素が絡む総てを無かった事にするのよ」

 また、ペトラをビシッと指差した。

 

 「それって、私の体を維持している魔素にも影響が有るって事?」


 「それ以上よ! この世界では魂も魔素で守られているけど……それもパーンよ」

 両手を弾けさせる仕草。


 「うわ……それって再起不能じゃん」

 一歩を後ずさるゴーレム・バルタ。


 「いや……大丈夫よ。私、そんなことしないし」

 不安に成ったのだろう追い縋るペトラ。


 「するとかしないとかじゃあ無いのよ! 無意識にそのスキルを発動しない様にしてって話よ」

 マリーも体を引き気味だ。 


 「なんだってまた、そんな危ないスキルを覚醒させたのよ……誰が……」

 とゴーレム・バルタは言い掛けて、さっきの事を思い出した。

 マリーがペトラのお腹になんかしてた。

 魔方陣を描いてた。

 それか!

 「私に恨みでも有るの?」

 殺そうとした?

 しかし、マリーの姿をみて思い直す。

 マリーも自分の死の危険を感じてる様だ。

 「もしかして……なにも考えずにやってしまったってこと?」


 「……ク」

 喉の奥を鳴らして顔を背ける。

 

 「なにかやる前に……少しは考えてよ」

 情けなく成る。

 私の時もそれで失敗したのに……懲りもせず、また?


 「わかってるわよ」

 マリーの声は消え入りそうだ。

 

 「消すとかなんとか出来ないの?」


 「新しくスキルを手に入れたとかじゃあなくて、スキルの解放だから……たぶん無理?」

 

 「じゃあ、制御するスキルとか魔方陣は?」


 「そんなの知らないわよ」

 手元に残っていたペトラの手帳を差し出して。

 「私だって初めて知った魔方陣なのに」


 「それに描かれていたヤツ?」

 ペトラの手帳だ。


 頷いたマリー。


 「なら、それになにか無いの?」

 ゴーレム・バルタは手帳を指して叫ぶ。


 「あ! そうね」

 慌ててペラペラと捲った。

 「無効化の無効化……ヤヤコシイわね」


 そんなやり取りを黙って見ていたパトが、マリーに近付いて来た。

 そして手帳を取り上げて。

 最後のページを開いて、マリーに戻す。

 「失敗した時の保険の魔方陣らしいよ」

 

 「ナニナニ?」

 そんなパトの声は半分以上を聞き流して、説明文を読む。

 「完全に失敗した時は……額にこの魔方陣」

 目線を横に動かし確認。

 「次に……一時的に無効化するには」

 また説明文に戻って。

 「指やや腕は等のアクセサリーに魔方陣を刻んで、一時的に無効化する。効果を戻したい時にはアクセサリーを外せば良いだけとなる」

 大きく頷いて。

 「これだ!」

 

 「あんた! 指輪と腕はとドッチがいい?」


 「アクセサリー?」

 小首を傾げて。

 「ネックレスとかがいいな」


 「そんな造るのが面倒なのは却下」

 

 「棒状の板を曲げるだけの腕輪でいいんじゃない? 簡単だし」

 ゴーレム・バルタが勝手に決めてしまった。

 「いちおうはさ……ミスリルとかにしとけばカッコイイじゃん。銀色で鈍く光る感じでさ」


 マリーはゴーレム・バルタを指差し。

 「それ採用!」


 「え……私の意見は?」

 ペトラは自分で自分を指差して……ポツリと呟いた。

 だけど残念な事に誰にも聞いて貰えなかった様だ。


 マリーとゴーレム・バルタは。

 「マンセルは何処?」

 「アクセだしローザの方が良いんじゃない?」

 と、言い合いながらに走り出していた。

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