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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
173/233

172 山頂の手前の急造の村


 ゴーレム・ヴィーゼは引き上げたシュビムワーゲンの側に寄りパトと相談していた。

 

 「一人で山頂を目指すのか?」

 辺りを確認しているパト。


 そこは大きな窪地で、中央には水が溜まっている。

 薄い青か緑色に近い水の大きな湖だった。

 苔やバクテリアの色が混ざっての、その色では無さそうだ。

 鉱物かナニかが溶け出した色?

 でも、それが毒では無いのも確かなようだ。

 湖の縁には植物も見える。

 まばらにだが密集している緑の絨毯。

 背丈は長く成長しているモノでも、足首を越えるのが精一杯なのは、マリーの言う魔素が少ないか、そもそもの土の栄養が足りていないかだと思う。

 

 そして、湖を挟んだ向こう側。

 切り立った崖だ。

 その影に当たる部分には雪が見える。

 今は夏前なので……万年雪と言うヤツだ。

 成る程、寒いわけだと納得。


 「崖を登りきったら山頂だと思うから、そこを越えられるかの確認に行くの」

 ゴーレム・ヴィーゼはその崖を指差した。

 目指す山頂は雲に隠れて見えない。

 だから、雲を越えても残りはどれだけ登れば良いのかもわからない。

 だけど……それを越えなければ向こう側に行けないのも確かだ。

 

 「大丈夫なのか?」

 パトは心配気な顔を見せた。


 「体はゴーレムだから凍る心配も無いし。滑落して落ちて体が壊れなければ何処まででも行けると思う……エネルギーの魔石さえあればだけど」

 ゴーレム・ヴィーゼは崖の上の方を睨んでいた。

 「睡眠も休憩も必要ないしね」

 

 「でも、やはり危ない気がする」

 悩み始めたパト。


 「だったら……ペトラに補助に成るゴーレムを造って貰えばどうかしら」

 側で聞いていたゴーレム・エルが意見を出した。


 「そうね、小さいクモのゴーレムとかで良いかもね」

 ゴーレム・バルタも考えていた様だ。

 「私達が抱きかかえられるサイズでも、ゴーレムくらいなら吊り下げられる糸も出せるだろうから」


 「クモなら垂直の崖も登れるか?」


 「アマルティアの造ったクモゴーレムは不正地で速度は出せても、崖は登れなかったけれど……ペトラの造るクモゴーレムならそれも出来るんじゃないのかな? 元に成るモノの性質も完璧に模す様だし」

 ゴーレム・バルタはモグラゴーレムを指差した。


 体が土塊のそれ以外は、完璧にモグラと同じだったソレ。


 「アマルティアのクモゴーレムも糸を出せるんだろう? じゅうぶんに元の性質を模している気もするが?」


 「それは、ペトラが側に居た影響だと思うんだけどね」

 ゴーレム・エルが首を少し捻る。

 「たぶん、普通に作れば誰にも出来ない事だと思うんだけど」

 

 「まあ、試して見ようよ」

 ゴーレム・バルタは今、引き上げられたクモバモスを見た。

 その中にはペトラもアマルティアも乗っている。

 序でにマリーや他のもの達もだけど。




 ゴーレム・ヴィーゼは垂直に切り立った崖の下に居た。

 上を見上げれば、果ては見えない。

 足元は腰まで雪で埋もれて居るが、それはどうでも良いことだ。

 

 「魔石は一杯にしておいたから」

 ゴーレム・バルタがランドセルを背負わせてくれた。


 「こっちも子クモゴーレムにも有るからね」

 ゴーレム・エルは、ペトラの造った小さいクモゴーレム……とは言ってもランドセルと同サイズは有るソレ。の、背中にもランドセルをくくりつけていた。

 見た目はランドセルから手足が出ている様にも見える。

 あ……尻と言うか尻尾と言うかの腹の部分はランドセルから下に出ている。

 それが3体あった。


 持ち物はその他にはピッケル……というか、小型のツルハシだ。

 総アルミ製で出来た頑丈なヤツ。

 なぜアルミかと言えば、それは魔力を通せばミスリルに成るからだ。

 そして、ミスリルは魔力のコントロール次第では硬い岩をも穴を開ける。

 手足の置き場も掛かりも無い場所での、体を支える為の道具。

 これはマンセルが造ってくれたモノ。

 それが両手に二本とランドセルにも二本が刺さっている。


 さてそのピッケルなのだが、マンセルは子クモゴーレムを見て思い付いたそうだ。

 子クモゴーレムの手足には、カマの様なカギ爪の様なモノが着いていて、岩に垂直に登る時にその鋭い部分を刺して体を持ち上げて居たからだ。

 これはアマルティアの造るクモゴーレムには無かった能力だが、本物のクモを見ればそんな感じのモノが見れた。

 そして、モット良く観察をするとクモは足の先からも糸を出していた。

 カギ爪と糸で垂直のツルツルの壁でもバランスを保ち登れるのだ。


 流石にゴーレム・ヴィーゼに糸を出せる様には出来ないが、ソレならばとミスリルのピッケルを造ってくれたのだ。


 もう1つは無線機。

 これは、小電力の小型のハンディタイプ。

 距離の不安は有るけれど、流石に大きなモノは持っては行けない。

 通話距離は何も無い所で1Km……ここの様に崖から遮るモノが無ければソレくらいは届く筈。

 ただ、その距離で山頂まで行けるとは限らないので、子クモゴーレムのランドセルに小さい中継器を張り付けている。

 距離がオーバーして届かないと思ったら、その中継器をひっぺがしてその場に張り付けて残して行けば良い。

 都合3つの中継器だから、手に持つ無線と合わせて4kmまでは延長が可能だ。

 ソレ以上の距離ならば、諦めて届く距離まで戻っての通信しかないが……それも問題は無いとは思う。

 どうせ山頂から向こう側を見た後は、戻って来なければいけないからだ。

 だったら、それはおんなじとも言える。 


 「よし……準備は完璧」

 フムと息を吐いて。

 ゴーレム・ヴィーゼは崖に手を掛けた。


 「私達は左右に別れて、横に沿って見に行くわ」

 ゴーレム・エルは右を指差して。

 ゴーレム・バルタは左を指差した。

 

 ソレには頷くだけで、ゴーレム・ヴィーゼは崖を登り始めた。

 腹には子クモゴーレムの糸を巻いて。

 その糸を出している子クモゴーレムもヴィーゼの左右と少し前を、適度に距離を保ちつつに登っていった。


 


 少しそのゴーレム・ヴィーゼを眺めていたゴーレム・エルとゴーレム・バルタ。

 何事も無く登り続けているのを確認して、お互いが頷き合い。

 いつものクモゴーレムに乗って左右に別れて動き出す。

 崖下から上を見ながら、切れ目が無いか……せの低い場所は無いかと探りながらだ。




 そして、パト達。

 未だに引き上げ作業は続いて居るのだが、先に登って来た者達とでキャンプを張る事にした。

 ゴーレム・ヴィーゼからの連絡は、少なくても数日は掛かりそうだ。

 その間はここから動けそうも無い。

 なので、その間はここにとどまり……体を休めるなり何なりとしなければいけないからだ。

 

 テントを張って……火を起こす。

 薪はここでは調達出来そうに無いので、マリーに発注を出したらば、結構、大量に出してくれた。

 もちろん請求書付きだ。

 たぶん合計は、もう相当な金額に成っていそうだが、それも仕方無い。

 借金なのだから何時かは返さないといけないのだが……それを今考えても仕方がない。

 そのうち、この面倒事が終わったらだ。

 その時に考えればそれで良い……ってか、それしかない。


 まあ、現物でも良いと言うのだから……何処かのダンジョンを2つ3つも漁ればそれで済むだろう。

 その時は目一杯働くさ。


 そんな事を考えていると、テントは次々と建ち。

 小さな村が出来上がった。

 中心はアリカのキッチンカー……龍の絵の描かれたウオークスルーバン。

 ダンジョンのスーパーの駐車場で見付けたラーメン屋台のトラックだ。


 そして横には、クロエのキャンピングトレーラー。

 これもダンジョンで見付けた銀色の丸い胴体のエアストリーム……良くハリウッド映画に出てくる様なヤツだ。

 そのキャンピングトレーラーは病院に成っていた。

 クロエの能力が治癒能力だからだ。

 まあ医者だ。

 スキルのお陰かその知識も有る様だし、その手伝いをしているコリンは薬士でもある。

 もちろんコリンも知識も豊富だ。

 こちらは実家が薬士でもあるので、その時の知識も含めてのようだった。

 

 「後はもう……待つしか無いな」

 パトはタバコを取り出して火を着ける。

 タバコは両切りのゴロワーズ……青いパッケージにバイキング風の兜の絵だ。

 ライターはロンソンバンジョー……手に馴染むへこみの有る形のオイルライターだった。

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