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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
175/233

174 ペトラの手帳


 ゴーレム・エルは崖を左手に進んでいた。

 

 あれ? っと首を傾げる。

 「微妙に曲がってる?」

 空を見上げた。

 太陽は雲に隠れて見えない……が、感覚でわかる筈の方位が、オカシイ。

 崖の上を見てみる。

 少し低くなった感じだけれど……でも、この方向は北に向いてる?

 頭の中でのイメージは、崖に沿って丸く円を描いている感じだ。

 だから、ここを登っても……竜の背の峰は南北だからソレだと何時まで経っても山を越えられない。

 私達は西側に行きたいのだから。


 フーム……と考えたゴーレム・エル。

 「これ以上は意味無いかしらね」

 もう少し進むか。

 それとも戻るかで悩んでいた。




 ゴーレム・バルタは崖を右手に高速で移動していた。

 クモゴーレムの出せる限界だ。

 エネルギーの魔素の消費は多いけれどそれは別段、気にしていない。

 ペトラの造るゴーレムはエネルギーも自立化しているのだけれど……魔石を食べる?

 アマルティアのゴーレムはソレは一部のモノだけの能力。

 ジュリアお婆さんに貰った魔素還元装置を組み込まれたゴーレムだけだ。

 今、乗っているのは魔素還元装置の無いアマルティアのクモゴーレム。

 だからエネルギーを供給しているのは、使役関係に有る私の魔素を使っている。

 普段は離れていても自動で魔素を吸われる感じだけれど……目一杯の能力を出している時はお互いが触れていなければ為らない。

 接触充電の感じだ。


 とまあ……そんなだけれど。

 エネルギーの消費を気にしなくても良い……となったのは、崖下に転がっている石の中にトテモ良い感じの魔石を見付けたからだ。

 メチャクチャ質の良い、火の魔石がゴロゴロとだ。

 だから、エネルギー切れは無い。

 減ればその魔石を拾って口に放り込めば良いのだから。

 

 フフフン……と、ちょっと嬉しくなっていた。

 どれだけ走っても魔素欠は無いのだから……もう思う存分で気が済むまでだ。


 と……思って居たのだけれど。

 終わりは唐突にやって来た。

 切り立った崖がプツリと切れて、その際から今度は下に落ちる崖に為った。


 急停止したバルタは首を捻る。

 崖の上から見える景色は、山の斜面を見下ろしている?

 「これって……反対側に来ちゃった?」

 竜の背を登っている時の、逆の景色がそのままだったからだ。 

 アレレ? と首を捻る。




 

 ペトラはお茶をしながらノンビリとしていた。

 ここ数日は働き過ぎだと思う。

 ゴーレムを大量に造って。

 転送紋の描かれた風呂敷で弾薬を輸送して……風呂敷の魔方陣に放り込むだけだけど、それもゴーレムが。

 後はゴーレムを造って。

 でっかいモグラとも戦ったな……主にモグラゴーレムが。

 ……。

 エルフの戦車とも戦った。

 ……コンクリート・ゴーレムが。

 それから……川底を平らにしたり。

 ……。

 崖を登って、ちびクモゴーレムを造った。

 メチャクチャ面倒臭い注文付きで……とにかく良く観察して造れだった。

 モデルに成ったリアルクモ子を、表から裏から手足の先まで鼻をくっ付けて……転がしまくった。

 まあ、新しい発見も有ったのだけれど。

 クモの足から糸が出るなんて知らなかったし、足の先の爪の感じがメチャかわいいのもはじめて知った。

 そして、ゴーレムの機能は造った者の知識が反映される事もだった。

 あ……いや、たぶんそれは私だけだ。

 たしかこんな感じよね? と、思った事がリアルのモデルと重なった時に、それと同じに成る。

 私が造ればその影響は大きくて。

 造っている者の側に居ても小さく影響するみたい。

 もちろん出来ない事も有る。

 鳥のゴーレムを造ってもヤッパリ空は飛べなかったし。

 普通の人形の形のゴーレムにモグラゴーレムの出す光線を出せないかとやってみても無理だった。

 まあ、当たり前だけど。

 人が口から光線を出せるなんて有り得ない。

 ちなみに……それらの実験はマリーに無理矢理やらされた。


 そんなだから、たまにはダラダラしたっていいと思う。

 両手にカップを持って、適当な木箱に座り。

 湖越しに見える向こう側の万年雪と雲に掛かる崖をボーっと眺めていた。


 「ちょっと……ペトラ?」

 

 後ろから呼ぶ声にビクリとしたペトラ。

 その声はマリーだ。

 警戒しながらに振り向いた。


 「あんた、時間凍結解除の魔方陣は見付けたの?」

 ツカツカと歩み寄ってくる。


 「まだ……」

 ポケットの中の手帳。

 魔方陣が沢山描かれたそれを押さえて、首を振る。


 そのペトラの返事に眉を寄せたマリー。

 「ちょっと……来なさい」

 座っていたペトラの腕を掴んで引っ張った。


 ええ? また面倒な事をさせられる?

 顔はイヤだと隠さない……が、引っ張るマリーは後ろ向きなのでバレないはずだ。

 

 連れて行かれた所はパトとアルロン大佐がタバコを吸いながらに寛いで、座り込んでいた場所。

 

 「なんだ?」

 パトはマリーを見て……ペトラを見た。

 

 マリーはペトラのポケットに勝手に手を突っ込んで、手帳を引っ張り出して。

 「時間凍結解除の魔方陣がどれだかわからないのよ」


 「時間凍結解除?」

 首をひねったパト。

 「ああ……あれか。ダンジョンの」


 「そう」

 頷いたマリーは、ズイッと手帳をつき出す。

 「時間って文字も見当たらないし」


 「あれは適当に時間凍結と言っているだけで……本来は時間は関係がないからな」


 「え? でも時間は止まってるよね?」


 「まあ、そうなんだが……ペトラの場合は」

 ペラペラと手帳を捲り。

 「制限の無効化……これだな」

 開いたページを前に突き出した。

 「誰かが掛けた魔法を打ち消す感じだ」


 「それって……ダンジョンのモノ以外もって事?」


 頷いたパト。

 「奴隷紋も消せるし、誰かの造ったゴーレムも土に返せる」


 「まって? 以前にペトラはエルフの繋がる能力を消しちゃった事が有るのだけれど」


 「それも同じだ」

 手帳のページの一文を指して。

 「これは本来持っていた能力の解放の魔方陣なのだけど、まれにと言うか、何かの外的な切っ掛けで発動してしまうモノを安定的に自発的に行使出来る様にするための限定解除の呪文……らしいな」


 「エルフの繋がる能力は……魔法?」


 「いや……スキルだ」

 首を振ったパト。

 「ペトラの能力に魔法とスキルの区別が無いだけだ」


 「つまりは……魔法やスキルで出来ているモノは全部が無効化出来るって事ね」

 フムフムとマリー。


 「それってさ……私がゾンビのマリーを触ったらどうなるの?」

 

 体をビクリとさせたマリー。

 ぎぎぎ……っと振り向いてペトラを見た。


 「別に今の状態なら……ほぼ何も起こらないだろうけど」

 小首を傾げて考え始めたパト。

 「何かの切っ掛けで……突発的に発動したら」

 マリーを見て。

 「たぶん普通の死体に戻るんだろうな」


 ペトラの腕を掴んでいた手を叩くように投げ出したマリー。

 

 「そうだな、完全にコントロール出来るなら、その方が安全かも知れないな」

 パトは開いた手帳をそのままにマリーに渡す。

 「自分の身の安全の為にも描いてやれば?」


 大きく頷いて、手帳を引ったくったマリー。

 ペトラに向かって。

 「腕を出して!」


 素直に頷いて手を前に出したペトラ。


 その動きにビクリと反応するマリー。

 「あ……いや、手は怖いわね」

 遠巻きにペトラの手を避ける様にして。

 「やっぱり……腹を捲って。ヘソの上に描くから」


 手を戻して肩をすくめるペトラ。

 「大丈夫だよ」

 そう言いつつも服のスカートを腹まで捲って、お腹を突きだした。


 「おっと」

 パトと横の大佐が立ち上がって後ろを向いた。

 「パンツが見えてる」


 「きゃ!」

 慌ててスカートを下ろしたペトラ。


 「ぎゃ!」

 その動きに慌てたマリー。

 「急に動かないでよ!」


 「ご、ごめん……でもさ、パンツが」


 「そんな色気の無いパンツなんてどうでもいいでしょう?」

 

 「ええ……」

 そんな言い方無いよ、とそんな顔。


 「とにかくお腹を出して! で、動かないで!」

 マリーは自分の黄色い鞄から白い魔法のチョークを取り出した。

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