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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
174/233

173 理由


 翌日の夕方。

 すべての引き上げ作業が終わった。

 戦車を含めた車輌の数を考えれば相当に早いと思う。

 それに人員もこれまた多い。

 戦闘員と非戦闘員……殆どは獣人なのだが軽く1万人以上は居た。

 バスの座席を取っ払った状態で一台に100人。

 それが100台にプラスロバ車や普通の乗用車にトラックにも人を詰め込んだ状態。

 ……。

 ダンジョンを京都に指定したのは、そのバスの確保も有る。

 京都は電車の便が悪い代わりに市バスが公共交通を担っている、なのでバスが多いなだ。

 本当は観光バスも当てにしていただが、2022年の京都には何故かその数が極端に少なかった。

 なのでトラックまでをも使う羽目になったのだ。

 

 「タバコを一本……貰えるかね」

 何もする事が無いと寛いで居ると、アルロン大佐が側にやって来た。


 「どうぞ」

 パトはタバコとライターを手渡す。


 大佐はパッケージから一本だけを抜き取って、ライターで火を着けた。

 大きく吸い込み……蒸せる。


 「大丈夫ですか?」


 「いや……タバコは久し振りなのでね」


 「以前は吸っていたと?」


 「ああ……良い品質のタバコは値が張るからな」

 

 「そんな事を気にする立場でも無いでしょうに」

 笑ったパト。


 「いや、貴族だった頃はそうだが……それも終戦と共に立場も無くなったからな」

 苦笑いの大佐。


 「成る程……確かに私も含めて失業者だ」

 

 「イヤな言い方だな」

 肩を竦めた。


 「なら……浪人とでも言い直しましょうか?」


 「それもまた……」

 小さく首を左右に振る。


 「でも、世間ではテロリストなので……犯罪者と名乗る依りかはマシでしょう?」


 「そう……だな」

 大きく溜め息を吐き、パトの横に腰を下ろした大佐。

 「まだ、失業者の方がマシか」


 「元英雄様なのですけどね」


 「嫌味か?」

 パトを横目で睨んだ大佐。

 

 戦争中に大佐が英雄とされたのは、パトの功績をそのまま上官に……政治的理由で譲った? 譲らされた? からだ。

 戦争中の英雄なんてものは、為政者のプロパカンダに使われるピエロの様なモノだ。

 だから、貴族でも伯爵依りも侯爵で中佐依りも大佐で……38t軽戦車依りもタイガー1重戦車なのだ。

 

 「いえ、英雄として自国の政治家に殺されそうに成っても跳ね退けられたのは、本物の英雄ですよ……自分じゃあそうはいかない」


 国としては英雄は生きて貰っていては困るのだ。

 生きたままの英雄は発言権も大きくなる……実際に民衆は求めるだろう。

 それは政治家には邪魔な事だ。

 下手に戦場のその現状を知っているのだから余計だ。

 だから、殺しに掛かる。

 英雄だからと危険な戦場に送るのだ。

 もちろん言い訳はその危険な任務を全うできるのは君だけだ……とかだ。

 そして、首尾良く死んでくれれば……もう口は効けない。

 そして、死んだ英雄は民衆の心にも残る。

 あとは、それを上手く使うだ。

 英雄ならこうだ!

 あの時、彼はこう言っていた。

 嘘百拍でも誰も本当の事はわからない……もう、死んでいるのだから。

 そう……英雄は死んでからが、その仕事なのだ。

 だから、簡単に死にそうなヤツを英雄に仕立て上げる。

 決して、武勲を上げた本物にはその称号は渡さない。

 後が面倒だからだ。


 「ふん」

 鼻を鳴らした大佐。

 「生き残ったから……最後はテロリストだ」


 「それは……私もですよ」

 大佐を追いかける指示を受けた時点で、薄々はわかってはいたことだ。

 自分も排除される側と認定されたと言うことに。

 邪魔だと思われたから、戦後にも居場所は貰えなかったのだし。

 ていのいい、予備役兵か傭兵みたいな事にされた。

 「まあ……お互いに目立ち過ぎましたね」


 「国の為に戦ったのにな」


 「だからですよ」

 肩を竦めたパト。

 「戦後に生き残れた者は……皆が自分の欲の為に動いた者だけですよ」


 「保身か?」


 「あとは……物事を決断出来なかった小心者?」


 「それで国が良くなるのか?」

 大佐はタバコを投げ捨てて靴底で踏みにじる。


 「どうでも良いんでしょうね……どうせ誰かが責任を取るか、適当に成るように為るのを眺めていられればね」


 「ダメじゃないか……そんな事をしていればいずれ国は滅びるぞ」

 

 パトはもう一本のタバコを差し出した。 

 「その前に、またリセットするんでしょう?」

 自分もタバコを咥えて。

 「だから戦争は無くならないですよ」


 「史実でも……百年の平和は一度きりだな」


 「そうなんですか?」

 異世界の歴史はわからない。

 でも、元の世界でもほとんどの国の歴史は戦争の歴史だった。

 日本の江戸時代は珍しい……珍事だ。

 第二次世界対戦が終わったのが1945年。

 100年後だと2045年だな。

 さて、その間にいったい幾つの国が何度、戦争をしたかな……だ。


 「昔の英雄王の時代らしい」

 有名な話だぞとでも言いたげだ。


 「それは……」

 パトは笑いながらに首を振る。

 「仕事が無いのでは、困った事に成りそうです」

 

 「戦争が仕事か?」


 「まあ、一応は元ですが軍人なので……平和な時代には厄介者ですよね」


 「笑って人を殺せるのは……確かに厄介者だ」


 「笑っては無理ですよ」

 手を前で振って。

 「銃口を向けるから、撃ち返すだけです」


 「普通の人間には出来ない事だな」


 「そうですとも……だから我々の様な職業軍人が居るんですから」


 「我々……ね」

 大佐はテント村の中心を見た。

 「貴様には獣人の救出と解放は、ただの口実でしか無いのだろうな」


 「そんな事は無いですよ」

 タバコの煙を大きく吐き出して。

 「戦時中は、獣人には助けられたのでその恩返しですよ」


 「ふーん」

 大佐も煙を吐き出した。

 「そうか」

 

 成る程……自分は違うとでも言いたいようだ。

 たぶんだが、大佐は貴族に未練タラタラ?

 だから、それらしく獣人の……民衆の解放者を演じたいのだろう。

 民草が居るから貴族なのだし……その先頭に立つから貴族様でいられるからだ。

 でもだ、それを任命する者はもう居ないのだけどな。

 いや、名主とかでも良いのかもしれない。

 それでもじゅうぶんにソレっぽいのだし。

 それなら、生き延びた先で村でも作れば成れるだろう。

 そんなモノで納得出来るなら、それでも良いのかもしれないな。

 

 クッと喉が鳴る。

 込み上げる笑いを押さえられなかったのだ。

 

 「何が可笑しい?」


 「いえ……少し想像してしまいまして」

 

 怪訝な顔を見せた。


 「何処かに獣人達の村を造ったとして……それが国に認められたらエルフどもはどんな顔をするかと、です」


 「それは……確かに面白いだろう。是非に見たいものだな」

 大佐も大笑いしはじめた。

 「でも、何処に村を造るかだな」


 「それは、あてが有ります」

 

 「何処だ?」


 「私の町ですよ」

 ちょうど通り掛かったムーズを指差して。

 「そこには伯爵も居ますからね……上手くやってくれるでしょう」

 元伯爵だが、一応は戦争には絡んでいない。

 そして、いい歳のじいさんだ……知り合いや助けてくれる者も多そうだ。


 「ベルダンか……」

 

 「その時は侯爵様の力も必要と成りますから……今のうちにお願いしておきます」


 「どちらも元貴族だが……まあ、やれる事はやろう」


 「あとは元国王も見方に出来ますよ……元元国王ですけど」

 マリーを指差した。

 「ついでに今、国を治めているドラゴンの娘も居ますしね」

 ペトラは探しても見付からなかった。


 「それは大層な名前が続くな」


 「最後に私が上手くやりますから、まあ大船に乗った積もりでいてください」


 「泥船ではなくてか?」


 「用意としては大船と泥船の2つが有りますが……大佐が乗る方は大船の方ですよ」


 「泥舟には誰が乗るのだ?」


 「そうですね……」

 考える振りをして見せたパト。

 「誰にしましょうかね?」


 「なんだか……恐ろしげな話だな」

 肩を竦めた大佐。

 「それに乗せられる者がエルフで無いのなら……同情してしまうかもしれんな」


 「なら、その者の残された者にでも手を貸してやってくださいね」


 「貴様は手を貸さないのか?」


 「無理でしょう? 張本人に成るのだから」

 またパトは笑った。

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